
扉付き冷凍・冷蔵ケースの冷凍負荷の削減



店内作業の省力化




新しい台車の提案


新しい専用什器の提案


デジタルサイネージの提案




(株)オカムラが開発した什器は、ドラッグストア、スーパーマーケットなど日本国内のほとんどの業態で使われている。スライド什器による「先入れ先出し作業」の省力化、デジタルサイネージによる「商品販促活動」の省力化など、小売業の生産性向上に貢献する価値提案に取り組んでいる。スーパーマーケットトレードショーの会場で見た同社の什器を紹介する。(文:編集部)(月刊マーチャンダイジング2024年4月号より転載)
オンライン診療、デジタル技術を使ったヘルスケアサービス「薬急便」を展開するMG-DX社代表取締役社長の堂前紀郎氏にオンラインヘルスケアの将来展望を聞いた。これまでになかったデバイスや医療機器の登場、ドラッグストア(DgS)の調剤データと物販データの統合の進行など、その展望はダイナミックで示唆に富む。(月刊マーチャンダイジング2024年4月号より転載)
サイバーエージェント社が100%出資する株式会社MG-DXが運営する「薬急便」は、親会社の持つデジタルマーケティングの知見、AI技術などを駆使して、オンライン診療、オンライン調剤のサービスを軸に事業を展開している。
現在、「薬急便モバイルオーダー」が好調で、提携薬局数を好調に拡大している。「薬急便モバイルオーダー」とは、スマホを通じて処方せんを事前に送信すれば、呼び出し状況をスマホで確認でき、調剤完了を通知してくれるサービスで調剤待ちのストレスが解消できる。
決済も事前登録したクレジットカードでOK、会計の時間も省略できる。オンラインの他、店頭でQRコードを読み取ることで呼び出し状況がスマホで確認でき、調剤待ちの時間に買物を済ませるなど利便性が向上する(図表1)。
「モバイルオーダーが非常に好評で、このサービスだけでも利用したいという企業もあるほどです。背景にはこれを導入することで、患者が調剤薬局の利用にスマホを利用し、一度使うと便利なのでリピーターになる。それが調剤事業のデジタル化を一気に進めるという現象があります。
調剤DXは、オペレーションを変えたくない、ムダな投資をしたくないなど、組織問題もありとかく抵抗にあいがちです。これを打破できる手段としてモバイルオーダーに期待が集まっています」(堂前紀郎氏)
好評のモバイルオーダーに加え、今年3月に開始したのが「薬急便マイナポータル連携」である。現在、マイナポータルでは過去3年分の診療、薬剤情報などが閲覧できる。規制緩和により、本人の承認の元、これらのデータに第三者がアクセスできるようになった。
この制度を利用して薬急便では提携する薬局の管理画面を通じてマイナポータルに記録された患者の各種健康情報を提供する。
「薬急便マイナポータル連携」を活用すれば、薬剤師はより効果的な服薬指導や適切な健康アドバイスができる。また、サプリや食事の提案を通じて物販のプロモーションにもつながる。
オンライン診療、服薬指導の将来見通しについて堂前氏の見解を聞いた。
「3年後くらいから急速にオンラインへの移行が始まり、5年後で考えれば、診療の2〜3割はオンラインに移行すると思います。その理由にはいくつかのポイントがあります。まず単純に社会のデジタルへのリテラシー(理解能力)が上がること。二番目は診療報酬改定の影響です。政府は増え続ける一方の医療費を抑制するために、リフィル処方せんの発行を促進する方針です。
同じ処方せんで最大3回まで薬剤を受けられるリフィル処方せんは患者側からすれば病院にいく時間を省略できるので大変便利です。一度この利便性を経験すれば安定した健康状態なら、普通の処方せんに戻ることはないと言ってもいいでしょう。
今年6月に診療報酬の改定がありますが、これまで以上にリフィル処方せんの発行を促す加算が要件化されました。これが最初の起点になり、今後もリフィル処方せんへの誘導は段階的に進んでいくと思います。
リフィル処方せんの利用に加えて、服薬指導もオンラインで済ませ、薬剤はただ受け取るだけ、あるいは自宅への配送という習慣はますます広がっていくと思います。診療報酬改定と一度味わった便利体験がWパンチとなってオンライン診療は加速度的に広がるでしょう。
もうひとつが、デバイスの進歩です。今年2月にアメリカでアップルが『ビジョンプロ』というAR(拡張現実)体験ができるゴーグル型の新製品を発売しました。これを装着すると目の前の現実世界が見え、その中にスマホ画面にあるようなアプリのアイコンが立体的に浮かび上がります(画像2)。
視線や声や空間を手で触ることで操作し、アプリを立ち上げます。アップルは『空間コンピュータ』と呼んでいますが、映像も目の前にある現実空間の中に現れ、かなり鮮明でリアルです。
現在アメリカだけで発売されており価格も3,499ドル(約52万円)と高価なのですが、普及してくれば日本でももっと手頃な価格で買えるでしょう。こうしたデバイスが普及してくれば、スマホとは比べものにならないくらい、オンラインでもリアリティのある医療体験ができます。3年から5年というスパンでこうしたテクノロジー、デバイスの革新が次々に起こり、オンライン診療を加速させるでしょう」。
ビジョンプロのような体験型のデバイス革新に加えて、今、測定や検診に関する先端的な医療機器がスタートアップ系企業により開発されている。例えば、nodoca(ノドカ)という医療機器は専用のカメラで咽頭の写真を取るだけで、その画像からAIがインフルエンザの陽性か陰性かを数秒から数十秒の間に判定する(画像4)。厚労省から新医療機器として薬事承認を受け保険適用の対象になっており、既に多数の医療機関で導入されている。
「今後、こういう医療機器が家庭に普及する時期が来ると思います。そうすれば、医療のオンライン化、デジタル化は一層進みます。そうなると2つの方向で大きな変化が起こってきます。一つ目はいかに患者を集めるのか、そのルール、手法が変化します。2つ目はデータを活用した新しいビジネスが大きな役割を担ってくることです。
患者の集客方法の変化について、リフィル処方せんの発行増大、オンライン診療の普及などをまとめて言えば、これまで薬局に来ていた人が来なくなる時代が来るということです。その中で自店が選ばれるためには、なんらかの方法で患者と常時つながっている必要がある。物理的な集客が難しくなる時代、自店が選ばれるためには『つながり勝負』になるのです。そのためには、オンライン上、デジタルを活用していかに良い接客ができるかが大きなポイントになります。
例えば、ECサイトあるいは実店舗のOTC薬販売で最初はアバターが接客する、挨拶から悩みの聞き取りなど初期的な段階はAIが自律的に対応して、専門性や個別性の高い段階になると自動的にどこかの店舗、あるいはコールセンターで待機している薬剤師に切り替わって、画像はアバターのまま接客、カウンセリングは人間が行う。このようなAIアバターと薬剤師を組み合わせた接客、カウンセリングをすることで、一人の知識豊富で接客に優れた薬剤師が20店舗、30店舗を担当できます。
これは一例に過ぎませんが、オンラインによる接客の支援・強化は、これからのDgSにとって、現場スタッフの育成という意味も含めて十分に備えていく必要があります。質の高いオンライン接客ができることで、いつも患者とつながっている状態が維持でき、固定客が増えてLTV(生涯顧客価値)が上がっていきます」(堂前氏)。
堂前氏は以前の取材で、現在1兆円規模のDgSの調剤売上は今後5年程で2兆円規模にまで拡大するだろうという見通しを示している。この内訳は、リアル店舗のさらなる出店とオンライン接客の強化が同時並行的に行われることで市場拡大していくとのことだ。
さらに、医薬品の販売時間延長など、規制緩和によって薬剤師はさらに必要となり、オンライン接客のニーズも高まるだろうと見ている。
堂前氏が指摘する二番目の大変化データ活用ビジネスの広がりについて解説してもらった。
「先ほどの先端的な医療機器ですが、DgSが規模を拡大して上位3~5企業くらいに集約されたとすると、こういうデジタル医療機器をDgSがPBの延長線上でつくるという時代も来ると思います。OTC薬のPBまではありますが、そこをさらに広げて治療用アプリや家庭内医療機器をPB開発して、オンラインサービスを提供する。資本力も十分なので、場合によっては製薬会社やスタートアップ系の医療機器メーカーの買収もあり得るでしょう。
上位寡占してきて、4強、3強時代になると出店立地もさすがに飽和気味でそれほど残されていないのではないでしょうか。加えて各都道府県の人口減少を考えると出店で売上を伸ばすという手法は限界を迎えていると思います。その中でいかに利益を挙げるかを考えると高付加価値・高単価の医療サービスが考えられます。
DgSが医療サービスで勝ち残れるかどうかの分岐点が様々な健康、生活に関するデータを揃えられているかということになります。
私の考えでは2024年から2025年でDgSの物販データと調剤データの統合はかなり進むのではないかと見ています。現在統合に向けて私たちがお手伝いしている企業もあります。その後はデータ量をどれくらい増やせるかという段階に入ってきます。
調剤と物販のデータ統合には、非常に大きなインパクトがあります。DgSは調剤薬局利用者のデータをこれまでまったく見られていなかったので、調剤利用者のうちどれくらいが物販も利用しているかさえ掴めていない状況でした。体感値として調剤薬局利用者は物販でも優良顧客だろうと思われていますが、データで検証すると恐らくそれは証明されると思います。調剤利用者の全体像がデータで明らかになるというのが統合効果のひとつ。
もうひとつの大きなインパクトは、調剤利用者に向けてプッシュ型の販促が打てるようになるということです。処方せん単価は平均すると1万円程度、粗利は35~40%です。この超優良顧客を起点としたマーケティングができるようになるのです。今までは卵の値下げで集客していたものが、1回の来店(来局)で4,000円の粗利を残す顧客へアプローチできるので日用品20%オフのクーポンを発行してもペイできます。さらに、調剤併設DgSにおいて、物販は利用しているが調剤は利用していないというお客様は大手チェーンで言えば100万人単位でいます。データ統合により、効果的な集客(来局促進)を行って仮にその半分が調剤利用者になれば、企業の経営構造すら変わるくらいのインパクトがあるでしょう」(堂前氏)
データ活用ビジネスの支援に関して堂前氏は次のように語る。
「薬急便はマイナポータル連携や各種の活動でデータを蓄積し、かつDgS様の物販と調剤のデータ統合を支援し、これを共有して頂くことで巨大データプラットフォームを構築します。このデータを分析・解析することでDgS様のマーケティングや事業拡大にとって有益なアウトプットをしたり、DgS様がデータ提供をマネタイズする事業を支援したりする計画です。
一方で、巨大データプラットフォームをベースに他の事業を組み合わせたり、物販やサービスの販促を行う場合でも、それがうまくいくかどうかは、最終的には薬剤師の接客、コミュニケーション能力次第ということになります。オンラインやデジタルの技術を使って薬剤師の業務支援をすることとデータプラットフォームの構築は両輪の関係と捉えて、ここをしっかりサポートすることが薬急便の役割だと考えています。
現状、オンライン服薬指導という限定的なことしかやっていませんが、薬急便の仕組みを使ってオンライン栄養相談、OTCの説明販売をしてもいいでしょう。オンラインを使って接客のレベルアップができるし、薬剤師も店からのオンライン服薬指導に加えて自宅からあるいはコールセンターからという選択肢もあります。今後はオンライン接客というカテゴリーが拡大、充実してくると思います。
さらには、家庭用医療機器の発達で取れるデータも増えますし、ビジョンプロのようなデバイスの発達はオンラインサービスをより現実に近いレベルに引き上げてくれます。こうした大きなオンラインの潮流で2026年頃にはヘルスケアは変革期を迎えているでしょう。私たちがご支援しているDgS様との取り組みもその頃までには目覚ましい成果を挙げていると思います」(堂前氏)。
堂前氏はオンライン、デジタルを活用して企業が成長するためには組織分断の解消とトップの決断が重要だと語る。調剤と物販のデータ統合はその最たる例で、統合を渋る勢力を抑えて実行するには、トップが決断と投資を毅然として行い、誰もが後戻りできない状況をつくることが、最良の手段ということだ。現在MG-DX社と取り組んでいる企業はこれを断行しており、その成果は大きいだろうと堂前氏は予想する。
これからやってくるオンラインヘルスケア大変革期に備えるためには、変化を読み取り、今から万全の準備をすることが重要だろう。
《取材協力》
2024年2月12日に大創産業創業者の矢野 博丈氏が逝去されました。流通小売業の発展に貢献された氏の在りし日の姿を偲ぶべく、本誌2013年11月号に掲載された記事を再掲します。露天商から3,400億円企業(取材当時)へと成長した大創産業の躍進は、氏のオリジナリティー溢れる経営スタイル抜きでは成しえませんでした。常に謙虚に、常に危機感をもって、自己否定を繰り返し、変化に対応する。一商売人としての含蓄溢れるインタビューを一挙掲載。(月刊マーチャンダイジング 2013年11月号掲載)
─100円均一ショップ界でのシェアが約65%あります。新業態も積極的に開発し、新商品も続々と投入されていますね。近年は海外での売上も伸びています。
矢野 世の中そんなにうまくいくものではありません。うまくいかないから仕方なく頑張る。また壁にぶつかる。その繰り返しです。
日本で人間が平等に生きる権利があるという考え方が定着したのは、たかだかこの30年程度です。何千年にもわたる歴史を振り返ると、ただ生きているだけで精いっぱいの時代が大半でした。縄文時代から、平安、鎌倉、江戸…と、長い間、もがきながらやっと食べていくということは変わっていません。食べるためには、頑張るしかない。それだけのことです。
企業も、人間も同じです。いいことが起きているのはこの30年、40年だけです。みな、このままいいことが起こり続けるように考えていて、私は大いに不安を感じます。
─輸入開発型の商材が多い場合、このところの円安基調の影響を受けているのでしょうか?
矢野 為替の動きというのは、秋に台風が来たり、冬になったら寒くなるのと同じことです。そういうものです。どうしようもありません。
─とはいえ業績は現在好調ですよね。
矢野 数字に表れるものと実態が同じとは限りません。数字で見えるものは氷山の一角です。でもいまの政府はこれからもいいことが起こると言い続けている。それは恐ろしいことです。
以前御手洗冨士夫(元キャノン社長、元経団連会長)さんに、日本と海外の違いというお話を伺ったことがあります。彼によれば「アメリカの公務員はサービス機関、日本のそれは行政機関だという点がまったく異なっている」ということでした。それは同じぐらいの広さの地方都市の議会の議員数をとっても十倍近く差があるということからも明確でしょう。
私どもが海外を訪問すると、国や地方においてそれなりの地位にある行政機関の方がアポイントを取ってきて、ダイソーの出店を乞われることがあります。
─彼らは国や地域の経済、生活の向上に対して、とても積極的に動いているということですね。
矢野 そうです。現在日本のGDPの約40%は流通小売業、サービス業が占めています。車は今やほとんど海外で製造されています。鉄鋼業などの輸出産業は20%程度です。輸出が重要な時代には、円安の方がよかったけれど、すでに日本は輸入大国で円安基調はふさわしくありません。
世界中を歩いてみると、世の中は自動車とショッピングセンターの時代になっているということを感じます。製造業が海外に輸出をするという局面では円安は歓迎できますが、ショッピングセンターという内需を支える側にとってみれば、これ(円安政策)は本当にわかっていない政策だなと思わざるを得ません。
いい家に生まれ育ち、超一流の学校を出ている政治家の方たちには、もしかすると庶民の心の機微や苦しさ、哀しさはわからないのかもしれませんね。
1988年ごろ、当時の首相の竹下登氏が日本全国に1億円をばらまいたことがあります(ふるさと創生事業として、国が各市町村に対し地域振興に使える資金1億円を交付した政策)。それを「このお金は皆さんが一生懸命頑張ったご褒美です。感謝して将来のために有意義に使うんですよ」と言って渡せばよかったのに、「お金が余っているから、好きに使いなさい」とばらまいた。その瞬間に日本の運は悪くなりました。だからこの先日本に運や金の神様は決して微笑まないでしょう。
企業でも、人間でも、警戒心を解かないことが大切です。常に警戒していないといけません。大企業でもつぶれるのですから。もう一つは感謝する力です。感謝する力がなくなると、お金を大切に使わなくなります。
─車とショッピングセンターと言えば、地方の商店街がさびれているという問題がありますね。
矢野 40年前ぐらい昔の私は、朝5時過ぎに起きて、5時半に家を出て、店頭や空き地に露店を出していました。荷物を必死になってトラックから降ろして、並べて。なんとかして9時半までに必死になって商品を陳列して。そのあと、30分でモーニング(朝食)に行くのが、人生で最大の喜びでしたね。
─しかし今や商店街でそんな光景は目にしなくなりました。
矢野 20年、30年というスパンで運は決まっています。3年や5年で決まるわけではありません。商店街を活性化しようと思っても、一朝一夕にすむものではないのです。
─内需で回る仕組みをつくるべきということでしょうか?
矢野 そうですね。日本全体を啓蒙する考え方を今からつくるべきなのでしょう。これから20年、30年はかかると思いますが、それでも一歩ずつはじめなければなりません。我々が日本人として今後どう生きるかの指針を示さなければならない。それが無いと、日本も過去のギリシアやローマや蒙古のように、衰退の道をたどるでしょう。
小売業も厳しい環境の中で、目の前のことを継続して必死にやるしかないと思います。
流通業には、いまでも煙草を吸っている人が多いですよね。製造業だとかは、かなり煙草を吸う人が減ってきました。それだけ仕事が厳しいんです。だけど、その厳しさがあるから我々は生きてくることができました。100円ショップだって、店舗は過剰なほど出ています。かつてはよく売れた店も、いまは売れない。その中で私たちは生きていかざるを得ない。
スウェーデン、ノルウェー、フィンランドなど、北欧の国々は、とても寒くて生活するだけで大変な国ですから、頑張るしかない。中には裕福な人もいるのでしょうが、国民全員で国全体の負の部分を低めようという社会政策をとっています。税金はたくさん払いますが、自分達に全部戻ってきます。だから、税金の使い道も透明で、無駄に使うようなこともありません。
こう考えると、本当に日本は恵まれすぎていますよね。恵まれない幸せもあれば、恵まれる不幸せもあるんです。
お金持ちの子に生まれるというのは、可哀そうなことだと思います。お金というものは、感謝して、計算しながら、ありがたく使わせてもらうというものです。そして制約の中で最大限に使う。でも恵まれている人は、こういった経験をすることがありませんから、人の心もわからないのです。
矢野 流通小売業というものは、より警戒心を持たねばなりません。警戒心を持ちながら、いつも頑張るしかないんです。みんなでトラックから荷物を降ろしたりして、一緒に汗をかくと、気分が明るくなります。みんなで頑張るということが大切なんです。
昔、日本の軍隊で、突撃するときにどういう言葉がよいとされていたかというのをご存知でしょうか?「突っ込め!」「行け!」とか、いろいろ考えられますけれども、一番いいのは「俺に続け!」なんだそうです。商店街や量販店が成長を続けていたころは、皆徹夜で仕事をして、店に段ボールを敷いて寝るようなことがありました。それがいいのかどうかはわかりませんが、テクニックが大事、技術が大事、と言っているだけでは伝わらないものがあります。
─そんな中で矢野さんの社長としてのお仕事も変化されているのでしょうか?
矢野 いや、私はウロウロしているだけです。言い換えれば、右往左往しているというのが正しいかな。これでいいのか、ああじゃないか…いつもそんなことばかり考え続けています。
─とはいえ、経営判断は社長にしかできない仕事です。
矢野 どうでしょうね。人間は間違えます。迷うのも当たり前です。よくみんな「あの社長は先見性がある」とか「人を見る目がある」と言いますが、そんなものが人間にあるはずがありません。ただ、普段必死にやっていると、運が後からついてくる。
20世紀は、生まれた時点である程度のその後の人生が決まってしまっていました。ですが、21世紀は、必死にああでもない、こうでもないと頭を悩ませて生まれたものが評価されるようになりました。20年、30年頑張ったところに運がある。もし運命の女神様というのがいるのであれば、努力した人をとても正確に評価するような時代が来たのだと思います。
─そういう意味では、ダイソーさんは、商品調達や、ロジスティクスといった目に見えない部分を、何十年もかけて、コツコツとつくってきたという印象があります。
矢野 それより一番大事なのは、社員みんなの頑張る力ですよ。
─この十数年の間に落ち込んでしまった大手流通企業の中には、やはり驕(おご)りがあったということでしょうか。
矢野 そうかもしれませんね。いま好調な企業の一つであるセブン−イレブン(セブン&アイ・ホールディングス)は、鈴木さん(鈴木敏文代表取締役会長最高経営責任者)も、伊藤さん(伊藤雅俊名誉会長)も、いつでも必死ですよ。
伊藤さんは、普段は鬼のような方ですが、心根は本当に優しい。伊藤さんに私がはじめて会ったとき、ああ商人の謙虚さとは、生きるために必死になること、一生懸命、これに尽きるのだな、と感じました。私はそれまで社員を怒ったことがなかったんです。でも、伊藤さんと出会ってからは怒り出しました。ちょっと怒りすぎた節もありましたが…(笑)。
これは聞いた話なのですが、鈴木さんが店頭周りをしているときに、カレーパンを食べたところ、火のように怒り出して、パンのバイヤーを呼んで来いという話になったそうです。「なんでカレーパンがおいしくないんだ!こんなパンを出すなんてお前は何を考えているんだ!」と。パンのバイヤーは、それに対して「しかし会長、カレーパンはとてもよく売れています」と反論したところ、「お前はセブンをつぶす気か、全部破棄しろ!」と猛烈に怒られたそうです。
その話を聞いて、私はセブンイレブンでカレーパンを買おうとしたのですが、本当に店頭にないんですよ。それから数ヵ月後、改めて店頭にいったら「とてもおいしくなりました」と書いたカレーパンが売られていた。見てみると、カレーパンの真ん中がぶっくりふくらんでいる。いまはカレーパンはふくらんでいるのが当たり前でしたが、昔はドーナッツみたいにひっついていたでしょ。ある雑誌の対談で、鈴木さんに「カレーパンの件で怒ったそうですね」と言ったら「いやぁ、俺は怒らないよ。ただおいしくないものを売っちゃだめだと言っただけだよ」と照れていらっしゃいました(笑)。
その新しいカレーパンが店頭に並んだのが8月ごろのことだったのですが、その後、11月ぐらいに近所のスーパーのカレーパンをみたら、それもふくらんでいたんですよね。これを機に日本中のカレーパンがふくらみだしたんです。
売れていてもダメだ。これでもか、これでもか、と。お客さまにもっとおいしい物を提供しようと努力する。この決断は10年というスパンで見れば同社にとって何億円という利益につながったことでしょう。さらに日本中のカレーパンにも影響を与えました。カレーパンは一つのたとえですが、こういったところに、日本の小売業のヒントがあると思います。正しく頑張って、私利私欲を持たない。そうするしか、生きていく道は無いように思います。
堤さん(セゾングループの堤清二氏)は「商売は文化だ」とおっしゃっていましたが、小売業は文化ではありません。必死に生きる。そして良さを追求する。そうして、神様に好かれる企業は大きくなるでしょうし、好かれない企業は、10年、20年先に落ちていくでしょう。
昔何かの勉強会のときに、鈴木会長がセブンの店舗にATMを入れるとおっしゃった。盗難の危険性は高まるし、やめた方がいいと思って「なんで入れるんですか?」と聞いたら「お客さんが便利だから」と、その一言でした。あのとき、ああ、これは成功するな、と思いましたね。私利私欲がないすごさがある。商売において、一番強いのは、私利私欲がないこと、それだけなんです。
(聞き手/本誌編集長(当時)宮崎文隆、まとめ/編集部 鹿野恵子)
日本の小売業の生産性がアメリカの3分の1程度であることは、本特集の冒頭で述べた。抜本的な改善には本部、店舗一体となった改革が必要だ。ここでは、現場レベルでの課題や今後競合や他チャネルとの競争に勝つための店舗体験などにDXはどう応えられるのか、可能性や将来展望も含めて、サイバーエージェント協業リテールメディアDiv統括藤田和司氏に聞いた。(月刊マーチャンダイジング2024年3月号より転載)
レジ業務は店内作業の3分の1程度を占め、ここをいかに効率化させるかが業務全体の効率化、コスト削減に与えるインパクトは大きい。コンビニなど売場面積が狭く在庫数千SKUという業態では無人レジの採用を本格化させている。一方で、売場面積が300坪を超え、在庫するSKU数が1万5,000~2万という店舗タイプを主力とするドラッグストア(DgS)では無人レジは道半ばである。
最近は決済手段の多様化、ポイントアプリ、クーポン発行の増加などで、レジ業務の負荷は大きくなる一方である。処理に手間取ればレジ待ち時間は長くなり、お客、従業員ともにストレスの原因にもなる。
これを改善するために藤田氏は小売アプリの機能、UI(ユーザーインターフェース/画面設計、デザイン)改善を提唱する。小売業のアプリは「物理的なポイントカードをスマホの中に収めましょう」というアプローチでダウンロードを促進してきた。ポイント付与機能の次のステップとして、クーポン発行、決済などアプリは多機能化しつつある。これらをなるべく少ないアクションで実行できるようアプリの機能、UIを設計するというのがその主旨だ。
「現在、多くのDgSのレジ前でお客様はポイント付与のために小売業アプリを立ち上げる、他社のポイント付与のために別アプリを立ち上げるなど、少なくても2つから3つのアプリの立ち上げが普通になっています。私たちが立ち上げから共同で開発したサツドラ様のアプリでは、ひとつのアプリでポイント付与、クーポン利用などなるべく少ないアクションでできるようUIを設計しました、一部の他社ポイント付与も別アプリを立ち上げることなく、自社アプリを起点にできます。自社アプリ内に他社のポイント付与へ遷移できるボタンを付けたDgSのアプリは増えています。ファミリーマートが発行している電子マネー『ファミペイ』は、決済とポイント付与が同じバーコードで可能です。1回当たりのアプリ操作の時間が軽減できれば、チェーンストアなら1日、1店舗で1,000人、全店で×1,000といった改善効果が現れ結果的に膨大な時間の効率化につながります」(藤田氏)
藤田氏が指摘するように、アプリのUI改善で仮に10秒の操作時間短縮が実現すれば、1日1店舗で該当件数が100件あったとすると、1,000店舗のチェーンなら企業全体で年間(365日)10万時間以上の時短効果を生む。小売業アプリは、顧客サービスとしての機能に加え、今後は「レジ作業軽減」という視点からの開発が大きな焦点になるだろう。
DgSは食品の売上構成比の増大や人手不足などで、品出しが開店まで間に合わず、不完全なコンディションで開店せざるを得ないという状況が頻発している。この改善にDXでできることはあるか。藤田氏はその一助になる方法として、RFIDタグやバーコードを使った店内の可視化サービスを挙げる。
RFIDにより位置特定技術を提供するRFルーカス社は、このようなサービスを実施している。このサービスでは、店内の棚すべてにRFIDタグもしくはバーコードを貼付。これを専用スキャナーで読み込むことで、売場すべてを住所化(データ化)して、システム的に管理できるというものだ。
ごく簡単に例えれば、入口側のゴンドラから1番、2番、3番と番号を振り、レジ側から各棚にA、B、Cと記号を付ければ、一番入口側のゴンドラ一番手前の棚には「1-A」という住所が与えられ、同じ要領で店内全ての棚を住所化できる。これをスマホや端末で一覧で見ることができ、本部での一括管理や店舗での管理も可能。
品出しの際には、折りコンに棚の住所を入れる、補充先を示した売場レイアウト図を作業者に渡すなどすれば、経験が浅くても担当する商品をどこに補充するかが容易に分かり、作業効率は上がる。棚位置情報をスマホへ送信するなど、やり方次第ではシステム的な活用法も可能だ。
RFルーカス社では商品にもRFIDタグを付けることで、在庫の位置、数量をセットで可視化できるサービスを提供している。コスト面を考えてバーコードを利用したとしても、棚位置がデータ化できることで、品出しの効率化や売場状況の確認など応用範囲は広い。
商品部が売場のない商品を送り込んできたり、メーカーが付ける場所のない販促物を配送したり、売場の現状を本部が把握していないことで起こるムダは日常的に発生している。この対策としても、RFIDやバーコードを使った売場の可視化は有益である。
販促物は商品の魅力やお得感を簡潔に表現し、購買意欲を上げる心強い売場の味方だ。一方で、メーカーから店舗に直接配送されると納品が月に50回を超えることもあり、受け取り、保管、探索などの管理に膨大な手間がかかる。その結果、販促物がバックヤードに埋もれてどこにあるか分からず、設置率は30%程度というのが現実だ。さらに、前項でも触れたように付ける場所もないのに販促物だけが送られてくるというミスマッチも頻繁に生じている。こうした販促物管理の煩雑さ、ムリ、ムラ、ムダへの対策として、藤田氏が挙げるのが「デジタルサイネージ」の活用である。
「デジタルサイネージなら、設置・撤去の手間もありませんし、本部一括管理なので出し忘れということも起こりません。すべての販促物をデジタルサイネージに置き換えるのは、コスト的にも難しいと思いますので、リアルな販促物とデジタルサイネージの併用、ハイブリッドがいいと思います。店内には色々なプロモーションがありますが、買上率、収益性が高いカテゴリーの商品は新商品情報の発信、セール告知などのニーズは高いでしょう。そのようなカテゴリーにはデジタルサイネージが適していると思います。立地や客層、時間帯によっても内容を瞬時に換えられるので相性がいいと思います」(藤田氏)
作業改善のために店内プロモーションを減らす潮流が一部ある。これは間違った選択ではないが、リアル店舗ならではの「わくわく感」の提供、新商品やセール品の店頭消化を促進するためにプロモーションは有効である。特にエンドは売場構成上必然的に生まれる販促スペースなので、このスペースにデジタルサイネージを活用すれば、作業改善とリアル店舗ならではの「賑わいの演出」を両立できる。実際、エンドプロモにデジタルサイネージを活用しているDgSは最近増えている。
エンドに加え、ゴンドラ間通路への引き込み効果を上げるサイドエンドや、定番棚の仕切りPOP(スポッター)などデジタルサイネージのサイズや活用法も多様化している。作業を効率化して店内の賑わいを演出するためにデジタルサイネージは有効だ。さらに、各種の効果検証もしやすく、使いながら機能や精度の向上を実現できる。
@cosme TOKYOやマツモトキヨシの国内旗艦店SHIBUYADOGENZAKA FLAGではデジタルサイネージに比重を置いた販促や情報発信が行われており、今後の流れを予感させる。
DgSの食品の売上構成比は高まる一方で、郊外型店舗では日配品の在庫が標準装備となっている。その分、適切に商品を回転させなければ期限切れで廃棄する商品も増える。また、回転の悪い在庫が店頭に滞留すれば売場の販売効率を落とし、新商品や売れ筋商品の陳列スペースを狭くすることにつながる。こうした事態を避けるためには「売り切る力」を高める必要がある。そのために藤田氏が挙げるのがデータ活用による1to1マーケティングである。
「これまでのクーポン発行や販促をデータ分析すると、原資の多くがムダになっています。つまり、値引きしなくても購入した相手にまで値引きをしているのです。相手を選ばず一律に打つ販促ではコストの半分近くがムダになっているといってもいいでしょう。このようなやり方を改めデータを活用して販促相手を絞り込むことで、まだ買ったことのないカテゴリーの商品を購入したり、長期間離脱していた購入経験者に再購入してもらったり、未開拓分野、潜在需要を売上化できるような販促が可能です。
このような領域に集中している相手にとってはもっと魅力的で、売り手には売り出しの初速を担保しながら粗利もあげるクーポン発行で商品回転は上がるでしょう。
それから、これまでの販売データをAIに学習させることによって、販売予測は精度高く出せます。例えば、15時の時点でお弁当が17個残っていて過去の条件から計算して今日は閉店までに4個残るとか、AIが予測することができます。これが分かった時点でその曜日の15時以降に来る可能性の高い人にむけアプリにクーポンを発行する、こういった販促は全て自動でできます。値引きを一律告知しなくても、可能性のあるターゲットに向けて一定の条件になったら自動で値下げ販促を打って売り切る力を上げるというやり方です」(藤田氏)
過去の販売データの学習に加え、藤田氏はAIによる未来予測でも売り切る力を上げられると語る。
例えば、天気予報と連動させ、12時や13時など特定の時刻以降の降水確率が高い場合には雨の日に売れる商品の販促を自動で打つ。天気、曜日、時間帯、催事、客数の増減(客の流れ)といった諸条件から将来的に売れる商品を予測して販促するという手法だ。
「スーパー店長やベテランパートさんが、経験と勘で臨機応変に値引きやセールを打って売れ残りを減らす。こうした『名人芸』をAIによって再現させることも在庫や返品削減には有効です」(藤田氏)
一律同様の販促から、AIを活用した未来予測、ターゲット絞り込み型の販促を自動で実装することで効率よく販売効率を上げることができる。
月次、週次の販促指示、成功事例の共有、コンプライアンスに関する連絡など、本部からの指示・連絡は膨大な量に及び、店舗ではそれを処理仕切れず、その結果重要な情報が漏れる、パート、アルバイトを含む店舗従業員にまで浸透しないという状態は常態化している。
サイバーエージェントでは連結子会社のAI Shiftを通じて、膨大な情報をAIの力で要約して店舗で処理しやすい内容に要約するサービス「AI Worker」を提供している。AI Workerは生成AI「ChatGPT」をベースにしており、通常最適な回答を得るために必要なプロンプトと呼ばれる指示は不要、予め本部側で指定した条件に応じて、店舗側で必要な要約が自動に行われ、ダウンロードができる。さらにはその文書を見やすくカスタマイズすることも可能(画像2)。様々な可能性を秘めつつ店舗での実用化が難しいChatGPTを簡単な操作で活用できるシステムだ。
本部では店舗に送る情報の量を適正化しつつ、店舗ではこうしたツールを活用することで、完全作業の実現率を上げることができる。
先述したように、小売業アプリは物理ポイントカード(板カード)のデジタル化を訴求して普及が進んだ。藤田氏は小売業アプリの次の段階をこう語る。
「アプリはもうひとつの店舗であるという話をこれまでしてきました。これは変わりませんが次にアプリに求められるものが明確になりつつあります。それは1to1の販促機能、それと先ほど申し上げたレジ業務の改善です。ECに注力するDgSチェーンが増えています。この傾向は、来店を待つだけでなく、こちらから売りに行く、届けに行くという積極的な営業態勢が強化されることを意味します。洗剤や紙製品のような補充型の生活必需品はサブスク的に、なくなったら家に届ける。店外にいる会員にはコンシェルジュのように必要な商品情報、なくなりそうな必需品を知らせる。店内に来たら、必需品以外、暮らしを快適で楽しくするような『発見』を求めて買物する。発見につながる情報を提供する。1to1の販促機能を強化することで、アプリには補充型の購入や発見型の購入をサポートするツールへと進化することが望まれています。目指すところは今まで通りの買物をするだけでなく、これまで買っていなかったカテゴリーの商品を買ってもらう、生活に必要で各社品揃えしている商品を満遍なくご購入頂くことです。こうしてLTV(顧客生涯価値/生涯に渡る付き合いで得られる利益)を上げていくことがアプリに求められています。
1to1対応であなたに合った買物ができます、というのがデジタルの基本だと思います。これまでのように最大公約数的に一律同様のクーポン発行やセールではなく、あなたにとってはこれがうれしい、と販促や情報発信がパーソナライズされていく、アプリも活用しながらその基盤が今年から来年にかけて整うのではないでしょうか」(藤田氏)
ECの台頭でリアル店舗には新たな買物体験が求められている。
「私の予想では、日本の宅配型のEC化率はどんなに進んでも25%を超えることはないと思います。店舗受け取りなどを含めばもう少し増えるでしょう。先ほど申し上げたように買物は家に届く必需品の買物と新しい発見を求めて行われる店舗での買物に色分けされると思います。そうなると店舗では発見をサポートする仕掛けが必要です。私たちがご提供している『自己推薦ロボット』もそのひとつになります」
自己推薦ロボットとは、商品に動く・話しかけるなどの生命感を付与し商品自らが機能や利便性などを推薦して動くロボットである。
サイバーエージェントが大手小売業で実験した結果、自己推薦ロボットを設置したところ、設置以前と比較して立ち止まり率が2.14倍増加、販売率は6.67倍増加した。
「最近挑戦しているのは、医薬品の遠隔案内です。売場にロボットがあり、裏に薬剤師がいてロボットを通してお客様に話しかけます。意外に探している商品や悩みを答えて頂けます。人間ではハードルが高くてもロボットやアバターなら対話のハードルが低くなるという特性はあると思います。
買い手、売り手双方のストレスを下げるためにもロボット、アバターの活用は有効です。買う側は気軽にコミュニケーションできますし、売る側もずっと売場にいて来客を待つというストレスを軽くできます。介護用品などは買物に来た人もそれなりの覚悟を持って質問しようとするのですが、商品知識に自信のない従業員は聞かれたくないので接客を避けたいというミスマッチが起こりやすいカテゴリーです。ロボットやアバターというデジタルを間に置いて裏で専門家が対応すれば、こうしたミスマッチを解消できるでしょう」(藤田氏)
今後は人手不足や生産性向上という側面からも接客のあり方が見直されるだろう。省力化をしながら専門性を上げるデジタル活用型の接客には大きな可能性がある。
《取材協力》
物流ロボットスタートアップのラピュタロボティクスは、同社が独自開発した自動倉庫「ラピュタASRS」の報道関係者向けデモンストレーションを2024年1月24日に実施した。2023年8月に発売開始した製品で、枠組内部を小型のロボットが縦横無尽に多数動き回ってピッキングステーションまで物品を運ぶGTP型のロボット倉庫だ。ブロックのように簡単に組み立て分解できることから様々な規模への変動に対応できる。モジュラーデザインによって、新規倉庫だけでなく既存倉庫への自動倉庫への対応、そして物流ニーズの変動に対応する。(ライター:森山和道)
ラピュタロボティクスはJA三井リースと資本業務提携を締結しており、栃木県佐野市でプラモデル等を扱う株式会社ホビーリンク・ジャパンの既存の物流倉庫に2024年春に導入予定あること(リリース:https://www.rapyuta-robotics.com/ja/2024/01/24/rapyuta-asrs-hlj/)、また日本出版販売株式会社(日版)が2024年秋に埼玉県・新座に開設する予定の文具雑貨商品等の保管および仕分・出荷を行う7,670坪の新拠点に導入されることが決定している(日販からのリリース:https://www.nippan.co.jp/news/logistics_asrs_20231222/)。
ラピュタロボティクスは、チューリッヒ工科大学(ETH Zurich)発のベンチャー企業。東京本社のほか、大阪、バンガロール、シカゴなどに拠点を置いて、協働型ピッキングアシストロボット「ラピュタPA-AMR」のほか、独自のクラウドロボティクス・プラットフォームと、ロボット群制御の開発・導入・運用支援を行っている。創業者の二人はスリランカ出身で、文部科学省の奨学金を得て来日し、ロボット工学を日本で学んで創業した。
創業当初はドローンを手掛けていたが、いまは倉庫内物流にフォーカスしている。倉庫内物流の自動化普及率は18%足らず。倉庫内のピッキングや保管に関する工数は63%を占めていると考えられている。CEOのモーハナラージャー・ガジャン氏は「複雑化している倉庫内オペレーションには自動化が必要だ」と語った。
ラピュタロボティクスはパレット搬送用の無人フォークリフトの「Rapyuta AFL」、ピースピッキングについては協働型ピッキングアシストロボット「Rapyuta PA-AMR」と、今回披露した自動倉庫「ASRS」をソリューションとしている。「PA-AMR」を使うと人の生産性はおよそ2倍、自動倉庫「ASRS」は10倍に上げることができるという。倉庫の棚の間を動き回る協働型ピッキングアシストロボットは複数社が展開しているが、ラピュタ「PA-AMR」の日本国内でのシェアはデロイト トーマツ ミック経済研究所株式会社調べで2023年時点で約7割に達している。
ラピュタの強みは、多数のロボットを同時に動かす「群ロボット制御」技術にある。GTP型ロボット倉庫の「ラピュタASRS(https://www.rapyuta-robotics.com/ja/solutions-asrs/)」はピッキングアシストロボット「PA-AMR」で実績を積んだマルチロボット協調アルゴリズムを用いている。作業者は完全歩行レスで作業を繰り返すことができる。
「ASRS」基本構造は4つ。荷物を収納するマルチフロア、4つの足を持つビン、ビンの下に入り込んでリフトアップするロボット、ロボットの上下移動を可能にするエレベーターである。ハードウェア自体は極めてシンプルな構造だ。
樹脂製のフレームはブロック工法で自由な組み上げができる。3つのパーツをうまく組み合わせることでネジやボルドなどを必要とせず軽くて丈夫な部材であり、専用の足場やアンカーなども不要。これにより導入期間の短縮と部材コストを抑えることもできるほか、あらゆる倉庫の形・大きさへの対応が容易。小スペースから導入でき、導入後も需要に合わせた倉庫の拡張・ロボットの追加が可能であり、生産性と保管効率のバランスを自由に変えることも可能だとしている。
免震構造となっており、揺れを吸収する。ロボットも床を走行するのでレールよりもロバストだという。
すべて100Vで運用可能。ロボットをフロア間移動させるエレベーターも100Vで運用できる。300台以上のロボットとエレベーターの協調制御が可能で、保管、ピッキング、仕分け、荷合わせといった出庫に関する幅広いプロセスに対応する。
ピッキングステーションも独自設計。ピッキング作業者の周りで複数の保管用、出荷用ビンを独立制御することができ、在庫ビンから出荷ビンに入れるときにすぐにロボットが入れ替わって複数の在庫ビンを持つことで、人のピック待ち時間をゼロにできる。
人はピッキングだけに専念できる。そのために大画面モニタ、プロジェクタによる誘導などを用いる。入荷や検品時にはハンディターミナルを使う。実際に作業を体験したところ、プロジェクタによって白い光が投影されるところから、ものをピックしてハンディでスキャンし、緑色に光っているコンテナにモノを投入していくだけなので、本当にすぐに作業できそうだと感じた。
商品を保管するビンは4つの足があり、フロア上で安定した補完が可能。3段階に高さが調節でき、パーティションによってビン内部の分割も可能。ビンの最大容積は124リットル、取扱可能重量は30kg。ビンに既存のオリコンや段ボールを載せる運用にも対応可能だ。
ビンを上に載せて中を走り回る薄型ロボットは独自開発されたもの。厚さは80mm。車輪は「メカナムホイール」と呼ばれる特殊な車輪で、旋回せずに任意の方向に移動できる。そのため旋回時間による無駄がなく、狭いスペースでも正確な位置取りができる。ロボットはフロア上の白線を目印として走行する。レールを使っているタイプの自動倉庫に比べるとロバストだという。
製造はOEMで、「長野にある会社」が作っているとのこと。移動制御にはAMRを通じて培ってきたマルチロボット協調アルゴリズムが活用されている。バッテリーは充電スポットでロボットアームが自動で交換する。交換に必要な時間は1分以内。
2022年の2月にコンセプトを作成し、開発期間は2年半。「既存倉庫に入れるために自動倉庫を安価にしたい」という点から発想し、安価にしたい、シンプルに入れたいことからモジュラー構造化を検討。一番高コストなのは金属のフレーム部材であることから最初は木造で作れないかと考えたところ、パートナーとして入った三井化学から「樹脂で実現できる」という提案があって、樹脂製で作ることになったという。
自動倉庫は各社が展開しているソリューションだ。ガシャン氏は他社製品との比較として「ロボットが一番上の段しか走ってない自動倉庫の場合は保管性は良くなるが、下のほうにあるモノはなかなか取れない。棚の間を移動ロボットが走り回るタイプの自動倉庫は結局ロボット用のスペース分がロスになる」と語った。
そして「ラピュタの自動倉庫はピックステーションもすぐ近くでコンパクトに設計でき、全てのフロアでロボットが走れるので、どの荷物にもすぐアクセスできる。コンピュータでいえばランダムアクセスができるのと同じこと」と述べ、「自動倉庫にはあまり頻度が高いものを入れないが、そこを変えていきたい。これだけで完結させたい。『他は何もいらない』というものにしたい。人のまわりに荷物がぎゅっと回ってきて単独で動くものはない」と語った。
価格については明言されなかったが、絶対的な価格も従来の自動倉庫よりは低い金額から始められるようになるとのこと。また「投資回収のパフォーマンスで差をつけようとしている。KPIとしては5年を切りたい」とのことだった。自動倉庫のメリットを出しやすい推奨規模についてはラピュタロボティクスでは「500平米、ピッキングステーション2個、ロボット40台から」としているとのこと。
プレス公開には日販の担当者も登壇した。日版の新拠点のコンセプトに沿った設備であると判断された理由として担当者である日販の新拠点開設準備室室長の大熊裕太氏と同係長の柴田昇氏は「一年くらいかけて検討した結果、コンセプトが合致した。モジュラーデザインによって他社のGTPと比べて高い生産性が出せる」と語った。
日販のなかで今後の物流を考える上で、増減に対してレイアウトを変えたり柔軟な対応がハードウェアでもソフトウェアでも可能であること、人手不足対応のために多様な人が今後働くことになると考えられるが、すぐに誰でも作業ができることなどを評価したという。柴田氏は「日販では人と環境に優しい物流をコンセプトに掲げている。どういった人でも働ける点が魅力的」だと語った。
既存の自動倉庫を採用しようという声もあったそうだが、「今回、『一緒に作り上げましょう』と言われた。こちらの要望に対して応えてくれ、やりたいことを実現してくれる会社だと熱意を感じた」とスタートアップであるラピュタロボティクスの取り組みを評価した。なお日販の新倉庫は3層フロアで、ラピュタ自動倉庫はその一角を占めることになる。
記者公開の日に発表されたホビーリンク・ジャパン社の既設倉庫への導入については、オペレーションを止めずに自動倉庫を導入することになる。予定では今年6月くらいに3〜4割の商品を入れて安定稼働させたあと、繁忙期や棚卸し時期などを考慮しながら徐々に入れていく想定だ。
ホビーリンク・ジャパンの倉庫は少し変わったかたちをしており、普通の天井高は5mくらいだが半分くらいはメザニン(中二階)がある複雑な構造になっているとのこと。ラピュタの自動倉庫は複雑な形状にも合わせることができるという。
ラピュタロボティクスのエンジニアの9割くらいはソフトウェアエンジニア。今後、ソフトウェアでもっと柔軟性・生産性を出していきたいとガシャン氏は語った。なお既存のWMS上からはラピュタのシステムは一つの倉庫として見えるようになる。「顧客の希望に応じて合わせていく」とのことだった。
2023年9月の物流展でもかなりの反応があったことから、「2024年内に100億円規模の受注目標を掲げて市場を目指してしていきたい」と語った。これまで展開しているAMRや自動フォークリフトが数千万円規模の商品であったことに比べると自動倉庫は億単位になるので、それほど遠い目標ではないのではないかと考えているという。
最後にCEOのガシャン氏は「今までは『高い、柔軟性がきかない』と言われていた自動倉庫を良い方向で発展させたい」と語った。
韓国における個人の消費傾向の変化を変化を巧みに捉え、成長を続けているのがオリーブヤングだ。2024年2月号では同社のDX戦略を具現化した新旗艦店「明洞タウン店」を取り上げたが、今回はそこに辿り着くまでの同社の事業の変遷、そして同社が現在最も注力するオムニチャネル戦略にスポットを当てて紹介する。(月刊MD韓国特派員/株式会社Love Cosme代表 ユン・モンラク)(月刊マーチャンダイジング2024年3月号より転載)
オリーブヤングの母体となるCJグループの発足はサムスングループ初の製造業として、1953年にサムスングループ創業者の李秉喆(イ・ビョンチョル)が前身の「第一製糖株式会社」を設立したことから始まる(のちに、CJ株式会社に社名変更)。製糖業をはじめとする食品工業で成功を収めた後、1997年にはサムスングループと分離独立。1999年にはヘルス&ビューティー専門店を初出店する。
その後、2002年に分社化し、CJオリーブヤングが設立され、2012年からは積極的に店舗展開を開始。明洞にフラッグシップストアを立ち上げ、翌年には中国に初の海外店舗をオープン。その後も出店攻勢を緩めることなく、業績を拡大。2016年には売上1兆ウォン(日本円で約1,000億円)を達成し、2019年には1,200店舗を突破している。
また、2011年からEC事業を開始し、現在のオムニチャネル戦略のベースとなるノウハウの蓄積が始まる。
常にライフスタイルの変化を敏感に捉え新しいチャレンジをし続けるのがオリーブヤングの差別化戦略の源泉であり、商品戦略としては、移り気で特別なアイテムを求める顧客ニーズに対応し、他では買うことのできないオリジナルブランドの創出・拡販に重点を置いている。販売戦略については、いつでもどこでも顧客が好きなタイミングで好きなものを簡単、便利に購入したいという顧客ニーズに対応し積極的にオムニチャネル戦略を磨いてきた。
こうした企業努力が韓国国内の感度の高い顧客に支持され、2017年には最優秀ヘルス&ビューティブランドに選出されている。
現在、オリーブヤングが最も力を入れるのがオムニチャネル戦略、いわゆるOMOと言われるオンラインとオフラインの体験を融合し、顧客の利便性を最大限に高める戦略である。
今回はオンライン/EC施策でオリーブヤングが注力する即日配送サービス「オヌルドゥリム」、アプリ内コミュニティコンテンツ「シャッター」、価格比較サービス「スマートスキャナー」、そして店舗からオンラインへの誘導を促すプロモーション施策と実際のユーザ体験を紹介する。
「オヌルドゥリム」は、ECの配送にかかる時間を最小化した、業界初の即日配送サービスとして、2018年より韓国国内で開始している。
同サービスは、店舗在庫のある商品をアプリから注文すると、注文当日に指定場所に配送される、忙しい現代人にとって利便性の高いサービスだ(20時以降の注文は、翌日13時までの配送となる)。店舗出荷のため、ECで品切れであっても、店舗に在庫があれば注文が可能となっている。
送料は注文金額が3万ウォン(約3,000円)以上であれば無料、3万ウォン未満の場合は2,500ウォン(約250円)が発生する。
また、最も早く配送されるスピード配送(3時間以内発送)も3万ウォン以上の購入で送料無料となり、(3万ウォン未満の場合は5,000ウォン/約500円の送料が発生)タイパ(時間効率)を重視する若年層を中心に幅広い層で人気を集めている。
「オヌルドゥリムピックアップ」は、ECで注文した商品を店舗で即日ピックアップできるサービスで、ライフスタイルの変化に伴う顧客の細やかなニーズに対応している。顧客のメリットは、購入金額に関わらず送料負担がなく、自分のタイミングで商品をピックアップできること。
また店舗側は、来店を促すきっかけづくりができ、ピックアップ予定の商品購入だけではなく、その他商品の「ついで買い」も誘発できることが大きなポイントとなる。使い方は簡単で、アプリから店舗を指定して注文後、そのまま決済を済ませると、SNSサービス「カカオトーク」からピックアップバーコードが送られるので、そのバーコードを店舗スタッフに見せるだけで商品のピックアップが可能となる。
「シャッター」はアプリのコミュニティコンテンツで、顧客同士のエンゲージメントを重視している。会員はインスタグラムなどのSNSと同様に、文章や写真、動画を共有することができ、閲覧者は「いいね」や「コメント」などのアクションも可能。投稿者・閲覧者の双方向でのコミュニケーションを図ることができる。
さらに、投稿には「商品タグ」が設置でき、投稿からそのままアプリ内の商品ページへ遷移できる「ショッピング機能」もあるため、顧客は検索する手間がなく、スムーズにアプリ内から直接購入することも可能。顧客に対し、購買意欲が冷めないうちに、購入へと結びつく行動を促すことができるのもメリットだ。
オリーブヤングは店舗とECが別に運営されており、商品価格に違いが生じる場合がある。そのため、双方の価格をリアルタイムで比較できるサービス「スマートスキャナー」を提供している。
使い方は簡単で、公式アプリから検索ボタンをクリックすると、検索窓の右側にバーコードボックスが表示されるので、これをクリックして商品のバーコードをスキャンすると詳細ページが確認でき、それぞれの価格が表示される。
無駄のないショッピングができるだけではなく、商品パッケージや価格表にあるQRコード、バーコードを撮影すれば商品レビューの確認や特典まで受けることが可能。店舗かECか、購入を迷った際に比較できる利便性の高いサービスである。
ECサイト/アプリをエンドユーザに利用してもらうために、最初にして最大の壁はアカウント作成、会員登録だ。どんなに素晴らしい品揃えのECでも、会員登録の壁を突破できなければ、サービスが利用されることはなく、普及させることもできない。
大量のインバウンド顧客が訪れる明洞タウン店では、この課題を解決するためにエンターテインメント性の高い方法で来店顧客に動機づけを行っている(図表2)。これにより、インバウンド顧客が帰国後もオリーブヤングとの継続的な関係性を構築し、ECによる販売が実現できるようなユーザ体験を提供している。
明洞タウン店2階奥の「グローバルサービスラウンジ」にて、ポスターやサイネージに表示されているQRコードを読み取り、公式ECサイト「オリーブヤンググローバルモール」の会員登録を行う。公式サイトは、英語・韓国語と2か国語から選択できるが、ブラウザの日本語翻訳にて、日本語表示も可能。必要事項を入力後、登録メールアドレスに認証コードが届くので、公式サイトにて認証コードを入力し、会員登録が完了。
会員登録後は、プレゼント引き換え用のバーコードが表示され、「グローバルサービスラウンジ」内にあるプレゼント交換機にバーコードをかざすと、会員特典のポーチがもらえる。その他の特典として、「オリーブヤンググローバルモール」で使用可能なクーポンも発行される。ちなみに、会員登録の方法に不安があっても、登録方法に詳しい、日本語が話せるスタッフが近くに数名いるので、都度、質問することも可能だ。
オリーブヤンググローバルモールの会員登録が店舗で完了するとそこから2日後、「新規会員登録時に取得した特典の有効期限が切れる」ことを知らせるオンラインでの購買を促すプロモーションメールが送信される。このメールは日本語によるもので、購入者の居住地をもとにサービスが適切にローカライズされているのがわかる。
さらに会員登録から4日後には最大60%オフというクーポンによる購買促進メールが送られる。ECの場合最初の購入のハードルが最も高いため、そのハードルを越えるためにかなり大胆なオファーを出していることがわかる。
データドリブンマーケティングの最先端をいくオリーブヤングの行うこうしたプロモーションのタイミングやメッセージは、これまでの顧客購買データの蓄積、分析の上になりたっているはずなので、同じようなオムニチャネル施策を重視する小売事業者の参考になるはずだ。
様々なオムニチャンネル戦略を通し、顧客と密なコミュニケーションを図ることで、K-ビューティーの魅力を全世界に発信しているオリーブヤング。このような多様なサービスにより、顧客の心をつかんでいることも成長を牽引する一つの要素と言える。差別化された購買体験を徹底的に追求することで、オリーブヤングの新たなライフスタイル提案はさらに飛躍するだろう。
さらに、店舗、オンライン、それぞれで顧客に特典を提供することで、オンラインでの1回目の購買行動が効率的に行われるような顧客体験設計がなされており、今後オムニチャネルを検討する機会があれば参考にしてもらいたい。
オリーブヤングの商品MD戦略については次回詳しく取り上げる予定だが、今回は昨年発表された「2023 OLIVE YOUNG AWARDS」の受賞商品の中から、日本でも人気カテゴリーである、スキンケアからセラム・フェイスマスク・クレンジング部門で1位を獲得した3点をピックアップして紹介する。
「2023 OLIVE YOUNG AWARDS」:変化の激しいトレンドを素早くキャッチし、オリーブヤングが保有する1.5億件の顧客購買データ、商品販売量、MD戦略にもとづいて各カテゴリでその年、最も輝いた商品を選定。(2023年は33部門、138商品が受賞)
最上級のブルガリアンローズオイル配合で、肌に刺激を与えずにくすんだ肌をトーンアップしてくれる。オリーブヤングでは、2012年11月から11年間連続で売上1位を獲得。
従来品より約22倍のティーツリー成分を配合。しっとりとした竹由来のシートで、肌にうるおいを与える。シートマスク1枚にアンプル約1本分の美容液がふんだんに入っており、シリーズ全体で人気が高い
植物由来のオリーブ、ホホバ、アルガンオイル配合。天然由来99.9%で肌にやさしいクレンジングオイル。しっかりクレンジングできるうえ、さらに保湿までカバーできるところが人気の秘密
《筆者プロフィール》
コロナ禍も沈静化して、韓国の繁華街に賑わいが戻っている。今回はソウルでも有数の繁華街で韓国コスメ流行の発信地でもある明洞とそこに出店する人気コスメショップを、韓国在住の実業家で日韓のコスメ事情にも精通した本誌韓国特派員のユン・モンラク氏がリポートする。(月刊MD韓国特派員/株式会社Love Cosme代表 ユン・モンラク)(月刊マーチャンダイジング2024年2月号より転載)
コロナ禍の収束以後、海外からの韓国訪問者は増加傾向で、2023年10月に韓国を訪れた外国人観光客は123万人(昨年同月比158%、韓国観光公社発表)で4ヵ月連続100万人を上回っている。また、国別の累積では、日本は184万人と最も多く、次に中国が154万人、その次に米国の79万人と続いている。
訪韓外国人観光客がよく訪れる明洞では、商圏の勢いがコロナ以前の水準に復活しており、その中でもコスメショップの成長が顕著だ。明洞商圏内でのコスメ関連商材が売場に占める割合は今年上半期で33%に及び、昨年と比較して約2倍も成長しており、Kビューティーの中心地として知られた明洞のコスメ商圏が蘇りはじめている。
その中でもロードショップ(単独ブランドの旗艦店・路面店)と呼ばれる主に観光地や繁華街に出店する中小規模の単独ブランド小売店舗が相次いで新規店舗を増やすケースが目立っている。
人気ブランドを抱えるエイブルCNCのミシャ(MISSHA)は、2023年9月末に「明洞メガストア店」のリニューアルを行った。同店では、その他アピュー(A’pieu)、チョゴンジン(CHOGONGJIN)、スティラ(Stila)、セラピ(Cellapy)、ラポティセル(Lapothicell)などエイブルCNCの主力ブランドをすべて見ることができる。
リニューアルオープン後1ヵ月間で、1日の平均売上高は前月比約40%増加、外国人顧客の売上は約30%増加したということだ。同社は「メガストア店は外国人観光客の影響などでフェイスマスクの売上が他店舗より18倍以上多い」と語る。現在ミシャは明洞に2店舗を運営しており、2024年1月にも新規出店を行う計画だ。
また、高品質で手頃な価格帯、さらにパッケージのかわいさで人気を集めるトニーモリー(TONYMOLY)は2022年10月末から2023年5月にかけて相次いで4店舗を明洞エリアへ出店している。同社は「コロナ禍が収束したことにより、外国人観光客が増加したことで明洞のビジネスが急速に回復している。この状況を受けて出店を加速しており、売上も急増している」と語っている。
その他、自然派スキンケアブランドとして人気の「ネイチャーリパブリック(NATURE REPUBLIC)」は、2022年12月と2023年1月に明洞エリアに出店。さらに2023年8月には、「明洞ワールド店」をリニューアルオープンした。
同社は「明洞ワールド店は20〜40代の女性海外観光客が主な顧客層。中国や日本などアジア圏だけでなく、米国や英国などの観光客も必ず訪れる旗艦店である」と強調した。
また、韓国最大手化粧品メーカーであるアモーレパシフィックが運営する、エチュードハウス(ETUDE HOUSE)も昨年2月に2店舗を出店し、明洞に3店舗展開している。
その明洞の化粧品店で、最も注目を集めているのが、韓国を代表するドラッグストア「オリーブヤング」のグローバル旗艦店「オリーブヤング明洞タウン店」だ。2012年12月にオープン、2023年11月にリニューアルした売場面積1,157㎡(約350坪)の2階建て店舗は、韓国内のオリーブヤング全店舗で最大規模を誇り、明洞のその他店舗の中で売上1位を獲得している。
Kビューティーのトレンドに乗って新興コスメブランドの売上が急増しており、外国人が購入した上位10ブランドのうち9ブランドが韓国の中小、中堅ブランドだ。その中でも「ビューティ オブ ジョソン(Beauty of Joseon)」、トリデン(Torriden)、ダルバ(d’Alba)など人と環境に優しい「クリーンビューティー」をコンセプトにした中小ブランドの売上が前年対比で20倍以上急増したという。
一日平均約3,000人が訪れるこの店舗は約90%が海外顧客で、売場は韓国中小企業のブランド商品を紹介する場として活用することに重点を置いている。良質のショッピング体験を提供し、オリーブヤングでの買物体験を通じてよりポジティブなブランド認知を得ることを店舗開発のコンセプトに掲げている。
1階はスキンケアやマスクなどの商材が中心で、2階はメイクアップ、オーラル、ボディ・ヘアケア、男性化粧品、ヘルスケア関連など幅広い商品群を取り揃える売り場展開をしている。
オリーブヤングによると2023年初めから10月末までの海外顧客によるインバウンド売上は、前年同期比で840%増加しており、コロナ以前は、中国人観光客による購買が多かったが、2023年からは日本、東南アジア、英国、米国などからの来店が増加し、顧客層が拡大したという。
これと連動して海外顧客によるECの利用も活発化し、同社が運営する、海外150ヵ国余りの顧客を対象にKビューティー製品を販売する越境EC「オリーブヤンググローバルモール」の売上も前年同期比で77%増加。売上比重が高い国は東南アジア、日本、中国、英米圏の順で、特に日本人顧客の売上が前年同期比で急増している。
このような動向を受けて、実店舗においては店内案内サービスを英語、中国語、日本語の3言語で対応。「オリーブヤング明洞タウン」の専用モバイルページも開設し、フロア別案内や人気ブランドの陳列位置なども3言語で提供している。さらに外国語での意思疎通が可能な職員を多く配置することで海外顧客を重視した店作りを実現していることも売上増加の要因である。
また、オリーブヤング既存店の売場と異なる点は、顧客のショッピング体験を重視した什器配置である。“余白の美”を最大限に生かし、顧客が増えても移動に支障がないよう、店内に十分な顧客動線を確保しつつ、人気商品および戦略商品は複数箇所に陳列することで、購買を促進できるような売場づくりを行なっている。
同社は今回の店舗開発にあたりデジタル技術を活用し、この店舗でしか見られない限定商品や、差別化されたプロモーションと商品構成を通じて、ショッピングの楽しさが感じられる売場づくりに重点を置いたという。
1階と2階をつなぐ階段の壁面は美彩なサイネージで覆われ、リテールの未来を感じさせる顧客体験を与えている。
また、新たな試みとして、視覚的にもユニークなギフト発行機を休憩スペース“グローバルサービスラウンジ”に設置。これは壁面の案内からQRコードでオリーブヤングのサイトへアクセスし、同社の越境ECサイトのアカウント(オリーブヤング グローバルモール アカウント)を登録するとギフト発行機からウェルカムギフトがもらえる、という仕掛けだ。
買物に少し疲れた顧客は無料Wi-Fiの完備された休憩スペースでこのアカウント登録をすることでそばにあるギフト発行機から嬉しいプレゼントを手に入れることができると共に、そのアカウントがあれば帰国後もお気に入りのオリーブヤング商品を海外から気軽に購入できる、という顧客心理を十分に研究したマーケティング施策を展開している。
同社は、「この新店は、圧倒的な商品競争力を基盤に、新興のKビューティブランドの魅力を集約して紹介する海外顧客に特化した旗艦店であり、旅行中には明洞タウン店を通じて、さらに帰国後も同社の越境EC(オリーブヤンググローバルモール)を通じて、いつでもどこでもKビューティーショッピングが楽しめる強力な販売チャンネルとして位置づけられていくだろう」と語っている。
顧客動線の最後となる売場1階のレジまでの動線の随所に商品を配置しており会計の直前まで購買を誘発できるよう細心の注意が払われている。そして14台のレジ台が並ぶカウンターは空港内の国際線デスクを連想させ、横長の巨大サイネージがオリーブヤングの提供する強力なショッピング体験を最後までサポートするよう空間設計がなされている。こうした一連のショッピング体験を顧客視点から再設計しているところがオリーブヤングの新しい旗艦店の特筆すべきポイントだ。
変化の中で急激に進化するKビューティーと、韓国のコスメショップの王者に君臨するオリーブヤングのグローバル旗艦店「明洞タウン店」の今後の動向に注目していきたい。
《筆者プロフィール》
埼玉県に本拠地を有し関東エリアに134店舗(8月末)を展開するSM企業のベルク(原島一誠社長)が新たなディスカウント業態の店舗を2023年7月29日、オープンした。この店は“よく見る安売りの店”の域を超えた、かなり“衝撃的なハードなディスカウント型”である。(ロジカル・サポート代表 三浦 美浩)(月刊マーチャンダイジング2024年2月号より転載)
最初にベルクという企業の特徴を説明しておこう。ベルクは1959年に「主婦の店秩父店」として埼玉県に創業した企業で、2023年2月期の営業収益は3,108億円。営業利益は140億円、営業利益率は4.6%、SMとしては高い利益率を誇る。
経営の特徴は「600坪型で標準化を徹底するチェーンストア経営」である。標準化、簡素化、差別化、集中化を徹底して人的生産性を追求することで1人当り売上高は3,440万円となり「1人当り売上高は、“同業他社の1.29倍”の生産性を実現」している(SM24社平均は2,664万円)。
徹底したローコスト経営で労働分配率38.9%、設備分配率16.0%で営業総利益率に占める利益の割合を示す利潤分配率は15.6%となっている(いずれも『2023年2月期決算説明会資料』より)。
最近では、2023年9月に従業員の髪色・髪型自由、ピアス・ネイルも制限緩和、を公表し話題となった。
ベルクは低価格イメージの強いチェーンで、チラシ掲載も2桁売価が多く価格訴求力は高い。結果、2023年上半期(8月期)の既存店売上高は昨対107.9%、既存店客数102.7%と客数増になり支持を高めた。10月も既存店売上高110.6%、客数105.6%、客単価104.7%となり、客数の伸びが既存店売上高を押し上げている。
そのベルクが2023年7月に開店したのが、既存の江木店を改装した新業態「クルベ江木店」である。店舗名の「クルベ」は(ジョークでも何でもなく)“Challenging the limits of Belc=ベルクの限界にチャレンジする店”である(既存の「Belc」の屋号は“Better Life with Community=地域社会の人々により充実した生活を”の略)。
クルベの立地は上越新幹線高崎駅から車で3分、徒歩でも20分程度の都心部である。駅周辺の中心市街地には西口に高崎タカシマヤ、高崎オーパ、東口にヤマダ電機の大型店があるが、市周辺にはイオンモール高崎や地元のカインズ、ベイシア、栃木県発祥のカワチ薬品など大型店が多く出店し、店周辺は空洞化が進む。
一方、駅に近いこともありクルベのある江木町は高齢化率が20%以下と若い生活者が多いエリアでもある(高崎市「第3期高崎市中心市街地活性化基本計画」より)。
売場面積は既存店改装ということで約600坪。ベルクのWEBサイトにはクルベのポリシーとして「驚きの安さ」「潔いサービス」「幸せゾクゾク提供中」の3点を掲げている。
店頭には「毎日が驚きの安さ」と大書され、店内にはバナナ89円(価格は本体価格、10月19日視察時、以下同)、もやし17円、プライベートブランド(PB)“くらしにベルク”の豆腐29円、ナショナルブランド(NB)の納豆59円、NB冷凍餃子199円、唐揚げ弁当199円、かつ重299円などとなっている。WEBサイトには安さに関しては「有名メーカー商品は『どこよりも安い!』を追求します」としている(本頁右下画像)。
この安さづくりのためにクルベが実践しているのは、3つの「絞り込み」だ。
第1が「アイテムの絞り込み」である。例えば納豆は、既存のベルクでは3連から「藁づと入り」まで40SKUほどの品揃えを有しているが、クルベでは平冷蔵ケースに6SKUに絞り込み(写真3)。牛乳も1リットルの普通牛乳はPB2SKU、NBは2SKUまでに絞り込んでいる。牛乳PBの最低価格が175円、明治おいしい牛乳229円の売価設定だ。
第2が「メーカーの絞り込み」である。食パンはPB・くらしにベルクのモーニングブレッド(79円・フジパン製)とパスコの超熟の2メーカーに絞り込み(写真4)。しょうゆは刺身しょうゆの1SKU以外はすべて「トップバリュ」とキッコーマンに絞り込んでいる(写真5)。食品ラップはクレハと宇部興産のラップのみである。
こうした低価格業態の場合、大手メーカーほど取引に慎重になるケースは多い。大手は地域のシェアが高いので競合他社への配慮を考えるし、何より納入価格が下がり市場価格が「乱れる」ことを大メーカーほど嫌うからである。
ただしPBなら全量買い取りなどの特別な条件であれば低い売価設定は可能になるし、クルベの店頭表示にあるように「パスコ様の多大なる協力により!」ということであれば競合するチェーンに対しても安さの説明はできる。
2、3番手メーカーとしても絞り込んでの大量取引で工場の稼働率が高まるメリットは大きいし、「クルベのように棚を確保してもらえれば条件は…」という商談ができれば「ナンバーワン」を押しのけ自社の売場スペース拡大することも可能になる。
第3は「カテゴリーの絞り込み」である。
例えば菓子売場ではコロナ禍で伸びたグミ類の品揃えはあるが、ガムはほとんどない(ボトル型が1SKUのみ)。
飼育頭数が増え市場が広がったことで競争が激化しているペット関連も3尺ゴンドラ2本だけで猫砂、犬シートやフード、おやつなどは各1アイテムとほんの「間に合わせ」といってもよい品揃えである。
売場面積も限られるのだから売れないカテゴリーを置く必要性はないし、犬猫の好みに合わせた「指名買い」が多いペット関連は手を広げていてはきりがない。ここは完全に“割り切った”品揃えである。
こういった取引先や扱い商品を絞り込むことで、「新しいレベルの安さ」に挑戦しようとしたのがクルベのチャレンジである。
絞り込みと同時に、大胆に、潔く「カット」「削減」したのもクルベの特徴である。
ひとつには「サービスのカット」である。
[店舗概要]
店舗名 | クルベ江木店 |
所在地 | 群馬県高崎市江木町75 |
開店日 | 2023年7月29日 |
営業時間 | 10:00〜20:00 |
売場面積 | 約600坪 |
「治療用アプリ」に注目が集まっている。糖尿病や高血圧などの疾患のある患者に対し、医師の処方によって利用を開始し、アプリに自分の症状や状況を入力すると、医師やAIなどによるアドバイスがスマホに届き、症状改善につなげる。本誌では、2023年5月号でその状況などを解説したが、さらに取組みが加速する変化が起きているという。治療用アプリの企画・開発支援を進めるサイバーエージェントデジタル創薬準備室の窪田海人氏にお話を伺った。(月刊マーチャンダイジング2024年2月号より転載)
スマートフォンの普及に伴い、服薬管理アプリや歩数計アプリのように、デジタル技術を活用して、ヘルスケアを推進するアプリケーションが多数登場しているが、その中でもエビデンスに基づいて開発され、医療機器としての臨床試験等も行い、薬事承認を受けたプログラム医療機器のことを「治療用アプリ」という。
医師の処方のもと導入され、保険適用で利用可能。例えば高血圧の治療用アプリ(図表1)であれば、患者が睡眠時間や食事の内容などを入力し、また計測した血圧の情報を血圧計が自動的にアプリに連携。アプリ内のキャラクターなどと対話しながら、高血圧についての知識を患者が身につけたり、血圧が目標値になるよう、その人の生活に即した内容の生活習慣アドバイスをアプリから受けることができる。
医師はアプリに記録された血圧や生活習慣に関する情報を参照し、外来の診察時にアドバイスを行い、アプリを通じて継続的な通院のきっかけづくりができる。
退院後も、アプリを活用して生活習慣改善のサポートができるものもある。
「治療用アプリ」が日本で注目を集めだしたのは、2014年に「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(医薬品医療機器等法)において、ソフトウェアが医療機器としての規制対象となったことが契機になっている。
そして、2020年にCureApp社の「CureApp SC ニコチン依存症治療アプリ及びCOチェッカー」が日本ではじめて医療機器として承認を受けたのを皮切りに、現在では同社の「CureApp HT(高血圧治療補助アプリ)」、サスメド社の「Med CBT-i不眠障害用アプリ」の3件が国内において薬事承認を受けており、スタートアップを中心に開発が進んでいた。
サイバーエージェントデジタル創薬準備室の窪田海人氏は、市場の動向について以下のように語る。
「日本は開発の遅れが指摘されていましたが、昨今は医療系スタートアップのみならず、製薬会社、総合商社、大手IT企業など、様々な規模のプレイヤーが参入し始めています。私たちも「ABEMA」をはじめとする多くのアプリ開発の知見および、研究開発組織「AI Lab」でのAI技術の研究開発力を活かして、ご支援をしてきたいと、治療用アプリの開発に参入した次第です」
Save Medical社の調査によると、国内でスタートアップにより開発が進む治療用アプリは58件(2023年11月末日現在)。うち糖尿病が8件、心臓リハビリテーション、うつ病が各4件、乳がんが3件となっている(図表2)。
国もプログラム医療機器(治療用アプリを含む診断・治療を支援するソフトウェア)についての制度的な基盤整備を進め、国際展開を目指すなど、国を挙げて注目が集まる分野となっている。
しかし治療用アプリの運用が実際に始まったことで、見えてくる課題もあった。多忙な医師がアプリのダウンロードや入力方法を直接患者に指導したり、アプリを使用し続けているかどうかのフォローアップまで関与するのは難しいという点だ。
とくにスマートフォンにあまり慣れていない高齢者に対して、診察室でアプリをダウンロードしてもらい、IDやパスワードの登録を進めるのはかなりの手間となる。
また保険償還の対象となるためには、ある程度の頻度でアプリに記録を続ける必要があるが、それを医師がいちいち電話をかけるなどしてサポートするのは本末転倒であろう。
そこで注目を集めているのが「薬剤師による治療用アプリのフォローアップ」という体制だ。2023年11月、京都府薬剤師会は、高血圧の治療用アプリを用いた治療に、薬局薬剤師が介入するという調査研究事業をスタートした。
医師からアプリを処方された患者に対して、アプリの設定のサポートや使い方の説明を医師と連携した薬剤師が行う。薬剤師の新たな職能ということができそうだ。
窪田氏は今後この治療用アプリがドラッグストア(DgS)・薬局チェーンと、お客様・患者様をつなぐ、「第3の接点」となるのではないかと言う。
サイバーエージェントは、現在サツドラをはじめとするDgSチェーン・調剤薬局チェーンに接点を構築するため、2つのアプローチで支援を行っている。ひとつがお客・患者と店舗・薬局がいつでもつながることができるお買物アプリ。もうひとつが、『薬急便』という処方箋の電子化やオンライン服薬指導を支援するアプリだ。
「ここに新しい選択肢として『治療用アプリ』が入ってくる可能性が高いのではないか」と窪田氏は語る。
これまでの治療用アプリは、図表3における「Before」のように、医師と患者だけをつなぐ仕組みだった。
しかし今後、普及が進み、前述したような課題が顕在化していく過程において、薬剤師や薬局が加わることにより、図表3の「After」のような構造になり、さらに効率的に患者の治療効果を上げられる座組に進化していくのではないかという展望を、サイバーエージェントは持っている。
治療用アプリの運用に薬局・薬剤師が関与することにより、患者は治療効果が上がり、医師は継続的な治療を集中して行うことができ、薬局・薬剤師は、継続的な来局や、患者のファン化を期待することができる。
国が後押ししているものの、なかなか前に進まない「かかりつけ薬剤師」推進への取組みのひとつととらえることもできるだろう。
「将来的には、服薬情報等提供料か、かかりつけ薬局・薬剤師の加算という文脈で、調剤報酬の加点も狙えるのではないか」と窪田氏は推察する。
さらに、治療用アプリは、患者中心でアプリを起点に何回も繰り返し接点を持つことになるため、関係各所の連携がかなり強化されることになる。例えば高血圧のアプリであれば3ヵ月から6ヵ月ほど継続利用することになり、その間は患者は、同じ医師、薬剤師と繰り返しやりとりすることになる。「治療用アプリ」とそれをフォローアップする薬剤師の存在は、地域医療連携などにおいても非常に重要な立ち位置となりそうだ。
政府も治療用アプリを利用した取組みを強力に推進させる方向に舵を切りつつある。これまで治療用アプリは、2回の大きな試験を経なければ上市することができなかった。
しかし、「治療用アプリ」をはじめとするプログラム医療機器は、患者の身体への侵襲性が低く、症例数が増加することにより精度が高まるなどの特性がある。そのため、安全性を満たしたうえで、2回目の試験の前に患者サービスを提供し、その結果をもとに2回目の試験に臨むことが認められるようになるとの見込みだ。そうなれば、治療用アプリ開発の投資額も引き下げられ、また様々な開発企業の参入も促進されることになるだろう。
現在、サイバーエージェントは、治療用アプリの開発を推進するため、大学病院や製薬会社とのアライアンスを進めている最中だ。
「とはいっても、弊社はほかの会社様とは立ち位置が異なり、最終的にはDgS様や調剤薬局チェーン様の医療関連事業の創出と相乗効果による物販・調剤事業のさらなる成長のご支援がゴールと考えています」(窪田氏)
そこで現在は医師が薬剤師に対して「もっと情報連携をしてもらいたい」と要請している疾患を中心に研究開発の準備を進めている。具体的には、心不全、認知症、糖尿病など、地域包括診療科の対象となる疾患をスコープにとらえている(図表4)。
そしてアプリの開発においても、鍵を握るのはDgS・調剤薬局チェーンとその薬剤師であると考えており、DgS・調剤薬局チェーンと提携して進めていきたいと窪田氏は言う。
「患者様、お医者様、薬剤師様がデジタルでつながり、様々な検証を行う。研究室や病院に閉じた研究ではなく、世の中でどのように使われるのか。DgSというフィールドがあれば、社会実装の側面で非常に価値がある実験になると考えています。製薬会社様も、たとえ治療用アプリの開発ができても、流通させるということに課題感をお持ちでいらっしゃるところが少なくありません。
そこで、これまで医薬品を流通させてきた小売業様、調剤薬局様と、治療用アプリも流通させる時代がくるのではないかとお伝えすると、ご理解頂けることが非常に多いです。アプリの開発が得意で、かつ近年は小売業様のデジタル化や事業開発を支援している弊社がご一緒することでしか、この取組みは実現できないのではないか。そう考えています」(窪田氏)
治療用アプリの運用に際し、薬剤師が患者をフォローアップするという循環が回り始めれば、DgSにおいては調剤のみならず物販の売上にも寄与すること間違いない。治療用アプリの開発、運用には、患者をファン化させ、店舗の利用回数や利用単価が上昇するという副次効果も期待できそうだ。
2023年10月、アメリカの家電専門小売店大手ベスト・バイは、持続グルコースモニタリング(CGM)デバイスのオンライン販売を開始した。CGMは、皮膚に刺した細いセンサーにより、間質グルコース値を持続的に測定し、1日の血糖値の変動を知ることができる医療機器。米国では人口の10%以上が糖尿病であり、糖尿病コントロールの判断に活用されることが期待されているツールだ。
ベストバイのサイトでは、「DexcomG7 30-Day Sensor System」を179.99ドル(2023年12月25日現在)で販売。同社WEBサイトから申し込むと、医療専門家が遠隔健康相談を行って処方箋を発行し、それに基づき自宅にデバイスが届くという流れ。
ベスト・バイは2021年に遠隔患者モニタリングを含む技術プラットフォーム、カレントヘルスを買収するなど、デバイスを活用した在宅医療に投資を行っている。
アマゾン・ドット・コムは2023年11月、プライム会員向けに、定額課金型のオンライン診療サービスをスタートすると発表した。プライムの年会費に加えて月9ドルの利用料がかかる。
同サービスでは、医師による遠隔診療が受けられるだけではなく、診療所の当日予約などのサービスも利用できる。これは2022年に約39億ドルで買収し、2023年2月に買収が完了したワン・メディカル社のサービスを提供しているもの。同社は米国25都市に約190のクリニックを展開している。
またアマゾンは、2023年1月には、処方医薬品の販売強化のため、プライム会員を対象とした処方箋医薬品のサブスクプログラム「Rxパス」をローンチした。
一般的な疾患で処方される、80種類のジェネリック処方薬を対象としており、1ヵ月5ドルでひとつの処方薬を利用できる。申し込み後は30日または90日周期で処方薬が送料無料で自宅配送される。このほか、オンライン・ドラッグストアのAmazon Pharmacyや、Amazon Clinicと呼ばれる医師と患者のコミュニケーション・サービスなど、ヘルスケア事業全体を拡大し続けている。
《取材協力》
MICが実施するメーカー販促物の共同配送により、これを利用する店舗で実際どれくらい作業の効率化につながり、販促物の有効活用が進んだかを利用店舗にインタビュー。空前の人手不足で作業改善が求められる今、売上に大きな影響を与える販促物設置作業の課題と改善に関する実例をリポートする。(月刊マーチャンダイジング2024年1月号より転載)
ドラッグストア(DgS)大手経営層への取材、メーカー取材と合わせて参照頂きたい。
BM 直送でばらばらに販促物が届くと受け取るスタッフが毎回違い、経験の浅いスタッフが受け取ると、保管場所も分からず空いているスペースに置いてしまいます。それが埋もれて最終的に廃棄されるということも結構ありました。共同配送になって廃棄は30%くらい減ったと思います。
店長 これまで必要な販促物がないとき、何かの手違いで自分の店だけ来ていないのではないかとブロック内の他の店舗に確認していました。意外に時間のかかる作業ですが、その時間は間違いなく減りました。
一番楽になったのは「探す」という作業です。従来の方法だと中が分からないので開梱してみて違う、ということの繰り返しで時には10分以上探して見つからず結局本部に問い合わせるということになり相当な時間がかかっていました。本部からメーカーに依頼して店舗に届くのは1週間先となり売場づくりが遅れるということもありました。
廃棄に関しても「私は使わない」という判断はできますが、誰かが使うかもしれないという理由で1ヵ月とか2ヵ月放置されることもありました。今は1週間過ぎたら使わないものとして誰でも廃棄できます。
BM 以前は店舗によっては販促物が届く日に何が届いているかを検品していました。共同配送では販促物一覧に何が届いたか書いてあるので管理は本当に便利になりました。
個別に販促物が届くと、裏口が施錠されていたら呼び鈴が押されるので、その都度作業を中断して受け取りに行き、受領印を押してどこに置くかを指示しなければいけません。
共同配送になりその回数が減ったのがまず良かった点です。かなりの時間が節約できています。また、バックヤードにたまった販促物の中からほしいものを探すのには時間がかかるし、必要か廃棄するかの判断は担当者でないとできなかったのが、今は非常にやりやすくなりました。廃棄物が減ったのも改善ポイントのひとつです。
共同配送になって必要な販促物が来ない、店舗で紛失するといったリスクは減り、作業するときには基本的にモノがあるという安心感があります。これまでは、必要な販促物が店舗に届いていないときは、社内のコミュニケーションツールでブロック内の店舗に問い合わせていましたが、そうした余計な他店への問い合わせも減りました。
メーカーからの個別配送では販促物がパートごとに分けて納品されることもあり、例えば5回の配送のうち1回分の納品されたものが見当たらないということもまれにありましたが、共同配送ではそういうこともありません。
共同配送が導入されたことで、販促物が非常に探しやすくなりました。以前はメーカー各社からバラバラに配送され、バックルームの空いているスペースに納品されていたため、販促物が紛れ込み目的物の捜索に時間がかかっていました。
共同配送開始後は、毎週同じタイミングで販促物がまとまって届くため、探す時間が半分以下になり、紛失も減りました。また、販促物の掲出作業もしやすくなりました。
共同配送の段ボール箱は、同梱案内書が貼付されており、外から内容物を一覧で確認できます。
箱の中は、メーカーの企画ごとに梱包されており、それぞれにラベルが貼付されているので、どのメーカーの企画か簡単に判別し、取り出すことができます。
同梱案内書とラベルには、掲出日や掲出場所(カテゴリー)も記載されているので、作業も着実に実行できます。さらに、共同配送はバイヤー承認制のため、不要な販促物が届かず廃棄も減り、体感ですが掲出率が20%以上改善された感じがします。
店舗はお客様の対応が最優先です。まず売場をつくり、接客することが基本となるので、販促物の掲出作業が後回しになってしまうこともあります。そのため、設置できていない販促物がバックヤードに蓄積されてしまうこともありました。
共同配送が導入されたことで、各メーカーの販促物がひとつの段ボールにまとまり、「探す、開ける、捨てる」という手間が減少しました。当店では、私が販促物の箱を開梱し、必要だと思われる販促物を各カテゴリー担当に配布するという仕組みで運用しているため、ひとつの箱の中にメーカー企画ごとに梱包されている共同配送は作業がしやすく、手間・時間削減につながります。
但し、仕組みがいくら改善されても、それを活用して作業するのは店舗であり従業員です。販促物の設置作業の改善には十分な人時を確保すること、店舗の意識を高くすることも大切ではないかと思います。
店長 これまで販促物は色々な配送業者から来たり、メーカーの物流に乗って一括で来たり様々でした。それが10回来れば10回分の受取作業が発生していましたが、共同配送ではまとめて来るので、荷受けの手間は楽になりました。
受け取る段ボール箱には中に何が入っているか一覧が貼ってあるので、販促物を設置しやすくなりました。従業員にも話を聞きましたが、共同配送の箱の中には使うものだけが入っているという認識で、販促物の廃棄も以前と比べて3割くらい減ったのではないでしょうか。
店長代行(日雑の販促物設置担当) 本部の立てる販売計画(販計)にある商品の販促物には、一覧表に○が付いているので、とても分かりやすいです。メールでも販計の通知は来るのですが、ラベルを見て改めて商品を確認できるのと、ラベルには掲出(設置)期限も書いてあるので作業計画を立てやすくなりました。
毎週金曜日に定期的に届くので、必要なものとそうでないものの判断が簡単になりました。次の金曜までに設置されずに残っている販促物は必要ないものとして、担当者でなくても処分することができ、要らない販促物がバックヤードに滞留するということが少なくなりました。
店長 売場の広さやエンドの数などは店舗によって違うので、送られてくる販促物を全て付けられる店は限られてくると思います。共同配送になってからは、店舗の現状に合わずに付けられないといった販促物の数は2~3割は減りました。
SV 共同配送ではバイヤーに承認されたものだけが送られてくるので、不要な販促物の削減はその効果もあるのでしょう。
店長 販促物の受取も一回で済みますし、その中に必要なものは全部入っているので探す手間は減りました。個別に送られてくると、必要か不要かを判断するために箱をいちいち開ける手間が掛かりましたが、今はその手間が減りました。一覧表を見て何が入っているか分かるので、この売場はいつまでに作らなければいけないなど作成計画の見通しが立てられます。
SV 販促物の管理はだいぶ楽になりました。バックヤードで使わない販促物がいつまでもあるということも減ったと思います。
TEL 03-4455-7814