4桁出店に追従できる拡張性を求めて
ゲンキーは、もともと自動発注システムを導入していたが、年間1,000店舗の高速出店体制構築に追従できるような、より拡張性の高い自動発注システムを探していた。
そこで同社が目をつけたのが、丸本健二郎氏の立ち上げたオプタークの自動発注システム「Real」である。丸本氏はダイソーの情報システム部で国内3,000店規模の各種システムの立ち上げ、運用などを経験している。
AWS(Amazon Web Services)のユーザーコミュニティでも活躍しており、2019年に同社退社後オプターク合同会社を設立。「Real」には、丸本氏がダイソーの情報システム担当として得た経験や、ゲンキーのニーズがふんだんに盛り込まれているという。
自動発注にとっては「正確な販売予測に基づいて発注を行う」ことよりも、「どのタイミングで発注を行うのか」「在庫をどうコントロールするか」の方が重要だというのが丸本氏の考えだ。
在庫最適化、販売予測、推奨計算の機能を提供
そんなRealは(1)在庫最適化、(2)販売予測、(3)推奨計算の3つの機能を備える。
(1)在庫最適化
Realは「売れ数を正確に算出する」ことよりも「在庫数を適切に保つ」ことに軸足を置く。
一般的に、在庫データの精度が落ちると自動発注システムの精度も落ちるが、Realは、在庫データがぶれても自動発注への影響度は最小限になるように設計されている。また、過去のPOSデータや出荷データの連携における遡及計算も行うことができるため、今だけでなく過去の在庫を正しく分析に用いることも可能だ。また保有日数を計算することで、販売数以上に在庫を持ってしまっている商品に対して店舗間移動などを推奨する仕組みも備える。
(2)販売予測
過去の販売の売れ方だけではなく、広告や気温などの外部要因によって売れ方が変わることを考慮した販売予測計算を行う。
商品の一生には、「導入」「売り始め」「リピート」「売り減らし」の4つの状態がある。たとえばリピート期において、Realは以下のようなロジックで、販売予測を行う。
①過去の販売実績によって「基礎販売力」を算出、②曜日別の販売特徴、気温などのトレンドを把握、③価格の変更や陳列場所の変更など、小売業の内部要因による変動も反映、④天候による客数の変動、競合店などの例外指数など状況変化も加味、これら①~④の検討を経て、リピート期の販売数量を予測する。
また、実績がないため販売予測が立てられず、自動発注にも適さないといわれてきた「売り始め期」においても、独自の計算方法で販売予測を立てる。
(3)推奨計算
最低在庫数を手入力する必要のある自動発注システムは少なくないが、Realでは、各種パラメーターも自動で作成される。
「よくあるのが、パレートの法則で、一般的には2割の在庫で売上の8割を稼いでいる企業さんで、8割の最低在庫数を3″などに固定してしまうケースです。しかし、これでは棚がスカスカになってしまいます。なんとかしようと結局手入力で最低在庫数を入力すると、より作業時間が増えてしまいかねません」(丸本氏)。
そんな自動発注にまつわる本末転倒を防ぐためにも、なるべく自動化を目指している。
商品サイズと棚の奥行や幅などの情報を突合して、見栄えのよいような陳列量を算出し、自動発注、在庫コントロールを行う機能もある。
この(1)(2)(3)の機能で、適切な自動発注を実現するとしている。
かゆいところに手が届く機能の数々
このほかRealには、これまでの導入企業のニーズにこたえる過程で付与されてきた、たくさんの現実的な機能があるのも特徴的だ。
・エンドに陳列された商品を登録すると、店舗が考えた陳列ボリュームをシステムが自動で維持する。エンド終了時の売り減らし発注もシステムが自動計算を行う。最終的に定番棚に戻された際の販売パワーも計算し、定番棚に合わせた発注を行う。
・おせち用野菜、恵方巻などの季節の特需の変化に対応。
・価格変更の際、販売力を先読みして、売変前に販売力を算出。発注量を自動で増減する。
・商品の改廃に関して、旧商品の在庫が残っている間、新商品の投入を待つように設定。
・バナナのように、鮮度が見た目に現れる商品において、店頭に陳列されている商品の鮮度を意識し、傷んだ商品だけが陳列されないような発注コントロールを実施。
・おにぎりのように、どの具の商品を何個陳列するかという、バランスも重要なキーを握るジャンルについて、バランスも加味した上で最適な数量の発注を行う。
ユーザー自身が仕様を変更できるマイクロサービステクノロジー
マイクロサービステクノロジーのアーキテクチャを採用しているのもポイントの一つ。ビジネスの変更に合わせてユーザー企業自身がサービスを変更できるというもの。
「これまでの情報システム部の経験では、要件定義をした上で、システムを構築しても、完成したものを見たユーザーから『これではない』といわれることが少なくありませんでした」(丸本氏)。そこで、ユーザー企業自らが、多くの仕様を変更できるような設計にしているのだという。
また、ユーザーの要望によって、さまざまな機能がパッケージに追加され続ける予定だ。システムを導入するときにはイニシャル費用を原資として、ユーザーからの要望をパッケージに組み込む。導入がひと段落して運用フェーズに入ると、運用費用を原資にして、ユーザーが実際にシステムを使ってみて気づいた必要機能をパッケージに組み込むことができる。常に新しい機能が追加され続け、他社の要望で追加された機能もすべての導入企業で利用できる。
「Real」は元々ゲンキーのために開発された自動発注システムだが、ユーザー企業が拡大する過程でさまざまな機能が組み込まれ、このタイミングで一般に提供することになった。現在Realは、ゲンキーをはじめ、生協ひろしま、ホームセンターのグッデイなどに導入されている。
日本のチェーンストアのまさに「至れり尽くせり」な在庫管理、陳列に対する思想が反映されたシステムといっても過言ではなさそうだ。
※2023/11/13 20:30 導入企業に誤りがありましたので修正をいたしました。