情報共有、生産性向上のためのプラットフォームをつくる
─今年度からJACDSの新会長に就任されました。抱負や感想などお聞かせください。
塚本 今年でJACDSが設立されて25周年です。これは先人の経営者たちが生活者視点でものごとを捉えて、環境に適応、対応した上で、社会の役に立ちたい、地域に貢献したいという強い思いが結実した結果だと思います。
もともとドラッグストア(DgS)は商品数が多く、サプライヤーも多数あり、売場面積の小さい店から大きな店までつくることにより、商品政策の力を向上させ、変化に対応できるようになりました。
各企業が様々なフォーマットを持っており、店舗数は2万3,000を超え10兆円産業目前です(編集部注:DgSの2023年度売上総額9兆2,022億円)。企業や屋号はともかく、日本国民が何らかの形でDgSを使っており、DgSがあってよかったと思われるような産業にまで進化しています。
次の25周年に向けて、若い経営者たちDgSで働く人たち、携わる人たちがどのように生活者を支えていけるか当事者意識を持って考えなければいけない時期になっています。
協会の役割としては、会員、賛助会員、卸、メーカー各社が参画して、ミッションを明らかにしてプラットフォームを整備する。これを通じてヘルス&ビューティに役立つ情報を共有し、サプライチェーンの効率を高めて、生産性を上げることだと思います。その結果、この産業に携わって良かったと思える人を増やす、これが協会のミッションになります。
DgSのセルフチェック機能を追求していきたい
─DgSを地域で健康に困った人が最初に相談できる場にしようという「健活ステーション構想」をお持ちですが、現状いかがでしょう。
塚本 食と健康については、機能性表示食品や特定保健用食品(特保)など、一定の効果が認められた商品を消費者に分かりやすく陳列することなどに取り組んでいます。売場に付ける陳列ボードは消費者庁と緊密に連携しながら、最大限わかりやすく誤解を与えないような表示にしました(図表1)。
現在考えているのは、DgSとしてセルフチェックの可能性をもっと追求することです。指先から血液を採取して測定するなど、専用の機器を必要とするセルフチェックは各企業、店舗事情などによって置ける、置けないという問題があります。
その点、尿の試験薬(紙)なら商品として販売できて、いくつかの商品があり、尿タンパク、尿糖など疾病につながる複数の数値をセルフチェックできます。セルフチェックの結果を薬剤師などの専門家が聞いて、必要に応じて受診勧奨すればDgSの健康サポート機能は高まります。「尿検査を自分でやってみよう」という啓発活動を今後DgSで行っていこうと考えています。
─管理栄養士についてどうお考えですか。
塚本 協会の会員企業にも管理栄養士はたくさん在籍していますが、活躍の場を広げないといけません。多くの場合、管理栄養士は登録販売者やビューティアドバイザーの資格を持っていますので、栄養、食事の知識をヘルスケアやビューティの接客に使えば売上につながることが多いのです。
管理栄養士を含め、従業員が接客の機会を増やすためにも、品出しなどの売場作業、マネジメントにDXを取り入れてサプライチェーン全体の効率化を図ることが大きなポイントになります。
セルフケアのため、OTC医薬品へのアクセス、相談機能は不可欠
─厚生労働省が「医薬品販売制度の見直し」のとりまとめを発表しています。これをJACDSではどのように受け止めているでしょうか。
塚本 DgSはOTC医薬品全体の約8割を販売しています。ですから、協会の大きな役割としては、医薬品に関する法律や規制に関して意見を具申することです。行政、関連団体との連携を果たしていくことが重要な役割になります。
これを果たしていくために、「ガバメントリレーションズ」という役職を設けました(図表2)。健全で正当なロビー活動をしていこうと、業界団体では珍しいことですが、私が会長に就任するにあたり、この考えを主張することにしました。
生活者の役に立ちたいという理念のもと、主張すべきは主張して、インフラとして存在することが国民生活にとって重要です。健全な業界の成長を目指すためにも正当な主張と活動が必要、その実現を目指すための態勢が6月から始まった新態勢です。
DgSにある商材などを使って自分の健康を守るセルフケア・セルフメディケーションを進める上でOTC医薬品は貴重な商材で、生活者の身近でいつ訪れても気軽に自分で選んで買える。相談したければ、薬剤師、登録販売者に相談できる。こうしたアクセスの良さ、専門家への相談機能が損なわれることがあってはいけません。
これは、DgSの従業員が一番よく分かっているのではないでしょうか。土曜の夜で近くのクリニックもお休み、そんなときまずはOTC医薬品を使って様子を見ようという人たちはたくさんいらっしゃいます。
専門家に相談したいこの方たちにとって、必要な医薬品が手に届かないところにある空箱対応が義務化されれば、いちいち従業員がバックヤードに取りに行く、こうした事態になれば大きく利便性を損ない、セルフケア・セルフメディケーションという段階が薄くなって貴重な医療資源である医療従事者たちの負荷が大きくなります。
このようなことにより肝心な相談への対応や情報提供の機会が減少すれば、最終的に不利益を被るのは生活者の皆さんです。
こうした事態を招くような医薬品販売制度の見直しは、セルフケア・セルフメディケーションにとって大きなマイナスです。専門家を医薬品販売に関与させながら、なおかつお客様のアクセスを損なわないようにするのが、われわれの主張の根幹です。
問題になっているのは濫用の恐れのある医薬品ですが、JACDSでアンケートを取ったところ、37社から回答を得て、150品目以上取り揃えている店舗数が1万3,401店舗のうち9,600店舗あり、割合として約72%でした。
これをお客様の手の届かないところに並べる、購入者の個人情報を記録して、それを保管するという内容がとりまとめの中で公表されています。
こうした見直しには賛同しかねますが、DgSがこの問題の対策を講じない訳では決してありません。
協会では特定の薬の濫用に至る過程やその人を取り巻く環境に問題があるのではないかという考えのもと、協会をあげて薬物濫用状態にある人、あるいはその家族が相談できる専門機関へとつないでいきます。
濫用のおそれのある医薬品の常習者、やめたくてもやめられない人に「個人情報は保護するので、悩みがあれば相談してください」というアドバイスをして、専門家につないでいくという活動をしていきたいと考えています。
厚労省のホームページ「薬物乱用防止相談窓口一覧」には、各都道府県の相談窓口の電話番号が記載されています。
また、行政も薬物濫用の対策に関する情報を提供しています。こうした窓口と連携を果たしながら、今後は実現可能なことを考えて実行していきます。まだ、業界全体で合意を取れていることではありませんが、アイデアを出し合い、店頭で実行するオペレーションを考えます。
DgSはコミュニケーションストアです。人口動態を見ると約4割が単身世帯です。社会とのつながりが薄くなりがちな単身世帯の人たちが気軽に入れて、人と人との接点が持てる「地域の寄り合い所」的な場所にヘルスとビューティの専門家がいる。
この基本機能の上にかかりつけ薬局機能と物販機能をミックスさせればまた違う形のフォーマットが生まれるのではないでしょうか。
─本日はありがとうございました。