ウエルシアホールディングス株式会社 代表取締役社長 松本 忠久氏に聞く

平成にもっとも成長したドラッグストア「ウエルシア」のブレない経営

調剤併設、カウンセリング、深夜営業、介護という独自のビジネスモデル=「ウエルシアモデル」で差別化に成功しているウエルシアホールディングス(HD)。2019年3月同社代表取締役社長に就任した松本忠久氏に、ウエルシアHDのいまと未来を聞いた。(聞き手:月刊MD主幹 日野 眞克/月刊マーチャンダイジング2020年11月号より転載)

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大規模化した組織を支社制へ 地域に密着した店をつくる

──2019年に社長に就任され、取り組まれたことを教えてください。

松本 第一に「マネジメント改革」に1年かけて取り組みました。現在、ウエルシアHDの店舗数は2,158店舗です。規模が拡大することで、本部発信の方針・施策の徹底スピードが落ちる点が課題でした。

そこでまず、「支社制」を導入することにしました。首都圏を二分割して、あとは東日本、東海、中日本、西日本の4つのエリアに分け、トータルで6つの支社を設置します。そこに支社長、営業統括本部長、同副本部長、営業部長を据え、その下の「エリアマネジャー」が一人約15店舗を担当する体制です。

これまでの組織体制では、一人の営業部長が80~100店舗の管理・指導を行っていましたが、それでは細かく目が行き届きません。組織を「細分化」することで店の事情に合った指導が可能になり、結果として店とお客さまとの距離がより近づくとおもいます。

また、エリアマネジャーと一緒に「ビューティエリアマネジャー」「調剤エリアマネジャー」職も設け、同じ店舗の管理・指導を三位一体で行います。

エリアマネジャーは店長からの昇任制、ビューティエリアマネジャーは美容スタッフ経験者、調剤エリアマネジャーは薬剤師です。それらを営業部長が統括します。

支社の権限を厚くしたことで組織にスピード感が生まれました。支社には、商品部や営業の責任者もいるので競合店に対する問題解決のスピードも上がったとおもいます。故鈴木(孝之)名誉会長がおっしゃっていた「よりお客さまと近くに」というウエルシアの原点に立ち返るため、中期3ヵ年計画の1年目に組織を変える決断をしました。

──地域のお客さまにより近づくため、現場の問題点を発見しやすい支社制にしたということですね。

松本 そうです。改革から半年がたって「マネジャーの能力差」の問題も浮上しています。チェーンストア経営においては、イレギュラーを生む「バラツキ」を埋める教育をしていかなければなりません。

現在、同じ15店舗を受け持つエリアマネジャー、ビューティエリアマネジャー、調剤エリアマネジャー、それらを統括する営業部長への教育の仕組みづくりを進めています。

とくにビューティエリアマネジャーは、個人が現場でカウンセリングをして化粧品を販売する技術にたけている人たちが中心です。管理能力を育成するためにスキルに合わせた「クラス別教育」が必要です。

──化粧品を売るのは得意ですが、いわゆるマネジャーとしてのスキルはこれから教育していかなければならないということですね。

松本 そうです。また、調剤エリアマネジャーたちにはコンプライアンスを守るという最大の管理任務があります。会社にとって調剤過誤は絶対にあってはならないことです。こうしたことを管理できる、現場直通のマネジャーを満遍なく教育することが重要なのです。

「接客」がヘルスケア売場に眠る利益を掘り起こす

松本 支社制の導入に加え、着手しているのがヘルスケア販売の強化です。現在ウエルシアでは約1,500億円のヘルスケアの売上があります。これは拡大の余地がある「宝の山」だとおもっています。コロナ禍で、健康に対する意識が高まりヘルスケアの可能性はさらに大きくなっています。

しかし実際にヘルスケア売場を活性化するには課題があります。鈴木名誉会長が昔から「薬剤師は調剤室の箱の中だけにいるのではなく、表に出て、売場をつくり、発注をし、そしてお客さまが来たらヘルスケアを頑張って売りなさい」とおっしゃっていました。

技術的な話になりますが、「分離申請」という制度があり、ウエルシアでは調剤薬局とドラッグストア(DgS)の店舗をそれぞれ別々の施設として登録しており、第1類医薬品は薬局で販売しているので薬剤師がカウンセリング販売するチャンスはありますが、第2類、第3類は登録販売者の担当になります。ヘルスケア売場を活性化させるために、登録販売者を増やして対応しているのですが、まだ課題はあります。

──実践経験が少ないと、質問されるのが怖いという側面もありますね。以前目薬売場でしばらく商品を見ているお客さまに声を掛けるか調査したことがありますが、だれも声を掛けないんですよ。

松本 それはウエルシアでも課題だと認識しています。資格があるのに接客が苦手という状況が続いています。申し上げたように単価の高いOTC、ヘルスケアは宝の山です。平均すれば1日に800~1,000人は売場を通過します。利益を掘り起こすため、OTCにも「15店舗」責任を持つOTCマネジャー、売場では登録販売者の「リーダー」「サブリーダー」をつくり強化しようと考えています。

いま売場で「管理栄養士」の居場所が難しくなっています。栄養相談もイベントのときだけということが多い。そこで、その人たちを中心にOTCマネジャーを育成します。そして本部主導で「マネジメント教育」をし、売場のリーダー、サブリーダーとともにOTC売場、ヘルスケア売場を活性化させる計画です。

調剤併設型DgSがウエルシアの根幹

──いま調剤のマーケットが約7兆5,000億円でDgS市場とほぼ同じです。調剤の売上でもウエルシアは約1,500億円と絶好調で2,600億円のアインHDを猛追している状況ですね。10年前と比較すると驚異的な伸び率ですね。

松本 ウエルシアHDのビジネスモデルには、調剤併設、カウンセリング、深夜営業、介護を「ウエルシアモデル」として掲げています。亡くなった鈴木名誉会長が創業期から一貫して「調剤併設型DgS」を事業の根幹として据えていたのがウエルシアの調剤が強い理由だとおもいます。

調剤自体の伸び率も非常にいいです。新型コロナの影響で処方せん枚数は若干減りましたが。既存店の月ベースでは戻りました。

調剤併設型DgSであるウエルシアは「地域でもっとも身近な医療機関」であることが重要です。そのための出店戦略です。調剤併設の24時間営業店をもっと増やしてもいいとおもいます。利便性の向上にもなるし、在宅調剤の拠点にもなります。深夜の時間帯は処方せんを持ってくる方が少ない分、在宅、施設用のお薬を集中的に調剤すれば効率的です。

現在ウエルシアの調剤の売上構成比は17.9%です。さらなる調剤の強化を図るために組織単位で地域の医療開発チーム、ドクターとの関係づくりに着手します。ドクターを誘致できれば、ウエルシアには2階や敷地など空きスペースがあるので、DgSのそばにクリニックモールを併設できます。

これから調剤と医療の距離が近付いていけば、処方せんも短時間で対応できるようになり患者さまの便利性が上がると考えています。

──DgSの便利性はさらに増しますね。DgSは寡占化が進んでいるのに対し、調剤は上位10社で市場の約14%です。個人、小規模の薬局は後継者や制度の問題で経営が厳しくなるのではないでしょうか。

松本 その傾向はあるかもしれません。ここ最近、薬剤師の中途採用が急激に増えていますが、個人薬局からの転職者も多数いて、大手薬局からも含めると、薬剤師の雇用に関して当社には追い風が吹いているように感じます。

急成長の原動力はウエルシアモデルの吸引力

──ウエルシア急成長の原動力のひとつでもあるM&A戦略、出店戦略について教えてください。

続きは月刊マーチャンダイジング2020年11月号で!