調剤領域でAIとITを活用した「薬急便」新サービス
サイバーエージェントの連結子会社である医療AIカンパニーMG-DXは、今回の展示会に「薬急便」のサービスラインナップとして、自律型対話AIを活用した受付業務サポートと他店舗スタッフによる遠隔接客を組み合わせたシステム、そして調剤薬局における待ち時間で買い物を促進する受付管理システムの2つのサービスを展示した。
自動接客の可能性を示す「遠隔接客AIアシスタント」
まず紹介するのは、遠隔接客AIアシスタントだ。本サービスは、MG-DXとサイバーエージェントの人工知能技術の研究開発組織「AI Lab」が共同開発したものだ。
今回の展示では、映像や音声の高速認識・自律対話技術を駆使することで、ロボットやCGアバターが薬局の受付業務を代替する様子が紹介されていた。
またこのサービスは必要に応じて遠隔から人がサポートする機能も兼ね備えており、受付業務を可能な限りAIに任せながら必要に応じて人が介入するという体制を整えることで、省人化を実現しながら接客品質を落とさないよう運用の最適化が配慮された設計になっている。
サイバーエージェント社によれば、小型ロボットの接客は高齢者や子供の患者がより受け入れやすい傾向にあるということで、ITが苦手な顧客層に対する自動受付・接客業務の推進、またカスタマーハラスメントからスタッフを守るという視点からも新しい可能性を示していた。
専門知識を持つ人材が複数店舗で接客できる「遠隔接客システム」
ロボットやCGアバターなどのAIエージェントによる接客が単純な受付業務領域にフォーカスしている一方で、薬剤師が遠隔から画面上で服薬指導などの接客を行うことができる遠隔接客システムは、オンラインの利便性を活かし専門性の高い人材の活躍の場を拡大。自身の勤務する薬局から複数店舗に対して患者の需要に応じたフレキシブルな接客を可能にする。
近年、薬剤師の人材不足・エリア不均衡が問題になっており、都心ではそれなりに人員が確保できているが、地方では人員不足が深刻化しているなど「偏在」が顕著になっている。
本サービスの導入によってこの偏在を解決し、採用コストの削減、店舗ごとの業務の平準化、対人業務の体制強化、患者対応の品質向上、薬剤師の業務負荷軽減などの効果が期待できる。
調剤薬局の現場では、調剤業務を行っている間に接客ができずにいると来訪した患者がその状況を見て店舗を出て行ってしまうということも多く発生する。こうした機会損失をなくす上でも遠隔接客を活用した接客業務の最適化は非常に重要な取り組みとなる。実際の引き合いも混雑店舗やワンオペ店に対して課題を持っている調剤薬局が多いということだ。
また、専門性という観点でも、糖尿病や高血圧など特定の疾患に対して高い知見をもつ薬剤師もいるので、こうしたそれぞれの専門性と患者とのマッチング最適化というところでも遠隔接客が今後果たせる役割は大きくなってくる。
薬局業界初、オンライン・店頭受付の統合管理システム「モバイルオーダー」
薬急便サービスで最後に紹介するのは、薬局業界初となるオンライン・店頭受付の統合管理システム「薬急便モバイルオーダー」だ。
このシステムの主な特徴は、受付の一元管理、待ち状況の可視化、そして調剤完了の通知機能にある。これらの機能により、順番待ちに対するクレームの削減や薬局の混雑緩和が実現可能となる。
サービスの流れは、まず薬局での受付(有人)を行うと受付番号とQRコードが印刷された受付票が発行される。
患者は受付票に記載のQRコードをスマートフォンで読み取ると、待ち状況や自身の薬の準備状況をいつでも確認することができる。さらに、ブラウザ上で遷移した画面に自分の電話番号を入力するだけで、薬の準備ができたタイミングでSMSの通知が届く仕組みだ。通知を受け取った患者は調剤薬局スタッフに受付票を提示し、本人確認を行った後、薬が手渡されるという非常にシンプルなプロセスだ。
薬急便の特筆すべき点は、アプリのダウンロードが不要なブラウザ型であること、さらに店舗アプリやLINE公式アカウントに組み込めることだ。これにより、自身のスマホで簡単に待ち状況が確認できるとともに新たなオンラインサービス体験の機会を創出する。
店舗(薬局)での受付に加えて、外部から処方せん画像を送信することで、受取時間の予約、スマホで準備完了の連絡を受けることができる。あらかじめクレジットカードを登録していればオンラインで決済も可能。
導入した薬局からは「もうできた?」などの質問が激減し業務の中断が減少したという声や、待たれるプレッシャーから解放され業務に集中できる環境が整備された、などの声が多く寄せられているということだ。
また、患者向けの実際のアンケート調査では呼出通知希望率は導入店舗平均で70%に達しているということで、調剤薬局にとっても患者にとっても利便性の高い嬉しいサービスだ。
現在、クオール薬局、サンドラッグ、サツドラなど多くの大手チェーンでの導入が進んでいるが、その背景には深刻な人材不足とそれを解消するための職場環境改善の必要性がある。
薬急便モバイルオーダーは、患者の利便性と同時に、調剤部門スタッフの働く環境を改善し離職率を下げることに貢献している。
進化を続ける店舗サイネージプラットフォーム「ミライネージ」
ミライネージは、実店舗のメディア化を実現する店舗サイネージ配信プラットフォームだ。全国約50,000台の導入実績を持ち、商品認知率や売上向上の効果が確認されている。
「ミライネージ」がもたらす価値は多岐にわたる。小売店舗における販促オペレーション業務の効率化はもちろん、店舗のメディア化による収益最大化、そして新しい顧客体験の創出だ。今回の展示では大型ディスプレイを3台並べ、3台の画面がひとつのサイネージ画面として機能することでよりダイナミックな訴求を行っていた。
従来は店舗入口での商品ブランド認知を目的としたディスプレイ展開が中心であったが、今後は店舗入口において認知効果を最大化しながらも、店内の各商品カテゴリー、定番棚付近にも最適化されたディスプレイを設置し、特定カテゴリー商品の購買を促進するためのより詳しい商品情報を提示していく方針だ。
また、月間約1,200本のクリエイティブを制作する体制を構築しているため、この強みを活かして店舗特性や曜日・時間帯によって配信クリエイティブを細かく設定し、商品認知と販売促進を同時に実現することで、広告投資効果を最大化できるリテールメディアとして進化していくということだ。
全く新しい買物体験を提供するシェルフサイネージ「Tag Beans」
サイバーエージェントが芝浦工業大学益子研究室との共同研究によって開発し、今回新しいショッピング体験として展示を行ったのが「Tag Beans」だ。
「Tag Beans」は、商品棚(英語でシェルフ)の値札部分に設置されたシェルフサイネージを活用した革新的な商品推薦システムである。
このサービスの特徴は、キャラクターが商品棚を移動しながら、顧客に対して商品を推薦、実際に商品を手に取るとカメラがその状況を検知して売場のシェルフサイネージ全体が反応し、軽快な音楽とともにシェルフサイネージ上をたくさんのカラフルなキャラクターが舞い降りる、といったまるでアミューズメント施設にいるようなエンターテインメント性の高い体験を提供する棚札サイネージであることだ。
従来、値札スペースは単なる価格表示の場所に過ぎなかったが、「TagBeans」はこれを新しい顧客接点として活用する。
この新しいサービスのテスト的な展開を希望する小売企業に対しては、施策の立案・実行を同社として全面的にバックアップしていきたいということだ。
本サービスによって顧客の視覚、聴覚を同時に刺激する商品推薦施策を展開し、思わず商品を手に取りたくなるような新しい買物体験を提供したい小売企業は積極的にこの機会を活用してほしい。
商品が自ら動いて話す「自己推薦ロボット」
今回の展示の中で「Tag Beans」と同様に注目を集めたのが、「自己推薦ロボット」だ。
このロボットは、商品自体が動いて販促活動を行うというこれまでにない体験を提供する。
「自己推薦ロボット」の特徴は、人感センサーや重量センサーを組み合わせることで、顧客の行動に応じて柔軟に対応できる点だ。
例えば、顧客が目の前に立ち止まったら動きながらお礼を言ったり、商品を手に取ったらお礼やダンスをしたり、戻したら悲しむといった、まるで売場に生命が宿ったかのような振る舞いを見せる。
このソリューションの効果は、すでに実証実験で確認されている。大型雑貨店での実験では、来店客の立ち止まり率が2.14倍に増加し、販売率は大きいもので6.67倍も向上したということだ。
「自己推薦ロボット」は、単なる販促ツールを超えて、店舗内の雰囲気そのものを変える可能性を秘めている。売場が「生きている」かのような体験は、特に子供連れの家族や好奇心旺盛な顧客層に強く訴求すると考えられる。また、インスタ映えするような面白い購買体験として、SNSでの拡散効果も期待できるだろう。
商品まで買物かごが導いてくれる「スマートポータブルグリップ」
「スマートポータブルグリップ」は、買物カゴの持ち手部分に取り付けられる革新的な買物支援デバイスだ。このデバイスは欲しい商品がすぐに見つからない、という買物客が日々直面する課題を解決することを目的としている。
デバイスに組み込まれた無線通信機器によって位置情報を特定する仕組みで、店舗内での買物客の現在位置をリアルタイムに把握することができる。
さらに、振動とサーボモータを組み合わせた触覚フィードバック機能により、右左折や直進を誘導し、目的の商品への迅速な案内を可能にしている。
また目的の商品にたどり着いた後で、買い物カゴに商品を入れると重量センサーがそれを検知し、チャリーンという某有名ゲームでコインを獲得した時のような効果音が鳴り、エンターテインメント性が高い買物体験を提供している。
今後、買物アプリと連動させたり、音声認識連動でのサービス化を検討していくということで、買い物の効率化だけでなく、買い忘れの防止、さらには新商品との出会いを創出・促進することもできそうだ。
店舗DXを牽引するリアルタイム・高精度AIカメラ
最後に紹介するのは、人の行動計測に特化した高精度AIカメラ技術だ。この技術の最大の特徴は、「0.1秒未満のリアルタイム性」を担保しながら、複数人の行動認識を同時に、かつ高精度に計測できる点で、認識精度・スピードは世界トップクラスということだ。
実際展示ブース内を行き交う人々を同時に検知する模様を確認できたが、単純に人の動きを追うだけでなく、顔と体と手の位置を別々に認識し、顔についてはどの方向を向いているかもリアルタイムで検知していた。また映像に映る人には個体番号が割り振られ、カメラからの距離もリアルタイムで検知・表示されていた。
特定のカメラに依存しない技術であり、一般的な監視カメラなどあらゆるカメラにこの技術を導入することが可能ということだ。
この技術がもたらす可能性は計り知れない。例えば、顧客の動線・行動分析や店舗スタッフの業務フロー分析に活用することで、店舗レイアウトの最適化や業務効率の改善につなげることができる。また、顧客の店舗内での位置や行動に応じて、アプリと連携したクーポン配布や、サイネージと連携した関連商品の推薦など、パーソナライズされた販促活動も実現可能だ。
弊誌でも小売店舗の動線調査を行っているが、人間が目測して1店舗を調査する場合1日がかりの作業となる。この技術が導入されれば大量のビックデータを解析し、動線分析を行うことで、データドリブンな売場レイアウト・各種施策の改善を行うことが可能になる。
今回のCEATECにおいてサイバーエージェントは、テクノロジーを駆使し実店舗の価値を最大化する小売業の未来像を提示した。
このブースで具現化された新しい買い物体験は、AI、IT・IoTデバイス、データ分析、デジタルマーケティングなどの先端技術を活用することで、従来型の小売店舗を革新的に進化させる可能性を示唆している。
今後、サイバーエージェントと協業する小売企業がこの新たなビジョンと顧客体験をどのように具現していくのか、業界内外から注目が集まることになりそうだ。