サイバーエージェントの提案する「調剤」と「物販」が融合した、これからのドラッグストア

サイバーエージェントでは、創業以来展開しているインターネット広告事業で培ったデジタル分野の専門知識やAI技術の研究開発組織「AILab」の技術を生かして、これまで30社以上の企業のデジタルシフトに貢献しており、近年では小売業界の支援にも注力している。さらに、同社は調剤をはじめ医療領域におけるAI活用、DXを推進するMG-DX社を子会社として保有。今回の出展では同社の総合力を生かしたドラッグストア(DgS)の調剤と物販の効果的な融合を体感できるブースが出展されていた。(月刊マーチャンダイジング2024年10月号より転載)

調剤受付のコーナーから展示を開始

MG-DX社の提供する「薬急便(やっきゅうびん)」は、調剤受付からオンライン服薬指導まで、オンライン調剤に必要な機能をすべて兼ね備えたサービス。現在、クオール薬局、サンドラッグ、サツドラ薬局など全国の薬局で採用されている。

今回の出展は、薬急便を使って調剤の受付を済ませた後、待ち時間を使って物販スペースで買物することを想定してブースを構成。

薬急便のサービスで最近とくに好評なのが「薬急便モバイルオーダー」である。これはファストフードチェーンやコーヒーチェーンで導入されているモバイルオーダーの仕組みと同様で、利用者は処方せん画像を希望する薬局に送信して受取時間を予約する。薬の準備ができるとスマホに通知が届く。会計もあらかじめクレジットカードを登録していればオンラインで決済。薬局では処方せんと引き換えに薬を受け取り、服薬指導を受ける。

処方せん画像の送信の他、従来のように店頭受付も可能。その場合、処方せんと引き換えに薬剤師が受付票を患者に渡す。そこに印刷されたQRコードを患者が読み取れば、スマホ上で呼び出し(待ち)状況の確認や、お薬の準備完了通知を受け取ることができる。

また、最大の特徴は、オンライン受付と店頭受付を統合管理できることだ。調剤スペースのデジタルサイネージで全ての待ち状況を可視化し、さらに販促動画や広告を組み合わせて流すことで、「待ち時間にお買物」という行動も促進できる。反対に物販エリアにも調剤の待ち状況を流すことで、調剤の利用促進にも繋がる。

こうした一連の仕組みで、待ち時間が読めずにイライラして満足度が低下する問題を解消。さらに待ち時間を買物時間にするといった習慣の定着によるドラッグストア全体の売上アップも狙える。調剤と物販融合のひとつの手段である。

調剤と物販の融合イメージ

店舗でオンライン服薬指導 患者は時間節約、薬局は効率改善

薬急便は、8月28日に新サービス「遠隔接客AIアシスタント」をリリースしたばかり。ドラッグストアショーにて、本サービスのデモンストレーションを先行公開した。

[写真1]調剤の受付から展示を開始。調剤と物販の融合を促進する「薬急便モバイルオーダー」、患者の時間節約、薬局の業務効率化につながる「遠隔接客AIアシスタント」の受付機器をそれぞれ設置。順番待ちの案内と販促のサイネージを同じ画面で表示。調剤の待ち時間を買物時間に使う起点となる

「遠隔接客AIアシスタント」は無人受付と遠隔接客を組み合わせたサービスで、店舗(薬局)で処方せん受付を行った患者のうちオンラインによる服薬指導を希望する人に対応する仕組み。待ち時間の間に先に服薬指導を受けることも可能で患者側は時間の節約につながる。

薬局側は、比較的すいている他店舗の薬剤師が遠隔で服薬指導だけを行うことができるので、混雑店舗の作業効率改善に貢献。企業全体としては、薬剤師の業務負荷の平準化、コスト改善を図ることが可能となるほか、将来的には、調剤非併設店などにも設置することで処方せん応需スポットの拡大にも繋がる。人手不足が常態化しているDgSチェーンにとっては朗報である。

ドラッグストアショーでは、遠隔接客AIアシスタントを体験できるよう、各種機器を展示、サイバーエージェントのスタッフが体験希望者に対して丁寧な説明を行っていた(写真2〜6)。

調剤と物販の融合は、単に調剤体験、買物体験を変えるだけでなく、調剤データと物販データの融合による効果も視野に入れている。これが実現すれば、調剤併設DgSで、物販は利用しているが、調剤は利用していないユーザーが明らかになり、こうした層に、調剤薬局の利用を促進することもできる。

さらに、優良顧客である調剤利用者をターゲットに物販への送客も可能、調剤未利用者の掘り起こしと合わせ、企業の収益性を大きく変える可能性を持っている。サイバーエージェントでは、こうしたデータ面での調剤と物販の融合も事業領域としており、DgSの支援を進める構えだ。

「遠隔接客AIアシスタント」の利用プロセス

[写真2]AIにより動作するマスコットのロボットが、センサーにより患者の立ち寄りを感知して「受付はこちらです」と声を掛ける
[写真3]タブレットで受け付けをすると、マイナ保険証の有無、ジェネリック薬希望の有無、受け取り方法などいくつかの質問があり、それらに回答すると最後にオンライン服薬指導を受けますかと聞かれるので、「はい」をタップするとQRコードが発券される
[写真4]QRコードを持ってオンライン服薬指導のスペースへ移動。専用の端末にQRコードをかざすとオンライン服薬指導用のモニターに服薬指導する薬剤師の画像が出る(写真5画面向って左上)
[写真5]患者の画像は画面右下に出て、中央部分に薬の説明書を表示。これを見ながら服薬指導を受ける。
[写真6]受付から他店舗へのオンライン服薬指導の依頼まで一連のサービスはAIにより自律的に行われるが、不都合があり店舗の薬剤師の支援が必要になれば、患者はその旨を伝えることができる。写真は調剤する店側のモニター、支援が必要な患者がいれば通知される

自己推薦ロボットとデジタルサイネージ

[写真7]調剤スペースの販促サイネージで商品イメージを訴求、物販スペースのサイネージと連動させることで購入率の向上を図る。順番待ちの案内では、通常の「店頭受付」、時間のかかる「多剤調剤」、「モバイル受付」を番号の色別で表示することで、調剤内容、受付方法により、待ち時間に差が生じることを患者に理解してもらう

物販スペースで展示されたのは、棚の前に立ち止まるとセンサーが感知して商品が踊り出す「自己推薦ロボット」と3面連結の迫力あるデジタルサイネージ。

[写真8]薬急便モバイルオーダーの店頭受付機器。処方せんを受け取った薬剤師が受付ボタンを押すと、薬局用の患者情報シート、患者用のQRコードが印刷されたレシートの2枚がプリントアウトされる。患者がQRコードを読み取るとスマホでお薬の準備状況の確認と準備完了通知の登録ができる。準備完了通知を利用した患者の90%以上が「薬急便」へ会員登録をするなど、オンライン調剤への移行を促進している。さらに、QRコードのレシートから自社アプリやLINE公式アカウントへの誘導も可能で、店頭受付が各種オンラインサービスとの接点になる

自己推薦ロボットは第三者的にロボットが話すのではなく、商品自らが話すコミュニケーションスタイルで消費者の関心を集める。活用に前向きな小売企業も多いという。現状は、実証実験を行っている段階で、限定された店舗で試験的な導入となっている。

[図表1]自己推薦ロボットによる販売増加率

お客の動きを感知して自らが動くことで、立ち止まり率が2倍以上にアップ(大型雑貨店での事例)、商品によっては6倍以上の販売増加率を達成している(図表1)。新たな販促プロモーションの可能性が証明されている。

また、別途AIカメラを設置して自己推薦ロボットが設置された棚の動画を撮ることで、立ち寄り率、手に取った人の割合などを計測可能。それらをメーカーにフィードバックすることで、製販協働で販促効果を上げられる。

[写真9]三面連結のミライネージは迫力があり視認性、訴求力も高い。調剤スペースのサイネージとの連動でより高い効果が期待できる

サイバーエージェントが開発した店舗サイネージ配信システム「ミライネージ」は単に動画を流すだけでなく、効果検証して改善する「運用」と一体的にサービスを提供している。売上状況を日次で把握して、配信効果の高い店舗への配信を増やすなど状況に応じて最適な施策を、早いところで週次で立案、実施している。

[写真10]ミライネージの運用を説明するボード。配信による売上変化などの実績を確認しながら、店舗ごとの出しわけなどを細かく運用することで効果を最大化させている

また、同社では広告クリエイティブ制作の専任部隊も構えており、こちらも売上状況に応じて短時間でクリエイティブを差し替えることが可能。こうしたサイネージ広告を調剤、物販両スペースで連動させることで、より高い売上効果が期待できる。

最後に8月末にリリースした新たな広告配信サービスも資料で紹介されていた。これは、ポイントやクーポンをフックに消費者行動を促すサービスで、小売企業の自社アプリで特定の広告を閲覧した人にポイントを付与。

ユーザーはそのポイントで当該小売店に限り買物をすることができるという仕組み。これにより小売アプリのアクティブユーザーは増え、リテールメディアとしての広告収入も安定化、物販収益の向上も見込める。メーカーからしても、ポイント付与のメリットを武器に確実な広告閲覧を促せるため、認知や購買効果に期待ができる。すでに一部DgSアプリへの導入が決まっているとのことだ。

調剤事業の強化を成長ドライバーとするDgSは多い。それだけで終わるのではなく、調剤強化を物販強化にも繋げることで、成長スピードはさらに早まるだろう。その意味で今回のサイバーエージェントの提案は示唆に富んでいた。

[写真11]自己推薦ロボットを設置した棚の展示
[写真12]自己推薦ロボットは棚の前を人が通過するとセンサーが感知し、「やったー、お客さんだ」といった歓喜の声を発して踊り出す。店頭における新たなプロモーションとして、活用に前向きな小売店も多い

 

コスモス薬品 2024年5月期決算発表レポ「新商勢圏への出店ペースが加速。設備投資額は過去最高に」

月刊MD2024年10月号は恒例「ドラッグストア白書」特集。本稿では2024年7月18日に開催されたコスモス薬品の2024年5月期決算発表会のレポートをお届けする。月刊MD本誌では本内容をよりタイパ良く読めるレポートを掲載している。(談・文責/編集部)

さらなるディスカウント強化で食品の売上が大きく伸長

代表取締役社長 横山 英昭氏:決算の概要についてご説明いたします。

売上高は9,649億円、前期比16.6%増、営業利益は315億円、前期比4.6%増、経常利益は342億円、前期比3.7%増、当期純利益は244億円、前期比2.8%増となりました。

新規出店は139店、閉店は7店。これにより、期末店舗数は1,490店となりました。

次に、既存店売上高の推移になります。2023年1月の下旬からディスカウント戦略をより一層強化したことにより、2024年5月期は既存店売上高が好調に推移しました。この高い前年比は、第4四半期に入って一巡して前年ハードルが上がったことにより、伸び率が鈍化しています。しかし、引き続き前年比プラスを維持しており、好調な売上高が継続していると言えます。

次に、商品区分別の売上高の状況です。すべての部門でディスカウントを強化しましたが、価格に敏感な食品で一番大きく売上が伸びています。そして、食品を買いにきていただいたお客様にその他の部門の商品をご購入いただいたことで、どの部門の売り上げを大きく伸ばすことができています。

関東・中部・関西地区への出店が進む

次に、地域別の状況です。我々が新商勢圏と位置づけている関東、中部、関西地区は積極的に出店を続けていることに加え、比較的新しい店舗のディスカウントをより一層強く打ち出したことで、これらの地域の売上高が大きく伸びました。

中国、四国、九州地区につきましても、すでに高い販売シェアを持っていますが、さらに売り上げを大きく伸ばすことができました。ただ、我が社が新商勢圏と位置づけている関東、中部、関西地区の出店ペース(?00:03:04)が速いので、東側の地域の売上高と店舗数のウエイトが今後も高まっていきます。

次に、販管費の状況です。給与、賞与は待遇改善を進めたことに加え、急激な売上高の増加に対応するために、店当たり人員数を若干増やしたことで大きく伸びました。

水道光熱費は昨年の大幅な上昇から一転して減少に転じています。ただ、これは一時的なものだと思います。日本経済全体が長いデフレから完全にインフレに転換したのですから、今後は様々なコストが上昇すると思います。このような中で、今後も可能な限り販管費を抑え、売上高を伸ばしていけるように頑張っていきたいと思います。

次にバランスシートの状況です。まず商品についてですが、急激な売上高の伸長に合わせて、若干ですが在庫を厚めに持ちました。固定資産は過去最高の出店数となる139店の出店を行ったことで、有形固定資産の前年比はやや大きくなっています。わが社はビルや商業施設へのテナントとしての入居はほとんどなく、フリースタンディングの郊外型店が大部分を占めています。

そして、土地は基本的に借りていますが、建物は自社所有が中心です。よって固定資産の比率が同業他社よりも高くなっていますが、デフレ時代に安く建てた建物が、インフレとなって格安で仕入れた優良資産となり、すでにそれを数多く抱えていると自負しています。

今後も財務のバランスを崩さない程度に積極的に設備投資を行い、さらなる成長を目指していきたいと考えております。

設備投資の増加でフリーキャッシュフローはマイナス

 

次にキャッシュフローの状況です。営業キャッシュフローは550億円ほど稼ぎましたが、先ほど説明したように、新規出店を中心とした設備投資が増えたことで、投資キャッシュフローがそれを超えて過去最高になりました。これによりフリーキャッシュフローがマイナスになりましたので、銀行借入を増やしています。

期末の現金残高は500億円を超えていますが、年間売上に対して20日分にも満たない程度なので、適正であると考えております。配当につきましては、この数年間で配当性向を10%から20%まで引き上げています。これにより、2024年5月期は予定していた通り、20円増配の120円といたします。

なお、株主優待制度を廃止し、今年の8月31日を基準日として、1対2の株式分割を実施することといたします。2025年5月期の配当は、分割前の基準で10円増配の130円、分割後の実際の年間配当は、この半分となる65円を予定しています。

なお、今後は累進配当を基本として安定的、継続的な配当を実施すると同時に、経営体質強化のための内部留保を確保し、さらなる成長のために再投資を行っていきたいと考えております。

2025年5月期は120店舗の出店を計画 長野県・福島県での出店調査も開始

次に店舗分布図になります。2024年5月期の店舗数は、この表に書いてある通りです。2025年5月期は120店の出店を予定しており、関東、中部、関西地区に70店、九州、中国、四国地区に50店の出店を予定しております。これから、まだ出店していない長野県、そして東北地方に分類される福島県の出店調査を開始したいと思っております。

我が社は、県境や東北地区といったエリアの区分はなく、インクが染み出すように地続きで徐々に出店エリアを拡大しつつも、すでに出店している地域の店舗密度をより濃くしていくドミナント出店を今後も続けていく方針です。

調剤につきましては2024年5月末で50店舗になりましたが、積極的な展開は少し控えています。2025年5月期も4店から5店程度の併設店を増やす予定にしていますが、本格的な調剤事業の展開はもう少し先になると考えております。

以上ご説明した出店施策と、引き続きディスカウント戦略を継続することで、2025年期は売上高が1兆円を超える見通しになっております。しかしこれもただの一里塚として、さらなる成長を目指していきたいと考えております。(談・文責/編集部)

リテールメディアの現在地

リテールメディアの概念が提唱され、小売業各社がサービスとして提供し始めて数年が経過した。実際にリテールメディアをテスト運用したメーカーはその結果を受けて、今後どのように向き合っていくかを検討するフェーズに入りつつある。メーカーは一体いま、リテールメディアにどのような期待感を抱いているのだろうか。リテールメディアが今後目指していくべき方向性とは。サイバーエージェントでリテールメディア事業の統括を務め、日々メーカーと向き合い、そのニーズを知り尽くす高橋篤氏に、同社藤田和司氏が聞く。(月刊マーチャンダイジング2024年9月号より転載)

リテールメディアの担当部署が二分化してきた

藤田 小売業さんにはリテールメディアという言葉がだいぶ前向きに浸透しつつある一方、メーカーさんの見方はポジティブなもの、ネガティブなもの、様々だと感じています。高橋さんは最近のメーカーさんのリテールメディアに対する受け取り方の傾向をどう感じていますか。

高橋 おっしゃるとおり、メーカーさんはリテールメディアに対して大きく2つの印象をお持ちになられています。いろいろ試してみたうえで、そろそろいったん総括しようという積極的なものと、リテールメディアについて、本当のところはどうなんだ?という懐疑的なものです。

もう一点、ここ1~2年でメーカーさんの体制が、2種類ほどに分かれてきたということも感じています。リテールメディアをあくまでも小売店における売上を上げるための施策と捉え、営業部が担当するという体制と、ショッパーマーケティング部、トレードマーケティング部のように、マーケティング寄りの部署が担当するという企業さんです。もちろんそのどちらでもないという企業さんも見られますが、だんだんこの2つに大別されてきているように感じます。

藤田 メーカーさんが体制を変更しつつある理由は一体何なのでしょうか。

高橋 メーカーさんの営業部がリテールメディアを担当するケースでは、リテールメディアを広告として捉えるのではなく、店頭に配荷された商品をプロモーション効果で売り伸ばしたいという意図が第一にきているようです。

一方ショッパーマーケティング部やトレードマーケティング部が担当する場合は、リテールメディアが持つ独自のデータの価値や、実店舗を持っている小売業さんならではの広告の掲出場所に、ポテンシャルを感じているケースが多く見られます。

とくに外資系のメーカーさんでは、リテールメディアの専門部署を設立するケースも増えてきたように感じます(図表1)。

[図表1]リテールメディアを扱う体制の変化

藤田 外資系メーカーさんは、リテールメディアに限らず、新しいものは早く取り入れてみて、いいものは残し、そうでないものはやめていくという、取り組み判断が早いですよね。日本のメーカーさんの動きはいかがでしょうか。

高橋 そうですね。すべてとはいいませんが、変わってきたメーカーさんはいらっしゃいます。どちらかというと、メーカーさん自体が変わってきたというよりは、その話を推進するご担当者様の感度が高いという印象です。

藤田 2000年代初頭のインターネットメディアが登場してきた当初と非常に近しい匂いを感じますね。企業のなかで感度高く行動する方がいるところは取組みが早く、そうでないところは遅れがちになる。

オンライン・オフライン連動で市場は伸長する

藤田 アメリカではリテールメディアの市場の大半がオンライン広告ですが、日本の場合、実店舗のリテールメディア化を積極的に進めている小売業が多いと感じています。それぞれのマーケットの規模や、今後の伸びしろについては、どのように捉えておけばよいと思いますか。

[図表2]リテールメディア広告市場規模推計・予測
[図表3]リテールメディア広告市場規模推計・予測(店舗事業)

高橋 カルタホールディングスさんが発表されているリテールメディア広告市場の市場規模推計・予測(図表2、3)によれば、2024年のリテールメディア広告市場規模は4,688億円、うち、実店舗事業者は420億円、EC事業者は4,268億円と推定されています。

EC事業者の広告費用はプラットフォーマーの広告費が大半を占めていると思われます。さらに実店舗企業の420億円の内訳は、デジタルサイネージが170億円、デジタル広告が250億円となっています。つまり、日本においても大半がEC事業者と、実店舗小売業のデジタル広告に占められているという状況です。

藤田 この調査からは、現状は「リテールメディアの大半はオンライン広告である」と感じさせられますね。一方、実際の現場では店頭という「買い場」に近い場所で、リテールメディアを活用してプロモーションを実施した際の売上に対する効果は絶大であるとも私たちは感じています。

ECの広告は「買い場のすぐそば」(※編集部注:商品を買物かごに入れたりする画面の近く)でプロモーションをしているから、効果が出て当然です。オフライン広告は過小評価されているのではないでしょうか。

高橋 リテールメディア全体で見た場合、ECやデジタル広告も含めたオンライン広告の方が、規模が大きくなるのは当然のことだと思います。

ただ、業態やカテゴリーごとに見ていくと、そことは異なる結果になるようにも感じています。例えばコンビニの場合はオンライン広告よりもサイネージなどの店頭広告の方がシェアが高い状況です。

実店舗の小売業は、店頭を持っていることが一番の強みです。その本来のポテンシャルをまだまだ生かしきれていないという意味で、現状の試算に落ち着いているのではないでしょうか。

オンラインの顧客接点と、最終的な買い場に近い「店頭」での顧客接点という強みが、それぞれフルパワーで発揮されるようになれば、オンライン広告と店舗広告の比率が逆転する可能性はあるのではないかと私は捉えています。

藤田 サイネージに代表される店頭広告は、設備投資を含めたコストがかかりますので、規模拡大にある程度の時間がかかることは容易に想像がつきます。比較的低コストでできるオンライン広告が先行して、その後投資が必要とされる店舗での広告が後追いになるのは当然です。

オンライン広告、店頭広告どちらかだけ出稿するというのもありますが、両方を組み合わせて展開することで、効果は格段に上がります。オンラインとオフラインの広告が、相乗効果で伸長するという未来は十分にありえると思います。

どうメディアを選定していくか

高橋 最近はリテールメディアの効果測定にどのような指標を見るべきなのか、さらにその効果測定に基づいてメディアをどう選定するべきか。どうプランニングすべきか、という疑問がメーカーさんから出るようになりました。

藤田 リテールメディアの登場当初は効果測定ができるかどうかそのものが、ひとつ大きな争点でした。ある程度技術が拡充することによって効果測定が当然のことになり、今度は「“購買数1万”という数字をどうと捉えるべきなのか」という質問が増えてきているんですね。それに対して、指標をつくるところから伴走する企業が必要とされているようにも感じました。

高橋 あるメーカーさんがおっしゃっていた話が印象的です。

これまでは「リテールメディアのソリューションをテストする」こと自体が目的になっていました。ですが、メーカーさんとしては「認知を得たい」「購買を得たい」という目的がまずあって、それに適したリテールメディアを選ぶべきで、その順番を間違えないことが重要だとおっしゃるのです。

いままでは「リテールメディア」というキーワードに振り回されていましたが、少し冷静に見直すべきタイミングがきたのだと思います。

大手プラットフォーマーと比較した自社の強みをとがらせる

藤田 メーカーさんの視点から見たときに、とくにリテールメディアを運営する小売業さんが気を付けないといけないことは何だと思われますか。

高橋 広告出稿者であるメーカーさんから見たときの比較対象が他の小売業だけではないということだと思います。小売業さんとお話をしていると、「メーカーの営業部ではなくて、宣伝部やマーケティング部、ブランド部などとお付き合いはできませんか」というご相談をよく頂きます。

しかしそういった部署が広告出稿をするメディアというのは、マスメディアはもちろん、デジタルでいえばYouTube、Google、Meta、Instagram、LINE、TikTokなどの大手プラットフォーマーです。ドラッグストア、コンビニ、スーパーマーケットという実店舗メディアと比較するのではなくて、既存の広告メディアや大手プラットフォーマーと比較してどこに優位性があるのかを問われていくようになるのだと思います。

ではリテールメディアの広告の価値とは何だろうと考えると、当然マスメディアや既存のデジタルプラットフォームが持っていない、独自の購買データを基としたファーストパーティデータであり、もうひとつがサイネージをはじめとする店頭メディアや自社アプリなどの広告の掲出位置であると思います。

藤田 リテールメディアをこれから始めていこうと考えている小売業さん、あるいは一部の店舗で実験的に進めているがこれから規模を大きくしたいと考えている小売業さんはまだたくさんあると思うのですが、そのときにシンプルに何に注力すればメーカーさんとして採用しやすくなると思いますか。

高橋 自社の強みが何なのかを認識して、そこに対するメディアをつくっていくことだと思います。世の中で何がはやっている、という話ではなく、小売業さんが持っている既存の資産のなかで、どの顧客接点がその企業さん独自の価値なのかを突き詰めることがポイントなのではないでしょうか。

アプリの顧客接点が既存のプラットフォーマーと比較しても規模が大きいとか、独自のデータを持っているということがあれば、そこの強みをとがらせるべきでしょう。

全国に店舗があって、毎日これぐらいのお客様が来店されるというのが強みであれば、それを利用したメディアをつくるべきです。

[図表4]メーカーのメディア検討のこれから

藤田 逆の言い方をすると、メーカーさんのどの目的に適したメディアなのかをお伝えしていく必要があるということですね(図表4)。

メーカーさんの営業部よりも、宣伝部やマーケティング部などに対する価値をより出したいということであれば、事前の分析や事後のリポートをどれだけ手厚く提供できるかは重要なポイントです。自社の会員情報や、該当メーカーさんの購買傾向を深掘りして提供するのはもちろんですが、競合メーカーと比較してどうなのかなど、開示できるデータの幅が鍵を握るように感じています。

高橋 リテールメディア出稿に際して費用を請求するのに、データの提供は拒むとか、企画連動の話は出さないという小売業に対しては、一切取組みはしない、というスタンスをあらかじめ提示しているメーカーさんも出始めています。

藤田 リテールメディアをいわゆる「広告」としてメーカーさんから認識してもらいたいのであれば、広告として必要なリポートをきちんと提出しましょうということなのでしょうね。そうでないと、これまでの商談の延長線上で、販促費や協賛金を払っていたのと変わらないことになってしまいます。

それと、「広告メディア」として考えるのであれば、出稿主とメディアが「対等」であるべきですが、いまはそのような構造になっていないようにも感じます。基本的に、メディアというものは平等に開かれていて、広告費を支払えばだれでも出稿できるという性質のものです。これまでの「取引」の延長線での話になってしまいがちなところには配慮が必要かと思います。

小売業側も社内の連携が必須に

藤田 そう考えると、いわゆる商談のあり方というか、小売業さん側の姿勢も少し考えていくべきフェーズにきているのかもしれませんね。

高橋 デジタルの取組みが加速することによって、商談の仕方も変わっていくのではないでしょうか。リテールメディア単体で効果を出すのはそう簡単なことではありません。確実に効果を出そうとするのであれば、商品部と販促部、店舗運営部など、複数の部署が連動することが必要です。

藤田 もちろん中心となる部門やご担当者の方は必要ですが、これまで以上に、小売業さんが社内で連携していかないといけないということですね。

メディアとしての小売を使うという話はかなり多岐にわたっていて、オンラインでデータを使うという話もあれば、店頭を使うという話もあります。店頭を使う場合、企画と連動したり、売場を立ち上げるという話もあるかもしれません。そこは一気通貫で連携をとっていくような動きが必要ですよね。

「購買」だけでなく「認知」にも効果あり

藤田 最後に、小売業さんがリテールメディアを運用していくにあたって配慮すべきポイントを教えてください。

高橋 リテールメディアが「購買」だけでなく「認知」にも効果があるということをもっと前面に打ち出していった方がいいように感じています。

リテールメディアは、購買データがあるため、実施した施策の「売れた・売れなかった」という結果が、よくも悪くも可視化されてしまいます。一方で「リテールメディア=購買に効くメディア」だということだけが切り取られてしまいがちです。

ですが最近の傾向として、これまではテレビで商品を認知して、店頭で購入するという消費行動だった方が、テレビを見なくなってきて、店頭やスマートフォンで商品を認知し、そのまま購入するというケースが増えてきています。

つまりリテールメディアは必ずしも「購買」だけに効くというわけではなくて、世代や商品によっては「認知」にも十分効果を発揮できるメディアであるということです。

藤田 私たちにとってもこれは反省するべきポイントで、ここ数年間「リテールメディアは売上が取れるから、まずは売上で効果を証明していこう」とアピールしてきました。それ自体は間違ってはいなかったと思うのですが、そればかりになってしまうと、結局単なる新しい販促手法が登場しただけという話になってしまいます。

アプリのなかで、その人に合わせた商品紹介を行うとか、ブランドページをつくって世界観をお伝えするなどというようなことも次第に増えてきています。商品の魅力をきちんと伝えていくということも、リテールメディアに期待される役割のひとつだということは再確認したいところです。

私たちも「獲得」のひとつ手前にある「認知」を、リテールメディアの価値として可視化していく必要があるのかもしれません。

本日はありがとうございました。

 

《取材協力》

サイバーエージェント
リテール
メディア事業本部統括
高橋 篤氏
サイバーエージェント
協業リテールメディア部門統括
藤田 和司氏

NFI定例セミナー「ローコストオペレーション研究」(2024/9/18 13:00~16:05)開催ご案内(リアル・リモート)

今回のテーマは、「ローコストオペレーション研究」です。人件費の高騰、建築費の高騰などにより、人の生産性を高める改革による「ローコストオペレーションの実現」は待ったなしの状況です。今回は、ローコストオペレーション実現のための戦略と戦術と事例の最前線を解説します。また、人の生産性、分配率管理などのローコストオペレーション実現のための数値の見方も解説します。

2024年9月定例セミナーは、「リアル」と「リモート」の併用セミナーとします。

今回のテーマは、「ローコストオペレーション研究」です。人件費の高騰、建築費の高騰などにより、人の生産性を高める改革による「ローコストオペレーションの実現」は待ったなしの状況です。

今回は、マテハン、DX、仕組みづくりなどによるローコストオペレーション実現のための戦略と戦術と事例の最前線を解説します。また、人の生産性、分配率管理などのローコストオペレーション実現のための数値の見方も解説します。

さらに、月刊MD10月号で毎年掲載している人気企画「ドラッグストア白書」の分析を担当しているMDNEXT編集長の鹿野恵子が、決算の詳細分析からわかるドラッグストア業界の現状と課題について解説します。また、各社のDXへの挑戦についても解説します。

※座席数が限られているため、リアルでの参加の方は先着順とさせて頂きます。

開催概要

・開催日:2024年9月18日(水) 13:00~16:05(会場受付開始:12:30)
※昼食は各自お済ませの上ご来場下さい。
※セミナー開催中の途中入場はお断りします。
※リモートでの途中退席は申込責任者に報告します。

・会場:エッサム神田ホール1号館7階(701)(※案内図をご参照ください)
・実施方法:リアルとZOOMによるリモートセミナー
(ZOOMセミナーアクセス方法はお申込み者様にのみご案内いたします)
・料金:20,000円(税別・1名様)
(※ニューフォーマット研究会会員企業様には会員価格でのご案内になります)
・申し込み締め切り:2024年9月9日(月)

スケジュール

[13時~14時50分頃]

NFI代表取締役 日野 眞克

挟小商圏、オーバーストア時代の
ローコストオペレーションの原理原則

(1)最新のローコストオペレーションの事例研究
(2)マテハン、DX、仕組みづくりによるローコスト研究
(3)人の生産性、分配率管理などの経費、生産性に関する数値管理 他

[15時00分頃~16時05分頃]

MD NEXT編集長 鹿野 恵子

ドラッグストア白書 2024 詳細解説

(1)ドラッグストアの勢力図解説
(2)決算分析によるドラッグストアの現状と課題
(3)成長性、収益性、生産性数値の見方を解説 他

※講演時間は予定よりも短くなることも長くなることもあります。

会場案内図

会場詳細

〒101-0045
東京都千代田区神田鍛冶町3-2-2
エッサム神田ホール1号館7階(701)
URL:https://www.essam.co.jp/hall/access/#access_1

【アクセス】
●JRでお越しの方
神田駅東口より徒歩1分
●東京メトロ銀座線でお越しの方
神田駅3番出口より徒歩0分

注意事項

①会場へお越しの方は開催会場をご確認の上、お間違えの無いようご注意ください。
アーカイブ動画の配信はいたしません。当日参加でのみセミナーのご受講が可能です。
(配信の不備等によりご視聴頂けなかった場合には、後日動画のご案内をいたします。)

③リモートの場合はZOOMウェビナー形式で行います。9月13日(金)までに、お申込書に記載された受講者のメールアドレス宛に受講用URLを記載したメールを送付いたします。

お申込みフォーム

・お申込みは以下のお申込みフォームからお願いいたします。お申込み受付後、お申込み確認メールをお送りします。また、ご請求先として記入いただいた方宛に、請求書を発送させていただきます。
・ご入金後は、理由の如何に関わらず返金は致しません。あらかじめご了承ください。

本セミナーのお申込み受付は終了しました。
たくさんの参加申込み、ありがとうございました。

ゲンキーの能登半島地震への対応記録「地域住民の生活のため、翌日全店開店を目指せ」

2024年1月1日16時10分頃、石川県能登半島地下16kmを震源とする強い地震が発生(後に令和6年能登半島地震と命名)。能登半島北部いわゆる奥能登を中心に甚大な被害をもたらした。ゲンキーは被災地域に複数の店舗を出店している。ここでは、同社取締役店舗運営部長の中川竜氏に取材。大規模地震への対応を見ていく。(月刊MD編集長 野間口 司郎)(月刊マーチャンダイジング2024年7月号より転載)

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【Day1】2024年1月1日(月)

5mの大津波警報が出る中 決死の現場への移動

1月1日はゲンキーの年に1回の全店、全社の休業日である。正月午後と言えば、いわゆる「おとそ気分」でゆっくりくつろぐのが、多くの人の過ごし方である。ゲンキー従業員たちもそんな時間を過ごしていたが、16時10分頃発生した能登半島地震で様相は一変する。

中川竜店舗運営部長は、正月の挨拶回りから福井県坂井市にある自宅に着いた直後、玄関で強い揺れを感じる。子供たちを机の下に避難させると同時に大きな被害になれば、被災地域では水、食品などの緊急物資が必要になるという思いが頭をよぎったという。

[画像1]地震後最初の投稿

画像1は、中川氏が地震直後、ゲンキー幹部が参加するグループLINEに投稿した第一報である。ゲンキーのグループLINEには藤永賢一社長以下、営業系部署の部長職以上43人がメンバー登録。普段は店舗の販売状況や商品情報など営業に関する連絡に使われている。能登半島地震においては、このグループLINEに情報が集約され、それらを基に現場の指揮を中川氏が執るという態勢が取られた。

[画像2]能登帰省中の従業員から投稿された写真

地震発生直後の16時12分には石川県能登地方には3mの津波警報が、16時22分からは5mの大津波警報に切り替わり、発令されていた。これを受け中川氏は能登エリア沿岸部を中心に全従業員に避難指示を出した。その後、能登半島に帰省中のメンバーから陥没した道路状況の写真も投稿される(画像2)。

[画像3]全従業員へ避難指示の連絡完了

16時22分には石川県を管轄している藤田毅ゾーンマネージャーから課長経由で全従業員に避難指示が完了したこと、状況確認中である連絡が入る。藤永社長からは津波を心配し、店舗確認には行かないようにという指示も出た(画像3)。

中川氏の自宅はゲンキーの本社近くで北陸自動車道丸岡インターから数百メートルの距離にある。体質的に酒の飲めない中川氏は正月の挨拶回りでも飲酒することなく、車を運転できる状況にあった。地震発生直後、現場に向かうことを決意、グループLINEに第一報を投稿した直後、中川氏は16時20分頃には車に乗り込み、丸岡インターから能登を目指していた。

丸岡インターから大きな被害の出ている石川県志賀町までは通常なら所要時間は1時間40分ほど。ただ、能登地方には5mの大津波警報が発令中で「到達中」との予報も出ている。丸岡から能登に入るには、石川県金沢市を経て海岸線に沿って走る「のと里山海道」を通る必要があり、ここを通行中に5mの津波に見舞われれば車もろとものみ込まれる危険を伴う。

「5mの津波警報が出ていることは知っていました。能登へ向かう途中海岸線を走っているときに津波に遭えば命の危険があることも認識していました。のと里山海道を走っているときは自分の車しかなく、置かれた状況がよく理解できました」(中川氏)

同じ頃、中川氏と同じリスクを負って、ゾーンマネージャーの藤田氏も福井から能登に向かっていた。

「藤田にも津波の状況等は確認しましたが、『部長が行くなら私も行く』、とのことでした」(中川氏)。のちに二人は羽咋(はくい)で合流する。

[画像4]「明日、全店開店」が目標に

翌2日は、当初より本部人員、商品部、店舗開発部などの社員は店舗応援に入る予定だった。17時26分、その人員を能登の応援へ振り分ける手配を取る。この段階で店舗の被害状況はつかめていなかった。直後の17時31分、藤永社長から「明日、全店開店を目指そう!」とのLINEが入り(画像4)、これに向け中川部長以下、本部応援社員、前線の店長、パートナー(パート従業員)の奮闘が始まる。

続きは月刊マーチャンダイジング note版で!

《取材協力》

ゲンキー 取締役店舗運営部長
中川 竜氏

TOUCH TO GOが提案する「サテライト型」と「ハイブリッド型」2つの無人店舗戦略

店舗作業のなかで3割をも占めるといわれるレジ業務。レジの省人化は小売業にとって喫緊の課題である。近年ドラッグストア(DgS)でも導入が進みつつある無人決済システムを開発・提供するTOUCH TO GOでは2つの無人店舗戦略を提案しているという。代表取締役社長の阿久津智紀氏に導入状況を聞く。(月刊マーチャンダイジング2024年7月号より転載)

200㎡、2,000SKUに対応

弊誌でも既にこれまで何回か取り上げている「TOUCH TO GO」(以下TTG)の「無人決済店舗」ソリューション。利用方法は以下のとおり。

①入店して商品を手に取ると、店舗内のカメラや棚の重量センサー、AIによる画像分析などによりシステムが商品を特定。②お客がレジ前に立つと、自動でディスプレーに合計金額が提示され、会計を行う。③会計終了後にゲートが開き、お客は店舗から退出することができるようになる。

事前にアプリをインストールするなどの準備は不要で、決済手段も現金、クレジットカード、QRコード決済、交通系電子マネーをはじめ多くに対応。間口の広さを重視したソリューションといえよう。

「私たちが事業提携をしているファミリーマートさんでさえ、まだ現金の利用者の方が7割いらっしゃいます。だれでも気軽に入店できて、お支払いできるというところを大切にしたいと考えています」と阿久津氏は語る。

昨今セルフレジ化による万引きの増加が指摘されているが、だれが何を手に取ったかがすべて記録されているこの手法であれば、実質的に万引き対策にもなる。

同社が提供する無人決済サービスのなかでも、最大の売場面積とアイテム数である「TTG-SENSE」は、200㎡(約60坪)、2,000SKUに対応。1人当たりのレジ所要時間は10〜15秒で、入店人数に上限はない。

TOUCH TO GO高輪ゲートウェイ駅店。ピークタイムは1時間200人のお客をさばく

このシステムが導入されているJR高輪ゲートウェイ駅の「TOUCH TOGO高輪ゲートウェイ駅店」には、約600種類のアイテムが展開されていて、ピークタイムには1時間当り200人のお客をさばくという。

省人化という側面では、遠隔監視や遠隔接客に対応しているという点はポイントだ。営業時間中、たとえ店内が無人になっても、その様子は遠隔のコールセンターで監視されていて、お客からのお問い合わせもコールセンターで対応できる。

酒類の販売にも対応。会計の際に遠隔で年齢確認を行う

元々TTGはJR東日本系のファンドであるJR東日本スタートアップと、金融系のシステム開発を提供するサインポストの合弁会社として2019年に設立されたスタートアップ企業だ。2021年2月にはファミリーマートと資本業務提携を締結。コロナ禍の非接触ニーズを追い風に導入件数を拡大し、東芝テック、グローリーなど、POSレジの大手企業とも積極的に資本業務提携を進めている。

サテライト型とハイブリッド型の店舗戦略

市場環境に目を向ければ、労働人口の減少や人件費の高騰、また建設資材や光熱費も上昇しており、既存業態出店によって業績の拡大を目指すモデルはもはや頭うちという状況である。そこでTTGが提案するのが「マイクロマーケット市場」だ。「自動販売機以上コンビニ未満」の日販で採算が取れるビジネスモデルである。

「この程度の日販ですと、人が張り付けば赤字になりますが、これを無人にすることで採算が取れるようにしていきます。

そのために私たちは2つの戦略をご提案しています。ひとつは母店の近隣に小型店舗を出店するサテライト型店舗です。もうひとつは大きな店舗の一区画に無人のエリアをつくるハイブリッド型店舗です。無人エリアは24時間営業ができますので、深夜、早朝でも販売できるようになります」(阿久津氏)

サテライト型の無人店舗は、近くの母店の商品を従業員が運んで陳列する。その売上を母店につけることができれば、店舗にとってもメリットが大きい。DgSであれば、母店近くにある病院内売店の運営や、大学内売店などの展開などが検討できよう。これまで売り逃していた「エリア」のお客を取りにいく戦略だ。

一方のハイブリッド型店舗は、お客の多い時間帯は有人対応、お客の少ない早朝・夜間は無人店舗化することで、売上の最大化と効率化を両立する。こちらはそれまで売り逃していた「時間帯」のお客を獲得することにより、売上を増やす施策と考えられる。

「面白い事例がお菓子のシャトレーゼさんが東京・西麻布に出店した24時間営業の店舗です。昼間はケーキや焼きたてのお菓子も販売しているのですが、夜になるとそれらを販売しているエリアをシャッターで区切り、アイスクリームやドライ品だけを販売します。通常閉めていた夜間帯を活用することで売上が3割程度伸びました」。深夜の繁華街、飲んだあとに甘いものを食べたい…という需要をうまくくみ上げた。

出店時の費用も極力抑えられるような提案をしている。100Vの電源さえあればスタート可能で、大掛かりな工事は不要。既存の什器も利用できる。

この仕組みを増収のための施策としてではなく、「コストダウンのための施策」として活用している企業も多い。

例えばANAは空港のターミナル内の店舗にTTG-SENSEを導入した。航空機を待つお客のために店舗は必要だが、客数は飛行機の発着に依存するため従業員を張り付けると採算が合わなくなる。人手不足の解消と人件費削減が目的だ。

TTGでは、既存店を無人店舗化することで、レジ作業が削減され、また店舗監視や接客をコールセンターで行うことができるようになるので、通常店と比較して店舗運営のための人件費を最大75%削減可能だ。

2024年3月時点でTTGの技術を導入している店舗の総数は160店舗ほど。郵便局の空きスペース、ホテル内売店、ガソリンスタンド併設店、物流施設の休憩室、小売業の社員向け休憩所、大学の学生用売店、高速バスターミナル、病院内売店などなど、その導入企業、立地は多岐にわたる。

「無人だからのんびり買物ができる」

化粧品のオルビスは、2023年5月から「ORBIS Smart Stand」と称して、TTGの無人決済システムを導入した無人販売店舗をオープン。2024年5月末現在全国に4店舗を展開している。自分に合った手入れ方法や悩みなどをビューティーアドバイザーに相談できる「オンラインカウンセリング」サービスも店頭で提供。無用な接客がなく、マイペースに購入できると好評で、意外と男性客が多い。なお、この店舗は発注・品出しまでTTGがサポートしており、支店が近隣になくても店舗運営が可能であることを実証した。

店舗の状況に合わせてオリジナルの店舗レイアウトをつくれるのが「TTGSENSE」というソリューションだが、それをパッケージ化したのが「TTG-SENCEMICRO」だ。あらかじめ組み上げられた櫓(やぐら)を店舗に設置することで、そのエリアを無人店舗化できる。

最大3尺棚5本の構成で、200SKUの展開が可能。ガソリンスタンド、職域、ホテル内など、様々な場所で活用が進む。(大きさを倍にした、「TTGSENCE MICRO W」や、棚と決済什器のみでコンパクトな展開が可能な「TTG-SENSE SHELF」も提供している)。

価格については元々発生していた人件費等の運営コストの削減に伴い利益が出るような費用感での提供となっている。

この1年でデータの蓄積や活用の手法も洗練されてきた。お客動線や商品を手に取ったかどうかなどのデータを詳細に測定し、売場や棚の売上最大化に直結した分析基盤も構築が進んでいる。

無人決済というと、これまではお客の使用感の話が中心だったが、徐々にその段階は卒業し、店舗での活用方法に焦点が当たりつつある。それまで採算を合わせるのが困難と思われていた商圏、商材でのビジネスを成立させ、既存店の売上にプラスオンしていく。あるいは、万引きによるロスを食い止める。省人化によってコスト削減を狙う…。TTGの無人決済システムは、工夫次第で様々なメリットを小売業にもたらすものになりそうだ。

 

〈 取材協力 〉

TOUCH TO GO 代表取締役社長
阿久津 智紀氏

[男性育休取得率は?残業は?] 家庭と仕事を両立しやすいドラッグストア大調査! 2024

空前の働き手不足といわれる昨今。少子高齢化に伴う働き手の減少によって、ドラッグストア(DgS)各社から「人が集まらない」という声が聞こえている。これまで小売業が目をそらしてきた労務上の課題について、向き合わなければならない。本稿では、女性の活躍推進ならびに仕事と家庭の両立に関するオープンデータから、DgS企業の取り組みや現状を紹介する。(月刊マーチャンダイジング2024年8月号より抜粋)

 

本特集で利用しているデータは、厚生労働省が運営する「女性の活躍推進企業データベース」ならびに「両立支援のひろば」に事業者が登録したものを活用している。「女性の推進活躍企業データベース」(https://positive-ryouritsu.mhlw.go.jp/positivedb/)は、女性活躍推進法により、従業員数101名以上の企業に公開が義務付けられている、女性活躍に関するデータが中心。

また「両立支援のひろば」(https://positive-ryouritsu.mhlw.go.jp)は、次世代育成支援対策推進法や、介護休業法に基づき、一般事業主行動計画、育児・育児休業取得率等を公表するためのデータベースである。

調査期間は2024年5月1日〜31日。その際に公開されていた最新のデータを活用しているが、期間中にデータが更新されていることもある。編集部が保有するDgS企業リストに掲載されている企業のうち、同サイトに掲載が確認できている企業について、データを集計、分析した。

[女性の管理職・役員比率]クスリのマルエ、女性管理職比率43%

[図表2]管理職・役員に占める女性の割合

現場で働いている人は女性が多いのにもかかわらず、管理職の女性が異常に少ないドラッグストア業界。状況は変わりつつあるのだろうか?図表2に示したのは、女性の管理職比率を、高い順にソートしたもの。

MASAYAは異例ともいえる管理職女性比率100%。役員に占める女性比率も高い。ドラッグストアというより、化粧品専門店という背景がその理由といえそうだ。次いでクスリのマルエ、オストジャパングループ、薬王堂、杏林堂薬局、カメガヤの順で女性管理職の比率が高い。

なお、この項目は記入をしていない企業も少なからず散見された。また、女性の役員比率に関してはさらに未記入が多く、記入企業が10社という状況だ。女性役員がいてこそ、女性の管理職比率も高まる。企業は戦略的に女性の管理職を育成していく必要がある。

[残業]一般社員の残業ゼロ目指すコスモス薬品

大企業では2019年4月から、中小企業では2020年4月から時間外労働の上限規制が導入されるようになった。そもそも労働時間には労働基準法によって上限が定められている。これを法定労働時間といい、1日8時間、1週40時間とされている。

また毎週少なくとも1日の休日を取得しなければならない。法定労働時間を超えて労働者に時間外労働をさせる場合や、休日に労働させる場合には、労使の合意に基づく所定の手続きが必要だ。

しかしこれまでは時間外労働の上限を超えても、罰則による強制力がなかった。また、特別条項を設けることで、上限なく時間外労働を行わせることもできた。今回の改正により、罰則付きの上限が法律に規定されることとなった。時間外労働の上限は原則として月45時間・年360時間となり、特別の事情がなければこれを超えることができなくなる。また、臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合(特別条項)でも、様々な規制がかけられることになり、違反した場合は罰金が科せられる恐れがある。

[図表3]1ヵ月当りの平均残業時間(少ない順にソート)

図表3に、DgS企業の1ヵ月当りの平均残業時間を示した。残業について回答した企業は24社とほぼ半数にとどまっている。1時間程度の企業から、20時間近い企業まで、かなり幅が広い結果だ。20時間となると、ほぼ毎日残業が常態化しているということになる。

長時間労働是正のための取り組みについて各社の自由回答から興味深いものを取り上げた。

個人の残業時間を把握し、残業時間が多い人に対して指導などを行うとしているのが、シミズ薬品、マツモトキヨシ九州販売、富士薬品、九州セイムス、ゲンキーなど。ユタカファーマシーは「毎週金曜日にその月の残業予想値を計測・配信」と、週次で細かく残業を管理している。

マツモトキヨシ九州販売、モリキ、サッポロドラッグストアーなどは、ノー残業デーを設けることで残業抑制につなげようとしているようだ。ココカラファインヘルスケアは変形労働時間を推進。CFIZは「店舗間応援、店舗活性メンバーを活用し、応援体制の強化」とある。

コスモス薬品はかなり強めのメッセージで「2016年4月より一般正社員は時間外勤務ゼロ時間とする勤務体制で稼働しています。2021年5月からは、店長・副店長についても、勤務シフトの設定短縮(時短)を実施」とのこと。この強い意志が4.2時間という非常に短い残業時間という結果につながっているようだ。

サンドラッグは「勤怠システム及びPCログによる勤務時間管理」、クスリのアオキ「セルフレジを設置し、レジ対応人時を抑制」と、テクノロジーによる人時抑制をアピール。

店舗数を拡大するフェーズは繁忙期は、どうしても長時間の残業を余儀なくされがちだが、きちんと数字を管理し、残業の原因をつぶしていくことで、効率的な働き方を目指す社内風土を作っていきたいものである。

[男性の育休取得状況] 100%のドラモリとカメガヤ

そもそも産休と育休とはどのような制度なのだろうか。産休(産前産後休業制度)は、労働基準法に定められた制度で、子供を出産した女性が対象となる。これは出産予定日の6週間前から、出産日翌日の8週間後までと定められていて、産後休業対象者は誰もが必ず取得しなければならない。

一方育児・介護休業法で定められた育休(育児休業)は、母親だけでなく父親も対象となる。産後休業の翌日から(男性は配偶者の出産日から)、子供が満1歳の誕生日を迎えるまでが対象期間だ。この期間中は就業してはいけないことになっている。

なお、2022年からスタートした「産後パパ育休(出生時育児休業)制度」は父親が子供の出生後8週間以内に最大4週間を上限として取得できるもの。こちらの制度では、労使協定を結ぶことにより、休業中に就労することができる。

ちなみに産休・育休中は企業から給料は支払われないことがほとんど。その間を支えるさまざまな手当があるが、育休については、雇用保険から育児休業給付金が支払われる。金額は「育休開始時の賃金日額×67%×日数(180日まで)」、それ以降は50%となっている。

政府は男女の「仕事と育児の両立」を支援するために、男性が育児休業を取得することを後押ししている。2023年6月に閣議決定された「こども未来戦略方針」では、男性の育休取得率の政府目標を2025年に50%、2030年に85%(いずれも民間企業の数値)とする方針が示されている。

そこで、2023年4月から、常時雇用する労働者が1,000人を超える事業主は、育児休業等の取得の状況を年1回公表することが義務付けられた。

厚生労働省「令和4年度雇用均等基本調査」によれば、2022年度における男性の育休取得率は17.13%となっている。また、また、令和3年度雇用均等基本調査によれば、男性の育休取得期間は、5日〜2週間未満が26.5%と最も多い数字になっている。

別の調査の結果になるが、2023年に厚生労働省の男性育休推進プロジェクト「イクメンプロジェクト」が発表した「令和5年度男性の育児休業等取得率の公表状況調査」によれば、回答した企業における男性の育休取得率は46.2%。育休取得日数の平均は46.5日となっている。

[図表6]職男性育休の取得状況

図表6はDgS企業における男性育休の状況を抽出したもの。かなりばらつきがあることがわかる。

ドラッグストアモリとカメガヤは100%の取得状況。次いでサンドラッグ、サンドラックプラス、サッポロドラッグストアーとなっている。一方で10%未満という企業もある。男性の育休支援がなければ女性の活躍も推進できない。

対象企業(順不同)(51社)

ウエルシア薬局、ププレひまわり、コクミン、丸大サクラヰ薬局、シミズ薬品、クスリのマルエ、MASAYA、よどや、ツルハ、ツルハグループドラッグ&ファーマシー西日本、杏林堂薬局、くすりの福太郎、ドラッグイレブン、ビー・アンド・ディー、マツキヨココカラ&カンパニー、マツモトキヨシ、マツモトキヨシ九州販売、マツモトキヨシ甲信越販売、マツモトキヨシ中四国販売、マツモトキヨシ東日本販売、ぱぱす、ココカラファインヘルスケア、岩崎宏健堂、CFIZ、コスモス薬品、サンドラッグ、星光堂薬局、サンドラッグプラス、サンドラッグエース、大屋、スギ薬局、クスリのアオキ、富士薬品、オストジャパングループ、モリキ、東海セイムス、西日本セイムス、九州セイムス、ユタカファーマシー、ドラッグストアモリ、ザグザグ、ゲンキー、中部薬品、キリン堂、薬王堂、エバグリーン廣甚、サッポロドラッグストアー、トモズ、千葉薬品、スギヤマ薬品グループ、紅屋商事、カメガヤ

 

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この記事は月刊マーチャンダイジング 2024年8月号から抜粋したものです。全文はこちらから!

市場成長に欠かせない、効果計測とデータガバナンス

株式会社unerryと株式会社CARTA HOLDINGSでは、小売業、広告業など関連24社とプロジェクトを結成し「リテールメディアカオスマップ」を作成。主要プレイヤーや信頼に足る小売業パートナーの紹介、各プレイヤーの役割などを公開した。今回は前号に引き続き、作成当事者の一人である、unerry代表の内山 英俊氏とサイバーエージェント社 藤田 和司氏の対談を通じ、データ整備や運用上順守すべきコンプライアンスについて解説する。(月刊マーチャンダイジング2024年8月号より転載)

前回の概要

前回、「リテールメディアカオスマップ」解説①では「リテールメディアの全体像と押さえておくべきトレンド」のテーマでお二人に解説して頂いた。そして、リテールメディアの正しい効果計測には、小売各社のデータを横断的に計測することが求められるが、そのためのデータ整備や許諾が難しいことがデータ活用上のひとつの大きな課題であるという、内山氏の発言を最後に紹介、今回はそれに続く対談を紹介する。

リテールメディアの全体像と押さえておくべきトレンド

リテールメディアの効果計測は流通横断で行うべき

[図表1]リテールメディア効果計測の課題

藤田 リテールメディアにおけるデータ活用で、小売企業のデータ開示、データ共有の意識がひとつの課題とのことですが、私も同感です。

リテールメディアはメーカーから見たときに最終的にはネットワーク的に使う。つまり、Googleのネットワーク広告のように、一定のリテールメディア予算があって、エリアやメディアの属性、過去の広告効果などを見て、出稿したい商品に合わせてリテールメディアを選んで予算配分していく。様々なメディアを使い分け最大のリターンを得るのが近い将来像ではないでしょうか。今はその過渡期なのでまだ問題がある。内山さんのお話を聞いてそういうことを思いました。

データの整備という観点から、商品の分類が小売企業ごとに相当違います。ひとつの商品の売れ行きを小売横断で集計しようとする場合、JANコードならある程度うまくいくのでしょうが小売企業独自のインストアコードが増えているのでマーケティングに上手く活用できていない局面もあるかと思います。

企業によっては、弁当、総菜、菓子といった分類しかありません。それに属する商品の売上構成比が数%なら問題も小さいのですが、コンビニ、食品SMでは大半をそれらが占めています。

こういうケースに対して、われわれが今ご提案しているのは、LLM(大規模言語モデル)を活用することで、例えば総菜なら、それが揚げ物か、サラダか、麺類かといった分類をしてインストアコードにタグ付けします。

これが分かるだけでも、揚げ物をよく買う人には血流や脂質をケアする商品を訴求しようとか、サラダの購入者は健康志向の人だとか、マーケティングする際のターゲティングユーザーは増えるはずです。

一次情報を二次、三次と膨らませていく、unerry様でもお持ちの人流データを掛け算、足し算して価値を付加することもできると思いますが、どのような使い方が可能でしょうか。

内山 小売企業の観点で見たときに、自社が運営するリテールメディアに広告を配信した結果、その小売の店舗で購買すれば自社の販売データで効果はわかります。

しかし、その広告を見た人が、必ずしも配信元の小売の店舗で買うとは限りません。

unerryの人流データを使った分析では、あるリテールメディアの広告を見て、配信元の小売とは別企業の店舗で購入している人も推計できます。そして、その数は相当数に及びます。

こうしたことを私たちが正しく計測させてもらえれば、配信したリテールメディアのROI(投資効率)が上がります。それが本当のリテールメディアの効果だと思います。

藤田 配信元以外の店舗での購買データは、メーカーのニーズも相当高そうです。ある小売で実施したリテールメディアに対して、その効果が一流通で収まっているはずはないのですが、一つの流通でしか見られないケースが多いのが現状です。

これでは広告主は費用対効果が合わないと思うこともあるでしょう。unerry様のサービスはその課題のソリューションになりそうですね。

内山 正しくメジャメント(計測)しないと効果の評価を間違うので、メジャメントの指標も合わせてご提供しています。

その店舗をどのような文脈で利用しているか知る

藤田 小売業のファーストパーティデータ(自社購買データ)から見えるもの以外、例えば、居住エリア、勤務エリア、買い回りパターンなど、顧客が別角度から見えるデータを取れることも位置情報の特徴的なところだと思っています。顧客データの価値を増やすという点では面白いですね。

内山 通勤途中に使っているのか、日常生活エリアの中で使っているのか、お客様がその店舗をどういう文脈で使っているかを理解した上で、こういうプロモーションにしましょうとつながるはずですが、ファーストパーティデータだけではそれが分かりません。

そこを補完すれば、他店を利用して態度変容したのか、自社の利用が減って他社の利用が増えたのか、あるいはその逆か、行動の中からお客様の態度変容をしっかり捉えることができ、施策に生かすことができます。

藤田 どういう文脈でその店舗を使っているのかという視点は面白いですね。ドラッグストア(DgS)で言えば、近隣のDgSが競合だと思っていたら、買い回り先を見たら実は競合は近隣の食品SMだったということもあります。自店の商圏は調査しているが、その分析が正しくなかったということも結構ありそうです。

位置情報を使った商圏、競合分析は、本部が見たときに店舗の不振の原因が分かったりします。店舗では競合に売価で負けている、競合がセールをよく打つなどと分析していても、そもそもの競合が違うというケースもあります。位置情報を使った計測ではそういったことも見えてくるのが面白いですね。

リテールメディアにおけるデータガバナンスの注意点

藤田 法改正もあり、インターネット上の利用者情報の管理がより厳密になりました。リテールメディアで取り扱う情報の許諾など、内山さんが特に注意していることは何でしょう。

内山 いくつかの観点がありますが、われわれのようなデータ事業者の立場から見ると、扱うデータの取得元のパーミッションが明確かどうかはしっかりと意識する必要があります。

どのようにして集めたのか不明瞭なデータが小売やメーカーに提供され、よく調べるとそのデータは広告配信に使用してはいけないデータであったというケースも考えられます。

どこまで活用しても良いデータなのか、しっかりと確認できていないまま活用してしまわないよう注意が必要です。

もう一つ、2023年6月には改正電気通信事業法が施行されましたが、外部送信規律(用語解説①参照)も意識しなければなりません。

小売アプリで広告事業をしようとすると適用される可能性がありますが、例えばリテールメディアという概念を知らない顧問弁護士などの観点だと、小売が広告事業をやるとは考えないため、適用されないと回答される恐れもあります。

この点は現場も意識するべきでしょう。意識の高い企業は法改正に従ってプライバシーポリシーを修正していますが、対応が追いついていない企業も存在するように思います。

個人情報を事業者間で提供する場合の対応にも注意が必要です(用語解説②参照)。第三者提供か委託かでデータの扱いルールは異なります。

委託で取得したデータを事前にユーザーに確認を取らずに別データと掛け合わせるなど、委託の範囲を超えて利用することは法律違反となるので適切な運用が強く求められます。

外部の情報と自社の個人情報を連携させる際はその旨を明示してユーザーの許諾を取る必要がありますが、許諾の内容とデータの活用状況に乖離がある運用になっていることも考えられます。

何の目的で、どの項目を、どのような条件で提供するのか、確実に明記することが求められます。

[図表2]外部送信規律の対象について

用語解説① 外部送信規律

電気通信事業を営む者は、利用者の端末に外部送信を指示するプログラムを送る際は、あらかじめ、送信される利用者に関する情報の内容等を、通知・公表等しなければならないこと。

※外部送信/パソコンやスマートフォン等の端末に記録された利用者に関する情報を、その利用者以外の電気通信設備(Webサーバ等)に送信すること。

(文責/編集部)

法令順守のために利用者情報の保護を整備する

藤田 市場が大きくなると社会の関心も高くなり、利用者情報の保護問題はより大きくなります。今のうちに正しく対応しなければいけません。グレーゾーンやまだ定まっていないことがあるのは確かですが、リテールメディアに正しく取り組みたい小売企業は利用者情報の取り扱いにどのように対処すればよいとお考えでしょうか。もちろん、知見のあるパートナー選びもその対処のひとつでしょうが。

内山 まず本質的だと思っていることを先に言うと、リテールメディアカオスマップで紹介したようにこれだけ多くの知見のある企業並びに関係者がいらっしゃるので「ガイドライン」を出すべきだと思っています。

「リテールメディアプライバシー」に関する規約のガイドラインをつくることが対処法の1つだと思います。アメリカにはすでにIAB(Interactive Advertising Bureau/米国のネット広告団体、Amazon、ウォルマートはじめ約650のメディア、テック企業が加盟)がリテールメディアや測定指標に関するガイドラインを設けています。その日本版を出すべきだと思っています。

あるいは、日本の一部先進的な小売企業が社内規約をつくっているので、そうしたものをモデルケースにして業界として利用者情報の管理を正しく認識し、これに合わせていくことが重要です。

ちなみに位置情報の業界も以前はリテールメディアと同じような状況でした。規約がなかったところから始まり、ロケーションのガイドラインをつくり、同業他社の皆様と協働で一定の健全化が図れたと思っています。

藤田 LBMA Japan(Location Based Marketing AssociationJapan/位置情報マーケティングサービスを推進する非営利社団法人。内山氏は理事を務める)を立ち上げ活動されています。

インターネット広告ではJIAA(Japan Interactive Advertising Association/日本インタラクティブ広告協会)の中で利用者情報のルールのとりまとめを行ってきましたが、リテールメディアはそれを越えた範疇でのルールづくりが求められます。そろそろ協議会をつくる必要があるかもしれません。

希望も込めて見ると、メーカーも変わろうしているし、小売も専任の部署を立てる企業が増えてきました。しかし、まだ仕組みや活用をどうするかという段階です。将来的にはターゲティング、効果計測など、データの取り扱いが事業のコアになります。そのときまでに、利用者情報の保護、管理のルールづくりをする必要があります。

新しい事業に挑戦するという機運の中で、情報をどのように使いたいかを定義した上で、それが適法か、理にかなっているかの判断を法務部門も含め、 事業側でもできるようになると理想です。それを担う人材をどう育成するかも小売企業の1つのテーマになると思います。

内山 unerry独自で勉強会を無償開催しています。法律の改正やリスクをアドバイスしながら規約を整えるお手伝いはできます。個人的にやっていることなので、普段のお取引がある、なしは関係ありません。ご興味があればいつでもおっしゃってください。

藤田 勉強会のお申し出をありがとうございます。様々な制限を受ける繊細な情報に取り組んでいるという認識が大切ですね。リテールメディア発展のために、今後とも連携できればと思います。

本日はありがとうございました。

用語解説② 「個人情報の第三者提供」、「委託」

個人情報の第三者提供
個人情報取扱事業者が、保有する個人情報をそれ以外の者(第三者)に提供すること。

委託に伴う個人情報の提供
個人情報取扱事業者がその利用目的の達成に必要な範囲内に限り、個人情報の取扱いを委託することに伴い個人情報を提供する場合は、個人情報の第三者提供に該当しないものとされている。

(文責/編集部)

 

《取材協力》

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代表取締役社長CEO
内山 英俊氏
サイバーエージェント
協業リテールメディア部門統括
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