データ分析で把握されたKBFとは??

マツモトキヨシHDのPB開発軸は「らしさ=革新性」

プライベートブランド(PB)を扱うドラッグストア(DgS)は数多いが、その「ブランディング」までを考察し、実践につなげている企業はまだ少ない。そんな状況下において、先端をいく企業のひとつといえるのがマツモトキヨシホールディングス(HD)だ。同社のPB「matsukiyo」は独自のカラーを備え、確かな「ブランド」として立っている。追従する企業も数あるなか、マツモトキヨシHDは今度どう活動し、新たな商品を展開していくのか。(月刊マーチャンダイジング2019年11月号より転載)

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「matsukiyo」への転換完了
ニーズへの対応をさらに強化

PBの開発・発展の流れは、おおむね以下のようになっていることが多い。まずはナショナルブランド(NB)の模倣をする期間があり、その後独自の付加価値を追求する時期があり、やがてPBをひとつの「ブランド」として立たせる時期がくる。この流れに沿い、近年ブランディングについて深く考える時期まで到達したのがマツモトキヨシHDのPB「matsukiyo」である。

マツモトキヨシHDには、「MKカスタマー」というPBが存在しており、そのブラッシュアップを昨年完了。現在は「matsukiyo」ブランドとして新たに展開している。つまりこれは、ある意味同社PBが生まれ変わり、今年から再スタートを切ったことを意味しているといえるだろう。

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▲開発したPBを売場でもしっかり訴求。
フェースを取って固まりで見せるほか、突き出しPOPを付けることで、どこにPBがあるのか一目でわかるようにしている

「matsukiyo」が特徴的なのは、NBなどマスブランドでは取り逃がしがちになるニッチなニーズに対応する、小回りの利く商品を展開、ヒットを生み出しているところだ。往々にして、PBはNBよりもリーズナブルであることが差別化のポイントになっているが、マツモトキヨシではNBなどが手をつけていないベネフィットを手掛けることを狙っている。

「現時点で、自社PBのブランディングはある程度完了したといえるでしょう。そのうえで、今度は顧客のニーズをどうかなえていくか、それを考えるのが次のステップ。ブランディング+データの活用を実現させたPB開発を現実化させていくのが、いま私たちが向き合うべきフェーズと考えています」(執行役員 営業企画部長 松田崇氏)

開発担当者が購買データ分析
客層の傾向からトレンド予測

「顧客のニーズ」というと、店頭で得られるお客の声を中心に読み取っていくものと考えられがちだ。しかしマツモトキヨシHDでは、そのほかにもECを含め、個人に紐付いた購買データを収集・分析して意見や傾向を読み、今後のトレンド予測を行っている。その中で、とくに状況を読み解きやすいのは、PBリニューアルに際して生まれたビフォー・アフターのある商品だという。これらはリニューアルのプロセス中に目にしたデータから、新規開発のヒントを多数発見できるからだ。

「かといって、社内にデータ分析専門の部署があるわけではありません。その代わりPB開発担当者がそれらデータを読み込み、次の予測を立てるのが業務の一環となっています」(松田氏)

加えて開発担当者はリリースを発行し、社内メディアを活用したPRも行い、プロモーション担当者と連携しながらプロモーション計画を立て、実践する。そして最終的な店頭での販売というプロセスまで、一気通貫でプロデュースを行うのだ。

「昨今の市場は、いい商品をつくれば売れる、という単純なものではありません。そのよさを顧客に、あるいは各店舗従業員にも理解してもらい、売上につなげていかなければならない。つまり、すべては『掛け算』で進行しているといえるでしょう」( 松田氏)

そしてその際留意されるのは、新たな商品が「matsukiyo」らしさを備えているか、そのベースにデータの裏付けがあるかどうかだ。この2つがセットになったとき、はじめてヒット商品が生まれるといえる。

では「『matsukiyo』らしさ」とは一体何か?

これは「革新的」という一言で表現することができるだろう。その好例が「EXSTRONGエナジードリンク」。

パッケージと中身のドリンクの極端な色の違い、味わい、含有成分量の多さなど、複数の「驚き」を持ったこの商品は大きなヒットを飛ばし、現在エナジードリンク類の中でトップの売上を誇っている。

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▲Twitterで火が付き、大ヒットしたエナジードリンク。
今秋は、昨年好評だった期間限定のドリンクのほか、カフェイン量が同量のタブレットを発売。自社がつくり出した資産を有効活用している

「顧客にどれだけの驚きが与えられるか、それはマーケティング上も必要なことです。それが『買いたくなる衝動』となって顧客に響く。商品自体に自信があっても、それだけでは足りない。驚き、革新性を持たせるというマーケティングを実践しなければ、これだけの結果にはつながらなかったかもしれません」( 松田氏)

カテゴリーにとらわれず
テーマを掲げて開発を進める

「EXSTRONGエナジードリンク」の例を見てもわかるように、マツモトキヨシHDはあえてレッドオーシャンに乗り込むこともいとわない。むしろ、KBF(重要購買決定要因)を正確に把握し、それを商品に盛り込むことができるか否かに注力している。同時に、これまで考えられてきたようなカテゴリー単位での商品強化からも一歩引いている。その代わりに重視しているのが、先にも述べたデータから読み取るニーズやトレンドの傾向だ。

たとえば「美」というテーマで考えていくと、従来であれば化粧品類のカテゴリーを充実させるというのが王道であろう。しかしマツモトキヨシHDでは、あえてカテゴリーにこだわることなく多角的に「美」を追求。その結果、近年では女性向けのプロテインがヒットした。

「プロテインは健康食品の位置付けになりますが、多くの女性はこれを飲むことで筋肉をつけ、理想とする美しいボディを手に入れたいと望む。つまり、利用目的としてはビューティになる。こういったヒット商品の生まれ方は、比較的最近の傾向ではないかと考えています」(松田氏)

正統派の化粧品であれば、コストパフォーマンスの高いオーガニック製品など、NBがあまり手掛けない領域で商品を展開、そこにDgSとしてのマツモトキヨシらしさを見せている。

また最近では、10月11日に日用雑貨カテゴリーでもはじめてのPB商品「レプリカノーツ」を発表。その第一弾として、ファブリックミストと柔軟剤を発売した。これもカテゴリーとしては日用雑貨であるが、テーマになっているのは香りという「美」。ファッションや香水を楽しむように、日常において洗練された香りを楽しみたい客層がターゲットとなる。ここからも、「美=化粧品」にとらわれない、マツモトキヨシHDの姿勢が見て取れる。

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▲「matsukiyo」とは別ラインで、10月から発売される新PB「レプリカノー
ツ(Replica Notes)」。ファッションと同じ感覚で“洗練された香り”を楽しむアイテムを展開。

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▲第一弾は、ファブリックソフナー(柔軟剤)税抜き665円(600mℓ)、ファブリックリフレッシャー(ミスト)税抜き480円(300mℓ)(600mℓ)、ファブリックリフレッシャー(ミスト)税抜き480(300mℓ)

そんな同社のPB比率は、2019年6月末時点で10.4%ほど。HD小売売上の14%がNBを好むインバウンドが占めていることを考えると、数字以上の割合であるといえるだろう。この数値はいまも伸長傾向にあり、今後さらに高めていきたいとの意向である。

「開発チームも中長期戦略を練って業務に取り組んでいます。現時点で、自社PBのアイテム数は約1,500点。これだけのSKUを持っているメーカーは少ないでしょうし、そこからさらに新しい商品を生み出しつつ、的確なリニューアルを実践していくのは大変な作業です。それでも、私たちは年ごとに売上を伸ばし、ヒット商品を生み、そしてなにより商品として進化していくPBをつくり続けていく。それが今後のマツモトキヨシHDのPB展開の方向性だといえます」(松田氏)

<取材協力>

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執行役員
営業統括本部 営業企画部長
松田 崇氏