作業効率化で低価格の商品を提供する「テスコ」
英国スーパーマーケット売上規模首位のテスコ。2003年に日本進出の足掛かりとしてシートゥーネットワークを買収、既存店の「つるかめランド」と都市型の「テスコ」の両ブランドで展開していましたが、2011年に日本から撤退しています。
ロンドン市内は都市型の「Tesco Metro」や小型店「Tesco Express」が中心。日常使いのベーシックなスーパーマーケットとしてロンドンっ子に定着しているようです。
立ち寄った店舗はコヴェントガーデン近郊の「Tesco Metro」。ロンドン中心部であるピガデリーサーカスからも近く、オペラハウスやブランドショップが並ぶ街中ですが、観光客よりは近隣で働く地元の買い物客が多い印象でした。
青果売場。価格は1ポンド以下の商品も多く安価な印象。バラの青果を緑色のコンテナに入れて陳列することで、陳列作業の効率化をはかっていることが見受けられます。
出来上がりがイメージしやすいパッケージが食欲をそそるレンジアップのパスタ売場。価格は2~4ポンド程度。Quorn、Goshともにベジタリアン向けの商品を展開しているメーカー。この価格帯でもベジタリアンメニューをそろえているところに、欧米のヘルシー志向が伺えます。
タバコや酒類を扱うカウンター以外はほぼセルフでした。駅や空港内の小売店もセルフレジを多数導入しており、どのお客もセルフレジを使い慣れていることが分かります。
「セインズベリー」の美しい売場作り
英国スーパーマーケット売上規模2位のセインズベリー。今年3月にアメリカ・ウォルマート傘下で、英国スーパーマーケット売上規模3位のアズダとの経営統合が発表され、大きな話題となりました。
訪れたのはグロスターロード駅から徒歩10分程度のケンジントン地区の店舗。グロスターロード駅周辺は駅直結のアーケード内に王室御用達スーパーの「ウェイトローズ」とドラッグストアの「ブーツ」、駅の向かいには「テスコ・エクスプレス」がありますが、こちらのセインズベリーは上記の店舗に比べて、駅前から離れた住宅地区にあることから売場面積も広くゆったりとした印象です。
「ウェイトローズ」や「マークス&スペンサー」と比べて、中級スーパーの位置づけの「セインズベリー」や「テスコ」。高級住宅街のケンジントン地区の中ではかなり庶民的な店ですが、食料品から日用品、アパレルまで幅広く扱う大型店ということもあり、ゆっくりと買い物を楽しむ主婦層やシニア層が多かったです。
日本の場合、インストアベーカリーはエントランス付近にありますが、イギリスではデリカテッセンと共に主通路沿いでも奥の方に設置されている店舗が多いです。バケット類は45~80ペンス、カップケーキは90ペンスと手に取りやすい価格帯。
鮮魚売場はサーモンの扱いが多いことが分かる品揃え。丸魚よりも切り身中心です。
セインズベリーPBの米料理と乾燥パスタのコーナー。欧米では米をパスタに近い感覚で使用するため、売場も必然的に近くなります。セインズベリーPBのパッケージは安価ながらカラーリングが美しく、思わず手に取りたくなります。マカロニなどのショートパスタは大容量品が中心です。
誰もが知る庶民的な王室御用達チョコレート「キャドバリー」。同店では棚2本使ってキャドバリーブランドを展開していましたが、板チョコだけでなく定番の「デイリーミルク」のタブレットタイプやスナックタイプを多く扱っていました。日本ではチョコバー中心の品揃えですが、この薄くて丸い形のタブレットタイプは食べやすいので、日本でも流行るのでは?と思いました。
日用品の洗濯用洗剤売場は大容量品中心で、日本のホームセンターのような品揃え。フェイスもしっかりとっています。
丁寧な情報発信でライフスタイルを提案する「ウェイトローズ」
王室御用達の高級スーパーとして知られるウェイトローズ。一部のオリジナル商品はイオン系の店舗でも取り扱われており、日本人にもなじみがあるのではないでしょうか。
立ち寄った店舗がグロスターロード駅直結のアーケード内ということもあり、夜遅くまで営業していることから仕事帰りのビジネスパーソンを多く見かけました。
写真はビールの冷蔵ケース売場です。取り扱いメーカーや商品のバリエーションが多いことから1商品のフェイス数は少なくなっています。
ウェイトローズでは、各売場でレシピカードを多く見かけました。洒落たデザインや盛り付けが光るA5サイズのカード。裏面にレシピと料理に使用するおすすめメーカーの食材(ウェイトローズPBもあり)画像が掲載されています。
また同社では「Waitrose Food」という月刊誌(価格2ポンド、メンバーズカードユーザーは無料)を発行しています。100頁超えの冊子は料理のレシピに加えて、産地やレストラン、地域の紹介など凝った作りで、さながらエアラインの機内誌のよう。
ウェイトローズでは自社のウェブサイトの他、YouTubeやInstagram、Twitter、Facebookでもこれらのレシピを紹介しており、食を通じた健康的で豊かなライフスタイル提案に力を入れていることが伝わってきます。
アメリカのスタイルそのままの「ホールフーズマーケット」
オーガニックブームの欧州には、アメリカのホールフーズマーケットも7店舗ほど進出しています。訪れた店舗はピカデリーサーカス駅から徒歩3分程度の繁華街から一歩入った通り沿い。日中からにぎわっており、国際都市ロンドンのビジネスマンのランチ需要をしっかり取り込んでいるようです。
にぎわう店内では焼きたてパンやデリの香りが食欲をそそります。内装はブルックリンデザイン。
人気の「HotBar」コーナー。温かいスープ類や料理を容器に詰めてレジに持っていき会計するスタイル。
パンのコーナーは回遊しやすいよう島陳列。こちらは総菜パンよりもプレーンな食事パンが中心です。ホールフーズはEAT LOCALを推奨していますが、ここにも大きな「LOCAL」の文字が。
NBをお得に買えるワンプライスショップ「ポンドランド」
今回、イギリス在住の友人に連れて行ってもらったのが、ワンプライスショップ業態(いわゆる100均)の「ポンドランド」です。週末の蚤の市でにぎわうノッティングヒルのポートベロー散策中に訪れた店舗は、売場面積も広く品揃えも非常に豊富。この日はヘンリー王子とメーガンさんの結婚式当日ということもあり、彼らのお面やユニオンジャックモチーフのオーナメントなども飾られていました。
飲料の向いにシャンプーや洗剤、通路にアパレルやジャンブル陳列のビーチサンダルも並ぶ激安店らしい売場。
すべてが1ポンドというわけでなく、洋服売場では2~5ポンドといった商品も。
同社のホームページより。日本のダイソーのようなオリジナル商品中心というよりは、NBメーカーの商品が多くを占めており、よく知るNB商品をお得に購入できる場所として地元の人に浸透しているようです。
1時間単位で配達の時間指定ができるオンラインスーパー「オカド」
最後に紹介するのが、オンラインスーパーマーケットの「オカド(ocado)」です。小学生の娘さんを持つ友人は毎日の学校の送り迎え(イギリスでは原則、小学生までは送り迎え必須、また子どもを一人にしてはいけないなどのルールがある)や習い事の付き添いなどで、買い物に行けないことがしばしばあるため、ネットスーパーを利用しているとのことでした。
オカドの最大の特徴は朝5時半から夜の11時半まで、1時間単位で配達の時間指定ができる点。生鮮食品については高級スーパーであるウェイトローズの商品を取り扱っており、品質面での信頼も高いとのことでした。またオカドの宅配員は他の小売業が行うネットスーパーよりも応対が良いため、価格が少々高めでも使いたいと考える主婦層が多いそうです。
土地が狭く車を持たない家庭が多いことからネットスーパーの利用者も多いロンドン。価格面だけでなく、利便性やサービスの質で利用者の心をつかむオカドは、日本のネットスーパー運営のお手本にもなりそうです。
<プロフィール>イシヤママキ
法政大学文学部卒。輸入チーズ卸久田のチーズ専門店で食品小売の基礎を学び、イトキンでの服飾ブランド販売チーフを経験後、日本リテイリングセンター入社。渥美俊一の元、セミナー運営やテキスト編集の業務に就く。結婚による退職後、物流新聞社、流通専門出版社を経て2008年よりフリー。現在は流通ビジネスやクラシック音楽、ペット情報など幅広いジャンルで取材・執筆活動を行う。好きなものは旅と猫とダイビング。