顔の中のハート形を4つのタイプに分類
人の顔の中には、鼻の頭を起点に鼻先・あご先を支点に、頬(ツヤ)のもっとも高い位置とフェースラインを結ぶことでハート形ができる。ルシェリではこれをハリ・ツヤのある肌の目安とし、美しいハート形を目指すためのブランドであるというメッセージを発信している。
写真1は特殊な撮影で顔のハート形を可視化したもの。加齢によりハリ・ツヤがなくなることで、「ハートのラインがガタガタ」になり、さらに肌のハリ・ツヤがなくなることで「ハートの山が低くなる」様子が見て取れる。
このように、肌のツヤやハリの状態を具体的なハート形で示すことで、目指すべき目標がわかり消費者は関心を持ちやすくなる。売り手側も商品の紹介がしやすくなる。
店頭でハート形を診断するのが「ハートリフト シミュレーター」。美容部員、営業担当、ラウンダー(店舗巡回担当)などコーセーのスタッフが持つ接客用のタブレットにアプリの形で搭載されている。
まず、対象者の顔写真をとると、画面にハート形がすぐに表れる(図解1参照)。
このハート形はカウンセリングの途中で必要に応じて消したり表示したりできる。さらに、画面に出てきたハート形は、次の4つの顔立ち印象の中から分類されている。
クールハート(右上) フェースラインが細くて頬の位置が高い。大人っぽいシャープ感のある、スタイリッシュでかっこいい印象
フレッシュハート(右下) すっきり感のあるヘルシーで爽やかな印象
フェミニンハート(左上) 女性らしいカーブ感のある優しくエレガントな印象
キュートハート(左下) 丸みや柔らかさのある、かわらしくピュアな印象
技術的には顔認証技術がベースとなっており、よりリアルなイメージをつくるための細かいプログラミングがされている。
〈図解1〉 ハートリフトシミュレーターでのカウンセリング法
ハート形をきっかけに個のニーズを引き出す
4つのハート形のタイプは、とくに優劣をつけているわけではない。それぞれ個性の表れとして捉え、現状のハート形を維持したいのか、別なタイプを目指したいのか、カウンセリングで聞いていく。
たとえば、クールハートの人がもう少し丸みのあるハート形の顔にしたいと希望する場合は、部分的にツヤを出すルシェリのグロウエッセンススティックを頬骨のやや外側下めに付けることで、ハートの山が左右に広がり丸みが出る。
ハートリフト シミュレーターの使用方法やカウンセリングの教育を担当する、チェーンオペレーション推販部美容教育課の鶴ヶ崎さんは次のように語る。
「このようなハート形が理想、こうしましょうという提案ではなく、あくまでお客さまの希望を聞きながらお話をします。ハート形の診断だけでなく、お悩みをうかがってパーソナルな提案をしていきます。今回の化粧水、乳液はそれぞれ3タイプを組み合わせることにより個人に合ったご提案ができる設計になっています」
エイジングケアは一般的には「年齢に応じた肌のお手入れ」と定義づけられ、ハリ、ツヤ、しわ、たるみなどが具体的な悩みとなる。ルシェリではそうした具体的な悩みを顔の中の「ハート形」にいったん集約させ、そこからカウンセリングによって再び個別の悩みを引き出すという販売プロセスを取る。顔の中のハート形およびハートリフト シミュレーションはカウンセリングにより個別の悩み、ニーズを引き出すためのきっかけになっている。
ハートリフト シミュレーターを使ったカウンセリングは「きれいなハート形の維持がエイジングケアにつながる」というわかりやすいテーマに基づいた推奨販売、販促の手法である。
さらに、ハートリフト シミュレーターの目玉機能ともいえるのが「ハートリフトバー」(図解1の③ ④ )である。Up方向にバーを動かすと、ハリ・ツヤが増し若返ったように見える。Down方向に動かすとハリ・ツヤがなく全体に老けた印象になる。
ハートリフトバーにより顔印象の変化を自分の顔で体験できるので、エイジングケアのモチベーションアップに役立つ。シミュレーションの写真を活用することで、ハリ・ツヤの度合いをイメージできる個別体験型の販促である。
デジタル技術を使ったカウンセリングが今後重要
インターネット、SNSの影響で、化粧品に関する情報源が多様化、複雑化している。とくにインフルエンサーと呼ばれるSNSやインターネット上で消費や購買行動に影響を与える個人を、大手から中小まで多くの化粧品メーカーが販促のために採用している。こうした流れについて鶴ヶ崎さんに聞いた。
「インフルエンサーの与える影響は大きいとおもいます。実際に役に立つ情報もたくさんあります。個人の意見として影響を与えていることが評価されていますが、大きな枠組みとしては一部マス広告と似てきているようにも見えます。インフルエンサーの情報にプラスして、店頭で自分だけに合ったスキンケアやメイクの方法を知ることも試していただきたいですね。ただスタッフと話すだけでも気分転換やストレス発散になるかもしれません。それも美容にとっていいことですよ」
インフルエンサーを使った販促の成功事例は多数ある。個人の中立的な立場からの情報発信が強みとされるが、多くのケースで、メーカーとインフルエンサーとの間に「契約」があることも事実である。
そういう意味では、インフルエンサー販促も、一部ではマス媒体化しているといっていいだろう。その次に何が来るのか、インターネット、SNSの販促には常に新しい手法が求められている。
ドラッグストアの店頭での販促を考えれば、アプリやマーケットオートメーションなどデジタルを使ってターゲットを絞る「個」の捉え方もある。一方で、ハートリフトシミュレーターのように、デジタル技術を使いながらも、カウンセリングによって個のニーズを捉えるという手法もある。後者は、リアル店舗の強みを出すため、ロイヤルカスタマーを育成するためには、今後強化すべき手法である。
その際は、メーカーの発想、技術を店舗で生かしてクロージングするという製販一体的な体制づくりが重要である。