ドラッグストア事業本部商品統括部 執行役員 伊藤 秀樹氏インタビュー

中期計画「FUJI2030」策定、2030年にグループ売上5,000億円を目指す富士薬品

富士薬品は配置薬事業から端を発し、医療用を含む医薬品の開発・製造からドラッグストア(DgS)まで「複合型医薬品企業」という独自の立ち位置で事業を展開している。2030年には創業100周年を迎え、この節目の年までにグループ売上高5,000億円、DgS事業4,500億円を目指す。目標に向けての事業展開を、中核であるドラッグストア事業部商品統括部の伊藤秀樹氏に聞いた。
(聞き手/月刊MD代表 日野 眞克)(月刊マーチャンダイジング2025年7月号より抜粋)

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自宅を訪問する配置薬営業員のラストワンマイルの営業力を活用

─御社はDgS、配置薬、ECの3拠点連携の事業推進をしています。この戦略について教えてください。

[図表1]DgS、配置薬、ECの3拠点をつないだオムニチャネル戦略

伊藤 おっしゃったように3つの拠点を結んだオムニチャネル化を進めています。とくに、配置薬事業は、営業員がお客様のご自宅に入って薬箱の補充などを行うというラストワンマイルのサービスを実践しており、これは他社にはまねのできない独自性だと思います。

このことにより、例えば、ペットフードのサンプリングを行う場合、飼育しているペットの種類、おおよその年齢など、購買データなどでは分からないことまで把握できるので、非常に精度の高いパーソナライズされた販促が可能になります。

配置薬の営業員は全国で約1,500人、契約者は全国に250万軒、うち一般の世帯は約190万世帯です。そのうちセイムスの会員登録をされている会員は60万人以上です。

これだけの数のお客様とフェーストゥフェースの関係ができているので、クーポン発行やサンプル配布などでは高い効果を挙げ始めており、メーカー様の相談や依頼も多数受けるようになりました。

また、お宅を訪問した際に整腸剤をご利用のお客様がいれば、関連する健康食品の案内をしてクーポンをお渡しして、興味があれば近くのセイムスをご利用くださいとお奨めする、このような店舗送客も行っています。

富士薬品の配置事業とセイムスが結びつかない人もいます。配置薬で培ったお客様との信頼関係は厚いので、案内されると健康食品や生活必需品をセイムスでご購入頂けるようになるケースは多いです。

セイムスご利用のお客様にも、家に置くだけで使った分だけ料金が発生する利便性、災害時には無償で医薬品を提供するといった配置薬のメリットをお伝えしてご利用を促進する活動も行っています。このような配置薬とセイムスの相互送客は積極的に行っています。

─調剤事業と配置薬事業、DgSの連携に関してはいかがでしょう。

伊藤 最近始めたサービスですが、配置薬の利用者様は高齢の方が多く、高血圧や高血糖値など慢性疾患を抱え通院している方もいらっしゃいます。

そこで、配置薬の営業員が処方せんをお預かりしてセイムスの調剤薬局で薬を受け取りお客様にお届けする。服薬指導はオンラインで受けて頂く、オンラインの服薬指導の設定や機器の操作も営業員がお手伝いする。このようなサービスをエリア限定で試験的に始めており非常に好評です。ゆくゆくは提供可能な全エリアに拡大する予定です。

配置薬の営業員とお客様の間で信頼関係を築けているからこそ、こうしたサービスの提供が可能になります。将来的にはこうした関係の上に立ち、生活全般の相談に乗れるライフコンシェルジュのような事業も可能になると思っています。

調剤薬局併設率70%が目標 調剤と物販の壁を越えサービス提供

─調剤事業は今後どの程度強化されるでしょう。

伊藤 2030年までに調剤薬局の併設率70%を目指します。この数値は業界の中でもトップレベルだと思います。現在、約40%で今期(2026年3月期)中に47%に達する見込みです。

[図表2]富士薬品連結決算ハイライト

調剤事業でやろうとしているのは、物販(DgS)と調剤の融合です。具体的には薬剤師は調剤業務の手の空いているときは、物販のフロアで医薬品や健康食品の接客もしますし、品出しの手伝いもします。物販の従業員も調剤業務以外の薬局の作業をお手伝いします。こうした連携を意識的にして、調剤と接客の壁がなるべくできないように意図しています。

お客様からすれば、セイムスの中に物販も調剤薬局もあり、薬剤師に相談したいこともあるでしょうし、薬剤師が接客に関われば、より専門的なアドバイスができてお客様の満足度も物販の売上も上がります。

第一三共ヘルスケアから目の充血をとって白目がさらに白くなる目薬「マイティアルミファイ」(要指導医薬品)が発売されていますが、これはアイメイク、ビューティケア要素の強い医薬品です。こうした商品を化粧品の美容部員が声掛けして、薬剤師が説明して販売する。こうした連携をすれば、顧客満足度、売上双方が向上します。こうした連携を模索しています。

当社の売上高はグループで3,860億円(2024年3月期)です。DgSのトップグループが2兆円、1兆円という状況の中、規模で勝負していくことは難しいです。医薬品の開発・製造、販売、DgS、配置薬、調剤薬局など様々な事業を持っている複合型医薬品企業の強みを最大限生かすためには事業間の連携、お客様の満足という視点で、それぞれの事業が縦割りではなく一致団結することだと思っています。

1年間で1,000店舗以上にデジタルサイネージを一気に導入

─以前取材させて頂きましたが(2024年6月号掲載記事参照)デジタル事業も積極的に推進されています。

伊藤 まず、大きな役割を果たすのがセイムスアプリです。現在230万ダウンロード、前年比130%程度でここ数年推移しています。アプリを通じた各種サービスはご好評を頂いております。

このアプリの中に「ARUTANA」というシステムを導入してアプリ内に広告枠を設けています。ポップアップ、バナー、動画などの広告が掲載可能です。広告を見るだけでなく割引、ポイント加算、プレゼントなどの付いたお得なキャンペーン案内や新製品情報も入手できます。

リテールメディアの中で、最も規模が大きいと思われるのがデジタルサイネージです。この1年間で約1,000店舗に導入しました。1店舗当り平均6台を設置しています。設置場所は医薬品、化粧品、食品、日用雑貨、オーラルケアなどの売場です。紙の販促物は情報量が限られていますが、動画ではそれが格段に改善されます。また、販促物を付けたり、外したりする作業も省略です。例えば、毎月22日はフジちゃん(富士薬品キャラクター)の日でポイントが22倍になります。この日のために案内ポスターを貼ったり、はがしたりするのは大変な作業です。デジタルサイネージならモニターに映すだけなので、1,000店以上で作業効率が図れ、視認性も上がります。

店内のサイネージで、自社制作の動画を流しブランディングを図る(セイムス神田小川町店)

─オーラルケア売場にもサイネージを付ける理由は何でしょう。

伊藤 高齢者になるとオーラルの悩みは深くなり、口内を健康に保つための商品は単価の高い高機能な商品となります。

 

続きは月刊マーチャンダイジング note版で!

 

《取材協力》

富士薬品
ドラッグストア事業本部商品統括部 執行役員 統括部長
伊藤 秀樹氏