ソーシャルゲームのノウハウ生かしアプリの継続利用促すコーセー
今回コーセーが発表した「Skin Diary」は、毎日の肌状態を、睡眠や気分といった外的要素と組み合わせて記録するアプリです。継続して記録を続けることで、自分の肌の本当の性質や隠された傾向を精緻に知ることができるといいます。
「Skin Diary」の開発においてはソーシャルゲームの知見があるDeNAライフサイエンスと協働したことも非常に興味深い点です。日々の状態を記録するアプリはどうしてもモチベーションが保てず離脱してしまうユーザーが少なくありませんが、「Skin Diary」にはDeNAライフサイエンスがゲームやスポーツの事業で培った、独自のノウハウ『エンゲージメントサイエンス』が随所で活用されており、飽きずに楽しく使い続けてもらうことを目指しているそうです。
将来的には、お客が記録・蓄積した美容データを、店頭と連携して最適な美容アイテムを効率的に提案する仕組みも検討するとのこと。
「これにより、これまで店舗や美容ブランドごとに分断されていたお客さまの美容データが共通のデータとして統合されるため、お客さまごとにパーソナライズされた美容体験の提供が可能」になると、DeNAはプレスリリースで述べています。
資生堂は「Optune」でひとりひとりの肌状態に合わせたスキンケアを提供
大手化粧品メーカーの肌データ活用のなかで、一歩先をいっているのは資生堂の取組でしょう。
資生堂は「肌パシャ」というスマホだけで本格的な肌分析が行えるアプリを2017年から提供しています。2019年9月には、これまでのうるおい測定に加え、「ハリ・透明度・シミ・シワ・肌色分析」、総合結果「美肌チャート」を搭載するなど測定項目を強化しました。
また、同社が2019年7月にリリースした「Optune」はさらに一歩進んだサービスです。スマートフォンのカメラで撮影して測定した肌の状態、睡眠状況や今の気分、そして気温や湿度、紫外線、PM2.5など、肌に影響を与える環境データなどの情報を組み合わせて分析。
8万以上ものお手入れアルゴリズムから、その日の肌に必要なケアを決定します。
最終的には専用のツールからその人の状態に合わせたスキンケア剤が自動的に抽出されるというものです。まさにカスタマイズの最先端を行ったサービスでしょう。
Optuneは月額1万円の定額制で、スキンケア剤の抽出に使用するカートリッジは残量が自動管理され、無くなる前に自動で届く仕組みになっています。これは究極の顧客囲い込みと言えます。
LINE連携で軽快な「肌id」、水分測定センサ配布する「smile connect」
花王は2019年9月からスマートフォンのカメラで肌年齢を分析する「肌id」を開始しました。同社の化粧品ブランド「ソフィーナiP」と連動したサービスで、対話アプリの「LINE」で友だち登録することで同サービスを利用することができます。
これは、株式会社パーフェクトがARメイクアプリ「YouCam メイク」の「AI 肌チェック」のブラウザ向けモジュールを提供したもの。LINEと連携していて軽快な使い心地です。
カネボウは「smile connect」というアプリで肌診断を提供。こちらはキャンペーンでスマートフォンのイヤホンジャックに差し込んだ肌水分測定センサーを配布しています。カメラだけで測定する他社とは一歩違ったアプローチをしています。
小売業独自の提案をする準備をするタイミング
このように、2019年はメーカー起点でさまざまな肌診断アプリが登場(強化)された年のようです。小売業はこの動きをどのように考えるべきでしょうか?ポイントは2点あると考えます。
まず1点目はさらに専門的な肌分析が店頭では必要とされるようになるだろう、ということです。
スマートフォンを使うという性質上、環境や機種、ユーザーのリテラシーに左右されるカメラでの撮影に頼らざるをえません。今後カメラの機能はより高くなることが予想されますが、どんなにソフトウェアの性能が向上しても、ある程度の精度どまりになることは間違いないでしょう。本格的な診断を受けたい場合は店頭に足を運ぶというような動線ができていくはずです。
花王はAIスタートアップのプリファードネットワークスとともに「皮脂RNA」を使って肌状態にコミットする美容カウンセリングサービスの構築をめざすと発表しました。
これはとても簡単に解説すると、あぶら取り紙のよなものからとった皮脂から肌の状態のモニタリングをする技術を確立しようとするものです。簡易な肌診断がスマートフォンでできるようになれば、今後店頭ではこのようなさらに専門的な肌診断サービスの提供が求められるようになることでしょう。
もう一つ、これらの肌診断アプリはメーカーが提供しているため、横断的に化粧品を購入されるお客にとっては使い勝手が悪くなっている状況ということも小売業は注目しておきたい点です。
お客様はスキンケアはA社、化粧下地はB社、ファンデーションはC社…という使い方をされていて、メーカーの縛りがある「メーカー発肌分析アプリ」の提案は効きにくく、アプリとしても使い勝手が悪いのではないでしょうか。
そういったニーズを汲み取ってか、NTTドコモとソニーが肌解析アプリ「FACE LOG」を2019年6月にスタートしました。中立的な立場からの肌診断アプリとしては注目に値するでしょう。
本来であれば、メーカーを横断してお客に商品をご紹介できる立場である小売業が率先してこのような取り組みをするべきなのかもしれません。
かつてメーカーごとに顧客台帳があり、顧客管理を複数の台帳にまたがって行わなければならなかったために、使い勝手が非常に悪かったことがありました。今はメーカーごとではなく、台帳の統一化がかなり進んでいます。
同様に肌診断をメーカーごとにばらばらにおこなっていたのでは店頭は回りません。アプリで顧客を取り込み、店頭でより精度の高い肌診断を提供し、商品提案はメーカー横断で行える…そんなツールを小売業が率先して用意することができれば「最強」です。
肌診断アプリで集客したお客を取り込むためには、店舗側では3つの準備が必須になるはずです。
1つ目は店頭で更に詳細な肌診断を行えるツールを準備すること(それがないとメーカー直販への顧客流出は免れません)、2つ目は個別対応の為に自社の統一台帳を作り運用すること(電子台帳ならより時間短縮できる上にデータを活用できます)、3つ目は診断結果や要望をもとにメーカーを横断して化粧品を提案できるカウンセリングツールを用意すること(タブレットカウンセリングツールなど)。
たとえメーカーほどの開発費をかけることができなくても、小売側で今から準備できることは山ほどあるのではないでしょうか。