中間流通業は「日本型カテゴリーマネジメント」を推進すべき【後編】

中間流通業の「つなげる力」を活用して売上最大化を実現しよう

これからの時代、プロモーションの主戦場がマスメディアから店頭とWEBへと移ることになれば、店頭プロモーションで主導的な役割を果たせるのは「日本型カテゴリーマネジメント」を推進する卸売業である。日本の卸売業が持つ「つなげる力」を生かし、新しい世界を切り開くための手法と考え方について解説する。(ニュー・フォーマット研究所 副社長 村瀬 一弘/月刊マーチャンダイジング2019年5月号より転載)

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前編の記事はこちら

卸売業の機能の中で情報収集は今後カギになる

卸売業の機能について詳しく説明すると、卸売業は商品を倉庫(物流センター)に在庫して発注に応じて店舗に届ける物流機能を事業の土台としている。これが①ロジスティクスで、その中にある「総取引極小機能」とは、メーカーが小売に直接取引(配送)するのと比較して、中間に卸売業が入れば総取引数が減るということだ(図表3)。

[図表3]総取引極小機能(取引総数極小の原理)(マーガレット・ホールの理論をNFI作図)

マーチャンダイジングには複数の意味があるが、ここでいう②マーチャンダイジングとは新商品の売場展開や販促物の設置、売場メンテナンスなど作業の効率化、売上最大化のための店頭管理のことである。本来小売業の役割だが、卸売業の豊富な情報に基づく効果的な売場展開や短期間に集中して人時をかけて完了させる売場実現力などは、小売が活用すべき重要機能である。

③情報提供機能は今後重視されるべき機能である。多数のメーカー、小売業と取引のある卸売業にはもっとも多くの情報が集まるといってよい。売り方の成功事例、商品開発のストーリー、商品特徴など、こうした情報がカテゴリー内のあらゆる商品に関して集まる。情報を整理して活用することが中間流通業の未来にもつながる。

④与信機能、代金回収機能などは「金融流」と呼ばれる分野である。私の台湾赴任時のエピソードでも紹介したように、これも重要な機能である。

⑤商品開発機能。アルフレッサ ヘルスケアでは、自社に集まる豊富な情報をもとに、医療に頼る前に自己治癒を目指す「セルフメディケーション」やそもそも病気にかかるのを防ぐ「セルプリベンション」という理念を掲げ、これらに合致する商品をメーカーと協働で開発している。メーカーのナショナルブランド(NB)商品、小売のプライベート(PB)商品とのすみ分けが必要になるが、卸に集る豊富な情報をもとに、適切なパートナーメーカーを選んで商品開発することも今後の中間流通業の可能性である。

⑥小売店経営指導機能。これはかつて小売業の大規模化が進む前に持っていた機能である。いまでは小売業の大規模化、経営の高度化で希薄になった機能ではあるが、私はこのDNAをベースに今後中間流通業には果たすべき使命、成長する領域があるとおもっている。それを最後に述べたい。

「つなげる力」を生かしたカテゴリーの最適化

欧米では、ウォルマートとP&Gの取組みに代表される、巨大企業同士の協働戦略、カテゴリーマネジメントは存在するが、それらの例は、少SKU、大量取引が前提となっており、日本の商習慣や風土には必ずしもそぐわない。

また、現在主流であるメーカーがカテゴリーキャプテンになり、カテゴリーマネジメントするのもたしかに効果を生むが、卸はより中立的な立場からのカテゴリーマネジメントが可能だろう。

中間流通業は製造と小売の文字どおり中間に位置して、両方の現場に関わるポジションである。これを生かして、カテゴリーの最適化、売上最大化をリードする「日本型カテゴリーマネジメント」の推進役になり、これを流通業が活用すべきというのが、私の提言である。

既述のように、日本には欧米と比較して、中小から大手までたくさんのメーカーとブランドが存在する。ヘアケアカテゴリーを例に取ると、中小メーカーから高単価高粗利のヒット商品が生まれることもあり、必ずしもシェアの高い商品から利益を取れるとは限らない。もちろん高シェア商品を低価格で集客するという戦略も必要となる。こうしたさまざまな事情を汲み取り、データを分析し、カテゴリーを最適化することは非常に難しい。

しかし、日本の卸売業なら、メーカー、小売双方の情報に通じ、知見を蓄えている。そこを、小売業の戦略に沿って、適切なメーカー、ブランドを組み合わせ、商品を編集する力、私はこれを「つなげる力」と呼んでいるが、この力を活用してカテゴリーの最適化、売上最大化の調整役を務めることができるのではないか。

「OODAループ」の活用で新世界を切り開く

「日本型カテゴリーマネジメント」を推進する際注意すべき点を指摘したい。

日本の卸売業はメーカーからの販売代理店契約に近い「帳合権」というものを持っており、これにより卸はメーカーから商品を仕入れて、小売へ販売して利益を得ている。ここで卸売業が行いがちなのは、メーカーとの間に帳合権があるからといって、そのメーカーの新商品をすべて店頭に配荷しようとすることである。

こうした「帳合権の罠」にはまることなく、今後は販売データの分析やマーケティングによって商品の価値や可能性を評価する能力をもっと磨くべきだ。お客が必要とする豊富な選択肢を提供するのと、帳合のあるメーカーの商品をなるべくたくさん店頭に並べようとするのは、まったく異なることである。

「日本型カテゴリーマネジメント」の推進には「OODA(ウーダ)ループ」と呼ばれる手法が有効ではないかとおもう。これはよくPDCA(Plan、Do、Check、Action)サイクルと比較される意思決定に関する考え方である。

OODAループとは、Observe(見る/情報収集)、Orient(仮説構築)、Decide(決定)、Act(実行)の各頭文字で、これをスピーディに何回も繰り返すのでループという言葉が付いている。店頭やメーカーで起こっていることから情報を収集し、仮説を立て、どのような施策を打つのか意思決定して実行する。結果を見ながらこれをスピーディに細かく繰り返す。市場と現場を見ながら仮説と検証を繰り返すというスピード重視のフレームワークである。

OODAループを体系的に実践できるのは、メーカー、小売双方の現場、現物、現時点に立つ卸売業がもっとも適しているとおもう。この研究と実践をお勧めする。

そして、OODAループを使って小売業とカテゴリー商談を行う。現在卸と商品部の間では、エンドなどプロモーション商談がメインではないだろうか。これを定番中心のカテゴリー商談へと変えていく。図表4はこうした商談や「日本型カテゴリーマネジメント」において、小売業がメーカーに求めるポイントである。ぜひ参考にしていただきたい。

これからの時代、若年世代のメディアへの接し方を見ていると、マス広告は効かなくなってくる。プロモーションの主戦場は店頭とWEBへと移るだろう。そのとき店頭プロモーションで主導的な役割を果たせるのは「日本型カテゴリーマネジメント」を推進する卸売業である。マス広告の膨大な予算が店頭へと移ることを考えれば、ここにも大きな可能性がある。

長年の経験と実績で培った「つなげる力」を卸売業は顕在的にも潜在的にも持っている。潜在的なパワーを呼び覚まし、本来持つ進取の気性をいかんなく発揮すれば、日本の卸売業は新しい世界を切り開くことができると私は信じている。