38企業、500店舗を調査。NPS平均値は−11.6で低下傾向

DgS顧客満足度調査2019、「セルフで買いやすい環境」が重視される傾向に

月刊マーチャンダイジング2019年12月号では38企業、500店舗を対象に「顧客満足度調査」を行った。この記事では今回の調査で判明した「選ばれる店の条件」の変化を紹介する。(月刊マーチャンダイジング2019年2月号より編集の上転載)

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新項目追加で「品揃え」「値ごろ感」「創意工夫」を調査

昨年から調査店舗を大幅に拡大、今年も全国のDgS38社、500店舗を調査した。広域出店している企業に関しては、出店数に応じて複数エリアで調査。上場14企業とその事業会社に加えて、大手非上場、有力ローカルチェーンも対象とした(図表1)。(図表はクリックで拡大可能)

調査内容は大きく2つに分けられる。

①基本的な調査項目:「店舗設備・クリンリネス」「基本接客・商品知識」「商品陳列・品揃え」「レジ対応」の4カテゴリー、合計43問、いずれも3点満点の基本設問。

②総合満足度に関する評価:「この店で買物することを知人に勧めることができますか?」という問いに対する回答を0~10の11段階で評価してもらった。

設問の全体像は、月刊マーチャンダイジング2019年12月号をご覧になってもらいたい。

今回の調査から、「この店はよく行く他の店と比べて品揃えが豊富だと感じましたか?」「この店はよく行く他の店と比べて安いと感じましたか?」「他のチェーン(違う看板のお店)にはない特長や工夫を感じましたか?」の3項目を追加、あくまで買物客目線の主観ではあるが「品揃えの豊富感」「価格優位性」「差別化施策」に関して追加で調査を行っている。

総合満足度は前回調査より若干低下

総合満足度とは「この店で買物することを知人に勧めることができるか」という質問に0から10の11段階で答えてもらうものだ。陳列、接客など個別分野の評価とは別に文字どおりその店舗を総合的に評価する重要な指標と位置付けている。

図表3と図表4は、前回(2018年)と今回(2019年)の総合満足度である。いずれも8の評価が多かったが、数のうえでは今回8が減りその分5以下が増えている。9、10の評価も減った。

総合満足度の評価のうち0〜6までが批判者(detractor)、7、8が中立者(passive)、9、10を推奨者(promoter)と定義づけて、中立者を除外し、推奨者(割合)から批判者(割合)を引いた割合を正味の推奨者割合としてNet Promoter Score (NPS)という値で表す。NPSは小売業だけでなく、外食産業、製造業などでも用いられている国際的な指標である。一般的に推奨者の方が少ないことから、優良な企業でもマイナスがつくことが多い。

図表6は今回の調査の全体平均と売上上位企業のNPSである。

平均値は−11.6、個別企業で見るとプラスの好成績を挙げているのはウエルシアHD、コスモス薬品、クスリのアオキ。とくにコスモス薬品のNPSは高い。平均値を超えているのはツルハHD。ほかはそれを下回る結果となった。ちなみに前回のNPSの全体平均値は6.9だったので、批判者が増えたことで全体のNPSも低下している。

改善項目に優先順位をつけると?

図表7は、対象全36の調査項目において顧客満足度を縦軸に、総合満足度を横軸に取ったチャートである。数値はそれぞれの平均値を50にしたときの偏差値だ。

たとえば、図中の設問番号15「ヘアケアの定番売場の欠品状況」は顧客満足度の偏差値(縦軸)は50を超えているが、総合満足度との相関係数の偏差値(横軸)は33であまり高くない。つまり、ヘアケア売場に多少欠品があってもほかの項目次第では知人にこの店を勧めるということになる。

もうひとつ例を挙げれば、設問番号43「ほかの店と比べて創意工夫があったか」は、顧客満足度の偏差値は30未満で低レベルだが、総合満足度との相関はもっとも高い。つまり、創意工夫があるほど知人にこの店を勧めたくなるのに、実際はそういう店は少ないということになる。ここを頑張って上げれば店舗運営のレベルが上がり集客できるようになる。

このように顧客満足度の達成レベルと総合満足度との相関という2軸で全調査項目を4象限に分けたのが図表7の「顧客満足度ポートフォリオ」である。

各象限の意味は次のようになる。

① 重点維持分野:総合満足度との相関が高く顧客満足度も高いのでこのまま維持しておくべき分野。
②維持分野:顧客満足度は高いが、総合満足度との相関は高くない。維持すべきだがそれほど注力しても総合満足度アップ(集客効果)にはつながらない。
③改善分野:顧客満足度も総合満足度との相関も低い。改善が必要だが優先順位は④が勝る。
④重点改善分野:総合満足度(集客効果)との相関が強いのに顧客満足度の達成レベルは低い。ここを頑張れば集客、他店との差別化が望める。

自社の店舗運営の現状を相対的に把握し、改善に優先順位をつけたいのであれば、独自でポートフォリオをつくるのもよいだろう。

セルフで買いやすい環境へのニーズが高まっている

図表8(16ページ)は総合満足度に強い相関を与えるトップ10である。

黄色で示したものは2018年にトップ10入りした項目だ。2019年の1位には今回から新設した「店舗の創意工夫」が入った。相関係数の偏差値を見ても75を超え非常に高い相関がある。2位は同じく新設の「品揃えの豊富さ」。3位はこれまでも常にトップ3以内に入っていた「お客を意識した行動」

以下図表のとおりだが、今回の調査で目立っているのは、「目薬のわかりやすい分類」(4位)、「洗顔料のわかりやすい分類」(6位)、「歯磨き粉のわかりやすい分類」(8位)など、セルフで買いやすい売場づくりに関する項目の相関が高いことだ。いずれの項目も前回調査ではトップ10圏外だった。

また、図表9の前回の調査と比較すると、前回は「風邪薬への問い合わせ対応」(3位)、「ファンデーションへの相談対応」(6位)とカウンセリング系の項目の相関が高かったが、今回の調査ではいずれもトップ10圏外、風邪薬への問い合わせ対応は21位と大きく順位を下げた。

理由は複数あるのだろうが、ひとつ推測できるのは大手DgSの高速出店、人手不足などから売場に人がいないのが常態化して、カウンセリングへの期待値そのものが下がったのではないかということだ。そのためセルフで買える売場のわかりやすさへの評価が高くなったという仮説も立てられる。

図中に黄色で示したものは今回、前回変わらずトップ10入りしたもの。「お客を意識した行動」は、再三述べているように人間の持つ自分の存在を認められたいという承認欲求を満たす基本的項目なので、来店客には関心、感謝の気持ちを持つという基本姿勢を持ちたい。ほかの2つ「問い合わせ対応」「レジ会計時のあいさつ」を合わせて「人系3項目」は総合満足度との相関が高い「鉄板」項目なので、店舗従業員は意識しよう。

POP、ポイント還元、品揃えなどに創意工夫を感じている

1位、2位に入った新設2項目について見てみよう。1位の「他のチェーンにない創意工夫」はその理由を自由記述してもらっているのでいくつか紹介する。

「プライスカードに、この商品の何がどうオススメなのかが書いてあるのでわかりやすく親しみやすかった」
「ポイントカードですぐポイントが使えて安く買える」
「オリジナルのPOPがあり、商品を選びやすかった」
「特定の商品を購入すると、Tポイントがもらえる特典があり、商品のプライスカードのすぐそばに表示されていたので、わかりやすく魅力的だとおもった」
「ヘアカテゴリーの種類が豊富で、ほかのお店ではあまり見掛けない商品がありました」
「目薬のコーナーはとくにPOPがたくさん付いていて、探しやすいと感じました。牛乳は、ケースを斜め置きにしている状態で販売していて、賞味期限が見やすく、商品は手に取りやすかったです」

…などなど大別すると「POPのオリジナリティ」「ポイントの充実」「品揃えのバラエティ感」「わかりやすい、独創的な売場」「他店にないサービス」などが挙げられる。「とくに工夫なし」「まったく工夫なし」という回答も多かった。

チェーンストアの標準化と印象に残るような創意工夫とは考え方次第では相反する概念ではあるが、ポイントは看板を書き換えてもわからないレベルまでの没個性化には注意すべきということだ。

特筆するような創意工夫、個性があればそれがブランディングとなり選ばれる店のポイントにもなる。個性がなければ集客、地域シェア獲得には特売やポイント還元など価格政策に頼りがちになってしまう。

接客、プライベートブランド(PB)商品を含む品揃え、価格(EDLP)、地域密着などを磨き、DgSはもっとブランディングという概念を追求すべきだろう。

セルフで買物できる環境は比較的対応できている

図表10は総合満足度と相関が強く、なおかつ顧客満足度でも偏差値50以上の高得点を挙げている項目である。

ここは維持することが大切で、逆にここを落とすと総合満足度も下がる。目薬、洗顔料、歯磨き粉、それぞれのわかりやすい商品分類と売場づくりは総合満足度にとって重要であり、一定レベルの水準に達している。テスター整備、プライスカードや販促ツールの付け方も重点維持分野なので、維持していかなければ集客に響く。

先述のとおり今回の特徴としてセルフで買物できる環境が重視されており、調査結果からその多くの項目が重点維持分野に入っている。したがって、各店対応は比較的よくできていることになる。入り口の清掃、床・通路の清掃も重視されるので、セルフ買物環境、クリンリネスで取りこぼすと厳しい競争から脱落する恐れがある。

一方、総合満足度との相関が高いのに、顧客満足度が低いのが図表11に挙げた「重点改善分野」である。

「他店にない創意工夫」「品揃え」「お客を意識した従業員の態度」など高度な項目とともに「トイレの清掃・管理」といった基本項目も重要改善の領域に入っている。競争が激しく厳しい戦いになっている現状、トイレが汚いといった店では勝ち残りは難しい。いま一度自店をチェックしてみよう。