アマゾンとの熾烈な競争を展開

[米国小売業リポート2019]新規出店コストを減らしEC、IT関連投資強化するウォルマート

実店舗とオンラインを融合させたオムニチャネル戦略を推し進めるウォルマートは、ECへの注力やロボットを使った業務の自動化に取り組んでいる。(リサーチ・文/佐野恵子 月刊マーチャンダイジング2019年9月号より転載)

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オムニ戦略を推進
ネット注文、店舗受取り促進

ウォルマートはアメリカ国内はもとよりイギリス、メキシコをはじめ世界27ヵ国において合計1万1,000店舗以上を展開するほか、国内外で数々のECサイトを運営している。毎週ウォルマート・グループの店舗とECサイトを利用する顧客の数は2億7,500万人にも上る。

米国内ではスーパーマーケット(SM)を併せ持つディスカウントストア(DS)、スーパーセンター(SuC)が基幹業態となっており、2019年1月期末に米国内で展開していた5,368店舗の店舗ベースの66.5%が大型のSuCとなっている。国内ではSuCに加え、DS、会員制ウエアハウス・クラブのサムズ、そしてSM、ドラッグストア(DgS)のコンビネーション・ストアであるネイバーフッド・マーケットを展開。ほとんどどのネイバーフッド・マーケットには大手DgSの店舗と同じように調剤のドライブスルー・サービスが提供されており、ガソリンスタンドを併設する店も多い。

2019年期も実店舗とオンラインを融合させたオムニチャネル戦略を推し進め、新規出店投資を削減しEC関連の投資を強化した。オンラインで注文した食品を店舗の駐車場で受け取るオンライン・グローサリー・ピックアップ(カーブサイドピックアップ)の対応店舗は期末までに2,100店を超えたほか、オンラインで注文した食品を店舗のパーソナル・ショッパーが集め顧客の自宅まで届ける宅配サービス、オンライン・グローサリー・デリバリーを提供する店舗の数も800店に増えた。

アプリで注文して駐車場で受け取る「カーブサイド・ピックアップ」に注目

 

インドの大手ECサイトを買収
インドでの事業展開を推進

2018年期にもECビジネスの規模拡大は続き米国内ではランジェリーや美術品などのECサイトを買収したほか、5月にはインドのEC最大手、フリップカート・グループの株式の77%を160億ドルで取得することを決定し8月に買収を完了させた。フリップカートの買収は過去最大規模。

ウォルマートは2007年にインドに進出したが外資規制が強いこともあり、会員制卸のベスト・プライスを21店展開するにとどまっていた。フリップカートの買収によりインドでは今後、ECを中心とした事業拡大を目指すものと考えられる。

業務の効率化、接客強化のため
ロボット化を推進

近年ウォルマートは店舗や配送センターで積極的にロボットを使った自動化を図っている。

2019年4月には2017年に試験運用を始め、期末までに360店で利用していた床磨きロボット「オートC」を1,500台、在庫をチェックするロボット「オートS」を300台、そしてトラックで配送された商品の荷下ろしを行う「ファスト・アンローダー」を1,200台、追加導入することを発表した。

床磨きロボット、オートCは最初に従業員が運転して走行ル―トを記憶させると、人や障害物を避けながらその後は自律走行で床磨きをする。また店舗在庫をチェックするロボット、オートSは夜間に店内を走行し、陳列棚にある商品の在庫量を確認、陳列場所や表示価格が正しいかもチェックする。一方、バックヤードで利用されるファスト・アンローダーは在庫チェック用のオートSと連携し、荷受け検品を自動で行い陳列場所に応じて商品を仕分けする。

単純作業のAIロボット化を一気に進める「ウォルマート」

2019年1月期財務振り返り
米国事業部、増収・増益

期末までに米国内でSuC3,570店舗、DSを386店舗、ネイバーフッド・マーケットをはじめとする小型フォーマットを813店舗、合計4,769店舗を展開。オンラインで注文した食品を店舗で受け取るグローサリー・ピックアップや食品宅配サービス、グローサリー・デリバリーの対応店舗を増やした効果もあり、ECの売上が40%増となった。

これに加え、既存店売上が3.7%増と高い水準で伸びたことで事業部売上は前期比4.1%増の3,317億ドル、従業員の待遇改善やEC事業への先行投資負担などで、減益が続いていた事業部の営業利益は2.3%増の173億ドルとなった。

粗利益率は計画的な売価の引き下げや運送費の上昇により0.28ポイント下がったものの、販管費率は生産性の向上、そして前期は出店取りやめによる不動産関連の経費減2億4,400万ドルがあったため、0.5ポイント改善された。

オンラインで注文したグローサリーを顧客が無料で指定した時間に店舗の駐車場でピックアップできるグローサリー・ピックアップを提供する店舗の数は期内に目標を上回る2,100店舗となったほか、30ドル以上購入すればオンラインで注文した商品を9ドル95セントで最短注文当日に自宅まで届けるグローサリー・デリバリーの対応店舗は800店舗近くに増えた。

2020年1月期末までにはグローサリー・ピックアップそしてグローサリー・デリバリーの対応店舗をそれぞれ3,100店と1,600店に増やすことを計画している。

[図表1]ウォルマート・グループ 財務ハイライト(単位:100万USドル)

ピックアップタワー500店増設
ピックアップ専用の実験店出店

一方、鮮度管理を必要としないオンラインで受注したノンフードの受け渡し方法の選択肢として、ウォルマートは2017年から約200店舗でピックアップタワーと呼ばれる無人のキオスクの実験を行っていたが、これが顧客に好評だったことを受け、今期、ピックアップタワーを新たに500店舗に増設、今後も積極的に拡大することを計画している。またテレビなどの大型商品も顧客が店頭でピックアップできるようにピックアップロッカーの設置が現在検討されている。

ウォルマートの新サービス 「ピックアップタワー」は宅配待ちストレスを解消する

ウォルマートはまた、オンラインで購入された商品のピックアップ専用の店舗を本社のあるアーカンソー州ベントンビルに実験的にオープンしているが、昨年9月にはシカゴ郊外にもピックアップ専用の店舗をオープンすることを発表、関係官庁の承認が得られれば2019年春にはオープンする。ウォルマートの近年のEC売上の飛躍的な伸びは利用客の利便性を高めるためのこうした絶え間ない努力の成果なのだろう。EC分野の投資拡大やさまざまな取組みはイーマーケターの2018年のEC販売シェア・ランキングでウォルマートがアマゾン、イーベイに次いでアップルを抜き3位に浮上していることからも、確実な成果として表れている。

[図表2]期末店舗数

AIの能力を実験するため店舗型の
研究施設を開設

新年度に入ってからもすでにいくつかの新たな取組みを行っている。6月には国内の1,000店舗近くの店舗のセルフ・チェックアウト・レジでスキャン漏れや盗難を防ぐためにAIを使ったミスト・スキャン・ディテクションと呼ばれるシステムの運用を始めた。同システムはセルフ・チェックアウト・レーンの上に設置されたカメラの画像をAIが分析し購入した商品が正確にスキャンされたかどうかを判断、間違いがあった場合には従業員に連絡され、スキャン間違いや盗難を防ぐ。全米小売業協会は、2017年アメリカの小売業界におけるスキャン漏れや盗難によるロス率はおよそ売上の1.33%、金額にして470億ドルと予測しており、ウォルマートの売上をベースに計算すると40億ドル以上がスキャン漏れや盗難により失われていたことになる。

また、店舗におけるAIの可能性を見極めるために今年4月、傘下のテク・インキュベーター「ストア・ナンバー8」がAIを導入して開発したインテリジェント・リテール・ラボ(IRL)と呼ばれる、店舗を再現した研究施設を開設。ラボにはセンサー、カメラ、それらから得た情報を処理するプロセッサーが設置され、棚在庫管理、作業の生産性改善からショッピング・カート管理、必要レジ数の管理まで幅広く行うなど、従業員の接客時間を増やすためにどのような店頭作業を人工知能に託せるかについて検証する。

2020年期第1四半期実績および最新の動向

米国ウォルマートは顕著なEC売上の伸びを受けて、2020年1月期の第1四半期末までにグローサリーピックアップに対応する店舗の数を2,450店舗に、オンラインで購入した商品の即日宅配サービス、グローサリー・デリバリーに対応する店舗の数を1,000近くにまで増やし、年末までに、それぞれ3,100店舗と1,600店舗に拡大することを計画している。通期ではECの売上高は35%前後増える見通しだ。

ウォルマートは近年、新規出店投資を削減しEC関連の投資を強化しているが、2月に始まった2020年1月期にはその傾向を一段と鮮明にしており、今期は、国内の新規出店を10店舗未満に抑えると発表している。海外ではメキシコと中国を中心に300店舗強の出店を計画、全体の設備投資額は前期と同水準の約110億ドルを維持する。

[図表3]事業部別売上 (単位:100万USドル)