デジタル×フィジカルで未来をもっと素晴らしく
MIC株式会社(以下MIC)は、「M:未来、I:イノベーション、C:カンパニー」を掲げ、小売業のプロモーションに関連する領域のBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)を手掛けている。個別案件のソリューションではなく、顧客の業務を一気通貫で改善、効率化することを重視しており、上流のコンサルティング領域から、現場レベルの物流や店頭設置代行まで手掛け、その過程で情報資産、データ活用は欠かせず、DXに関する高い技術、知見を有している。
近年は順調に業容を拡大し、現在、新宿本社に営業やクリエイティブ部門、システム開発部門の拠点を構え、製造拠点として東京都西多摩郡に2工場、物流の拠点として東京都あきる野市と八王子市に2つのフルフィルメントセンターを運営している。
元は印刷業という実在(フィジカル)の製品を扱う出自を持ち、オペレーション(作業)を重視、現場が主戦場と自社を位置づける。こうした仕事の流儀を同社では「デジタル×フィジカルで未来をもっと素晴らしく」という言葉にして掲げている。
メーカーからの販促物を個別に店舗へ送ることの課題
メーカーから販促物を店舗へ直送することの課題のひとつは、配送回数の多さ。MICの調査によれば、DgSの場合、1ヵ月に店舗で受け取る販促物は段ボールの数にして80~100箱に及ぶ。これを都度受け取り、取り付け時までバックヤードに保管、作業時にはまたそれを探すという作業が生まれる。
さらに、販促物を梱包した箱の積載率は約半数が40%以下。いわば、半分以上空気を載せて輸送することで、非効率に燃料を消費し、CO2を排出していることになる。
また、頻繁かつ大量に届く販促物を店舗で管理する余裕がなく、販促物の設置率は平均で約30%。残り約70%は廃棄されている。
本来、商品の購買率を上げ、売上貢献すべく多くの人が関わった販促物が非効率な方法で配送されることで、作業と環境両方へ負荷を掛けている。関係者の熱意と努力が意図しない方向へ向かっている現実がある。
オペレーションと情報の共有でメーカー製造販促物の課題解決
メーカー製造販促物の課題を改善するのが、MICの「販促物の共同配送」である。店舗に個別に配送していたメーカー各社からの販促物を八王子にあるMICの専用物流センター(はちフィル)に集約。ここでメーカーの企画ごと、店舗ごとに仕分け。ひとつの段ボールに複数のメーカーの販促物を積載効率が良くなるようまとめて梱包。各店舗に平均週1回の頻度で配送する(図表1、2)。
販促物を送るにあたってはMICの情報システムを使い、事前にバイヤーからの承認を受け、店舗、企業の販売・販促計画と齟齬(食い違い)がないようにする。箱にはバイヤー承認の文字と内容物、設置場所、展開開始日が記載されているので、開梱することなく中身が分かり作業手順が立てやすい。もちろん小売り側の費用負担もない。
「デジタルとフィジカルの融合」実践
吉永氏が大事にしていることは、生産性と品質の維持。生産性に関しては、ひとつのデジタルピッキングラインで1時間327個の梱包を完成させることを目標に仕事を進める。品質維持は、各メーカーの販促物が破損しないよう梱包する。DgSの販促物は液体のテスターなども多く、梱包次第では容器が破損して液漏れし、他の販促物が使えなくなることもある。
MICには約20人のITエンジニアが在籍し、デジタル測定による最適な梱包形態の算出、ライン設計などを行っているが、最終的には人の経験を生かして現場で適宜補正している。
デジタルを活用しつつオペレーション、現場を重視。デジタルとフィジカルの融合は、はちフィルでも実践されている。
〈取材協力〉
「ウエルシアはプロモーション売場の多いドラッグストア。売場づくりの作業改善に販促物の共同配送は有効」ウエルシア薬局 常務 情報システム本部長 安倍崇氏インタビュー
ウエルシア薬局は2022年11月からMICの販促物の共同配送を利用している。ここでは、最初にMICからの提案を聞き、共同配送導入のきっかけをつくったウエルシア薬局常務取締役情報システム本部長の安倍崇氏に話を聞いた。(聞き手/月刊MD編集部)
決まった日に配送されるので作業計画が立てやすくなった
─まず、共同配送サービスのお話を最初にお聞きになったとき、率直にどのようにお感じになったでしょうか。
安倍 ウエルシアには自社製造の販促物を全国の店舗に配送する仕組みがあり、うまく回っています。一方で、メーカー様提供の販促物は店舗に直接届くことが多く、店舗も事前に知らされていないので、作業計画に入れづらく最終的には未開封のまま廃棄されてしまう。あるいは、メーカー様のラウンダーがバイヤーの事前承認なしに店舗を訪問して販促ツールを設置したら、その商品が弊社の推奨品と競合する商品だったということは、これまで散見されていました。メーカー様の熱意はよく分かるのですが、こういった手法では販促の全体最適が取れないという課題意識はずっとありました。
ある企業を介して、MICさんを紹介され販促物の共同配送の話を聞いたときには、私は物流部門の経験もあるので、自社制作の販促物の配送システムとMICさんの共同配送を融合させれば、最強の売場づくりが実現できて、お客様へのアピールも高まるだろうと直感的に思いました。
─共同配送のどのようなところに魅力を感じていますか。
安倍 共同配送では複数メーカー様の販促物が毎週決まった日に配送されるので、ワークスケジュールが非常に立てやすくなります。これまでプロモーションの商品は来ているが販促物が未着で、仕方がないので店が手づくりで販促物をつくったら、翌日待っていた販促物が来たといったこともありました。余った販促物は廃棄するしかなくゴミも増えます。
共同配送が始まって店舗の人間ともたくさん話をしましたが、非常に好意的にこのサービスを利用しています。
ウエルシアらしい売場づくりに販促物の共同配送が貢献
─ウエルシアの売場はPOPも豊富で発信力があると思いますが、販促物の共同配送を利用して、さらに売場づくりの精度が上がったとお感じでしょうか。
安倍 ウエルシアはプロモーションの比率が高いドラッグストアです。そういう売場は商品だけ積んであっても売れ行きは上がらず販促物が重要になります。
弊社の人件費率は比較的高めですが、それも含めてウエルシアらしさだと思っています。その分、当然それに見合うサービスや接客が求められます。これを実現させるためには、販促物にかかるコストを適正化させ、店舗の作業効率を上げてサービスや接客の時間を創り出していかなければなりません。メーカー様から個別に販促物を受け取る、ひとつずつ保管する、探すといった作業はなるべく削減する必要があります。共同配送でこうした作業の効率化ができているので、MICさんには感謝しています。
─御社はSDGsにも熱心に取り組んでいますが、共同配送では廃棄段ボールやCO2の削減効果が出ています。
安倍 相当な効果が出ているようで、少し驚いている程です。メーカー様の販促物はできれば全てひとつの段ボールに集約して店舗に分かりやすく、設置しやすく届けたい、これによりさらにムダな資源利用やCO2排出が減って、社会貢献できます(図表1、2)。
物流の2024年問題もあり、共同配送は販促物に限らず今後やらざるを得なくなるでしょう。今後はMICさんで販促物の制作までやれば、メーカーからの輸送費や段ボールのコストがさらに削減できます。MICさんにはこれからもますます期待しています。
「重点商品を販売強化する”販売計画”と”メーカー販促物の共同配送”が好連携、業績向上に貢献」ツルハ 代表取締役社長 八幡政浩氏・執行役員 北海道店舗運営本部長 舘 昌夫氏インタビュー
ツルハがメーカー販促物の共同配送を導入したのは2022年7月、北海道にある3店舗の実験店から開始して、今ではその他の事業会社も含め約2,000店舗で導入。メーカー販促物の共同配送と月次で重点商品を決めて販売強化する「販売計画」とを連動させることで、業績向上に好影響を与えている。(聞き手/月刊MD編集部)
メーカーから店舗への販促物直送 課題修正は「モグラ叩き」状態
─まず、「ツルハらしい売場」をどのようにお考えでしょうか。
八幡 定番、プロモーション共に、立ち止まり率の高い売場、つまり、売場の前を通ったときに、何を提案しているのかお客様が見てすぐ分かる売場づくりに一番気を付けています。この時期に欲しい、あったら便利、お買い得など、気づきを与えて立ち止まり「これが欲しい!」と思って頂ける売場を目指しています。
そのために必要な要素は、陳列量、商品パッケージ、価格、販促物などになります。メーカー販促物は重要な役割を担っています。ただし、メーカー様は必要な店でもそうでない店でも一律販促物を送り込む傾向があり、その一部が店の負担になります。では、これを止めればいいかというと、メーカー販促物がなければ情報提供できませんし、気づきのある売場になりません。必要だけど一部店舗の負担にもなる、ジレンマがありました。
われわれも、商品部とメーカー様の間で店舗ごとにその販促物が必要か不要かをチェックして、なるべくムダや過剰な負荷が起こらないように努力はしていました。しかし、店舗改装に加えて商品ごとに店の要望を細かく聞くことには限界があり、状況の変化をなかなか追い切れない。色々対策は立てるが、そのたびに新しい問題が起こるという「モグラ叩き」状態が続いていました。
共同配送により販促物の利用率が20%以上向上
─ツルハらしい売場を舘さんはどう考えますか。
舘 八幡社長と重複しますが、お客様の悩みや困りごとをソリューションしながら、季節品、話題品、新商品を中心に売れているものをしっかり積んでいく、手書きPOP、メーカーPOPを活用して、分かりやすくインパクトのある提案ができる売場がツルハらしい売場だと思います。
そこで大事になるのが、月間の重点商品を定めた「販売計画」です。MICさんの共同配送を利用することで、これと連動させてメーカー販促物を店舗へまとめて配送することができています。店に届く段ボール箱には「販促物一覧」という表が付いていて(図表1⑦参照)、販売計画に入っている商品の販促物が分かるようになっています。店舗もそれを見て設置作業をするので、設置率も以前より上がってきました。「販促物一覧」が段ボールに貼ってあり、どの販促物が販売計画と紐付いているかが分かる。ここは大きなポイントです。
MICさんからの報告では1店舗あたりの平均の設置率は導入前が約34%でしたが、共同配送の導入後は55%まで上がっています※A。
※A 共同配送利用分での結果。直送販促物の使用率は平均45%。
店側で販促物を設置するので、メーカー派遣のラウンダーさんの手が空いてその時間をサンプル配布や売場のクリンリネスに充てる店舗も出ています。非常によい効果だと思います。まだ、MICさんの共同配送に入っていないメーカー様があるので、早くすべての販促物が一本化されることを期待しています。
─販促物の共同配送に関して、店舗の反応はいかがですか。
舘 2022年の7月、最初3店舗の実験から始まりましたが、開始から今日まで、店舗従業員からは「良かった」という声しか聞いていません。以前は管理が難しく必要な販促物を探すのをあきらめることもあったぐらいでした。今は段ボールに貼ってある「販促物一覧」を見れば、何が入っていて、どの販促物が販売計画と連動して、どこにいつ付ければいいかまで書いてあります。
しかし、課題もあります。金曜1回の配送しかない、共同配送に載せきれない販促物はメーカー様が直接店に送って、それがバックヤードに埋もれてしまうということもまだあります。また共同配送に参画していないメーカー様がいることも課題だと思います。
─販売計画、販促物の共同配送に関して、商品部、店舗運営部の連携はどのようになっていますか。
舘 北海道だけの話になりますが、1ヵ月に1回、店舗運営部長、スーパーバイザーが参加する北海道エリアの営業会議があります。そこで、バイヤーから販売計画に関する説明があり、すべての商品ではありませんが、大型の企画で強化する商品に関してはこういう販促物が店に届くという連絡があります。店長会議でも販売計画の説明はするので、店舗でも販売計画に入っている商品の販促物はとくに意識高く作業をします。販促物一覧の中に販売計画と連動するものにはチェックが入っているので、店舗の意識向上に役だっています。
小売業発想、売場起点の販促物をつくりたい
─八幡社長はMICの販促物の共同配送を導入して、どういう感想をお持ちでしょう。
八幡 まず言えるのは、結果は出ているということです。最近の社会状況を見ると相当な人手不足が続いており、解消される気配もありません。労働人口の減少は構造的な問題だと思います。ファミレスに入ればロボットが配膳しているし、QRコードを読み取って自分でオーダーする外食チェーンも増えました。ロボット化やDXを使った効率化で生産性を上げることが競争の焦点になる時代の中、MICさんが販促物を1箇所に集約して共同で分かりやすく店舗に送る。この事業で小売業の作業時間も短縮できるし、メーカーの作業、輸送コストも削減できます。
その結果CO2の排出量や段ボールのコストも減って社会的にも良いことをしている。各方面にとって悪いことが何もない、「三方よし」的な事業だと思っています。
─今後、どのようなことをMICに期待しますか。
八幡 各メーカー様は、自分たちの考えで販促物をつくっており、これはこれでいい面があります。しかし、ときに販促物が大きすぎるとか、買物のじゃまになるなど売場の実情に合ってないこともあります。今考えているのは、売場の実情やわれわれの意見も踏まえてサイズや設置場所にある程度のレギュレーション(規制)を設け、その範囲内でメーカー様に販促物をつくって頂くことです。
また、ツルハ専用のデザインを取り入れた販促物をつくって頂きたいです。例えば、A社のシャンプーとB社のボディソープの販促物がツルハ専用のデザインで統一されているというイメージです。すべてとはいいませんが、一部商品にはそういうデザインがあってもいいでしょう。
こうした販促物のレギュレーションや専用デザインをメーカー様との間に立ってMICさんにつくって頂きたいです。制作段階からMICさんに関わってほしいということです。
─売場起点、小売業発想の販促物をMICと協働でつくるということですか。
八幡 そうです。もうひとつは、PDQ(開梱即陳列できる什器型段ボール)の開発です。人手不足もあってPDQを採用した売場をつくりたいのですが、なかなか話が進みません。アメリカでは普通に活用されているので、MICさんとメーカー様で早く実現して頂きたいです。
舘 問屋様との間で納品時、オリコンに通路番号と棚位置を付けて頂いて、品出しの効率を上げています。現在、販促物一覧で販促物を設置する場所をエンド、定番で区分して頂いていますが、この精度をもっと上げて売場のどの通路のどの棚に付けるのかまで指示できるレベルに上げたいです。そのためにはわれわれも棚替えや売場の拡縮といった情報を適切に更新して、MICさんと共有する必要があります。
「販促物に関する情報、作業を集約・分担することで店舗の負担を軽減させたい」MIC株式会社 代表取締役社長 河合 克也氏インタビュー
MICが設計し、実施している販促物の共同配送が各方面に大きなインパクトを与えていることはこれまで見てきた。ここでは同社代表取締役社長の河合克也氏に事業開始の経緯や将来展望などを聞いた。(聞き手/月刊MD編集部)
危機的人手不足時代。店舗作業の効率化は急務
─販促物の共同配送を始めた経緯について教えてください。
河合 当社には「デジタル×フィジカルで未来をもっと素晴らしく」というビジョンがあります。これから当然デジタルは活用しなければならず当社もエンジニアや専門部署を置いて粛々と進めています。
しかし、それはあくまで手段であって目的ではありません。現実世界はリアルで、人間には五感があり、モノには手触りや質量があります。私たちは店舗や作業(オペレーション)を重視しており、これを「フィジカル」と言う言葉で表現しています。フィジカルな問題を改善するためにデジタルを活用するという意味で、販促物の共同配送の根底にもこのビジョンがあります。
元々、印刷業としてメーカー様の販促物をつくっていたのですが、外側から見ていても販促物が利用されずに廃棄される。お店の負担になっている。こうした現実に大きな違和感を覚えていました。とくに人手不足は深刻でお店の負担軽減は急務です。
もうひとつが、メーカー様からの直送だと積載率が悪く、半分以上空気を運んでいるようなもので、CO2の排出から考えて環境にもよくないということです。今後、物流の人材難が進むなかで非効率はますます問題になってきます。
こうした状況を改善させるためには、どの店舗にどの販促物がいくつ必要かなどの「情報」と販促物の梱包、配送、設置などの「オペレーション」をメーカー、物流、小売が共有して、効率化させる必要があります。それでは、誰がそれをやるのか、当事者であるメーカー様、小売業様でいいのかもしれませんが、効率化のためにそれをMICにアウトソーシングして頂いてMICがハブとなり、販促物に関する作業を効率化させたい。そういう思いで販促物の共同配送を始めました。
コンビニから始めて、DgS様との取り組みを始めたのが2022年からとなります。DgS様だけで現在約6,000店舗と取り引きがあり、この数をもっと増やしていきたいと思います。メーカー様に関しても12~20社に参画して頂いており、DgS業界においても販促物の共同配送が大きな潮流になっています。
販促物物流のシェアリングを実現させる「はちフィル」
─販促物の共同配送の専用物流センターとして「はちフィル」を運営されています。
河合 メーカー販促物がここに集約されることで、共同配送が可能になります。社会全体が危機的な人手不足の状況下、販促物のセンター機能をつくることで、メーカー様からの直送では店舗で個別に行う必要があった、受取、開梱、探すといった作業を一本化、店舗作業の効率化を実現させています。同時にCO2排出量や廃棄段ボールも削減して環境改善に貢献しています。
メーカー様にとっても、直送と比較して3~5割程度配送コストを軽減できています。メーカー様にはこうした経済合理性や環境負荷の軽減ということをご理解、納得頂き、是非共同配送をご利用頂ければと思います。
─今後取り組みたいこと、改善したいことは何でしょう。
河合 店舗の見える化はさらに進めたいです。店舗ごとにエンド、プロモーションスペースの数、扱っている商品、在庫数、セルフレジの数、客層などあらゆる情報がデータベース化されれば、より店舗の状況にあった正確で効果的な販促物に関する支援ができます。
2番目は販促物による企業、店舗の個性を演出するお手伝いです。DgSの品揃えはナショナルブランド中心ということもあり、個性を出すのが難しい一面もあります。企業の個性を表現した販促物の制作、あるいは販促物と連動したデジタル広告をつくることで、お客様にアピールして独自の分かりやすい売場をつくることができます。
3番目は販促物設置のお手伝いです。当社でラウンダーを回すことで、計画的な配送から設置までがつながり店頭実現力が上がります。
まだまだ、DgS様、メーカー様と一緒にやりたいことはたくさんあるので、是非ご一緒に取り組ませてください。
■お問い合わせ先
TEL 03-4455-7814