食品スーパーの提供価値を見直す

ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス、植物工場スタートアップと新ブランド野菜「グリーングロワーズ」を発表

マルエツ、カスミ、マックスバリュ関東を事業会社とする共同持株会社ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス株式会社と株式会社プランテックスは、12月11日に完全閉鎖環境下で生育をコントロールしながら野菜の栽培を行い、製造から販売まで一貫したサプライチェーンを構築していくことについて基本合意書を締結したと発表した。(ライター:森山和道)

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ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングスとプランテックスの提携

ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス株式会社株式会社プランテックスは、12月11日に、完全閉鎖環境下で生育をコントロールしながら野菜の栽培を行い、製造から販売まで一貫したサプライチェーンを構築していくことについて基本合意書を締結したと発表した。プランテックスは20以上の環境パラメータをコントロールして植物を生産する技術を持つ植物工場スタートアップ。両社は共同で、野菜本来の味や鮮度を追求しながら独自の価値を創造することを目的に、商品開発から販売まで一気通貫で行う新たな製造小売業(SPF:Specialty store retailer of Private label Foods)モデルの検討を開始する。ブランド名は「グリーングロワーズ」。緑を栽培する人という意味だ。(プレスリリース

この件について、12月17-19日の日程で開催されたフードテックイベント「Smart Kitchen Summit JAPAN 2020」(主催:シグマクシス、The Spoon)で、ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス代表取締役社長の藤田元宏氏とプランテックスの山田耕資 代表取締役が登壇し、解説を行なった。

スーパーマーケットの提供価値を見直す

ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス株式会社 代表取締役社長 藤田元宏氏

ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングスは首都圏に524店舗のスーパーマーケットを展開している。年商は7,200億円。ブランドはカスミ、マルエツ、マックスバリューの3つだ。藤田氏は「スーパーマーケット事業はこれまでのモデルを作り変えないとダメなところに来ている。新しい人たちと一緒にやり遂げたいと考えている」と述べた。

これまでのスーパーマーケットビジネスは「1箇所で買い揃えられる」というビジネスモデルだった。だが現在、顧客の価値観が変化しており、これまでのスーパーマーケットのビジネスを揺るがしている。すなわちECの台頭である。家にいながら買い物ができ、支払いはスマホでできる。顧客にとっては、それが当たり前になっている。

だが既存のスーパーは来店を起点としている。藤田氏は「カスタマージャーニーがデジタル化し、タッチポイントが多様化するなか、スーパーの存在意義が薄らいでいる。デジタルは店を持たなくても容易に参入できる。リアル店舗同士の競争は終焉を迎えた。今後の成長と持続性を考えるためにはスーパーの提供価値を再度見直し、リソースやパートナーシップを刷新し、ビジネスモデルを作り変えなければならない」と語った。そして「リアル店舗を持つこと自体を強みに変えられるようにサービスチャネルを輻輳化することが重要だ」と述べた。

提供しようとする価値は4つだという。1)顧客に評価してもらえる鮮度、2)商品を通した驚きや感動、3)買い物で豊かさや楽しさを感じてもらうこと、4)生活者との繋がりを感じてもらうことだ。ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングスではこれらの実現を指向し、デジタル技術を活用した「Scan & Go Ignica」、「オンラインデリバリー」などの取り組みを始めている。

それらの取り組みの一環が、今回のプランテックスとの取り組みだ。今は野菜の鮮度や安全性、品種や成分などに様々な期待が寄せられる時代になっている。いっぽう野菜の生産現場では高齢化がいっそう進んでおり、後継者は不足していて、栽培技術の伝承に課題がある。さらに異常気象や自然災害は安定的な供給に支障をきたす。

こうした問題にどうやって対応するべきなのか。この同じ課題を共有していたプランテックスと知り合い、協業に至った。目的は高鮮度な野菜を安定して届けること。そして製造業のように一定品質の野菜を届ける「SPF」モデル、製販一体モデルをつくること。

藤田氏は「今のサプライチェーンは数多くのプレイヤーが分業し、調和することで支えられている。これからは全工程において様々な変革が必要となるが、変革を実行することは全体の調和を崩すことにもなりかねないし、我々だけでは手間がかかりすぎる。そこでプランテックと協業することにした」と背景を解説。そして「野菜の栽培ノウハウを栽培施設にいかし、流通ルートにのせて消費者に届ける。サプライチェーンはコミットメントを共有することで成立する」と語り、新ブランド「グリーングロワーズ」を紹介した。「良い野菜を鮮度の良い段階で届ける。農場と食卓を繋いだときに改めて見えてくる自然環境やフードロス問題をより身近にし、繋がりに寄与する生産をしたい」という。

プランテックスの栽培技術 密閉型環境で20の環境パラメータを調整

株式会社プランテックス 代表取締役 山田耕資氏

プランテックスの山田耕資氏は、同社の技術の特徴について「ハードウェアが密閉されており、中の狭い環境を緻密に制御することができる。植物の成長に影響する20種類の環境パラメータを緻密にコントロールする点が従来の植物工場とは違う」と紹介した。

山田氏によれば一般的な植物工場と比べて、プランテックスの面積生産性は約5倍。工業製品並みの安定収穫重量があり、また成分調整により、植物工場でしか育てられない野菜を生産できる可能性があるという。プランテックスではコントロールされた密閉環境で生育させることで植物自体も緻密に成長し、誤差1%未満の成長に成功している。また屋外では実現できないような環境も実現できることから、植物工場でしか作れないような新しい野菜も作ることができるという。

現在生産しているのはレタス。生産システムは京橋にあり、野菜の一部は「京橋レタス」としてマルエツ勝どき6丁目店の店頭に並べられている。商品には収穫時間も打刻されている。精度や味や成分をコントロールでき、野菜の栄養成分も豊かなものが作れることから「健康につながる野菜」として展開できるという。たとえば、京橋レタスのβカロチン含有量は一般的なレタスの約16倍。特定の成分を増やすだけではなく、どんな成分をどの程度含むか、その組み合わせを変えることもできると考えており、サプリメントの購買層を取り込むこともできるのではないかと考えているという。

山田氏は「面白かったことは、生産性を上げようとすると美味しさも一緒にあがっていった。普通に考えると生産効率をあげると美味しさを落ちていきそうだけど、植物本来のポテンシャルを引き出すことが美味しさにつながるのかなと思う」と語った。

量産工場だけでなく研究開発にも注力しており「葉物以外の野菜についても、新たに『成分調整野菜』を生み出したい」と述べた。同社では研究成果をシームレスに工場で量産できるように考えており、目指すべきは農業の課題解消だけでなく「屋内農業でしかできない新しい可能性の探索」にあると考えているという。時期としては来年度中の早期の拡充を目指す。山田氏は「環境を整えながら一緒に新しい価値を創造する。ぜひご期待をいただきたい」と語った。

大企業とスタートアップの歩調を合わせ、目標共有することが重要

「グリーングロワーズ」のブランディングについては現在、どういう売り場でどういう価値を感じてもらうか、どうやって味わってもらうかなどを考えている段階で、3つの対応を考えているという。1)生の素材として届ける、2)より食べやすいかたちで提供する、3)調理の仕方を店頭で知ってもらいながら提供する。売り場や提供法はこれから考えたいとした。藤田氏は「食べたあとに驚きがないとつまらないものになる。そこに一生懸命切り込んでいかないと売り場もお店も飽きられる」と語った。

これまでになかった鮮度や美味しさを実現するにはサプライチェーンを短くするかショートカットする必要がある。藤田氏は今回の取り組みについて「我々だけでは無理だと考えた。また、新たな価値を作るときには、これまでのリソースやパートナーシップだけでは難しい。刷新することが重要。それが具体的にどういうことなのかは実体験する必要がある。会社としてはそういう価値も見出しながら進めている」と語った。

植物工場はこれまでにも様々な取り組みがあり、あまりうまくいっていないのが現状だ。その中でプランテックスを選んだ理由としては「安定した卓越した栽培技術」を持っていることをあげた。その後の生産物をどうやって流通させるかは裾野の問題だ。藤田氏は「サプライチェーンは様々なプレイヤーがいて、それぞれがリスクを分散している。プレイヤーはどうやって自分のリスクをヘッジするかに一生懸命になる。すると一番川下の消費者に対してどうなのかというところが薄らいでいく」と課題を概観し、「プランテックスが毎日5,000株を作るなら、我々は売り切る。コミットメントを共有することが重要」と語った。

またスタートアップと大企業の協業について「大企業とスタートアップの『歩調の違い』を自覚して、互いに合わせることが重要だ」と指摘した。