「薬急便モバイルオーダー」が実現する調剤と物販の融合とは?

月刊マーチャンダイジングではこれまでも、顧客接点を強化し、調剤体験の質を向上させるため、「調剤DX」の推進を繰り返し提唱してきた。今回サイバーエージェントが発表した、「薬急便モバイルオーダー」は、調剤の利便性をさらに向上させつつも、調剤の患者を物販に誘導し、同時に物販のお客へ調剤利用を促すという、「物販と調剤の融合」を図るサービスだ。薬急便を開発・提供するMG-DX(サイバーエージェント100%子会社)代表取締役社長堂前紀郎氏に本サービスの狙いと、調剤DXの目指すべき姿を聞いた。(月刊マーチャンダイジング2023年11月号より転載)

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出店は進むが利用率は低いDgS併設調剤薬局

「薬急便(やっきゅうびん)」は、MG-DXが提供するオンライン調剤サービスだ。同サービスは、オンライン診療・オンライン服薬指導・処方箋事前送信ツールなど、調剤DXに必要な機能をすべて兼ね備える。

薬剤師は、薬急便を通じて処方箋受付、ビデオ通話、ワンtoワンメッセージ管理などの機能を利用することができる。

一方患者は、処方箋のオンライン送信や、オンライン服薬指導などのサービスを受けることができる。病院、クリニックでの診察から薬局での服薬指導、患者の手元に薬が届くまでを、一気通貫してオンラインで完結できるツールである。

現在同サービスは、クオール薬局、サンドラッグ、サツドラ薬局など全国の薬局で導入されている。

薬急便を開発するMG-DX社の堂前紀郎社長は、ドラッグストア(DgS)の経営者に同サービスを提案するなかで、調剤DXに対する期待の高まりを実感しているという。

「現在DgSの調剤市場は約1兆円規模ですが、年1,400億~1,500億円というペースで伸長しており、向こう5年間で2兆円規模に成長することが見込まれています」

[図表1]DgS・調剤薬局調剤部門売上高ランキング

弊誌の調査でも、調剤薬局専業の企業に対し、調剤併設型DgS企業が売上高で迫ってきており、調剤業界における存在感を増していることがわかる(図表1)。

「そのような成長を背景に、どの企業様も調剤併設率を上げていこうという中期経営計画を掲げていますが、一方でその利用率に関しては、課題を感じている企業様も少なくありません」(堂前氏)

調剤併設店舗の出店は進むが、利用率は思うように伸びない。それに対し、堂前氏は物販客に対する調剤サービスの認知率向上施策こそが重要と訴える。

「調剤の利用率が高い企業様は、調剤サービスを物販エリアでも積極的に訴求しています。これまで私たちは、販促、集客をデジタル化することにより、外からお客様を調剤に呼び込むことを中心にご提案をしてまいりました。それはそれで重要でありつつ、DgSの本分に立ち返って考えると、買物のため来店されているお客様に調剤を利用して頂ければ、10万、20万枚という単位で年間処方箋の獲得につなげることができるはずです。投資の回収もそれだけで十分に可能でしょう」(堂前氏)

店舗に買物をしに来ても、調剤薬局が併設されていることに気付いていないお客様は多い。つまり、物販の利用客に対し、調剤サービスを提供していることを認知してもらうのが、調剤利用率向上のための第一歩なのである。

DgS併設調剤が抱える3つの課題

MG-DXでは、DgSに併設された調剤薬局は3つの課題を抱えていると考えている。

1)待ち時間が見通せないことによる満足度の低下

[図表2]調剤薬局に対する不満

1つ目は、患者が待ち時間を見通せないことによる満足度の低さだ。調剤薬局に対する患者の不満のナンバーワンは、待ち時間が見通せないことにある(図表2)。

処方箋を受付してもらったあと、長時間待たされるのは満足度の低下に直結する。店内が混雑していると、薬剤師にとってもプレッシャーがかかるし、「あとどれぐらい待つのか?」と患者から質問されることで調剤作業が中断されることもしばしばだろう。ときに長い待ち時間がクレームにつながることもある。

2)調剤薬局の認知度の低さ=利用率の低さ

2つ目が、先に述べたような、物販利用客へのアピール不足による調剤併設に対する認知度が低いことだ。繰り返しになるが、調剤併設店で、利用率が高い店舗と低い店舗を比較すると、物販のエリアで調剤を訴求しているかどうかが大きな違いとなっているという。

「物販の方で処方箋を受け付けていることをどれだけアピールできているか、調剤サービスが便利だと言い切れるかが重要」と堂前氏は言及する。

3)電送率の低さ

3つ目の課題は、オンライン経由の処方箋応需率を伸ばし切れていない点だ。この指標を「電送率」と呼び、各社10〜20%を目標としている。

[図表3]DgSの処方箋電送率

しかし現実は、堂前氏の体感では7〜8%が平均だという(図表3)。これはなかなか伸長させるのが難しいKPIで、各社伸ばすためにどのような打ち手を取るべきか、頭を抱えている状況なのである。

オンラインとオフラインの業務フローを融合する

MG-DXが今回リリースした「薬急便モバイルオーダー」は、薬急便がこれまで提供してきたオンラインでのデジタル接点を強化しつつ、さらに店内での顧客接点も強化するものである。同サービスは、オンラインとオフラインの業務フローを融合し、オンラインの処方箋事前送信の受付と、直接来店による処方箋の受付、店内での服薬指導、会計までを担う。

[図表4]薬急便モバイルオーダーの流れ

患者は以下のような流れで同サービスを利用する(図表4)。

オンライン受付の場合、スマートフォンから処方箋を送信し、受け取り時間を予約する。薬の準備ができると、スマホに通知が届く。薬局では処方箋と引き換えに、薬を受け取るだけでいい。会計も、あらかじめ登録しているクレジットカードから自動的に完了するスマートさだ。

店頭受付の場合、処方箋と引き換えに待ち札が発券される。待ち札にはQRコードが印刷されていて、これを読み込むことで、待ちの状況をスマホから確認することができる。

さらに電話番号を登録すると、調剤完了通知をSMSで受け取ることも可能だ。完了通知を受け取った後は、自分のタイミングで薬局へ戻り、薬を受け取ることができる。呼び出しの状況は、店内のサイネージにもリアルタイムで反映される。

待ち時間を可視化し顧客満足度を向上

先に述べた3つの課題に対して、この薬急便モバイルオーダーは以下のように解を示す。

まず「待ち時間」という悩みだが、これまでの事前送信アプリは、オンラインで受付をしているシステムと、店内の受付システムが別個に存在していたため、処方対応も別個の業務フローで進んでいた。そのため、処方箋を提出した患者からしてみると、あとどれぐらいの待ち時間があるのかよくわからない、という状況にならざるを得なかった。

薬急便モバイルオーダーでは、オンラインと店頭の受付処理を統合することで、待ち状況を一元的に可視化。待ち時間が明確になることにより、調剤体験の質は確実に向上する。

[図表5]薬急便モバイルオーダー、店内における効果

また、同サービスは、調剤と物販の自然な相互誘導も期待できるのがポイントだ(図表5)。物販エリアに掲示されたサイネージに、調剤の待ち状況が投影されるため、それを目にした物販利用のお客様は自然と調剤サービスの存在を知ることになる。

また、調剤の受付後、待ち時間が長くかかりそうなお客様のスマホにオトクなクーポンを発行して店内への回遊を促すという施策も実施できる。調剤にとっては新規の患者獲得につながるし、物販も売上が上がる。スマホへのクーポン配布を通じた調剤と物販の連携は、サイバーエージェントの得意とするところといえよう。

店頭受付の患者に対しては、QRコードが印刷された待ち札を渡すのだが、このようなデジタルサービスに触れることで、処方箋の事前送信についても認知が高まり、ひいては電送率向上にもつながる。

待ち札のQRスキャンで、自然にデジタル接点へ誘導

[図表6]薬急便モバイルオーダー、オンラインへの誘導に関する効果

MG-DXによれば、待ち札を手渡された患者のうち、7.7%がQRコードを読み込み、待ち状況をスマートフォンで確認するという。さらにそのうちの94.1%が、薬急便に会員登録を行う(図表6)。

これらの利用者は、次回以降の利用の際は、オンラインで処方箋を事前送信することが見込まれる。つまりこのサービスを導入することで、自然と電送率の向上が期待できるわけだ。

本サービスは、店舗に足を運んだありとあらゆるお客様に対して、これでもかこれでもかと、調剤に対する訴求を繰り返し、調剤利用率の前段となるKPI、電送率を上げていく。

さらに「調剤から物販を伸ばす」「物販から調剤を伸ばす」「リアルをデジタルに引き込む」という、相互の融合までも効果として見込めるものなのである。

調剤と物販の壁を崩し、融合する

これまで調剤DXが進まなかった背景には、DgSの組織における、商品部を中心とした物販部門と、調剤部門の組織間の壁があったのではないだろうか。そもそも、両部門がどのように事業貢献しているのか、数値をもって可視化できている企業はそう多くはない。

また、物販の顧客ID(ポイントカード)と、調剤の患者ID(レセプトコンピューターで発番される店舗ごとの患者管理番号)は紐づいておらず、その関係性も不透明で、多くのDgSでは十分に議論できていない。そのため、調剤DXをどの部門が主導し、どう進めていくかが曖昧で、実効性のある戦略を進めることができないという状況が往々にして見られる。

今後、調剤併設DgSを伸長させていくためには、この部門間の壁を壊し、真の意味での相互送客を実現していく必要がある。

薬急便モバイルオーダーは、導入によるサービス連携を契機に、店舗における買物体験や調剤体験の質を向上させ、次回以降のデジタル接点利用につなげていくという一連の流れをつくることができる。

「DgSの皆様が抱える、物販と調剤を融合し、調剤併設DgSを伸長させるという経営課題に対する答えのひとつとして、ご提案できるのではないかと思います」と堂前氏は語る。

その実効性を見込んで、すでにいくつかの大手DgSチェーンが導入を決定しているという同サービス。今後DgSの調剤併設利用率の向上に寄与することは間違いなさそうだ。

 

〈取材協力〉

(株)MG-DX
代表取締役社長
堂前 紀郎氏