データドリブン経営に軌道をとるために押さえておきたい4つのポイント

月刊MD2024年5月号ではデータドリブン経営を特集。特集の提言として、DgS、ディスカウントストアのコンサルティングで名をはせる筆者が語る、「データドリブン経営」の重要性と押さえたいポイントを紹介。小売業はKKD(勘・経験・度胸)からどう脱却を図るべきなのでしょうか。(佐々木桂一/談・文責/編集部)(月刊マーチャンダイジング2024年5月号より転載)

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その「売れている」のは本当か?

小売業にとって最終的に重要なのは「数字」だと言う人は多いが、そう言う人に限って目に入る単純な数字しか見ていない、ということは少なくありません。大半の小売業社が、定量的に数字を分析するというプロセスを経ておらず、いまだKKD(勘・経験・度胸)に頼った経営を続けているのです。

「売れている」とはどういうことでしょうか。1個売れたら、それは「売れている」ということになるのでしょうか。あるいはそれが100個であれば「売れている」ことになるのでしょうか。トップマネジメントから現場の従業員まで、会話のなかにその基準がなく、そのことがこの業界がいつまでも低収益構造に甘んじているもっとも根本の原因だと、私は考えます。

放っておくと、小売業は経験と勘で動いてしまいかねません。そうではなく、逆の順番に、まずは数字をベースに考え、最後に人間の感情や経験、感覚を出すべきなのです。

(1)デジタルに適応できる合理的な人材を仕分ける

現在の小売業は、外部から採用したIT人材がデジタルの立役者になっていて、現場で実務をしながらシステム志向の考え方ができる人材はそう多くはありません。

でも、私がコンサルをしている企業では、コードが書けない人をゼロから育てて、自動補充システムを内製化することができています。非デジタル人材を育て上げて、システムの内製化をすることは可能です。

小売業が使う業務システムは、データをデータベースに蓄積し、画面に表示させる程度の、非常に基本的なもので十分です。最近でしたら、YouTubeで学び、インターネット上にころがっているプログラムを組み合わせることで十分に基礎的なものはつくれるようになります。

私がいま指導している企業の半分には、それまでプログラムを書ける人はいませんでしたが、いまではたくさんの従業員がコードを書き、業務システムをつくれるようになっています。

もちろんはじめはみんな「自分にはできない」と言います。でも、一度簡単なコードを書かせてみて、画面に何か表示されるとうれしくなるものです。それを繰り返してつくれる範囲を増やす。そうすると、もともと論理的な思考を持っている人は才能を開花させることができます。しかし、そのような人たちは、会社のなかではあまり評価されていないことが多いのです。

コンピュータは一つひとつステップを積み上げれば動くものです。マネジメントのPDCA(Plan、Do、Check、Action)も、愚直に積み重ねなければ動きません。人の選定がまず間違っているのです。彼・彼女たちをきちんと評価することが重要です。

ところが、小売業でこれまで成果を挙げてきた人というのは、手順を踏まずに、結果オーライのケースが多く、再現性に乏しい。問題解決をプログラムを書くようにアルゴリズムで考える人とそうでない人を分けるべきです。これができないと、デジタルの内製化は難しいのではないかと思います。

仕分けをするためには、最初にいまやっている仕事のフローチャートを書かせてみましょう。JIS規格のフローチャートの書き方を学んで、自分のやっている仕事を書いてくるように言います。半分の人は、ああだこうだと言って書こうとしません。

残り半分が書くには書くのですが、JIS規格に応じて書けるのはさらにその半分でしょう。それを応用して、フローを変えてみてと言うと、書ける人は全体の1割程度でしょうか。多くの企業では大幹部になればなるほど書けなくなります。

日本の小売業がデジタルを使えない原因のひとつはそこにあると私は思います。

(2)再現性のために「基準」を重視する

KKDの商売は、再現性がありません。ですからひとつの事業を当てても、ほかの事業に横展開することができません。たまたま当たっただけで、成功の本質がわからないのです。ですが、再現性がないと、仕組みとは言えません。いままでの小売業には、そういった思考がなかったのです。

例えば在庫ひとつにしても、この商品の在庫は何個持つべきなのかという会話が徹底されていません。カットするのはなぜか。棚割についても、卸売業に提案をしてもらうと、数字とは関係なく、卸売業者が売りたい商品や、リベートがたくさん出る商品がフェースを取ってしまいます。

商品部で、どういう売れ行きを示した商品を定番として維持すべきなのか、あるいは死に筋としてカットすべきなのか、そういう基準が決まっていない企業がほとんどです。

私はまずは基準を決め、店舗の端末でJANコードをスキャンすると、偏差値が表示される、というような仕組みをつくります。その偏差値が60以上であれば売れているといっていい、40を下回っていたら売れていないと言っていい、というものです。

教育をして、数字で会話をする文化をつくってからでないと、最終的にデジタルにはたどり着かないと思います。

(3)「正しい」数字を共有する

さらに大切なのは、データが正確かどうかということです。数字が正確でなければ、すべてのデータドリブンの仕組みは崩壊します。粗利を知りたくても、在庫が間違っていれば正しい数字は出てきません。サービス残業をしていると、正しい労働生産性が算出できません。つまり、サービス残業を現場に強いている企業は、人時生産性を上げることも永遠にできない、ということなのです。

私が指導に入る企業では、サービス残業をゼロにすることから始めます。さらに有給休暇の取得率も5割を目指すことにしています。そうすることで、はじめて人の生産性の精度が上がってくるのです。

リベートも、単純な数量リベート(何個売れたら何円キックバックするなど)は、メーカーにとっても販促として意味があるかもしれませんが、数量ではないリベートが増えていくと、結局原価に跳ね返ってしまいます。

坪当り粗利高も日本は算出できない企業が多いようです。これはメーカーや卸に棚割をつくらせていて、ロケーション管理ができていないからです。店舗側で売場を勝手に変えることもしばしばです。とくにDgS業界は、売れなければ返品すればいいという考えの甘さもあります。

これは、小売業側にとっては都合がいいことかもしれませんが、メーカーにとっては不都合なことです。メーカーにとってより都合がいいフォーマットが現れたら、DgS業界のように、自分たちの損を押し付けるようなビジネスをやっていると、そっぽを向かれてしまうことでしょう。

まだスーパーマーケットがリベート中心のビジネスしかやっておらず、DgSに優位性があるということもありますが、これから2024年の物流問題をきっかけに、精度高くやらねばならなくなるので、データを活用する必要はもっと高まります。今年が変化の潮目になるように思います。

(4)データドリブンとコンピュータは別物であると理解する

私がもっとも危惧しているのは、皆DXといっていろいろな投資をしていますが、リーダーシップをとるべきトップが何をすべきかを理解していないということです。

基幹系やEDIなど、様々なデジタルの仕組みが小売業で活用されるようになりましたが、小売業の労働生産性は1980年代と比較して上がっているのでしょうか。SIerは儲かっていますが、小売業は儲かっていません。技術の使いどころを間違っているのではないかと思います。

私はデータドリブンであることと、コンピュータを活用することは、分けて考えるべきだと思います。データを取得するときに、まずはコンピュータからと考える企業は少なくありません。しかしそうではなく、皆さんが普段から使っているような、万歩計や体重計のようなものを使っても、十分データドリブン経営は可能なのです。

私がコンサルに入るときにやっているのは、従業員に万歩計を付けて歩数を確認することです。あるDgSでは、売場面積が200坪、1日8時間労働で、1万5,000歩でした。いろいろな店舗で実験をすると、同じチェーンのなかでも1万5,000歩の店もあれば、6,000歩で済んでいる店もあるというように、店ごとのばらつきがわかります。何が原因なのかと考えたところ、バックルームの配置や、レジの状態、補充頻度などが影響していると気付きました。毎日1万5,000歩歩いているのを、1万歩にするのも、間違いなくデータドリブン経営です。

コンピュータはあくまでも便利にするためのツールであり、考え方とは関係ありません。システムづくりはコンピュータと直接は関係ないのです。数字を可視化し、状態を可視化する。そして、それを継続的にできるかどうか。決してデータドリブン経営は、高度な数字の話ではないのです。

 

《筆者》

リテイリングワークス株式会社
代表取締役
佐々木 桂一氏