正確な棚卸による「不明ロス」把握が出発点
企業、店舗問わず、どれくらい儲かっているかを把握するためには、まず、売上高から売上原価を引いて粗利益高を計算することから始まる。粗利益高を求める数式は〈粗利益高=売上高−売上原価〉である。
この数式で用いられる売上原価を求めるためには〈期首原価棚卸高+期中原価仕入高−期末原価棚卸高〉という計算が必要だ。
こうした過程の中、実地棚卸で計算した在庫(実在庫)金額と帳簿上の在庫(理論在庫)金額が合わない場合がある。店頭で売れた分、廃棄や破損などのロスを差し引いても、実在庫と理論在庫が合わない、原因不明のロス金額が「不明ロス」と呼ばれる(図表1)。
正確な実地棚卸で在庫金額を出さなければ「不明ロス」自体が不正確となり、適切な対策も立てられない。したがって、不明ロス対策の第一歩は正確な実地棚卸で正確な在庫金額、不明ロス金額を算出することである。
日本を含む世界24ヵ国が調査に協力した、小売業の窃盗犯罪に関する世界的な報告書である「グローバル・リテイル・セフト・バロメーター(GRTB)2014−2015版」によると、不明ロスの内訳は次のとおりである。従業員による不正39%、万引き38%、犯罪性のない管理上のミス16%、取引業者の不正7%(図表2)。
同報告書によると、日本の不明ロス率(売上高に占める不明ロス金額の割合)は1.35%、金額にして149億ドルに及ぶ。1ドル100円で換算すると1兆4,900億円という莫大な金額が不明ロスで失われていることになる。小売業で優良といわれる営業利益率の目安が5%といわれるので1.35%がいかに大きな数値かがわかる。
海外では不明ロス、とくに万引き対策を「ロス・プリベンション(lossprevention)」と呼び、役員レベルがトップに立って指揮を執る大手小売企業も多い。実行部隊である店舗レベルの対策も重要だが、組織を挙げトップの指示の下に体系的な対策が望まれる。
計画的な万引きには予兆させる特徴がある
不明ロスの約4割を占める万引きの被害に悩まされている店も多いだろう。万引きには個人による単独犯行と集団窃盗がある。集団窃盗には外国人が関わっている場合が多い。万引き対策のコンサルティング事業も手掛けるエイジスによると、単独犯と集団窃盗の発生件数の割合は7対3。
一度に大量に商品を盗む集団窃盗が注目されやすいが、実際は個人による犯行が多い。店舗関係者によると、常連客の中にも食品や日用品など少額の商品を万引きする人がおり、少額でも頻度高く盗難に遭うと被害は大きくなる。
万引きの動機には、衝動的に犯罪に及ぶ、いわゆる「出来心」による犯行と、集団窃盗を含む計画的な犯行がある。計画的に万引きを行おうとする人には、以下のような特徴がある。
このような人が店内にいたら要マーク。犯行に及ばないように注視する。従業員同士で要注意人物が店内にいることを共有すべきである。
ドラッグストアはセルフ販売が基本で、化粧品売場や医薬品の相談カウンター以外、補充時や質問対応時を除けば売場に人がいないことも多い。定期的な店内巡回、レジなど人がいる場所から店内を見渡し、異変がないかを注意することなども防犯には効果的である。
おもてなしの心が万引きしにくい店舗環境を作る
図表3、4はエイジスによる万引き発生への対応フローチャートである。図表からいくつかポイントを挙げてみよう。
万引き被害の大きさを認識し、企業トップが指示して責任者を決め、体系的なマニュアルを作成する。店舗ではマニュアルを着実に実行するとともに、困りごとはないか、気持ちよく買物しているかなど、常にお客に関心を払い、おもてなしの心を持つことで、万引きしにくい店舗環境が生まれる。