群馬県に6店舗を展開

外食最大手ゼンショーのコンビニ新業態「さくらみくら」、その競争優位性とは?

外食最大手のゼンショーが昨年6月にコンビニ業態を開発、現在(4月末)まで同じ群馬県で6店舗を展開、もはや実験の域を超えて本格的なチェーン展開を図っている。「飽和」と指摘される令和の時代のコンビニに勝算があるのか、店舗を取材した。(構成・文/流通ジャーナリスト、月刊コンビニ編集委員 梅澤 聡)(月刊マーチャンダイジング2022年6月号より抜粋)

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「飽和化」した業界にくさびを打ち込めるか

ここ数年、コンビニは飽和した、成長が止まった、現場が疲弊しているといったネガティブな議論が続いてきた。たしかに、フランチャイズチェーンを基本とするコンビニにとって、加盟店オーナーの収益をどう伸ばしていくか、実態として厳しい環境に置かれてきた。コロナ禍の影響もあるが、それ以前から店舗数の増加が急速に鈍化し、前年維持か割り込むチェーンも出てきた。現実の数字だけに着目すれば、成長は止まっているし、飽和したと見る理由もわかる。

しかし、それは大手3チェーンが現状の形態を脱せず、業態革新の速度が遅いために、飽和しているにすぎない。そう考える理由は、いまの令和の時代に、新たにコンビニを立ち上げたチェーン本部があるからだ。

和風ファストフード(FF)「すき家」を展開する外食最大手のゼンショーホールディングス(以下、ゼンショー)が、コンビニ業界に参入を果たした。しかも2021年6月から2022年4月まで群馬県に6店舗を出店している。本部は実験段階であるとしてメディアの取材を受けていない。

ただし、1店舗ではなく、“一気に”と形容してもいいくらいに、群馬県の南東の端っこに計画的な出店を果たしている。実験の域を超えて、本気でチェーン展開を始動させたと見てよいだろう。

注文を受けてから数分で調理 できたてで大手3社と差別化

ゼンショーは1982年に創業、「すき家」のチェーン展開をスタートさせ、積極的なM&Aによる店舗拡大も手伝って、2011年には日本マクドナルドホールディングスの売上高を抜いて外食企業のトップに立つ。

その後、2012年11月には埼玉県をドミナントにするスーパーマーケットチェーンのマルヤを子会社化、以降はローカルスーパーを積極的に買収するなどして、業容拡大を図ってきた。コンビニ業態への挑戦も、この10年の間に培った食品スーパーのノウハウが生かされている。

実際に店舗(館林瀬戸谷店)を視察すると、いわゆるコンビニの品揃えが欠落なく揃っていた。日常的にコンビニを利用しているお客が、おにぎりと総菜、ビールにたばこ、ティッシュに電池などコンビニ商材を意識して入店しても、すべて満たされる品揃えがされている。コンビニの基本の品揃えに不足しない売場を最初からつくり込んでいる。

例えば、(常温の)酒類のゴンドラと隣接させた「つまみ」類の充実、調味料にレトルト食品、その他加工食品、大手メーカーを軸とするパンやデザートなど、商品構成を見たかぎり、大手コンビニチェーンと比較して遜色のない売場といえる。各部門の商品構成と配置を見ると、既存のコンビニの経験法則が生かされている。だからこそ来店客は迷いなく商品を手に取ってレジに向かうことができる。

ただし、そうはいっても、セブン−イレブン、ファミリーマート、ローソンの大手3チェーンで9割以上のシェアを占める令和の時代に、コンビニの新業態である。大手と比較して「遜色のない」だけでは闘えない。そこでゼンショーの「さくらみくら」が取った戦略が「店内調理」の充実による集客である。

もともとゼンショーは和風FFの「すき家」「なか卯」、ファミリーレストランの「ココス」、専門店の「ジョリーパスタ」「はま寿司」など20の外食ブランドを持っている。すべてがチェーン志向のブランドなので、仕組みとしてその技術を取り入れることは可能であろう。

「さくらみくら」の公式ホームページを開くと次のような紹介文がある。

『「出来たてのおいしさと、暮らしの便利を。」さくらみくらは、全く新しいコンビニです。生活必需品や食品が24時間手に入るのはもちろん、出来たてにこだわり店内調理でお作りするあつあつのお弁当、「みくら食堂」もいつでもご利用いただけます。日本発のコンビニとして、桜の花のように地域に根差し笑顔を届ける存在になりたい。開放感あるイートインスペースもご用意しております。ぜひ一度、お気軽にお立ち寄りください。』

[図表1]さくらみくら館林瀬戸谷店のレイアウト

「さくらみくら」の店内調理は、店内で調理して売場に並べるのではなく、ツーオーダー(注文を受けてからの調理)である点も見逃せない。タッチパネル方式の発券機で商品を選び、番号が記されたレシートをカウンターで提示して精算、レシートを持って待つこと数分、自動呼出し音声により再びカウンターへ行き商品を受け取る。最初にタッチパネルで発券した時点で調理態勢に入ると推測される。親子丼を購入した際に、従業員にどのくらい待ちますかと質問したところ、アイドルタイムではあったが「3~4分」と返答があった。実際、ゼンショーグループの和風FF「なか卯」で食べる親子丼より、待ち時間が短いと感じるくらい提供時間は早かった。

本格的な店内調理と、それに付随するイートインスペースに関して、大手コンビニチェーンは標準装備として導入していない。ローソンは約8,000店舗に店内厨房を設置し、さらに既存店に増設していくとしているが、基本はピークタイムに合わせたつくり置きを前提にしている設備であり、「さくらみくら」とはオペレーションが異なる。

看板商品の「みくら唐揚げ弁当(醤油)」470円と「小さなおうどん」200円。
うどんの小サイズをセットにするメニュー設計は同じゼンショーグループの「なか卯」で実施されている
群馬県太田市に本社を構える新田製パンの商品。
地域で長く愛されるメーカーの商品に焦点を当てる地元密着を訴求するマーチャンダイジング政策
群馬県の太田市で製造された米飯弁当。
内容と価格(税込み)429円は大手チェーンと十分に闘える内容だ

基本メニューは、みくら唐揚げ弁当470円(税込み、以下同)、大きなハンバーグ弁当500円をメインに、ソースを変えてバリエーションを広げている。ほかに、ふんわり卵の親子丼480円、ロースかつ丼580円、ふっくら香ばしい鰻丼650円、お出汁染みるきつねうどん390円、明太子バターの和風パスタ450円などだ。

近年のコンビニでも500円台の米飯弁当やラーメンも多数投入されている現状から、「さくらみくら」のツーオーダーによる商品が、お客にとって「高い」とは感じないだろう。

[図表2]さくらみくらの出店立地

ドミナント政策については、店舗はすべて群馬県に立地、おにぎり、米飯弁当を製造する主要ベンダーの総菜加工センターは群馬県の太田市にあり、ちょうど出店エリアの中心部に位置している。製造ベンダーと店舗が一体となってエリアを深耕する戦略は原則的である。今後はドミナントを強化するために、恐らく埼玉県に向かって南下していくと予想される。

かつてセブン−イレブンは人口の多い首都圏に集中出店し、1都3県で300店舗を達成したあとに、飛び地の北海道に、その翌年に福岡県に出店している。「さくらみくら」は外食チェーンで培った技術により競争優位を発揮して、大手3チェーンに挑んでいく。