シンプル食品スーパーマーケットに学ぶ

「ベルク」の強みは、お客にも店にも「わかりやすい」こと

元食品商業編集長の三浦美浩氏にさまざまな食品スーパーをストアコンパリゾンしてもらう企画の第6段では、関東に126店舗を展開するスーパーマーケット「ベルク」を取り上げる。営業利益率4.4%と、2〜3%の同業態平均と比較すると優れた数字をたたき出す同社。その背景にあるのは、「奇をてらわないシンプルさ」だ。(構成・文/エイジスリテイルサポート研究所 所長 三浦 美浩)(月刊マーチャンダイジング2022年6月号より抜粋)

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差別化とは「奇をてらうこと」ではない

チェーンストアの経営用語に“3つのS”を意味する「3S主義」がある。

  • Simplification=簡素化
  • Standardization=標準化
  • Specialization=差別化

簡単に言えば、テーマや課題を少なくしていき、それを道具、動作、手順を統一することでだれでもできるようにし徹底し、他社と差をつけていくことである。

つまり出発点は「課題が明確なこと」「シンプルなこと」であり、差別化とは「奇をてらうこと=わざとほかと変わったことをする」のではないということになる。

埼玉県を本部に持ち埼玉県、千葉県、群馬県、東京都などに126店舗を展開するスーパーマーケット(SM)企業のベルク(原島一誠社長)の店舗の特徴は、この「奇をてらわない=シンプル」さにある(数値は2022年2月期)。

営業収益は3,002億円で1店当り営業収益は23.8億円となり特別に売上高の大きな繁盛店ではない。しかし営業総利益率(粗利率)は26.0%で低いにもかかわらず、販管費率(経費)を21.3%に抑えることで本業の利益である営業利益率は、一般的なSMの2〜3%より高い4.4%を誇っている。この数値はコロナ前から高い水準にある(図表1)。

[図表1]ベルクの過去3年間の業績
店舗面積が大きく、またバックヤードなどの投資額が大きいSMの場合、総資本の回転率は2回転以下が多いが、ベルクの総資本額1,448億円で期中平均から算出した総資本回転率は2.1回転。結果としてすべての資産を活用してどれだけ儲けることができるかの効率を示す総資本経常利益率(ROI)は9.6%と高い数値となっている。

コロナ禍「1年目」の2021年2月期決算はドラッグストア(DgS)、SMともに「まとめ買いで客単価増×感染恐れ客数減」のチェーンが多かったが、ベルクは客数前年比102.1%、1品単価102.7%、買上点数107.2%で、既存店売上高は112.4%と2桁増になった。コロナ禍で数少ない「客数も客単価も増」のチェーンである。

このシンプルな奇をてらわない売場がなぜ高効率やお客の人気を生むのかをスタディした。

お客に見やすい、買いやすい店わかりやすい買物ストーリー

今回、視察した店はベルク フォルテ津田沼店で、2013年4月に習志野市のJR津田沼駅から徒歩10分程度の立地に出店した。線路を挟んだ駅東の商圏がGMS(総合スーパー)のイトーヨーカ堂、イオンリテール、パルコなどが出店している大型店のエリアに対し、駅西側の商圏にはダイエーなどがある比較的新しく開発された地域でもある。

JR津田沼駅は総武線の始発駅で東京圏にも通勤しやすく人気のエリアで、周辺には高額なタワー型、高層階のマンション分譲が進んでいて、子育て世代などの生活者も多い。

ベルクが出店したショッピングセンター(SC)「フォルテ」にはしまむら、バースデイ、サンドラッグ、東京靴流通センター、ダイソー、サイゼリヤなど低価格訴求のチェーンがまとまって出店していて人気になっている。

ベルク フォルテ津田沼店のフロアレイアウト

ベルク フォルテ津田沼店の売場は約600坪の長方形。ベルクの店舗レイアウトは実はどの店もほぼ同一である。野菜・果物、鮮魚、精肉と主菜から豆腐・パンなどの日配の副菜に進み、最終コーナーが総菜となっていて、中央部の縦の列には冷凍・冷蔵ケースの冷食・アイスや牛乳などの飲料が並んでいる。すべての什器が直角に交わり、シンプルなゾーニングだ。

お客は入り口そばの果物で季節を感じつつ壁面の第1磁石を見ながら歩いていき、第2磁石の通路突き当たりの刺し身コーナーで今夜のおかずを考え、次にまた壁面の精肉を見ながら、第3磁石のエンドスペースに配置された牛乳を見て「そういえば牛乳がなかった!」と思い出し購入する。

さらに主通路突き当たりには購買頻度の高い豆腐や納豆があるのでかごに入れ、主通路内側には毎日の主食のパンがあるので、これも忘れずに購入。最後にお父さんのつまみの一品に総菜の煮物を追加する。

途中、奥主通路を歩いている間に、通路内側の常温ゴンドラをのぞき込んだら通路両側に目立つカップ麺・ラーメンの投げ込み陳列があるので、中通路に入って昼食用に購入する。

酒好きな家庭ならレジに進む間の酒の売場に入りビールやワインを選ぶし、さらに進んで非食品のレジ前のエンドを見たらティッシュペーパーがなかったことを思い出し購入する。ベルクの店ではこんな買物のストーリーを描くことができる。

珍奇なものや売場はないが、すべて論理的で、売場を一周すれば「日常生活に必要なものは一とおり揃う」のがこの売場なのである。それが見通しの良い長方形の売場に配置されていて、しかも大量陳列や関連陳列が多いので、余計な時間がかからないし、買い忘れもない。

店頭の果物売場の内側には菓子68円(本体価格、以下同)などがかご車1台=1アイテムで並び、価格訴求力は抜群である。

チラシの野菜やバナナなどは94円の2桁売価だし、もやしは「毎日得値」として18円で販売している。

火曜・水曜には均一セールなども実施していて店内のゴンドラ脇には94円、77円などの2桁売価商品がたくさん並ぶ。

売場もわかりやすいし、安さもすぐに伝わる、それがベルクの人気の秘密なのである。

PBにはB5判大のPOP付け 低価格だが高品質を明確表示

わかりやすい一方で、「気が利いている」のも、ベルクの特徴だ。

続きは、月刊マーチャンダイジング2022年6月号でお読みください。