1000店突破記念 城戸一弥社長インタビュー

キャンドゥは生活のインフラになる

この5月に店舗数が1,000店を突破した100円ショップ大手「キャンドゥ」。率いる城戸(きど)一弥氏は創業者である父親の急逝に伴い2011年に25歳で代表取締役社長に就任。現在32歳と小売業の経営者としては非常に若い。しかし、それまでのトップダウンからボトムアップの経営に転換を図り、商品部で女性の活躍を推進するなど、数々のヒット商品を生み出す土台をつくり上げた。城戸氏に今後の同社展望を聞く。(月刊マーチャンダイジング 2018年7月号より転載、企業概要等は当時のものです)(聞き手:MD NEXT編集長 鹿野恵子)

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最大の課題は働き手の確保

──まずは2017年11月期の振り返りと、2018年11月期の進捗についてお伺いします。

城戸 2017年11月期は天候不順やシステムトラブル、うるう年の影響などで苦戦しました。当社は全体の8割がインショップで、他社さんと比較してインショップ比率が非常に高いのですが、出店先の店舗老朽化に伴う退店など、当社の意思とは異なる退店が増え、店舗は純増がかなり少なかったのも影響しています。

──2018年11月期はいかがでしょうか。

城戸 2017年8月ぐらいから既存店の前期比が順調に推移していて、2018年第1四半期の売上は順調です。粗利については素材や為替の影響でほぼ水平で、人件費については昨年よりも改善傾向ということで、増収増益になっています。

──現在一番の課題はどこだとお考えでしょうか。

城戸 「人」です。とにかく働き手を集めるのに苦労しています。都心は高い時給を提示すれば人を集めることはできますが、地方は苦しい状況です。地方では、新規出店時の採用で近隣の食品スーパー(SM)やドラッグストア(DgS)より高い時給を提示しても、人が集まりません。とくに高齢の方になればなるほど、現在の環境で満足しているから、いくら高い時給を提示してもほかの会社には移らないという傾向が顕著のようです。

──地方の新規出店では、店舗開発よりも人間の問題の方が大きくなっているということですね。

城戸 はい。ですから最近は、そこに人がいるのか、集まりやすいのかどうかをリサーチしてから出店をするように方針を変えました。

──出店のエリアについてはいかがでしょうか。

城戸 地域的には国内に約1,000店舗を出店しているうち関東が約385店舗と当社内では一番のシェアとなっています。また、最近は近畿、九州など西日本への出店要請が増えています。当社は東京が本社で、ダイソーさんは広島、セリアさんは岐阜と、それぞれの地域に出店していますが、現在西日本のショッピングセンター(SC)からは、ほかのSCと差別化を図る意味でも、当社に出店してほしいという依頼が来ています。飽和状況になっているところに新しい血を入れたいというデベロッパーさんの意向もあるようです。

出店戦略としては、地方でも働き手がいないエリアに関してはフランチャイズで、人の集まりやすい大都市圏は直営で出店していくという2本柱で考えています。

──今後どのエリアを中心に出店を増やしていきたいとお考えですか。

城戸 基本的には要請があった場所に出店していくという考え方です。こちらから出店を狙いにいきますと、デベロッパーさん側も強気な賃料設定をされますので、先方から要望があった地域に出していくというのが基本です。

100円に量だけでなく質を求めだしたお客さま

──商品開発の方針についてお聞かせください。

城戸 当社は約4割が日本製の製品で、メードインジャパンの商品比率が100円ショップ業界では一番高いです。中国の人件費が上がり、物流費も高騰していますので、今後もメードインジャパンの比率を高めていきたいと考えています。

もうひとつは、オリジナリティの追求です。以前はどの100円ショップもほとんど同じ店であるとお客さまに捉えられていて、ひとつの商業施設に100円ショップは1社しか出店しないものだと考えられていました。しかし、イオンモール神戸南というSCには、ダイソーさんと当社の2店舗が出店しています。今後は同業他社との差別化が必須になってきて、その最たるものはやはり商品です。ですから、当社では限定オリジナル商品の開発に一番注力しています。

競合他社が取り扱わない商品で差別化を図る。こちらはキャンドゥ限定品のパチパチブラックサンダー

──具体的に、どのようなオリジナル商品が人気なのでしょうか。

城戸 最近では、桜をモチーフにした商品や、ハロウィーン、クリスマスなど、シーズン商品が非常に売れています。

いま業界として変化しているのが、お客さまが「量より質」を求めだしたという点です。紙皿であれば無地のものだと20枚入りのところを、プリントを施して10枚で商品化する。枚数が半分になれば当社としても利益率は上がり、お客さまもプリントが入っていることで喜ばれる。相思相愛ということでこのような商品をリリースしています。お客さまが100円ショップに求めるものが、「量」ではなくて「デザイン」「質」や「品揃え」になってきているのですね。

一方で、無地の紙皿とか割り箸は当社ではあまり売れなくなってきていることからも、100円ショップに求められる商品が、消耗品ではなくて嗜好品に切り替わってきていることを感じます。

──情緒という部分をお客さまが求めるようになってきているのですね。

城戸 女性のお客さまの比率がとても上がっていまして、とくに若い世代の売上が伸びています。そういった若い女性をターゲットにした商品の開発に注力しています。

最近は当社オリジナルのスマイルシリーズなども人気です。インスタ(Instagram)映えをする商品も、商品単体ではいまいち使い方がわからなくても、インスタで使い方の実例を紹介すると即完売する、というように、見せ方によって売れ行きが変わります。(キャンドゥのインスタアカウントはこちら

キャラクターものも人気。スマイリーシリーズはキャラクターを軸にして幅広い商品展開を行う

人気ブロガーとコラボしたシリーズも非常に人気です。ブロガーのファンの方は、使うための商品だけでなく、保存用のものまでお買い求めになられることもあり、客単価が上がります。

──こうしたインフルエンサーとの連携は、御社は目立っていますね。

城戸 いろいろなところとコラボレーションするに当たり、東京に本社を置いているメリットを感じています。

インフルエンサーとコラボした商品開発が好調。こちらはしずくさんとコラボした「ほぼ100均ネイル」のネイルシール

女性に支持される商品開発は女性が担う

──現在、どれくらいの陣容で商品開発をしていらっしゃいますか。

城戸 約20人です。当社は女性のお客さまの割合が75%を超えているのですが、以前はバイヤーも商品部長も男性でした。それを、女性が買うのだからということで、女性の商品部長、女性のバイヤーに入れ替えたんです。その結果こうした商品が生まれるようになりました。以前は商品開発は社長決裁だったのですが、これは自分も関わらない方がいいなということで、私は商品開発に一切関わっていません(笑)。

──メーカーさんとの取組みはどのようにしていらっしゃいますか。

城戸 現在、当社のプライベートブランド(PB)比率は35%ほどです。100%がPBだとナショナルブランド(NB)商品を取り扱いづらくなります。ということは、逆に差別化になってはいないといえるでしょう。PBとNB比率のちょうどいいバランスがどこなのかというのは難しい問題ですが、当社としては35%がオリジナル商品、あとの65%はNBという考え方です。

──話を聞いていますと、城戸社長の就任はキャンドゥにとって大きな転機のひとつだったように感じます。商品以外の部分で大きく変えられたところはありますでしょうか。

城戸 人事面ですね。2011年に創業者である私の父が急逝し、まったく準備のないなかで私が社長を引き継いだのですが、当時の経営層は平均年齢60歳を超えていました。それを私が社長に就任して以来若返りを図ってきたのです。現在、取締役の平均年齢は42歳。IT企業ならともかく、小売業界でこれだけ若い経営層の会社は少ないのではないでしょうか。

経営スタイルというところでいいますと、創業者はトップダウンだったのですが、私はボトムアップ経営で、商品開発しかり、現場に任せるようにしています。

──大きな転換を図られたのですね。インターネット販売の広がりについてはどうお考えでしょうか。

城戸 100円ショップに関しては、イーコマース(EC)リスクというものはあまりないと考えています。また、当社でもある程度の個数を買っていただくと自宅まで送料無料で配送するネットショップを運営していて、売上も徐々に伸びています。

この業界では商品の入れ替えサイクルが非常に早く、1ヵ月で700アイテムから800アイテムの新商品を出し、同じぐらいの商品が販売を終了します。商品をどんどん改廃するので、仮にネットでアップしてもすぐに終売になってしまう。ですから、ネットでは定番の消耗品だけを販売するようにしています。一方、先ほど紹介したコラボ商品のような、数量限定の商品はリアル店舗で買っていただくようなすみ分けです。

ただし、情報発信という意味ではネットが軸になります。インスタに上げると一部のお客さまが買い占めてしまったり、商品がネットで転売されるというトラブルも起きています。

──情報発信の軸はインスタなのでしょうか。

城戸 はい。今年5月13日からはTwitterも開始しました

──SNSの影響は大きいですか。

城戸 大きいですね。インスタは3年前、まだあまりはやっていない時期に、商品部のバイヤーの女性陣が「こういうのをやってみたらいいのではないか」ということで始めました。インスタに関してはバイヤーたちに先見の明があったのかなと感じています。

Instagramを活用し、直接お客に新商品の情報を提供。フォロワー数は35万(2018年5月現在)

アルバイトからの正社員登用は離職率ゼロ

──店舗における社員の比率はどれくらいでしょうか。

城戸 いま社員が約660人いて、うち本社に約200人所属しています。直営店舗は660店舗ほどあり、社員一人が複数店舗を見ているという状況です。

──社員採用についてはどのような状況でしょうか。

城戸 現在当社は新卒採用をしていません。新卒は戦力になるまでに非常に時間がかかるという点と、離職率の高さが課題だとおもっています。募集にも大きなコストが掛かります。そこで、私が社長に就任してから方針を変えまして、新卒採用は一切やめて、キャンドゥのアルバイトから社員を登用するようにしました。今年は25人採用したのですが、この5年間で彼らの離職率はゼロです。キャンドゥでアルバイトをすることで、キャンドゥの社風ややり方を理解して入ってきてくれるので、辞めないわけです。かつ、即店長ができますし、相思相愛です。

──20代、30代が中心なのでしょうか。

城戸 いえ、今年は50歳の人もいました。こうした採用方法は独特らしいですが、アルバイトから社員になると待遇もよくなりますし、賞与も出るようになります。そういう姿を見て、ほかのアルバイトが私も社員になりたいと、いい循環が生まれてくるわけです。ですからこの5年間で、合計100人ぐらい採用しました。

生活のインフラとして食品も取り扱い続ける

──今後の展望をお聞かせください。

城戸 私は、キャンドゥを生活のインフラにしたいと考えています。

たとえば、食料品は粗利率が低いので、扱っていない100円ショップもあります。ですが当社は、利益も大切にしますが、生活のインフラであるという点も重視したいと考えています。東日本大震災のときには、食料品が飛ぶように売れました。東北地方のキャンドゥでは食品を無料提供したりして、困っている方をサポートするようなこともできました。

この業界は以前よく、デフレの寵児と呼ばれていて、インフレになったらダメになるなどといわれていたのですが、デフレから脱却した現在でもちゃんと業態として存在しています。出店も業界としては増えています。業界全体としても生活のインフラとなっていて、今後も100円ショップ業界がなくなることはないと考えています。

──現在なくなりつつある文房具店や駄菓子屋、金物屋などを100円ショップがカバーしつつあるということですね。今日は大変興味深いお話をありがとうございました。

企業概要

    • 企業名
    • 株式会社キャンドゥ
    • 本社所在地
    • 東京都新宿区北新宿2-21-1 新宿フロントタワー 33階
    • 年商
    • 688億2,900万円(連結 2017年11月末)
    • 従業員数
    • 正社員 632人 アルバイト 3,554人(1日8時間換算)( 連結 2017年11月末)
    • 店舗数
    • 1,000店舗(2018年5月末)