コロナ禍でもオフィス需要は堅調。AIを活用した自販機支援事業も好調
「無人コンビニ600」「Store 600」を運営する株式会社600(ろっぴゃく)は2017年創業。代表の久保渓氏は1985年生まれ。アメリカの大学でコンピュータサイエンスと政治学をダブル専攻し卒業後現地でクラウドコンピュータのホスティング会社を起業。帰国後別会社の起業を経て600は4社目の起業。
従来、オフィスニーズを中心にビジネス展開していたが、コロナ禍によるリモートワークの普及で事業にどのような変化が起こったのか。
「2020年3月頃からリモートワークが推奨され、外出自粛が要請されオフィス需要は一時的に落ちました。しかし、コロナ禍で出勤しなくては仕事ができない人がエッセンシャルワーカーを中心に一定程度おり、そうした人たちへの福利厚生をどのように維持・向上させるかが真剣に考えられるようになりました。その結果、同年夏ころからオフィスの需要も回復し、いまでも堅調に推移しています」(600代表取締役久保渓氏)
出勤しても会社付近の飲食店が休業していたり、外出を自粛したりする傾向もオフィス需要の下支えになった。
同社では小売事業のほかに、自動販売機の管理会社に自社の経験と技術力をもとに業務改善ソリューションを提供する事業も行っている。「ベンディングヒーロー」と名付けられたこの事業部門で最近需要の高いのが、ルートセールスの効率化である。
自動販売機を運営する企業を対象に、売れている自販機や商品の特定、効率的なセールスルートなど、事業の改善指標を複数設け、過去のデータをAIで機械学習したり、アルゴリズムを開発することでそれらを改善。最適化された訪問計画を立てるというサービスである。これにより無駄な訪問が減り、業務コストを39%以上カットできた事例もある。
こうした自販機のDX事業は小売事業と並んで600の柱にしたいと久保氏は語る。
マンションニーズの拡大でカスタマイズの精度上がる
最近、600が注力している事業がマンションの共有部分への筐体の設置である。「Store 600」と名付けたこの販売設備はオフィス用とは異なり高級家具をイメージ(写真1)、冷蔵機能はなく常温によるサービスとなる。オフィス用の無人コンビニ600ではクレジットカードを使ってドアを開け決済していたが、Store 600では専用アプリによりドアを開閉し、決済もアプリのQRコードを用いて行う。
商品は1個50円程度のものから3,000円程度のものまでを品揃えする。オフィス用のように、コンビニニーズの上位売れ筋商品を切り出して品揃えするのではなく、マンションの居住者属性に合わせて、子供用のおもちゃから、地方のお土産物までと多彩な商品を販売する。
「子育て世帯が多く住むファミリー用マンションではキッズルームを備えた物件もあり、子供用のおもちゃや離乳食などが売れます。子供向け商品はStore 600のひとつの柱になっています。コミュニティスペースがある場合は、少し上質なお菓子や共用設備として設置されているコーヒーサーバー用のカプセルを販売しています。コロナ禍で遠出ができないこともあり、地方の名物、お土産のような商品もよく売れています。コロナ禍でリモートワークが増えたことで共用施設としてコワーキングスペースを設けるマンションもあり、そこでは文具やオフィス用品を厚く品揃えしています」(久保氏)
マンションは立地や間取りタイプなどで居住者の属性を推定しやすく、Store 600もそれに合わせコンセプトを定め品揃えする。オフィス用でもユーザーの声を聞いて商品をカスタマイズしているが、マンション用でもユーザーからのヒアリングには力を入れている。
管理組合の理事が理想の共用スペースのアイデアを持っており、組合員からの信任も厚ければそれに沿った形でStore 600の品揃えが行われる。久保氏によれば、商品だけを置くのではなく居住者のおもいを受けて空間を快適にするための手段として、居住者と伴走するイメージで一つひとつのStore 600をつくっていくことが理想であり、物件によってはそれが実現している。
オフィス用では実用性重視の品揃えだったが、Store 600では、住まいの一部として心豊かに時間を過ごし、いかに暮らしに付加価値を与えてくれるか、それが品揃えの重要な基準となり、物件ごとにその基準は異なる。
管理組合の理事経由で希望を聞くことに加え、アプリを介してのインタビューや入居者説明会の場を通じてニーズの集約に努めている。
広がる使用シーン 究極の小商圏モデル
600のビジネスモデルはオフィス用からマンション用へと用途を広げたことで質的にも変化している。以前は必要な「モノ」を販売することが主眼だったが、マンション用では家族がそして個人が豊かな時間を過ごすための手段=「コト」を売る側面が強くなった。
続きは月刊MD2021年8月号で!
〈取材協力〉