続々と多店舗展開企業での導入が進む
「RURA」を使えば対面と変わらないサービスが可能だという。株式会社ランシステムが運営するネットカフェ「自遊空間」ではリモートセンターから30店舗に対して3人で接客を行なっており、受付業務の大幅な省人化に成功している。JR東日本ホテルメッツでは、今年4月の秋葉原店、五反田店への導入を皮切りに、現在では8拠点の受付で活用している。
ケイアイスター不動産の子会社であるCasa robotics株式会社では不動産内見の無人化を進めることで客の滞在時間が増し、成約率が2倍になったという。京都の弁当チェーン・太秦弁当村でも活用されている。また、富士フイルムビジネスイノベーション株式会社とは街ナカに設置されている個室型ワークスペースを遠隔接客を使って様々な種類の店舗にするという実証実験を進めている。
貨幣処理機メーカーのグローリー株式会社とも提携しており、金融機関や流通小売店、飲食店などにおける店舗運営の効率化と接客レベルの維持を両立したコンタクトレス、セルフ化店舗への対応を目的として、自動つり銭機、自動決済端末などセルフ型製品を組み合わせたソリューションを開発中だ。
このほか歯科医院や、コワーキングスペースなど、様々な業態に遠隔接客サービスを導入している。コロナ以降、これからの店舗はどうあるべきなのか。「多くの店舗経営者が、無人化・省人化を考え始めている」と語るタイムリープ株式会社代表取締役の望月亮輔氏に話を伺った。
遠隔接客サービス「RURA(ルーラ)」開発の背景
タイムリープ株式会社は2019年6月創業。現在4年目を迎えている。「最も大切なことに時間を使える世の中」の実現をビジョンとして掲げている。
「RURA(ルーラ)」開発の背景にあるのは人手不足だ。2030年にはサービス業だけで400万人の人手が不足すると考えられている。これにより採用が難しくなり、人件費が上がり、店舗経営が困難になると思われる。その流れのなかで一人一人が倍以上の力を発揮できるような仕組みが必要だと考えて「RURA」を開発したという。
望月氏の前職はロボット専門媒体の編集長。当時、ソフトバンク「Pepper」などが多くの店舗に一時的に採用されはするものの、その後、使われなくなっていった経緯を見て、ロボットやAI技術の限界を知った。サービスロボットは根本的には人手不足対策となることを期待されていたが、期待に応えることができなかった。そこで、同じくらいの費用感で人が接客するのと同様のサービスを効率良く提供できないかと考えて、遠隔接客サービスの開発に至った。
「RURA」の基本機能
「RURA」の特徴は「最小人数で最大店舗数の接客を行うことができるところ」(望月氏)。店舗にはモニターが設置されており、そこに遠隔から人が顔出しをして、接客する。
遠隔地にいる接客スタッフが通常見ている画面は「待機画面」と「接客画面」に分かれていて、その二つを行き来することで複数店舗の接客を行う。待機画面には担当する複数店舗からのリアルタイム画像が映っている。店舗側に来客があると、現地の動体検知センサーが働いて、画面上で色を変えて接客スタッフに通知する。スタッフは該当の店舗映像をクリックすると、その瞬間に店舗側のモニターに接客スタッフの映像が映し出されて「いらっしゃいませ」と接客を開始することができる。
最小人数で最大店舗数の接客を実現するための機能設計
接客サービス開始前の状態のモニターには、通常はサイネージなどが映し出されている。来客でセンサーが反応すると、上記のような流れで接客画面に移行し、スタッフが出てきて接客を行う。そのほか、画像を切り替えながら、接客画面で選択した画像や動画を店舗側に表示させることもできる。
また、スタッフは複数拠点を飛び回るので、店舗ごとの要件をまとめた簡単なメモをつけておき、そのメモを見ながら接客することもできる。接客が終わったタイミングで記録を行い、あとでその分析画面を閲覧することもできる。
複数店舗対応なので「3人しか待機していないのに4店舗に来客が来てしまった」といったケースもあり得る。控えているスタッフに余力がない場合は、特定の待機画面やサイネージなどを提示することができる。それによって来客は、スタッフが今は対応できないことがリアルタイムで把握できる。
遠隔地から現地端末を代理操作可能
「RURA」の特徴の一つが「機器のリモートコントロール機能」だ。遠隔地に置いてある端末を遠隔スタッフが現地画像を見ながらリアルタイムにコントロールできる。たとえば自動チェックイン機器を入れても、現地スタッフが来客への説明係になってしまっているケースがある。これでは業務を省人化できない。リモートコントロール機能を使うことで現地の様子を遠隔スタッフが把握しながら代わりに操作することができるので、より効率的に接客ができるようになる。様々な機器と連携できるという。
通知サポート機能もある。スタッフは接客以外のPC作業をしていても、ウィジェットを使って通知が出せる。これによって常に映像を見ているスタッフだけでなく、他の作業をしているスタッフもRURAの待機画面に入って接客が可能になる。「最小人数で最大店舗数の接客をする」ための機能だ。
顧客体験と安定性を重視、現場には什器込みで導入も
ディスプレイサイズは基本的には27型を採用しているが、店舗に合わせて変更可能だ。店舗側に表示されるデバイスの画面は、縦型・横型、顔出しのほかアバター型も選ぶことができる。遠隔接客ではCGアバターを使っている会社も多い。タイムリープでもCGアバターにも対応しているが、ABテストを行うと圧倒的に人が顔出しして接客するほうが高評価になることが多く、顔出しを薦めているという。やはり、人に接客してもらいたいということなのだろう。
システムの最小単位は、マイクロPCとモニターとカメラ(動体検知、接客用)である。PCにはLinuxをベースに独自開発した「RURA OS」がインストールされており、現場に合わせて什器によるカスタマイズも可能だ。他の遠隔接客サービスの会社ではソフトウェアだけを提供していることが多いがタイムリープでは「遠隔接客でもっとも大切なことは安定性。24時間365日、接客できないタイミングを生まないことが重要」と考えて、ハードウェアごと提供している。
現地端末には来客を捉えるためのカメラ・センサーだけでなく、手元など、必要に応じて様々なカメラをつけて切り替えることもできる。このハードウェアやユーザーインターフェースの仕様は、望月氏ら自身がユーザーになって、実際にコワーキングスペースでの受付を遠隔接客で行うなどして絞り込んでいったという。自分たちで使いながら画面も作り込んでいき、様々な業態に使ってもらうことで、ユーザーエクスペリエンスを確立していった。
重視しているのは「最終的な顧客体験」だ。接客スタッフの使い勝手だけでなく、来店顧客の体験が良くなければ意味がない。顧客体験をよくするために、いかに直感的に使える仕組みにするかを重視して、センサーやカメラの台数なども決定していったという。
なお機器の保守管理は、遠隔で対応できる範囲は即時対応する。それでは対応できないトラブルの場合は機器ごと送り返してもらって交換することで対応している。今後は全国に拠点を持つ企業と提携して進めていきたいと考えているとのことだ。
運用のためのコストは、初期費用+月額費用。導入店舗数によって費用は変わる。
導入効果を鑑みると、極端に店舗あたりの接客数が多い場合を除き、多くの場合0.7人分程度の運営費ダウンには繋がると望月氏は言う。
「遠隔からの機器操作」と「複数人による複数店舗対応ができる」ことをグローリーも高く評価
RURAの特徴の一つが「一人のスタッフが複数店舗を見る」だけではなく、「複数のスタッフが複数店舗を見る」ことで、より少ない人数で最大店舗の面倒を見られる点だ。
この点を、業務提携しているグローリー株式会社国内カンパニー営業本部マーケティング統括部マーケティング部マーケティング2グループ専門課長の野本英雄氏は高く評価する。同社は貨幣処理機メーカーの立場から、店舗運営の効率化と接客レベルの維持を両立、そして非接触化とセルフ化を考慮すると、数ある遠隔接客サービスのなかでもとりわけ「RURA」が親和性が高いだろうと考えて、顧客に対して提案活動を行なっている段階だ。ちなみに顧客からはZoom等のウェブ会議システムとどう違うのかと聞かれることが多いが、「繋ぎっぱなしのそれらとは違う」と説明しているという。では、野本氏はユーザーの立場から見て「RURA」の何を評価しているのか。
野本氏は「端的にいうと3つの特徴がある」と語る。まず第一は、機器との連携だ。「遠隔操作ができる点が素晴らしい」という。グローリーでは、例えば金融機関向けであれば出納機器や受付処理機、リテール向けでは券売機や病院の精算機、レジを経由した釣銭機など、各種店舗フロント系の機器がラインナップされている。同社でも以前から、保守の観点からも「各種機器を遠隔から操作できれば」とは考えていた。その視点から見てもタイムリープの技術は良いという。
2番目が「N:N、複数人と複数店舗対応ができる仕様」だ。様々な遠隔接客サービスがあるが多くは「1:N」、たとえば「1人が10店舗を見られる」といったアピールをすることが多い。それに対して「RURA」は、複数人が複数店舗を見ることができる。
野本氏は「これは非常に素晴らしい」という。なぜなら「そのときどきによって、チームワークを組むことができる」からだ。「RURAを使うことで、忙しい時間帯でも柔軟にシフトを組んで対応できる。リアルなお店では当たり前にできることだが、それをネットでも実現できている。この点を我々も高く評価して、顧客にもアピールしている」と野本氏は語る。
カスタマーサクセスを重視
そして3番目は、タイムリープが導入前後における対応のためにカスタマーサクセス部門を持っていることだ。「チャーン(解約)を避けるためには、カスタマーサクセスは非常に重要。これがクラウド系サービスには極めて重要な組織体制だと考えている」(グローリー野本氏)。
カスタマーサクセス次第で、導入したものの続かない、いわゆる実証実験止まりに終わってしまうことを回避できる。タイムリープの場合は1店目に導入後に他店舗へと横展開できているユーザー事例が多く、その理由はカスタマーサクセス部門が丁寧に対応しているからだと考えているという。
タイムリープの望月氏も「カスタマーサクセスには、かなり注力している」と語る。実は最初のころはカスタマーサクセス部隊なしで回していたが、なかなか活用が進まなかった。そこで顧客のオペレーションを理解することが重要だと判断。「遠隔接客のプロとして、どういった場所に遠隔接客を組み込むと、うまく動くかに注力するようになった」(望月氏)。
具体的には、顧客が来店後に実際に何をしているのか、それぞれ異なる接客業務を詳細に整理・分析。それに合わせて従来の対人接客と変わらないような遠隔接客オペレーションを提案している。たとえばホテルの顧客の場合は、初期は毎日のようにホテルに足を運び、連日PDCAをずっと一緒に回して改良を行なったという。
なおグローリーの野本氏によれば、実際の導入にあたっては「設置する場所の決定に時間がかかる。体験に関することなので機械を持ち込んで確認する必要がある」という課題もあるという。
遠隔接客と他ソリューションの組み合わせによる新たな可能性
小売店舗での「RURA」活用の可能性についてはどうか。望月氏は「ものすごく大きい」と語る。たとえばセルフレジの使い方を案内したり遠隔から補助することは可能だ。ただし、遠隔接客を導入することで実際にどのくらい売上が上がるのかは今後の課題だ。
ドラッグストアでは、化粧品とヘルスケアの2分野で取り組みたいと考えているという。たとえば化粧品ではテスターを使った販売等において、「RURA」以外のソリューションも組み合わせることで可能性があるのではないかと語る。たとえば、特定ベンダーと組むことで、より細かく肌理を見たり、肌年齢を計測するといったサービスが可能になるのではないかという。
薬剤師が必要な第1類医薬品の販売については「今はまだ法的にグレーゾーン。これから法整備がされていくのではないか」と語る。薬そのものの管理の問題とセットして解決しなければならないからだ。その問題を例えば小型自動倉庫のようなソリューションと組み合わせ、さらに遠隔からの指導でも十分となれば、夜間の販売はもちろん、地方の薬剤師不足にも対応できる可能性がある。
店舗の本質的な価値は何か、捉えなおす機会に
タイムリープでは、業種を超えてオペレーションが共通しているところに注目してアプローチしていきたいという。たとえばビジネスホテルとカラオケは業種は全く違うが、受付以降の流れはほぼ同じで、どちらも遠隔接客が活用できる可能性が高い。こういった業種に注目し、より多くのチェーン店舗を持っているところにあたっていく。
もう一つは無人店舗だ。無人店舗というと、餃子の冷凍販売のような店舗も増えているが、ニーズは物販のための無人店舗だけにあるわけではない。たとえば昨今では葬儀屋のような業種にも無人化のニーズがあるのだという。家族葬のような小規模な葬儀が増え、小さな葬儀場が急増している。会場下見には、1日2〜3組くらいしか来ないが、これまではその下見にいちいち人員を割いて応対をしており、その人件費が悩みの種だった。そこに遠隔接客をソリューションとして投入できるのではないかというわけだ。望月氏は「無人という文脈では様々な業種から話が来ている」と語る。
「コロナ以降、『店舗の価値』をみんなが考えるようになった」と望月氏は言う。「そこにあの広さで店舗がある意味はあるのか、駅ナカの一坪店舗でも良いんじゃないかといった話から無人化に繋がっている。さまざまな業界で雇用管理も含めて、一番コストがかかるのが人件費。遠隔で、無人で運用できないかと多くの人が考えるようになっている」(望月氏)。
遠隔接客によって意外な変化が起こったり、今は考えられていないような新たなサービス業態が生まれるのかもしれない。タイムリープでは2025年までに1万店舗での活用を目指している。