採用難時代のES向上 25社アンケート①

[小売業働き方改革のリアル] 労働時間削減に8割弱が肯定も、残業代減への不安残る

働き方改革法成立から約1年が経過した。月刊MDでは、昨年10月号に続き、ドラッグストア(DgS)および小売業各社にアンケートを実施。同改革に対する見方や各施策の取り組み状況について、25社から回答を得た。本稿では、ES(従業員満足)向上のための「働き方改革」実行のヒントについて解説していく。(月刊マーチャンダイジング2019年8月号より転載)(分析・執筆/社労士事務所ワークスタイルマネジメント・小林麻理 調査/月刊マーチャンダイジング編集部)

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「働き方改革はES向上に寄与する」と7割の企業が考える

Q1:「働き方改革」はES向上に寄与するとおもいますか?

フリーコメントを一部紹介する。

◆大いに寄与する

働き方に対して会社が関心を持っている、イコール従業員の生活に関心があるということ。働き方改革へのメスを入れることは従業員に対するアピールにもなる。

◆どちらかといえば寄与する

有給休暇によって減った労働時間をおぎなうために、残業や応援による負担が増えることも予想される。とくに薬剤師や登録販売者などの資格者のカバーはだれでも行えるわけではないため、偏った負担が生じないように相互協力が一層不可欠である。
働き方そのものが本当に変わらなければ(作業効率アップなど)どこかにしわ寄せがいく可能性がある。

◆どちらともいえない

実際の業務量は決して減っていない。以前より社員の「働き方」は意識しており法制化されるされないはあまり関係ないとおもわれる。
強制力を持って有給を付与するため、現在適正に管理している職場においてはかえって残業が増えるなどの弊害が発生し、困惑している業態があるはず。
従業員満足度の上位は給与の維持・向上。働き方改革を実行するための必要な設備投資費の捻出をするには、販管費を抑えるもしくは下げる必要が出てくるため、どちらともいえないを選択。

◆どちらかといえば寄与しない

実施方法による。仕組みを変えずに時間の削減だけしても、仕事を持ち帰ることになり、働き方は変わらない。

掛け声先行に疑問の声も

「大いに寄与する」+「どちらかと言えば寄与する」が7割強(72%)を占めた。ただし、企業の具体的な声を見ると、残業削減や休暇取得の土台ができていない(業務量が減っていない)にもかかわらず制度が先行することで、かえって現場に負担が生じることを苦慮する現状がうかがえる。働き方改革法の成立から施行までの期間の短さも、現場での混乱を招く一因になっているだろう。

一方で、ES向上のための「働き方改革」は、本来、国が主導で(上からいわれて仕方なく)実行するものではなく、企業が主体的に実施すべきものともいえる。実際、「以前より働き方は意識しており、法制化されるかどうかはあまり関係ないとおもっている」という声もあった。

いままで、ES向上のための「働き方改革」を意識してこなかった企業も、今回の法律をきっかけとして、今後は、自社と従業員のための取組みとして積極的に実施したい。

Q2:「働き方改革」や「働き方」に関する法律対応に関連して、すでに自社で取り組んでいるものはありますか?または取り組む予定のものはありますか?

労働時間削減から同一労働同一賃金の検討へ

2019年4月から適用が開始された「有給取得の義務化」「残業上限規制」などに対応する取組みは、ほぼ全社が実施中という結果になった。

また、ほぼ全社が取り組み中か取り組み予定だったのが「多様な正社員」制度だ。ライフスタイルに合わせ、時間や地域を限定して働きたいというニーズは大きい。人材確保の面でも、ぜひ実施したい制度である。

そして、取り組み予定の企業が多かったのが「同一労働同一賃金」対応だ。いよいよ、同施策の検討フェーズに入ったことがうかがえる。

労働時間削減に対し肯定的な意見の裏に、残業手当削減への拒否感も

Q3:Q2で労働時間削減に取り組み中/取り組み予定と答えた方にお聞きします。どのような手段で労働時間を減らしていますか?または、減らすために取り組む予定のものはありますか?

進む効率化の一方で営業時間縮小も検討

自動発注システムやセルフ㆑ジ、ITツールの導入など、業務手順や業務量削減に直結する取組みを実施している企業は多かった。こうした「投資」は、省人化・効率化という観点(経費削減)だけでなく、マーチャンダイジング(MD)の精度やサービス、顧客満足の向上(売上増)や、従業員の働きやすさの向上といった観点からもぜひ取り組みたい。

そして、営業時間縮小を検討している企業も一定数ある。とくに深夜を含む長時間営業の費用対効果(以前と同様なのか)は、この機会に検証する価値はあるだろう。

Q4:労働時間の削減に関して従業員の反応はどのようなものですか?

以下に企業からのフリーコメントの一部を紹介する。

◆どちらかといえば肯定的である

一部残業手当が減ることへの不安がある従業員も存在する。
責任感の強い従業員は、時間短縮で仕事の精度が下がることを懸念している傾向が見受けられる。
時間外業務に関しては減らしたいと考えているため肯定的である。一方で対患者さまの調剤においては患者さまの来局次第で業務延長が生じるため、労働時間を減らすことが困難だと考えている従業員が多い。
採用や業務の効率化が進まなかった場合負荷が増えるなどを不安視したり、残業代が減ることを危惧する従業員はいる。

◆どちらともいえない

労働時間の変更に伴い、作業内容の変更および課せられる業務が増えるなどの弊害が起こる。または労働時間の削減に伴い、収入が減少する人が発生して困っている。
人手不足、資格者不足などで店長などは稼働計画づくりが難しくなるのでは…。

◆どちらかといえば否定的である

残業代が生活給の一部になっているから。
「残業代が減る」「残業した人は頑張っているので評価する(一部上司)」「業務量は減っていない」などの理由により、会社としての取組みと労働側の実態が合致しておらず、不満が出ている状況。

8割弱「肯定的」も作業品質低下や残業代減への不安残る

「非常に肯定的である」+「どちらかといえば肯定的である」が8割弱(76%)を占めたが、接客・作業品質の低下や、残業代減への不安を感じている従業員を心配する声も多い。

IT投資や業務量の見直しなど、(掛け声だけではない)組織の取組みとして残業を減らし、削減した残業代は広く従業員へ還元するという、従業員のための「働き方改革」を目指したい。

調査概要

  • 調査時期/2019年6月
  • 調査方法/無記名式書面アンケート
  • 有効回答数/設問によって異なる(各図表に明記)
    ※グラフ表記については、小数点以下四捨五入のため、100%にならない場合もある。

回答者属性

  • 協力社数/25社ドラッグストア22社、食品スーパー1社、総合スーパー1社、ホームセンター1社
  • 対象者/人事もしくは労務部門の責任者、総務、店舗運営部門などに所属する担当者(各社1名が回答)