料理を口にする瞬間が想像できる「見せる」売り方

「冷食」の認識を変えて成長を続けるイギリス冷凍食品専門店「ICELAND」

欧米の家庭では、簡単調理ができ、長期保存がきく冷凍食品の需要が高い。世界には、日本にも進出したフランスの「Picard」(ピカール)をはじめ、冷凍食品専門スーパーが少なくない。今回は、イギリスの冷凍食品専門店スーパーマーケット「ICELAND」をレポートする。(ライター:宮原智子)

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冷凍食品マーケットをリードする英国冷凍食品専門店「ICELAND」

1970年創業の「ICELAND」は、イギリスのウェールズ北東部フリントシャーに本拠地を置く冷凍食品専門店だ。ICELANDの名の通り、店内商品の50%以上を冷凍・チルドが占める同社では、2019年8月現在、英国全土に900店舗以上、ヨーロッパ全体で40店舗以上を展開する。

創業以来成長を続けるICELANDでは、これまで冷凍食品の安全性や利便性に対するさまざまな取り組みを行ってきた。1980年代には競合他社に先駆けて、自社ブランド商品からの人工着色料や化学調味料、遺伝子組み換え成分を排除。1990年代には英国で初の配達サービスを開始し、2000年代にはたびたびオンライン・スーパーマーケット・オブ・ジ・イヤーに選出されるなど、英国の食品小売業界を常にリードしている。

冷凍食品の安全性・利便性などを訴える「BECAUSE IT’S FROZEN」

同社の「Power of Frozen」というマーケティングキャンペーンも興味深い。「Because It’s Frozen」ホイール図を通じ、冷凍食品の品質・利便性・健康への影響など、冷凍食品が消費者と環境に与える8つの利点を提示。冷凍食品に対する消費者の認識改善に努めている。

冷凍食品以外に青果・飲料なども取り扱う

通路はショッピングカートがすれ違うに十分の広さ。

取材に訪れたロンドン市内のキルバーン・ハイストリート店は、住宅街に隣接するハイストリートに位置する。キルバーン・ハイロード駅にほど近く、高級スーパーのマークス&スペンサー、庶民派スーパーのセインズベリー、ドラッグストアのブーツなど、小売業の店舗が点在する賑やかなエリアだ。

店内レイアウトはコの字型となっており、入り口に対して右側には野菜や果物などのフレッシュフードが。店舗突き当たりの壁一面がチルドコーナーとなっており、左側に飲料などの冷蔵コーナーが配置されている。フロア中央部分は4列に区切られ、うち3列に冷凍平ケースが並び、残り1列にはグロサリーが陳列されている。通路はショッピングカートがすれ違うことができる、ゆったりした設計だ。

肉類、下ごしらえした野菜、加工済み商品まで品ぞろえが豊富。

ICELANDで扱われている商品はバラエティに富んでいる。冷凍食品は、アイスクリームなどの冷凍デザートはもちろん、野菜、肉類、魚貝類、ハンバーガーやピザなどの加工済み食品などを販売。ミートパイやフィッシュ&チップスなど、イギリスならではのフードも充実している。非冷凍食品は野菜や果物などの青果物、飲料、酒類、日用品といった、通常のスーパーと変わらぬ品ぞろえ。冷凍:非冷凍の比率は6:4ほどだ。

割安感があり、キリのよい値付けで利用しやすい。

価格帯は1ポンド、2ポンド、3ポンド…と、いずれもキリのよい値段が目立つ。加工済み食品のメインディッシュが2ポンド(約257円)、牛肉ミンチが780グラムで3ポンド(約385円)と非常に安価(レートは2019年8月5日時点のもの。1ポンド=128.38円)で、スーパーマーケットの惣菜コーナーで惣菜を購入するよりも割安感がある。

調理の手軽さ、味わいも申し分なし。

この日はイチオシの商品としてピザが2ポンドになっていたので購入してみた。包装容器から取り出し、冷凍のままオーブンへ入れて焼くだけという手軽さ。焼き上がりはデリバリーピザと変わらないおいしさで、コストパフォーマンスの高さに驚いた。

時代のニーズをつかんで「見せ方」で売る

できあがりイメージが想像しやすいパッケージ

日本では、冷凍食品について「手抜き料理である」「おいしくない」というイメージがまだまだ根強い。商品の種類はお弁当向けが中心で、それ1つでメインディッシュとして食卓へ出せるようなメニューは少ない。

ICELANDを訪れて感じたのは、品ぞろえの豊かさもさることながら、「おいしそう」「食べてみたい」と思わせるパッケージデザインの訴求性だ。日本の冷凍食品は「じゅわっ」「旨っ」「やわらか」など、文字情報で商品の特徴を表すデザインが多い。一方で、ICELANDの商品は料理の画像がパッケージのメインになっている。できあがりがリアルに想像でき、購買意欲が刺激される。

「夫婦共働き」「ワーママ」「時短」といったキーワードが並ぶ現代だからこそ、冷凍食品の持つ伸びしろは大きい。時代のニーズをつかむためには、冷凍食品に対する消費者の認識をいかに改善するかが重要だ。料理を口にする瞬間が想像できる「見せる」売り方は、1つのヒントになるのではないかと感じた。