JACDS 塚本厚志氏・田中浩幸氏対談

ドラッグストアは一番最初に駆け込める地域の健康生活拠点を目指す

日本チェーンドラッグストア協会(JACDS)は、地域で健康に困った生活者が、一番最初に相談できる「健康生活拠点化」を推進している。2030年の実現を目指す、物販だけではないドラッグストア(DgS)の新しい役割と機能について、健活ステーション推進委員会委員長・塚本厚志氏と、JACDS事務総長の田中浩幸氏に聞いた。(聞き手/本誌主幹 日野 眞克)(月刊マーチャンダイジング2023年5月号より転載)

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健康生活拠点化のためにDgSが目指す重点5項目

─日本チェーンドラッグストア協会(以下JACDS)が進めているドラッグストア(以下DgS)の「健活ステーション構想」について教えてください。

田中 「街の健康ハブステーション構想」は2017年にJACDSから発表され、それに基づいて「街の健康ハブステーション委員会」が設立されました。

2030年予測数値(2022年比)
[図表1]健活ステーション化推進計画の主要5項目

進展状況をチェックしたところ、2020年から始まったコロナ禍により進展させることが難しかったこともあり、2021年に現在のマツキヨココカラ&カンパニーの塚本副社長に委員長としてお力をお借りすることとしました。そこで名称も改めて、2022年10月に健康生活拠点、縮めて「健活ステーション化計画」を改めて策定し、DgSで健康生活拠点を推進するための5つの項目を設定しました(図表1参照)。

─DgSが健康に関して相談できる健康生活拠点になるために取り組んでいることを教えてください。

塚本 健活ステーション推進委員会の委員長を2021年から担当しています。5つのテーマの中の、とくに「食と健康」にかかわる売場づくりと、食と健康の専門家の育成を大きなテーマにしています。

もうひとつは、ヘルスチェックサービスの機能をもつ店舗数の拡大です。これは、予防・未病の分野で地域の生活者の役に立つ拠点づくりであると思います。つまり、健活ステーション化推進計画の5つのテーマの中で「食と健康」と「ヘルスチェック」の2つを委員会としては重点的に取り組む方針です。

健康生活拠点という意味は、生活者が健康に関して困ったことが起きた時に、真っ先に駆け込める場所を目指したいということです。そこには気軽に相談ができる場所があり、自分にふさわしい商品は何かが判断できるようなわかりやすいセルフの売場づくりを目指したいと考えています。

委員会では、DgSが5つの機能を装備した状態を「ドラッグストア業界のスタンダードにしていく」活動を推進しているわけです。

「食と健康」の新しい売り方と食と健康アドバイザーも育成

塚本 健康食品に関しては、さまざまなメーカーさんからいろいろな商品が発売されていますが、健康食品はセルフで販売しているので、医薬品との飲み合わせに注意しながら展開することも重要です。

現在は消費者庁のアドバイスを受けながら、セルフでもお客様にわかりやすい正しい売り方提案ができるようにしたいと思います。

また、正しい教育を通じて、「食と健康のアドバイザー」を育成し、医薬品と健康食品の相互作用の心配がない売場づくりや、情報提供ができる売り方を浸透させていきたいですね。

田中 食と健康に関しては、売場のマーチャンダイジングのハードの部分と、アドバイスというソフトの部分に大きく分けられます。消費者庁と相談を重ねながら、売場でどういう表示をすればお客様にわかりやすい正しい情報提供ができるかを進めています。

また、食と健康のアドバイスというソフトの部分は、医薬品と健康食品の相互作用を含めて、登録販売者、管理栄養士、薬剤師などの専門家が適切なアドバイスができる態勢をつくっていきたいと思います。

医薬品と違って具体的な効果・効能をうたえる商品は「保健機能食品」に限定されます。

また、「この商品がいいですよ」と商品を特定したアドバイスは販促行為に当たるので、してはならないと消費者庁からも指導されています。「成分のアドバイス」など生活者が適切に選択できる態勢をつくっていきたいと考えています。

明らかに禁忌な相互作用がある健康食品と医薬品が存在しますが、その知識をすべてのアドバイザーが理解させることはハードルが高いので、それらをサポートするPOPなどのツールや、JACDSが実施する研修でサポートしていこうと考えています。

将来的には「食と健康アドバイザー」の資格制度もつくっていく計画です。

売場のトップボードで使える21のピクトグラムを作成

─DgSで健康の悩みを解決するセルフの売場はまだ少ないですね。

塚本 健活ステーション委員会が1年間取り組んできたことは、「免疫サポート」「血圧サポート」といった健康テーマに基づいた新しい定番売場づくりです。

健康テーマに基づいた売場を実際につくってみて、POSがどのくらい動くか、お客様からの相談がどの程度増えるのかなどを継続して検証しています。委員会としては、こうした売り方を継続して実施していただくことを啓蒙しています。

[図表2]JACDSが作成した売場で使える「食と健康」のピクトグラム21種

健康食品の売場は、各企業、各店でかなり違います。業界としては、正しい提案のあり方を進めたいので、食と健康に関するピクトグラムをJACDSが用意しました(図表2参照)。

[図表3]ピクトグラムを活用した売場トップボードの事例

非常にわかりやすいと思いますので、このピクトグラムを使った売場展開を全国のDgSの店頭で進めていただきたいと思います。

田中 たとえば「血圧サポート」というトップボードは薬機法上掲示することができなかったのですが、JACDSが厚生労働省や消費者庁など関係省庁と調整し、効能・効果の表現を整理しPOPとして掲示することが可能になりました。

[図表4]「食と健康」の売場展開事例
「食と健康実証実験」相談記録シート

2022年3月〜6月上旬にかけ、6企業16店舗で食と健康売場の実証実験を展開しました(図表4、5参照)。実験店舗ではお客様から相談があった場合、声掛けをした場合に記録するためのシート(右図)を配布し、新表示によってお客様がどのような印象を持ったのか、相談内容に変化があったのかをまとめました。

[図表5]ドラッグストアでの実証実験例

テーマ表示と機能別陳列が顧客の潜在需要を創造した

田中 「食と健康実証実験」相談記録によると、多くの実験企業からも新表示によって実験売場への立ち寄りが増えたという報告を頂いており、ある実験店舗では防犯カメラで実験売場の立ち寄り人数を測定したところ、実験期間中に1ヵ月間で512名という非常に多い立ち寄り数でした。

高い立ち寄り率と店舗からの積極的な声掛けも含め、約2ヵ月間の実験で36件の対応報告があり、多くのお客様からの相談対応に繋がりました。トップボードや設置された表示物に興味を持って立ち止まっており、新表示によって気づきを与えられることが実証されたと言えます。

カウンセリングが増加した一方で、表示されたPOPで詳しく解説されているため、商品特徴を理解・納得したセルフ購入も多かったというご意見も頂きました。

カウンセリングとセルフ購入の両方の増加に共通して言えるのは、「テーマ表示」と「機能別陳列」が生活者への気づきを与えたことです。

さらに、実験売場の近くに血圧計を設置した店舗では、約1ヵ月間で200名を超えるお客様が血圧測定しており、「食と健康売場」だけでなく「食と健康カテゴリー化」に向けた大きな可能性も示しました。

新表示によってPI値(来店顧客1,000人にあたりの商品の買上率)は高くなる傾向が見て取れました。実験店舗によっては、対象テーマに展開商品をベンチマーク店舗と比較して、PI値が0.3→1.7(約5.6倍)、0.2→0.9(約4.5倍)、1.3→2.1(約1.6倍)、0.3→0.7%(約2.3倍)に増加しています。新表示による気付きを与えたことが潜在マーケットを獲得したことがPI値の増加傾向からも読み取ることができます(JACDS食と健康リポートより引用)。

ヘルスチェック設置店舗を2030年1万8,000店を目指す

─ヘルスチェックに関しては、測定コーナーを常設する店舗を増やすということですか?

田中 ヘルスチェックの設置場所も、調剤スペースの中に設置する店舗もあれば、管理栄養士が測定コーナーに常駐している店舗もある。DgSの店内に測定コーナーがあって「ご自由にどうぞ」というような店もあり、各社でバラバラの状態です。

一方で、トモズさんとサミットさんが取り組んでいる「けんコミ」(食と健康で地域の暮らしに寄り添う健康コミュニティコーナーをサミットの一部店舗で展開。8台の健康測定機器を設置し、管理栄養士が常駐)のような本格的な取り組みに挑戦している事例もあります。

しかし、ヘルスチェックコーナーでのマネタイズ(収益化)ができておらず、利用客からも何の機能がドラッグストアから提供されているのかがほとんど理解されていないのが実態です。ヘルスケアコーナーに薬剤師や管理栄養士など資格者がどのくらいの工数をかけて常駐していいのかも明確になっていません。

だから、ヘルスチェックコーナーの指針やパッケージ化をつくっていくことを目標に掲げています。

─オムロンさんの「心房細動」を測定する血圧計を調剤スペースに設置して、健康生活拠点化や受診勧奨につながるようなツールも登場してきていますね。

塚本 日本には高血圧の患者さんが予備軍も含めると4,000万人以上いると言われていますが、その中には「高血圧と診断されても何もしない方」や「治療を途中で離脱している方」が一定数いらっしゃいます。

こういった方達に対する受診勧奨や、「治療を継続している方」も含め生活習慣の改善を目指す方への運動や栄養の指導、エビデンスのある成分が含まれている機能性食品のリコメンドなどで、地域の生活習慣病の改善に貢献できれば、DgSがセルフケアに役立つ健康生活拠点になれると思います。

大切なことは、科学に基づいた提案の仕方を確立して、業界のスタンダードをつくっていくことです。最近は、受け身の治療ではなくて「アドヒアランス(患者が治療方針の決定に賛同し積極的に治療を受ける)」という言葉も使われていますが、受け身の治療だと治療離脱が多いので、患者さんに納得してもらって治療離脱を防ぐ役割を果たしたいですね。

ヘルスチェック機器に関しては、さまざまな民間企業から測定ツールが発売されていますので、委員会の各企業が申告制で「こういうツールで実験しています」と各社で独自に実験していますが、将来的にはDgS業界としてのスタンダードをつくっていきたいと思います。

田中 委員会の目標としては、ヘルスチェック機能をもった店舗を2030年までに1万8,000店舗つくりたいと思います。2030年にはDgSの店舗数が約3万5,000店はあると想定していますので、半分以上の店舗がヘルスチェックサービス店舗になる計画です(図表1)。

受診勧奨のガイドラインもつくり登録販売者の再教育も実施

─健康生活拠点化推進計画の一番目に来ている「受診勧奨GL対応スタッフ育成」も進めていくわけですね。

田中 受診勧奨に関しては、学術・調査研究委員会という組織を2021年につくって、そこで業界初の受診勧奨のガイドライン(GL)をリリースしました。

医薬品登録販売者、管理栄養士、薬剤師などの専門家がDgSの店頭で受診勧奨するためのプランを会員各社の教育部門を中心に広げてもらっているところです。

─薬剤師だけでなくて、管理栄養士や登録販売者も受診勧奨する仕組みをつくるべきですね。

塚本 そのためには、とくに登録販売者のリテラシーを高めていかないといけないですね、資格は取ったけど活用する場がないと、人は研鑽するのが難しいものです。

しかし、健康生活拠点として相談される事例が増えて行けば、勉強の必要も出てきますし、受診勧奨まで対応できる人材を育成するためのサポートを委員会で行っていきたいと思います。

田中 DgSは、管理栄養士の受け皿として期待されています。4年生の大学を出て管理栄養士の国家資格を持った人たちが、DgSで自分達の知識を活用したいとたくさん入社してきています。

しかし、管理栄養士が果たすべき役割は各社違いもありまだ確立できていないのが実態です。管理栄養士が期待することと、DgSで果たす役割とのギャップを是正して、資格を活用できる受け皿にならないと、その定着が図れないと思います。

管理栄養士は、薬剤師や他の医療従事者と違って、診療報酬の点数がつくわけではありませんので、管理栄養士のサービスを対価や収益化に置き換える活動ができなければ、継続的な活動ができなくなります。健康的なお弁当のメニュー提案が中心では、DgSにおける成果と結びつきませんから。

塚本 健活ステーションの実現のためには、未病・予防から、調剤、治療後のフォローアップまで、ヘルスケアのワンストップサービスが受けられることが理想です。

しかし、調剤を併設していないDgSでも、調剤薬局を紹介し、受診勧奨ができる機能があれば、十分に健活ステーションの役割を果たすことができると思います。すべての機能を囲い込むのではなくて、地域に店舗展開する小商圏の店舗として、地域の生活者が健康に関して困った時に最初に相談に来る拠点になることが目的です。

コロナ禍で健康に関するチェックをDgSでしたいという要望が増えたことも、ヘルスチェックの機能を充実させた理由のひとつです。コロナの検査キットが、要指導医薬品(処方せんは不要だが、薬剤師が対面で情報提供することが義務付けられた第1類の医薬品)になったため、DgSの店頭で検査やヘルスチェックを受けたいと考える地域の生活者は増えたと思います。

また、「検体測定室」のようなセルフチェックの設備を持つことで、年に1回も健康診断をうけていない人達の生活習慣病発見の一助になるといいですね。

田中 検査キットは、従来は医療用医薬品でした。抗原検査キットも医療機関でのみ使用することが認められた検査薬でしたが、厚労省の指導でコロナ禍の2021年9月に初めて薬局で販売することができるようになりました。

一方、コロナの感染が爆発していた2021年11月から、内閣府の事業としてPCR等の検査無料化事業が始まり、薬局で抗原検査を無料でできるようになったわけです。つまり、特例で抗原検査キットを販売しながら、抗原検査の無料検査も始まりました。当時のDgSの調剤薬局は、通常の処方せんを出しに来る人、検査キットを買いに来る人、無料検査に来る人が殺到して、大変な状況でした。

その状態を乗り越えたことで、「ドラッグストアは物販だけの店ではない」というヘルスケアの拠点としての評価が高まったと思います。

今後は、検査キットを薬剤師がいなくても販売できる第2類にできるように要望を出しています。

未病・予防の分野で地域の健康を守れる拠点に

─オンライン診療、オンライン服薬指導、医療アプリなどのデジタル接点が増えています。

田中 オンライン診療、オンライン服薬指導、電子処方せんなどの非接触型の医療サービスは技術的にはどんどん進化していきます。DgSがすべて介在することはできないと思います。

ではなぜ健康生活拠点としてのリアル店舗が必要かというと、治療中の調剤の情報ではわからない病気になる前の情報を知ることができるからです。たとえば、OTCや機能性食品の売場で相談に乗る薬剤師や登録販売者、管理栄養士、食と健康アドバイザーが、地域の患者さんが自分では気が付いていない病気の兆候を読み取って受診勧奨につなげることができれば、地域生活者の健康を支えることができると思います。

オンライン診療→オンライン服薬指導→電子処方せん→調剤宅配という店舗を介さない医療サービスではなくて、人と人とのコミュニケーションの中から問題解決できることがリアル店舗の価値だと思います。

また、地域に根差した受診勧奨であるべきなので、「病院にかかった方がいいですよ」だけではなくて、「どこの場所の、こんなキャラクターのドクターがいるけど、よかったら紹介しましょうか。病院に連絡しておきます」くらいまでは地域対応すべきだと思います。

塚本 かつて医療用医薬品の「ガスター10」がスイッチOTC化されて、薬剤師のいるDgSでも販売できるようになりました。当時、ガスター10を頻繁に服用しているお客様に、「胃がんの検診を受けた方がいいですよ」と受診勧奨したところ、実際に癌がみつかったことがありました。まだ病気にかかっていない地域の生活者を救うためにも、地域生活拠点のリアル店舗であるDgSが果たすべき役割は大きいと思います。

そのためにもこれからのDgSが取り組むべきことは、ヘルスやビューティの問題解決をするための接客や相談に人的コストを使えるようにすることが重要ですね。相談はリアルでもオンラインでもいいのですが、接客や相談の機会を増やすことが健活ステーションの実現にとっては重要です。

そのためにはDXによって単純作業のローコスト化を進めて、一人当たりの生産性を高めていかないと、産業としての発展性はないと思います。

また、マツキヨココカラ&カンパニーは、糖質制限(ロカボ)に関するPBをmatsukiyoLABのブランド名で積極的に発売しています(写真1参照)。

[写真1]マツキヨのロカボPBの一例

予備軍も含めると糖尿病患者は4,000万人ともいわれており、日本人の4人に一人が悩んでいる国民病です。

DgSがこういうPBを開発し、普及させることで、地域に暮らす生活者の健康を守ることも、地域の健活ステーションの役割のひとつだと思います。

─本日はありがとうございました。

 

〈取材協力〉

健活ステーション推進委員会 委員長
マツキヨココカラ&カンパニー 代表取締役副社長
塚本 厚志氏
日本チェーンドラッグストア協会
(JACDS) 事務総長
田中 浩幸氏