コロナで激変したアメリカ流通業

コロナ禍で成長した米国小売業はデジタル投資で「買物体験」を変えた

月刊マーチャンダイジング note版では、コロナ禍で大きな変貌を遂げたアメリカ小売・流通業のポイントを整理しました。近い将来、日本でも起こる変化としてご購読ください!(企画・執筆/エレガント・ソサエティ 若林哲史)(月刊マーチャンダイジング2023年1月号より転載)

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「月刊MD note版」では「アメリカ流通業レポート 2022」を特集!DXによってコロナ禍で躍進した有力チェーンストアの戦略を分析します。
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低価格志向が顕著に

2022年は、2年以上にわたり人々の生活を大きく変えたコロナ・パンデミックの終焉の始まりとなる明るい年と期待されたが、2月24日にはロシアによるウクライナ侵略戦争が始まり、4月以降はインフレが急速に悪化した。

2022年3月には消費者物価指数が+8%、6月には+9%を超えてピークと思われたが、9月に入っても+8.2%と高止まりしている。

特に食費の支出額は全体で+11.2%、外食を除くと+13%の上昇となり生活を圧迫している。失業率は9月で3.5%と低く、所得も伸びているが、物価上昇率がそれを上回っており、世帯収入が低い人達の大きな負担となっている。

インフレがさらに悪化した3月頃からは、世帯間の所得の差による違いが表れ始めた。生活必需品の価格上昇は特に所得の低い世帯への影響が大きくなった。NBより割安なPBや代替品の購入、購入の先送り、買物頻度を減らすなどの行動が見られるようになった。

家電、家具、家庭雑貨などのカテゴリーの需要は冷え込んでおり、「ベッド・バス&ビヨンド」などのように、事業継続が危ぶまれる企業も出始めている。

店頭ピックアップが急伸

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一方、パンデミックにより、EC・オンラインによる買物は、通常の買物の選択肢のひとつとして定着した。そんな中、多くの大手小売業はリアル店舗とECを融合させ顧客に切れ目のないサービスを提供するオムニチャネル化のためのテクノロジーや、商品の受け渡し方法の多様化のための設備投資を積極的に行っている。

一方、EC市場の半分近くのシェアを持つアマゾンは、リアル店舗の展開を拡大している。2022年には、コンビニエンス・ストアの「アマゾン・ゴー」、グローサリー・ストアの「アマゾン・フレッシュ」、アパレルの「アマゾン・スタイル」、傘下の「ホールフーズ・マーケット」の店舗網を拡張し、9月末までに600店を超えるリアル店舗を展開している。

コロナ禍でオンライン注文→店舗ピックアップ、もしくは即日配達のニーズが急増した

これは、リアル小売業の店頭ピックアップ・サービスの成長に対抗する戦略だとみられる。オンラインで店舗と同じ価格で購入し、配達を待たずに店頭でピックアップできる便利さが消費者に受けている。

エコシステムの構築

パンデミックを機に、顧客がいつでもどこでも、どの様な方法でも欲しいものを購入でき、オンラインとオフラインを融合させることで、これまで以上に満足度の高い顧客体験を届けるオムニチャネル機能を備えた小売業が成長している。

またECにより収集/集積した消費行動の情報をベースに、顧客が求める金融、ヘルスケアなど様々なサービスを提供する小売業が増えている。

小売業を中心とした協業、分業および連携によるエコ・システム※の構築が進んでいる。アマゾンがプライム会員を中心に構築したエコ・システムを後追いで小売各社が模倣しているわけだ。

スマホをユーザー・インターフェース(顧客との接点)とする小売業アプリの活用も増えている。アプリは商品の検索、注文、返品そしてユーザーによる商品レビューから、小売業とのコミュニケーションなど幅広く利用されている。

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EC売上高が成長

2020年3月頃から感染者が増えはじめ食品小売業界とEC業界を除いて、小売の売上が急速に落ち込んだ。一方、スーパーマーケット、ディスカウント・ストア、ドラッグ・ストアやホームセンターなど生活必需品を販売する小売業は、コロナ特需で大きく売上を伸ばした。

他にも配達業、清掃業、ドライブ・イン式の映画館、酒販店、グルメ食品のケータリング、ゲーム専門店、フィットネス器具の販売業、造園業、家屋の修理を行う業者、子供の家庭教師、中古車販売、セラピストや家具店などもパンデミックの恩恵を受けた。

最も成長したのはEC業界で、デジタル・コマース360によると、2020年EC市場は前年比44%も成長し、小売市場の21.3%を占めた。

2020年後半になると状況は少しずつ落ち着き、コロナ過の新たな生活環境に対応したライフ・スタイルが定着し始めた。レストランのテイクアウトと宅配、小売店ではオンラインで注文した商品を駐車場でピックアップするカーブサイド・ピックアップの利用者が増え、多くの小売業が電子コマースで顧客が求める機能を拡充した。

また、チェーン展開する小売業が一部の店舗を小規模の「フルフィルメント・センター」(出荷のための梱包を行う物流倉庫)として活用するところも増えた。

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サービス消費が増えた

2021年に入るとショッピング・モールが再開されてアパレル店などの需要が復活、5月には小売売上が前年比で53.7%も増加、その後も2桁代の伸びが続いた。食品小売業界では買い溜めが多かった前年に比べて売上は減少したが、住宅市場が好調に推移したことにより大型家電や家具の需要が急増した。

消費者の購買傾向は住宅関連商品、フィットネス器具、キッチン用品からアパレル関連に移行、カジュアルウェアに加えて、事務所勤務に戻り始めた人達によって、スーツなどのフォーマル・ウェアの需要が伸びた。

また、健康美容のカテゴリーでは、在宅勤務ではあまり必要なかった化粧品を中心に需要が回復した。学校への登校も再開されたため、2021年の新学期用の学習用品や衣料品のバック・ツー・スクール・セールも好調に推移した。

2022年に入ってからも前年に始まった「リベンジ消費」が続き衰えていない。しかし消費は前年の商品消費からサービス消費へと移行、旅行や外食への需要が急増する一方で、家具、家庭雑貨、家電、スポーツ用品は低迷した。

デジタル投資が加速した

コロナ禍で成長した小売業は、積極的なデジタルやデータ投資、EC企業の買収やテクノロジーに必要な人材投資を積極的に行っていることが共通した特徴である。

ウォルマートはパンデミック前の2016年にEC企業の「ジェット・コム」を33億ドルで買収した。創業者のマーク・ローリーは、その後ウォルマートのテクノロジー部門を率いてオムニチャネル企業としての土台をつくることに大きく貢献した。

その後もヘイニードル、シューバイ、ムースジャー、モッドクローズ、ボノボス、インドのフリップカート、スレッドアップなど20社近くのIT企業を買収している。それらの企業の多くはその後譲渡されているが、ウォルマートのDX(デジタル・トランスフォーメーション)に大きく貢献したことは疑いようのない事実だ。

利用客の間で人気の高いグローサリー・ピックアップや「ウォルマート+」のサブスクリプション(定額)・モデルも、これらのEC企業買収の成果と言える。

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フルフィルメント・センターに投資

上記に加えてウォルマートは人材投資を増やし、大学の奨学金制度や社内トレーニングを強化、消費者の行動変化に俊敏に対応できる組織を構築している。

ターゲットは、オンラインで購入した商品を配送する「シップト」を2017年末に買収し、コロナ過でEC売上を大きく伸ばした。利用客の所得水準が相対的に高いターゲットは、食品をはじめ生活必需品の幅広い品揃えでワン・ストップ・ショッピングができる店として、既存の顧客よりもさらに所得の高い富裕層の新規顧客を獲得した。過去2年間に売上を30%以上伸ばし、今年に入ってからも客単価や客数を伸ばしている。

オンラインで注文した商品をその日のうちに店頭や駐車場でピックアップできるサービスや、シップトによる即日配達は利用者の間で利便性の高いサービスとして高い評価を得ている。

大手スーパーマーケットのクローガーは、パートナーシップを活用した戦略により業績を伸ばした。2018年には、イギリスのオンライン・スーパー「オカド」と提携し、全米でオカドのロボットを駆使したフルフィルメント・センターの建設を行っている。

これまでに11ヵ所が稼働しており、店舗を展開していない地域でも、フルフィルメント能力を活かしたオンライン注文・グローサリーの配達サービスを提供している。

これから成長する企業は、「エコ・システム※」と、顧客満足のための「プラットフォーム」を確立した企業である。

この2つを実現するためには、自社の顧客が誰であるかを正確に見極め、彼らの財布のシェアだけでなくて、生活のシェア獲得を目指すことが必要になる。

つまり顧客満足は、これまでのように商品やサービスの提供だけでなく、顧客が健康で幸せに暮らせるように、製品やサービスを総合的に連携させることが重要になる。

※エコ・システム ビジネスにおいては、企業間でパートナーシップを結び、それぞれの企業が持つ技術や知識などの強みを生かし、共存共栄を図る仕組みのこと。

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