[レジ業務改善]アプリのUI改善でレジ業務の負荷を軽減する
レジ業務は店内作業の3分の1程度を占め、ここをいかに効率化させるかが業務全体の効率化、コスト削減に与えるインパクトは大きい。コンビニなど売場面積が狭く在庫数千SKUという業態では無人レジの採用を本格化させている。一方で、売場面積が300坪を超え、在庫するSKU数が1万5,000~2万という店舗タイプを主力とするドラッグストア(DgS)では無人レジは道半ばである。
最近は決済手段の多様化、ポイントアプリ、クーポン発行の増加などで、レジ業務の負荷は大きくなる一方である。処理に手間取ればレジ待ち時間は長くなり、お客、従業員ともにストレスの原因にもなる。
これを改善するために藤田氏は小売アプリの機能、UI(ユーザーインターフェース/画面設計、デザイン)改善を提唱する。小売業のアプリは「物理的なポイントカードをスマホの中に収めましょう」というアプローチでダウンロードを促進してきた。ポイント付与機能の次のステップとして、クーポン発行、決済などアプリは多機能化しつつある。これらをなるべく少ないアクションで実行できるようアプリの機能、UIを設計するというのがその主旨だ。
「現在、多くのDgSのレジ前でお客様はポイント付与のために小売業アプリを立ち上げる、他社のポイント付与のために別アプリを立ち上げるなど、少なくても2つから3つのアプリの立ち上げが普通になっています。私たちが立ち上げから共同で開発したサツドラ様のアプリでは、ひとつのアプリでポイント付与、クーポン利用などなるべく少ないアクションでできるようUIを設計しました、一部の他社ポイント付与も別アプリを立ち上げることなく、自社アプリを起点にできます。自社アプリ内に他社のポイント付与へ遷移できるボタンを付けたDgSのアプリは増えています。ファミリーマートが発行している電子マネー『ファミペイ』は、決済とポイント付与が同じバーコードで可能です。1回当たりのアプリ操作の時間が軽減できれば、チェーンストアなら1日、1店舗で1,000人、全店で×1,000といった改善効果が現れ結果的に膨大な時間の効率化につながります」(藤田氏)
藤田氏が指摘するように、アプリのUI改善で仮に10秒の操作時間短縮が実現すれば、1日1店舗で該当件数が100件あったとすると、1,000店舗のチェーンなら企業全体で年間(365日)10万時間以上の時短効果を生む。小売業アプリは、顧客サービスとしての機能に加え、今後は「レジ作業軽減」という視点からの開発が大きな焦点になるだろう。
[品出し・補充作業の効率化]店内の全棚を住所化 補充場所の特定で作業改善
DgSは食品の売上構成比の増大や人手不足などで、品出しが開店まで間に合わず、不完全なコンディションで開店せざるを得ないという状況が頻発している。この改善にDXでできることはあるか。藤田氏はその一助になる方法として、RFIDタグやバーコードを使った店内の可視化サービスを挙げる。
RFIDにより位置特定技術を提供するRFルーカス社は、このようなサービスを実施している。このサービスでは、店内の棚すべてにRFIDタグもしくはバーコードを貼付。これを専用スキャナーで読み込むことで、売場すべてを住所化(データ化)して、システム的に管理できるというものだ。
ごく簡単に例えれば、入口側のゴンドラから1番、2番、3番と番号を振り、レジ側から各棚にA、B、Cと記号を付ければ、一番入口側のゴンドラ一番手前の棚には「1-A」という住所が与えられ、同じ要領で店内全ての棚を住所化できる。これをスマホや端末で一覧で見ることができ、本部での一括管理や店舗での管理も可能。
品出しの際には、折りコンに棚の住所を入れる、補充先を示した売場レイアウト図を作業者に渡すなどすれば、経験が浅くても担当する商品をどこに補充するかが容易に分かり、作業効率は上がる。棚位置情報をスマホへ送信するなど、やり方次第ではシステム的な活用法も可能だ。
RFルーカス社では商品にもRFIDタグを付けることで、在庫の位置、数量をセットで可視化できるサービスを提供している。コスト面を考えてバーコードを利用したとしても、棚位置がデータ化できることで、品出しの効率化や売場状況の確認など応用範囲は広い。
商品部が売場のない商品を送り込んできたり、メーカーが付ける場所のない販促物を配送したり、売場の現状を本部が把握していないことで起こるムダは日常的に発生している。この対策としても、RFIDやバーコードを使った売場の可視化は有益である。
[販促物管理のムリ、ムダ、ムラ]リアル販促物とデジタルサイネージを併用する
販促物は商品の魅力やお得感を簡潔に表現し、購買意欲を上げる心強い売場の味方だ。一方で、メーカーから店舗に直接配送されると納品が月に50回を超えることもあり、受け取り、保管、探索などの管理に膨大な手間がかかる。その結果、販促物がバックヤードに埋もれてどこにあるか分からず、設置率は30%程度というのが現実だ。さらに、前項でも触れたように付ける場所もないのに販促物だけが送られてくるというミスマッチも頻繁に生じている。こうした販促物管理の煩雑さ、ムリ、ムラ、ムダへの対策として、藤田氏が挙げるのが「デジタルサイネージ」の活用である。
「デジタルサイネージなら、設置・撤去の手間もありませんし、本部一括管理なので出し忘れということも起こりません。すべての販促物をデジタルサイネージに置き換えるのは、コスト的にも難しいと思いますので、リアルな販促物とデジタルサイネージの併用、ハイブリッドがいいと思います。店内には色々なプロモーションがありますが、買上率、収益性が高いカテゴリーの商品は新商品情報の発信、セール告知などのニーズは高いでしょう。そのようなカテゴリーにはデジタルサイネージが適していると思います。立地や客層、時間帯によっても内容を瞬時に換えられるので相性がいいと思います」(藤田氏)
作業改善のために店内プロモーションを減らす潮流が一部ある。これは間違った選択ではないが、リアル店舗ならではの「わくわく感」の提供、新商品やセール品の店頭消化を促進するためにプロモーションは有効である。特にエンドは売場構成上必然的に生まれる販促スペースなので、このスペースにデジタルサイネージを活用すれば、作業改善とリアル店舗ならではの「賑わいの演出」を両立できる。実際、エンドプロモにデジタルサイネージを活用しているDgSは最近増えている。
エンドに加え、ゴンドラ間通路への引き込み効果を上げるサイドエンドや、定番棚の仕切りPOP(スポッター)などデジタルサイネージのサイズや活用法も多様化している。作業を効率化して店内の賑わいを演出するためにデジタルサイネージは有効だ。さらに、各種の効果検証もしやすく、使いながら機能や精度の向上を実現できる。
@cosme TOKYOやマツモトキヨシの国内旗艦店SHIBUYADOGENZAKA FLAGではデジタルサイネージに比重を置いた販促や情報発信が行われており、今後の流れを予感させる。
[返品削減=売り切る力を付ける]AIを活用した、未来予測型の販促で販売力を上げる
DgSの食品の売上構成比は高まる一方で、郊外型店舗では日配品の在庫が標準装備となっている。その分、適切に商品を回転させなければ期限切れで廃棄する商品も増える。また、回転の悪い在庫が店頭に滞留すれば売場の販売効率を落とし、新商品や売れ筋商品の陳列スペースを狭くすることにつながる。こうした事態を避けるためには「売り切る力」を高める必要がある。そのために藤田氏が挙げるのがデータ活用による1to1マーケティングである。
「これまでのクーポン発行や販促をデータ分析すると、原資の多くがムダになっています。つまり、値引きしなくても購入した相手にまで値引きをしているのです。相手を選ばず一律に打つ販促ではコストの半分近くがムダになっているといってもいいでしょう。このようなやり方を改めデータを活用して販促相手を絞り込むことで、まだ買ったことのないカテゴリーの商品を購入したり、長期間離脱していた購入経験者に再購入してもらったり、未開拓分野、潜在需要を売上化できるような販促が可能です。
このような領域に集中している相手にとってはもっと魅力的で、売り手には売り出しの初速を担保しながら粗利もあげるクーポン発行で商品回転は上がるでしょう。
それから、これまでの販売データをAIに学習させることによって、販売予測は精度高く出せます。例えば、15時の時点でお弁当が17個残っていて過去の条件から計算して今日は閉店までに4個残るとか、AIが予測することができます。これが分かった時点でその曜日の15時以降に来る可能性の高い人にむけアプリにクーポンを発行する、こういった販促は全て自動でできます。値引きを一律告知しなくても、可能性のあるターゲットに向けて一定の条件になったら自動で値下げ販促を打って売り切る力を上げるというやり方です」(藤田氏)
過去の販売データの学習に加え、藤田氏はAIによる未来予測でも売り切る力を上げられると語る。
例えば、天気予報と連動させ、12時や13時など特定の時刻以降の降水確率が高い場合には雨の日に売れる商品の販促を自動で打つ。天気、曜日、時間帯、催事、客数の増減(客の流れ)といった諸条件から将来的に売れる商品を予測して販促するという手法だ。
「スーパー店長やベテランパートさんが、経験と勘で臨機応変に値引きやセールを打って売れ残りを減らす。こうした『名人芸』をAIによって再現させることも在庫や返品削減には有効です」(藤田氏)
一律同様の販促から、AIを活用した未来予測、ターゲット絞り込み型の販促を自動で実装することで効率よく販売効率を上げることができる。
本部指示の処理能力を上げる
月次、週次の販促指示、成功事例の共有、コンプライアンスに関する連絡など、本部からの指示・連絡は膨大な量に及び、店舗ではそれを処理仕切れず、その結果重要な情報が漏れる、パート、アルバイトを含む店舗従業員にまで浸透しないという状態は常態化している。
サイバーエージェントでは連結子会社のAI Shiftを通じて、膨大な情報をAIの力で要約して店舗で処理しやすい内容に要約するサービス「AI Worker」を提供している。AI Workerは生成AI「ChatGPT」をベースにしており、通常最適な回答を得るために必要なプロンプトと呼ばれる指示は不要、予め本部側で指定した条件に応じて、店舗側で必要な要約が自動に行われ、ダウンロードができる。さらにはその文書を見やすくカスタマイズすることも可能(画像2)。様々な可能性を秘めつつ店舗での実用化が難しいChatGPTを簡単な操作で活用できるシステムだ。
本部では店舗に送る情報の量を適正化しつつ、店舗ではこうしたツールを活用することで、完全作業の実現率を上げることができる。
[アプリの機能強化、活用]アプリでパーソナライズの基盤をつくり、サービス提供
先述したように、小売業アプリは物理ポイントカード(板カード)のデジタル化を訴求して普及が進んだ。藤田氏は小売業アプリの次の段階をこう語る。
「アプリはもうひとつの店舗であるという話をこれまでしてきました。これは変わりませんが次にアプリに求められるものが明確になりつつあります。それは1to1の販促機能、それと先ほど申し上げたレジ業務の改善です。ECに注力するDgSチェーンが増えています。この傾向は、来店を待つだけでなく、こちらから売りに行く、届けに行くという積極的な営業態勢が強化されることを意味します。洗剤や紙製品のような補充型の生活必需品はサブスク的に、なくなったら家に届ける。店外にいる会員にはコンシェルジュのように必要な商品情報、なくなりそうな必需品を知らせる。店内に来たら、必需品以外、暮らしを快適で楽しくするような『発見』を求めて買物する。発見につながる情報を提供する。1to1の販促機能を強化することで、アプリには補充型の購入や発見型の購入をサポートするツールへと進化することが望まれています。目指すところは今まで通りの買物をするだけでなく、これまで買っていなかったカテゴリーの商品を買ってもらう、生活に必要で各社品揃えしている商品を満遍なくご購入頂くことです。こうしてLTV(顧客生涯価値/生涯に渡る付き合いで得られる利益)を上げていくことがアプリに求められています。
1to1対応であなたに合った買物ができます、というのがデジタルの基本だと思います。これまでのように最大公約数的に一律同様のクーポン発行やセールではなく、あなたにとってはこれがうれしい、と販促や情報発信がパーソナライズされていく、アプリも活用しながらその基盤が今年から来年にかけて整うのではないでしょうか」(藤田氏)
[新しい買物体験の提供]ロボット、アバターを使って買物ストレスを下げる
ECの台頭でリアル店舗には新たな買物体験が求められている。
「私の予想では、日本の宅配型のEC化率はどんなに進んでも25%を超えることはないと思います。店舗受け取りなどを含めばもう少し増えるでしょう。先ほど申し上げたように買物は家に届く必需品の買物と新しい発見を求めて行われる店舗での買物に色分けされると思います。そうなると店舗では発見をサポートする仕掛けが必要です。私たちがご提供している『自己推薦ロボット』もそのひとつになります」
自己推薦ロボットとは、商品に動く・話しかけるなどの生命感を付与し商品自らが機能や利便性などを推薦して動くロボットである。
サイバーエージェントが大手小売業で実験した結果、自己推薦ロボットを設置したところ、設置以前と比較して立ち止まり率が2.14倍増加、販売率は6.67倍増加した。
「最近挑戦しているのは、医薬品の遠隔案内です。売場にロボットがあり、裏に薬剤師がいてロボットを通してお客様に話しかけます。意外に探している商品や悩みを答えて頂けます。人間ではハードルが高くてもロボットやアバターなら対話のハードルが低くなるという特性はあると思います。
買い手、売り手双方のストレスを下げるためにもロボット、アバターの活用は有効です。買う側は気軽にコミュニケーションできますし、売る側もずっと売場にいて来客を待つというストレスを軽くできます。介護用品などは買物に来た人もそれなりの覚悟を持って質問しようとするのですが、商品知識に自信のない従業員は聞かれたくないので接客を避けたいというミスマッチが起こりやすいカテゴリーです。ロボットやアバターというデジタルを間に置いて裏で専門家が対応すれば、こうしたミスマッチを解消できるでしょう」(藤田氏)
今後は人手不足や生産性向上という側面からも接客のあり方が見直されるだろう。省力化をしながら専門性を上げるデジタル活用型の接客には大きな可能性がある。
《取材協力》