黒髪ブーム、ロールモデル不在で縮小するおしゃれ染め
美容室におけるカラーメニューの低価格化、カラー専門店の台頭など、近年のヘアカラーを取り巻く環境の変化により、自宅で髪を染める「おうち染め」の市場は頭打ちとなっている。おうち染めは、白髪染めとおしゃれ染めに大別できるが、とくに打撃を受けているのがおしゃれ染めだ。現在のおうち染めの内訳を見ると、8対2と圧倒的に白髪染めが多く、おしゃれ染め市場は、白髪染め以上に縮小している。
「おしゃれ染めのピークは2000年ころで、いまは当時の半分以下。当時は、アムラーブームなどギャル文化が全盛で、髪色も明るい方へ明るい方へと移行していきました。“学校の先輩”など、身近なロールモデルがいて、その影響で茶髪に染めていたケースも多くあったとおもいます。今はメジャーアイドルもほとんど黒髪です。2011年に震災があったことなどもあり、全体的なモードが変わったのだとおもいます」(ヘアケア事業部ブランドマネジャー 入交 剛氏)
白髪染め市場は860億円、50歳以上増加で可能性あり
最直近では、インナーカラー(髪の内側のみ色を入れる染め方)など、自分の髪色を楽しみたい、いろんな色を楽しみたいというニーズは出てきているが、まだ市場としての反応は大きくはない。おしゃれ染めの国内市場は追い込まれつつあり、ヘアカラーメーカーはアジア圏のインバウンドも視野に動いているという。
一方、同社によれば白髪染めの市場規模は推定860億円。全身洗浄料や制汗剤をしのぐ規模がある。高齢化によって、全体の白髪の本数は確実に増えているにもかかわらず、それほど伸長していないのが現状で、生活者の潜在需要を掘り起こす新しい切り口の商品が求められている。トレンドとしては、50歳以上がマジョリティになり始めた社会の中で「白髪があるからこそ」のイキイキとしたライフスタイルを評価する生活者も増えてきており、吉川晃司や草笛光子に代表されるようなグレーヘアにも注目が集まっている。
〈図表1〉自分の外見で気になる点は何ですか?(複数回答)
〈図表2〉
グレーヘアを素敵だと思いますか?(単一回答)
ヘアウェルネス発想で、メラニンに着眼して黒髪を取り戻す
このような状況下で、2018年5月、花王にとって10年ぶりとなる新ヘアケアブランドとして発売されたのが「Rerise(リライズ)」だ。Reriseは、既存のヘアカラーやカラートリートメントとはまったく異なり、黒髪メラニンのもとを定着させることで、自然な黒髪色を取り戻す次世代型白髪ケア商品。新しいサブカテゴリーとして成立させることも可能であろう、画期的なアイテムだ。売上も好調で、5月以降計画比1.5倍で伸びているという。
「Reriseは、ヘアウェルネス発想の白髪ケアアイテムです。黒髪メラニンのもとだけで染めるため、髪に負担がかかりませんし、使うたびにハリやコシが出ます。髪にとっていいことをした結果として、色が変わる。髪の傷みとのトレードオフではありません。白髪のケアを健康軸で打ち立てた、まったく新しいブランドです」(入交氏)
Reriseは、酒造メーカーの酒蔵で見つかった、発酵過程で生まれる黒い麹をヒントに開発された。黒髪と白髪の違いは、メラニン色素の有無にある。色素が足りないなら補えばいいというのがReriseの考え方だ。
同商品に配合されている黒髪メラニンの素は、マメ科の植物から抽出した100%天然由来の着色成分で安全・安心。使うたびに、髪表面に定着し、自然な黒さを補っていく。
〈断面図〉
3回の使用で色づき定着、グレーカラーにも対応
白髪が自然に色づくまでには、まず3日間使用する。使い方は簡単で、お風呂場で髪に塗り、5分後に流すだけ。定着した黒髪メラニンのもとは基本的にはとどまるため、その後は生えてくる白髪のケアのために使用する形だ。花王は1週間に1回のケアを推奨している。商品1本の容量は、ショートヘア(女性)4回分。1本購入すれば、いま生えている白髪全体をカバーできる。
「髪のメラニン色素に着目した新発売の技術、これを事業として生産ベースに乗せることができるのが弊社の強みだとおもっています」と、入交氏は自信をのぞかせる。
高齢者でも持ちやすく、押しやすく、濡れた手でも滑りにくい素材で持ち手を設計。湿気のあるお風呂場でも長期間衛生的に使えるよう、容器デザインにも細部までこだわった。商品は「リ・ブラック」「グレーアレンジ」の2色。それぞれ、仕上がりの異なる「まとまり仕上げ」「ふんわり仕上げ」と、1.2倍量の「つけかえ用」の全8SKUをラインアップする。
〈使い方〉
〈使用イメージ〉
白髪染めのストレスフリー、男性ユーザーの拡大にも
〈図表3〉
白髪染めはいつまで続ける予定ですか。(単一回答)
同商品でもうひとつ注目すべきは、これまで生活者が感じてきた白髪染めにまつわるストレスを解消するストレスフリーアイテムとして登場した点だろう。生活者は、染めても伸びてくる白髪を憂鬱におもい、染めるたびに髪や頭皮へのダメージに不安を抱く。白髪を染め続けるストレス、うまく染められないストレス、やめるにやめられないストレスにもさらされている。
Reriseは、これまで置き去りにされていたこれらの生活者ニーズに寄り添った商品といえる。「グレーアレンジ」は、白髪を染め続けるストレスからの卒業、白髪をキレイに見せる楽しさへのスイッチにもなり得る。また、ビューティではなく、ヘルスケア視点で開発することで、男女関係なく使用しやすい仕上がりとなっている。夫婦で使用することで、女性よりも白髪染めの意識が低い男性も、今後ユーザーとして拡大していきたい構えだ。
「配荷先には、全8SKUを揃えて置いていただくことを基本としてお願いしております。いくら画期的な商品でも、情報発信をしなければ価値が伝わりません。テレビCMも、15秒ではなくBSを中心に長尺で、シニアに届きやすいよう新聞雑誌など活字の媒体でも展開しています」(入交氏)
店頭では、リーフレットなども設置し、引き続き積極的に展開していくという。停滞するヘアカラー売場を活性化させるきっかけとして、同商品を活用しながら、ユーザー目線の見やすく選びやすい売場づくりをいま一度見直してみよう。
取材協力
図表1~3:現在白髪染めを行っている40代から70代の男女500人を対象にした白髪染めに関するアンケート(WEB調査、調査期間:2018年5月25日~5月30日)