PB比率3分の1 いまだからできた業態
「テラッセ納屋橋」は名古屋駅と地下鉄栄駅のちょうど中間あたりに位置する再開発ビルだ。ビル内にはオフィスやマンションのほか、同ビルのデベロッパーでもあるユニーが運営する高級スーパーマーケット「ラフーズコア」や、ドラッグストアの「マツモトキヨシ」、フードコートなどが入居。スタイルファクトリーはその3階フロアに約700坪で展開している。
スタイルファクトリーのコンセプトは、「自分らしいスタイルを見つけてもらう、発見のある店舗」。通常のカインズもライフスタイルをテーマに掲げるが、スタイルファクトリーはさらにそのエッセンスを凝縮した。プロ向けの工作ツールや資材は展開せず、日用消耗品を価格訴求して大量陳列というような販売方法も取らない。
特徴的なのはそのプライベートブランド(PB)比率の高さだ。カインズの既存店(大型店)は売場面積約3,000.4,000坪規模、商品取扱い点数約10万点、PB比率20%前後というところだが、このスタイルファクトリーは売場面積約700坪、商品取扱い点数約1万5,000点、PB比率は3分の1を占めるという。自社で商品開発を継続し続けたことにより、このようなオリジナリティの強い店舗の出店が可能になった。
「10年前にはこの業態をつくることはできませんでした。5年前でも難しかったかもしれません。商品のラインアップを揃えたことが、本業態挑戦へのきっかけになりました」(カインズ広報室 五十嵐ゆう子さん)。メーンターゲットは30代、40代の女性に設定。オフィス街という立地も相まって、既存店よりも女性客が多くターゲット層の来店が目立っているという。
4つのゾーンでライフスタイル提案
店舗は4つのゾーンで構成されている。入り口にもっとも近いのが「RAKU KAJI」。台所用品、バス・トイレ用品、掃除・洗濯用品などを取り揃える。ストーンマーブルフライパンのような、耐久性と軽量化を両立させた調理用品や、女性でも握りやすくスパッと切れるラップケースのような台所用品はもちろん、軽量で折り畳みがしやすい物干し台や、「立つほうき」のように保管、使用の簡単さにこだわった掃除用品まで、広く日常の家事をもっとスマートに、楽しくできるような商品を提案する。
続く「WELLNESS」ゾーンのコンセプトは「無理なく自分らしく」。自分のペースで続けられる健康づくりを、美容・健康関連用品だけではなく、機能性食品、フィットネスグッズなどでサポートする。「無理なく」というコンセプトは、手間がかかりすぎないということだけでなく、財布にやさしい価格設定も含まれているのだとか。
朝食コーナーでは、グラノーラやスムージー、甘酒のように、日々の生活に取り入れたい機能性食品を提案。オーラルコーナーでは、歯ブラシの柄にデザインを施したデザイン歯ブラシや、気分に合わせて味を選べるマウスウォッシュなど、これまで機能軸でのアピールが中心だった商品に、情緒軸を取り込んで展開している。
店舗の一番突き当たり奥に位置する「HOME DESIGN」ゾーンでは、寝具やインテリアファニチャー、収納用品などを取り扱う。カインズオリジナルでベストセラーにもなったプラスチック収納用品の「キャリコ」は、「インテリアキャリコ」としてリニューアルし、カラーバリエーションを刷新した。
これまでのピンクやブルーといったポップな色合いから、くすんだブルーや山吹色のように、リビングに置いても落ち着いた雰囲気を醸し出すような色合いに変更。デザイン面でさらに一歩踏み込み、家全体のトータルコーディネートにまで配慮したPB商品群に進化を遂げた。
売場販売効率至上主義からの脱却
「DIY STYLE」ゾーンは、DIYグッズのEC事業を展開するDIY FACTORY(運営:大都)とのコラボレーションでDIY素材や工具などを展開する。カインズでは、DIYを単なる木工という意味として捉えるのではなく、あらゆる「つくること」であると広く解釈し、素材を組み合わせて自分だけのものをつくるための提案を行う。
とかく量販店は売場販売効率に縛られ、棚に商品をどれだけ効率よく詰め込み、いかに利益を取るかということに必死になりがちだが、この店舗ではDIYの定番棚の上部をディスプレーコーナーとして、実際に商品を活用してつくった作品などを陳列し、利用シーンのイメージがしやすい売場をつくり上げた。ウォールペーパーや、自由に組んで収納家具をつくれる組み木ラックのようなDIY素材のコーナーに、30代、40代女性とおぼしきお客が長らくたたずんで、商品を選択していたのが印象的だった。
DIY FACTORYプロデュースのワークショップコーナーでは連日ワークショップを実施。グリーン売場は大都が買収した植物好きのコミュニティアプリ「Green Snap」とコラボし、Green Snapの人気ランキングをPOPで紹介している。落ち着いた雰囲気の中でコーヒーやマフィンを楽しめる「カフェブリッコ」も併設されていて、長時間店舗に滞在できるような構成になっている。
店内のしつらえも特徴的だ。天井は抜かれて配管がむき出しになっており、柱は木目調でナチュラルな雰囲気。中心部の什器は高さ1,350mmと既存店より低いものを採用しており、入り口から店舗奥までを見通すことができる。
ビジュアルマーチャンダイジングにも積極的で、天井から調理器具をつり下げたり、壁面一面にフライパンを並べたり、壁面に布団をつり下げたりと、目で見て楽しいプレゼンテーションが至る所に展開されている。
2×4材をつなぎ合わせて家具を作るための「ディアウォール」というパーツがある。DIYユーザーにとっては人気の商品なのだが、発売当初のカインズではほとんど目立つことがなかった。長尺の木材はプロ向けの売場に陳列されており、併買されていたディアウォールもお客の目に届かなかったからだ。
しかし今日では、商品点数を絞り目立つところに本商品を陳列したことによって女性のお客にもリーチするようになりつつあるという。売場の編集力とは何かということを考えさせられる店舗である。