世界の最新事例を紹介し、日本への導入を考える

実証試験を終え、次々に実用化される無人店舗

無人店舗は目覚ましい勢いで進化を続けている。今回は、サイバーエージェントグループ、株式会社CA無人店舗取締役平川義修氏が、2022年春、夏に視察した海外の無人店舗のうちのいくつかをベンダー(開発業者)ごとに紹介、合わせて日本での導入のポイントなどを考える。(取材協力:サイバーエージェント)(月刊マーチャンダイジング2023年1月号より転載)

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商圏設定、品揃え、データ活用など戦略に合わせベンダー選択&協働

Amazonが無人店舗「Amazon Go」をアメリカワシントン州シアトルに出店したのは2018年1月。Amazon登録者が専用アプリを立ち上げるとQRコードが表示され、それを入り口でスキャンして入店、もしくはクレジットカードを差し込んで入店(買物客の特定)。店内で買物客が棚から商品を取ると天井に設置されたAIカメラと棚の重量センサーがそれを捕捉して商品と購入者を特定。指定のゲートから店を出ると数分後に電子レシートがスマホに送られてくるというのがその仕組みである。

このシステムはレジ精算なく、ただ店を出るだけという意味で、Just Walk Out(JWO)と名付けられ、現在Amazonは自社店舗だけでなく、JWOの外販も行っている。

1号店は20坪ほどの売場に約1,500SKUが在庫されたコンビニタイプの店舗だったが、改良を続け600坪の同社傘下の自然派食品スーパー、ホールフーズでもこのシステムを採用している。

JWOが起点になり、世界各地のスタートアップ企業が無人店舗のシステム開発に取り組み、現在では「スタジアムの売店に適したシステム」、「店内行動の分析に特化したシステム」など、各社目的や利用機会を考えた特徴あるシステム開発へとフェーズは進んでいる。今後日本の小売業は得意分野に応じてベンダーを選び、自社の成長戦略と一体的に無人店舗システムを採り入れていくことになるだろう。

ポイントは無人店舗とは、単に人のいない店舗を意味するのではなく、レジなしにすることで、快適な短時間買物体験で固定客を増やす、さらには、不要になったレジ従業員を他の業務にあてる、カメラやセンサーで店内データを取って固定客育成や販促、店舗運営改善に活用するなど、技術を自社の成長戦略の有力手段として位置づけることにある。目的や予算に応じて複数のベンダーと組むことも一般的になっているのでその視点も重要だ。

以下、平川氏が視察した無人店舗のシステムと、どのような戦略に活用できるかを合わせて紹介する。

JWO採用 600坪食品スーパー

[写真1]JWOで運営する600坪のホールフーズ(ワシントンDC)

ワシントンDCにあるJWO採用のホールフーズは600坪の売場面積に約5,000台のAIカメラを設置してレジなし店舗を実現(写真1)。

セミセルフレジ併用だが、レジはパーティションの後ろにありJWOが推奨されている格好。

アマゾンはホールフーズの他にも自社が運営する食品スーパーアマゾンフレッシュを40店舗以上出店しており、店舗では精算機能のあるカートでレジなし買物が可能。オンライン注文にも対応し複数店舗でJWOを導入している。

レジなしのスムーズな買物体験で固定客を増やす。加えて、レジ人時をECの出荷要員に振り分け、リアル+ECで商圏(アマゾン経済圏)拡大を図っている。無人店舗と成長戦略が一体化している好事例である。

ACCEL ROBOTICS社 Valet Market

集合住宅内出店、エリアに配送拠点 都市計画と一体化も見込む

視察したのはサンディエゴ市中心部から3〜4kmの都市部立地のマンション内に出店するアクセルロボティクス社が運営するバレットマーケットという店舗。売場面積は20坪程度で、食品や日用品、医薬品など生活に必要なものは一通り揃っており、店舗内在庫は、住民の買い足しや買い忘れなどのニーズに対応している。マンション外からの入店、住民以外の買物も可能。

[写真2]バレットマーケット店内(サンディエゴ都市部)
[写真3]生鮮食品など生活必需品を品揃え

ゲートからQRコードで入店し、レジなしでアプリ精算。マンション住人であればアプリで注文することで部屋まで配達してもらえる。2〜3km離れた場所に店舗兼配送拠点になるダークストアがあり、無人店舗に在庫のない商品や品切れの商品はその店までスタッフが取りに行くことで品揃えを拡張。こういった配送作業や補充などのために、従業員が3人常駐している。マンション住人と顔なじみになるため安心して部屋までの配達を頼める。

[写真4]マンション住人向け配達サービスの告知

利用者(アプリ会員)が何をいつ、どれくらい購入したかのデータを活用することで、個人のニーズにあったムダのない精度の高い品揃えが可能になる。このマンションは700世帯、1,100人が居住しており、この商圏人数(1,000~1,500人)で十分成り立つビジネスモデルを確立している。それだけ、頻度高く住民に利用されていることになる。

アクセルロボティクス社は元々ロボット開発の会社で、将来的には、マンションやオフィスといった特定コミュニティ内の店舗とダークストア間の配送を自動運転でつなぐスマートシティ構想もある。

[図表1]アクセルロボティクス社バレットマーケットのビジネスモデル

データ活用で個人のニーズを把握し品揃えに反映、無人店舗で在庫できないものはダークストアを使って住居まで配達、こうしたone to one対応の強化でコミュニティ内の買物シェアを最大化しようとする戦略は興味深い。都市部だけでなく、郊外を商圏とする日本の小売業、ドラッグストア(DgS)にも応用できる(図表2、3参照)。

[図表2]日本の都市部立地のDgSへの応用例
[図表3]日本の郊外立地DgSへの応用例

《適した戦略》

  • 店内データ分析強化
  • サテライト店舗出店

AVA retail社

既存の監視カメラにAIカメラを追加 レジなし精算から店内分析まで可能

アバリテール社は2014年創業とスタートアップ企業としては老舗の部類に入り技術も蓄積されている。同社は「実現可能なコスト」にこだわり、既存の監視カメラに新規のカメラを追加することで、レジなし精算ができる。

天井の高さにもよるが、200坪程度の売場でも80台のカメラで対応可能。これを坪当たりのカメラ台数で計算すると0.4台となり、先に紹介したワシントンDCのJWO型ホールフーズ(8.3台)の20分の1だ。

低コストだが映像分析の技術は高い。お客の鼻の向きを分析することで売場に設置された複数のデジタルサイネージのうち何を見ているかが分かる。さらに基本的な表情を読み取ることで商品への好感度も推測可能。

また、同社の強みはカメラ、センサー、アプリなどを駆使して様々な顧客行動を分析し、それを店舗改善に生かすところにある。分析するデータとしては、「任意の時点での店内客数」「直帰(買わずに退店)率」「顧客がよく通る動線」「顧客ごと商品ごとの滞留時間」「顧客をもっとも長く滞留させた商品、同もっとも短い商品」「顧客ヒートマップ」「商品ヒートマップ」などがあり、これらの数値を組み合わせ約80種類のデータをダッシュボードで見られるシステムを開発している(写真5)。

[写真5]店内行動分析の結果をダッシュボードでチェックできる

POSだけではわからないデータを分析することで売場レイアウト、棚割、ポテンシャルのある商品の陳列位置などの改善ができる。こうした分析を少ないカメラ台数、比較的低予算でできるところが大きな強みとなっている。初期導入コストを抑えたい小売業に適したシステムである。

[図表4]アバリテール社システム導入イメージ

《適した戦略》

  • 店内データ分析強化
  • 低コストで早期導入・差別化

STANDARD AI社 CIRCLE K

既存店に低コストで導入可能 従業員の動き、店の仕組みを変える

視察したのは、スタンダードエイアイ社の自動チェックアウトシステムを導入した、アメリカアリゾナ州フェニックスで営業するコンビニ、サークルK。

この店舗の大きな特徴は入店ゲートがないこと。店内を回遊して任意のタイミングでQRコードやアプリ入りのスマホをリーダーにかざしてチェックイン、買物が終わって店を出ると電子レシートが届く。ゲートがあることで入店しづらくなる心理的障害を解消している。ゲートがない分万引きリスクも高まるが、チェックインなしで商品をピックアップして退店した場合には従業員にアラートが出る。

[写真6]店舗のオペレーション・指示出しを自動化。従業員向けのスマホアプリに指示を飛ばし、誰が実施したかなどを管理可能

また、複数の高精度AIカメラが人物だけでなく商品も個別に識別することで、売り切れや棚の乱れを認知、店舗従業員にアラートが出る。それに対応すると評価ポイントがつくというゲーム感覚で売場を常に良好な状態に保つ作業管理システムも兼ね備えている。

既存店にこのシステムを導入する場合、AIカメラを設置するだけで、棚の入れ替えやレイアウト変更の必要がないので低コストで済むのも大きな特徴。

《適した戦略》

  • 低コストで早期導入・差別化

AiFi社 ALDI

カメラのみ設置でレジなし精算 高齢の買物客がスムーズに利用

[写真7]天井のカメラのみで商品、購入者特定

アイファイ社は2016年アメリカカリフォルニア州で創業。カメラ設置だけ、棚の重量センサーなどなしで商品を特定、アプリ利用でレジなし精算ができる。そのため導入コストを低く抑えられる。アメリカ、イギリス、スペイン、中国など世界各地の小売にシステムを提供している。

視察したのはイギリスグリニッジ郊外で営業する食品スーパー、アルディ。中心部から離れた郊外立地の200坪程度の店舗。高齢者のお客が多かったが問題なくスムーズに買物。高齢社会の日本でも十分一般化できることを伺わせている。生鮮品揃え300坪程度の一般的な郊外型DgSにも適用できると思われる。

《適した戦略》

  • 低コストで早期導入・差別化

ZIPPIN社 スタジアム売店

ハーフタイム、通勤時など 混雑する特定時間に対応

[写真8]ニューヨークNBAのスタジアム内にある自動精算の売店

ジッピン社開発のシステムはスタジアム、駅、空港など特定の時間帯に買物客が集中するという店舗に特化。比較的小型店でレジ待ち時間をなくすことも強みとしている。

これまでに50店舗を出店、1平方フィートあたりの売上を10%〜50%向上させ、お客のレジ待ち時間を延べ14万時間節約したと発表している。2022年には200店舗に導入拡大。

《適した戦略》

  • 来店客集中時のチャンスロス解消

オンライン接客による、新規サービス定着促進、接客販売強化

省力化&接客強化/①お困り事対応

●サイバーエージェント社が提供するサービス例
接客のデジタル化:チャットボット、アバター接客など

サイバーエージェント社が提供するサービス例

セルフレジ、スマートカート(カート設置の機器で商品スキャンしレジなし会計)など新規サービスを開発し導入しても使い方がわからないため中々定着しないというケースが多々見られる。無人店舗導入時にも起こり得ることだ。当初は人を付けて説明していても長期間それを続けるのはコスト的にも難しい。

こうした事態への対応として、サイバーエージェントではオンライン接客のソリューションを用意している。サイネージ提供に加え、沖縄に1,000人規模の自社コールセンターがあり、これに対応。新規サービスの説明の他、ビューティケア、ヘルスケアのカウンセリングにも活用できる。

【無人店舗・オンライン接客に関するお問い合わせ】 ca_mujin@cyberagent.co.jp 050-5212-7036

 

〈取材協力〉

株式会社CA 無人店舗 取締役
平川 義修氏