年間1,500アイテムを開発し3ヵ月で売り切る
もはや毎日の生活に欠かせない存在となった100円ショップ。キッチン用品店や文具店が減少傾向にある昨今、生活者のニーズを取り込み成長を続けている。
アミファはそんな大手100円ショップに商品を供給する雑貨メーカーだ。全社の売上高は約50億円(2019年9月期、図表1)で、そのうち100円ショップ向けとなる「ワンプライス商品」が約45億円と9割を占める。ワンプライス商品の内訳はラッピング48%、文具19%、キッチン17%、クラフト12%、ライフスタイル4%(2017年を100とした「指数」の推移は図表2を参照)。
包装用品や紙をベースとしつつ、広く関連カテゴリーのアイテムをラインアップしている。開発するアイテム数は年間約1,500。トレンドを押さえたデザインのアイテムを豊富に投入することで、100円ショップの売場に季節感や新鮮さを与える役割を担う。現在セリア、ダイソー、キャンドゥ、ワッツと大手100円ショップチェーンすべてに商品を納入している(図表3)。
アミファの生産体制の特徴は自社工場を保有せず、ファブレスメーカーを志向しているという点だ。社内には企画やデザイン、商品管理の機能のみを持ち、製造は主に中国の提携工場で行う。
社長の藤井愉三氏はその意図について「工場を持たないことで、新しいカテゴリーに低リスクで挑戦することができます」と語る。従業員数は約80人(2020年2月現在)。マーケティングや生産管理、品質管理の部署も含めると、全従業員の3分の2が商品開発に関わっている。
商品の企画は発売の約1年前からスタート。前年の反省から始まり、各チェーンのバイヤーとコンセプトの段階から綿密に打ち合わせを繰り返し、計画的に商品開発、売場計画を行う。一部の定番商品を除き、基本的には3ヵ月の売り切りだ。
大量の商品をメーカーとチェーンで協働して企画し、生産し、一気に売り切るという一連の流れが、100円ショップの店頭の新鮮さの秘訣といえそうだ。
包装、文具、キッチン…カテゴリーを拡大
アミファは1973年に東京都台東区でフジ産業として創業。当初メインの業務はギフト向け化粧箱内装用資材の販売業であった。しかし2000年前後から簡易包装を求める風潮が高まり、売上が漸減。新規事業立ち上げを模索していた。
ちょうどそのころ成長していたのが100円ショップだ。当時の100円ショップもラッピング用品を販売していたものの、ヨーロッパ市場に向けた商材が多く、「サンタクロースの顔がリアルすぎる」など、デザインが日本市場に向かないものが多かった。アミファはそこに商機を見いだし、日本向けデザインのラッピング用品の企画をスタート。1999年にキャンドゥへ納品を開始した。
2000年代前半はラッピング商品を中心に生産していた同社だったが、大きな転機になったのが2000年代中盤のマスキングテープ(マステ)ブームである。「mt」(製造はカモ井加工紙株式会社)というマステのブランドが火付け役となり、ラッピング、DIY、工作などさまざまなシーンでマステが使われるようになったのである。
当時マステの平均単価は150〜200円。そこで「マステを100円で販売したらきっと大ブレイクする」と考え、ある大手100円ショップに「ぜひやらせてほしい」と提案し、提携工場と調整の末、包装用品を製造している工場で、上代100円でマステを製造することに成功した。アミファが開拓した100円のマステは、いまや文具売場の顔となるほどの人気商品だ。
「マステが売れたことで、文房具のバイヤーさんとお話ができるようになりました。そこから『付箋紙をやりませんか』『ノートは?』『メモパッドは?』と新しいお話を頂戴することができるようになったのです」(藤井氏)
さらにキッチンウエアの取扱い開始が2017年以降の同社の2桁成長を後押しした。手描きのイラストが印象的なメラミン食器は、軽くて手軽に扱えることもあってヒット商品に。このヒットによって、アミファはさらにほかのキッチンカテゴリーへと商品ラインアップを広げている。
紙コップ、紙皿、保存用の袋、メラミン食器…。提携工場を広げ、対応できるカテゴリーを増やしていくたびに売上が増加。こうしてアミファは2019年9月、ジャスダックへの上場を果たした。
統一したテイストでコーディネートして販売
アミファの売上の中心はバレンタイン、クリスマス、ハロウィンなどのシーズンイベントだ。ここで威力を発揮するのが「統一したテイストでコーディネートできる商品群」というアミファの一番の強みである。
たとえば、2019年冬テーマである「いちごシリーズ」は、幅広い層に人気のいちごのイラストをモチーフにしたキッチンアイテムのシリーズ(写真1)。定番のペーパーカップやプレートだけでなく、メラミン食器や保冷剤、ウエットシートケースなど全13商品をラインアップ。これらをエンドで展開すれば、お客にトータルコーディネートした生活シーンを提案できる。
「既存のメーカーさんは、たとえば紙コップメーカーであれば多種多様な紙コップだけを製造なさっていて、フィルム製品や文具まで広げているメーカーさんはそう多くはありません」(藤井社長)。しかし実際のユーザーのニーズは使用するシーンに合わせてコーディネートされた商品群だ。「たとえばクリスマスのパーティーで、紙皿、紙コップ、紙ナプキン、ラッピング、そして部屋の装飾まで絵柄を揃えたいとおもったときに、当社の商品を購入していただければすべて一人の作家さんの世界観で統一することができます」(同)。コーディネート提案することにより、おのずと買上点数もアップする。
アミファは「パートナー」と呼ぶイラストレーター100人以上とのネットワークを構築しており、これも「世界観が統一された商品群」の提供を後押しする。「雑貨は手間と時間がかかるイラストが命です。たとえば紙皿・紙コップであれば売れるサイズは決まっています。あとは絵柄の勝負です」(藤井社長)。センスのあるイラストレーターを起用し、さまざまなアイテムで世界観を展開する。一人のイラストレーターが、ワンシーズン30アイテムの商品をデザインすることもあるという。
クリエイティブの幅広さとそれをのせる素材の豊富さこそ、他社にはまねできないアミファの強さの秘訣なのだ。
2020年春のヒット商品のシステムバインダーも、さまざまな商品を統一した世界観で展開できるアミファならではの商品といえる(写真2)。A5サイズバインダーとスパンコール入りのPVCカバー、リフィル、シールなどのアイテムを展開。そのまま使うのではなく、自分の好きなようにカスタマイズできるのがポイントで、発売直後から人気の商品となっている。
未開拓カテゴリーに果敢に挑戦 キャラクターものがSNSで人気に
アミファは現在2つの成長戦略を掲げる。ひとつが100円ショップの中でカテゴリーを増やしていくことと、もうひとつが新しい業界への挑戦だ。
前者は100円ショップ内での取扱いカテゴリーを増やすことを目指す。たとえばコスメグッズやファッショングッズなど、未開拓の分野は多い。
現在同社が挑戦している新機軸がオタク女子に向けたキャラクター展開だ。2019年夏に発売した「スマプロ!」のカレンダーは、年齢も個性も違う12人の男性アイドルのキャラクターたちをフィーチャーしたもの。アニメが好きな女子たちに受け入れられて、SNSを中心に話題となった。
カレンダー自体は販売期間が短いこともあり、売上への貢献度はそう高くはなかったものの、アニメ雑誌で記事化されたり、「スマプロ!」のキャラクターが登場する漫画の電子書籍が発売されるなど、いまでも盛り上がりを見せ続けている。今後こういったキャラクターものにもどんどん挑戦していきたいと藤井社長はいう。
また、新しい業界への挑戦としては、ドラッグストアやホームセンターなど、100円ショップ以外の業態にも商品を供給していきたいと考えている。
長期的な目標として掲げるのは売上高100億円。「100円ショップ業界は現在7,700億円規模。仕入額でいうと4,000億円という市場ですが、そのうち弊社のシェアは1%にすぎません。まだまだ伸ばしていくことができるはずです」(藤井社長)
0.5歩先をいく商品開発を目指す
雑貨にははやり廃りがつきもので、どんなに売れているものでも数年たつと飽きられて、新しいものにお客の興味・関心が移っていくものだ。
そのため、次のトレンドをどう読むかが非常に重要で、アミファの商品開発担当者は日常的に周辺の店舗調査を行ったり、国外まで視察に赴くこともある。7年前には本社を青山に移転し、感度の高い人材の採用などにも力を入れてきた。
藤井社長は、従業員に対し「0.5歩先を目指そう」といい続けている。
「100円ショップには幅広い購買層がいらっしゃいます。一歩先を狙うと、一般的なお客さまから『使いこなせなさそう』と敬遠されてしまいかねません。かといって0歩…つまり他社と変わらない商品を提供しても、数万点の商品を取り扱う100円ショップでは埋没してしまいます。目指すのは『0.5歩』のさじ加減です」
アミファは100円ショップという舞台に「0.5歩のさじ加減」のさまざまなアイテムを提供し、店頭と人々の生活に刺激を与え続ける。
〈取材協力〉