ドラッグストア業界、データが示す「戦略の二極化」:「高収益」と「高速回転」

日本のドラッグストア(DgS)業界は、単に「店舗数」や「売上高」を競う時代を終え、今や「収益性の質」と「財務の安全性」をめぐる高度な戦略競争に突入しています。大規模なM&Aや経営統合が進行する裏側で、各社は「高粗利・高販管費」か「低粗利・低販管費」かの「戦略の二極化」を鮮明にしています。月刊マーチャンダイジング2025年10月号は、この複雑な業界の真の姿を、財務・商品・収益性の3つの側面から徹底的に分析した『ドラッグストア白書2025 データ編』を特集します。

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儲けの構造が明確に二分!「高収益」対「高速回転」の戦い

上場DgS企業を分析すると、その収益構造(売上総利益率と販管費率)が大きく2つのタイプに分類されていることが分かります 1

高粗利・高販管費型:マツキヨココカラ、スギHD

マツキヨココカラ&カンパニーは、売上総利益率で35.1%と業界トップの水準を維持しています 。これは、高付加価値の医薬品や化粧品の売上構成比を高める戦略が功を奏しているためです 。

一方で、販管費率は高くなる傾向にありますが、営業利益率7.7%と優良企業の目安を大きく上回り、業界内での強力な競争優位性を示しています 。

低粗利・低販管費型:コスモス薬品、Genky DrugStores

対照的に、コスモス薬品Genky DrugStoresは、食品の売上構成比が高いフード&ドラッグ業態です 。Genky DrugStoresはついに食品の構成比が70%を突破しました

彼らは、粗利益率は低いものの、究極のローコストオペレーションにより販管費率を業界最低水準(Genky DrugStoresは15.6%、コスモス薬品は17.1%)に抑え 、一定の営業利益率を確保する戦略を徹底しています 

この粗利益率と販管費率の差こそが、各社の経営戦略と収益性を一目で示す鍵となります。

データが語る「真の経営力」:財務の安全性とキャッシュの秘密

「儲け」の構造だけでなく、企業経営の安定性を測る財務データにも大きな変化が見られます。

在庫管理の極意と「販売キャッシュフロー」の壁

在庫の効率性は、小売業のキャッシュフローを握る生命線です。

  • コスモス薬品は、商品回転率9.0回転と圧倒的な高水準を維持し、在庫管理の効率化を極めています 
  • この徹底した在庫効率により、小売業独自の指標である「販売キャッシュフロー」がプラス(40日)になっているのは、上場12社中わずか2社(もう1社はクリエイトSD HD)です。これは、商品代金を支払う前に在庫を現金化する「回転差資金」でキャッシュを生み出していることを意味します

しかし、キャッシュレス化調剤売上の増加により、クレジットカードや調剤報酬の入金ラグ(売掛金)が増加し、業界全体の販売キャッシュフローはマイナスで推移するという困難な状況に直面しています 

M&Aの資金調達と「安全ライン」の攻防

大規模なM&Aは、企業の財務バランスに直接影響を及ぼしています。

  • スギHDは、M&Aの資金調達(短期借入金420億円)もあり、自己資本比率が低下しました
  • マツキヨココカラは自己資本比率が73.1%と、優良企業の目安である60%を大きく超え、流動比率も理想とされる200%(224.0%)を唯一達成しており、極めて高い経営安定性を示しています 
  • また、ROA(総資産経常利益率)もマツキヨココカラが12.0%とトップを走り、収益性と投資効率の高さを見せつけています

DgS業界の「儲け方」「稼ぎ方」「倒産しにくさ」の全貌

DgS業界の戦いは、表面的な売上高の競争から、商品構成、在庫効率、財務レバレッジを最適化する「経営の質」の戦いへと移行しました。

あなたの会社は、どの戦略の裏側にいるのか? 業界のどの企業が最も効率よく稼ぎ、どこが最も安全な財務基盤を持つのか?

これらの疑問に答える詳細なデータ分析と解説を、以下の4本の有料記事に集約しました。

▼ドラッグストア白書2025 データ編

  1. 【ドラッグストア白書2025】データ編① DgS・調剤上場企業の業績
    売上高、営業利益率、粗利益率、販管費率など、企業ごとの「稼ぎ方」を徹底比較 
  2. 【ドラッグストア白書2025】データ編② DgS上場企業の部門別商品販売状況
    医薬品、化粧品、食品など、部門別構成比から「集客と粗利戦略」の狙いを解析 
  3. 【ドラッグストア白書2025】データ編③ DgS上場企業の在庫効率性、財務状況、収益性、安全性
    商品回転率、自己資本比率、ROE、ROA、キャッシュフローなど、「経営の安全性と効率」を徹底評価 
  4. 【ドラッグストア白書2025】データ編④DgS上場企業の出退店状況
    新規出店率から1店舗当たり売上高、利益高まで、店舗から読み説ける情報を分析