ドラッグストア激変の時代 衰退サイクルにどう備える?
セミナー前半は、月刊MD代表の日野が「単品商談からカテゴリー強化の取り組みへ」というテーマで講演し、小売業界が直面する構造的な危機と、メーカーに求められるものについて解説した。
日野は、アメリカの経済学者故クレイトン・クリステンセン氏の提唱した「イノベーションのジレンマ」の概念図を用い、ビジネスモデルや業態の寿命は約30年であると指摘。日本のドラッグストアは現在、急成長期を経て安定的な成長期に差し掛かっており、「5年、10年後には衰退のサイクルに入る」と警鐘を鳴らした。
この衰退サイクルへの突入を防ぐためには、「新ビジネスモデル・業態にチャレンジせねば次の成長が望めない」と述べ、現状維持に甘んじない挑戦が求められていると強調。
この危機感の根拠として日野は、アメリカ最大のドラッグストアチェーンであるウォルグリーンの経営悪化事例を挙げた。同社は1990年代前半に成長を始めたが、優に30年が経過したいま、業績悪化によってファンドによる買収や大量閉店を余儀なくされている。対岸の火事ではない。
原因はECへの対応の遅れ、化粧品専門店との競争、そして調剤部門の収益悪化など多岐にわたるが、とくに重要なのは、「物販だけではなく、オムニチャネルへの対応」ができていない点と言及する。
顧客軸のMDが鍵 カテゴリードクターへの転換
日野は、これからの成長戦略の軸として、「商品軸のMD」ではなく、「顧客軸のMD」が重要になると説く。顧客軸とはカテゴリーである。
カテゴリーマネジメントにおけるカテゴリーとは、「購買行動の単位」のことであり、従来の「単品商談」から、「カテゴリーの最適化」を提案する「カテゴリー商談」への転換が不可欠だ。「新商品が発売されるからといって、単品の商談で店頭に押し込むのはもはや時代遅れ。これからは顧客の購買行動の単位であるカテゴリーの最適化ができる営業パーソンこそが優秀と評価されるべき」と日野は述べた。
メーカーの営業パーソンにとってカテゴリーの最適化とは、単にシェア争いをすることではなく、「カテゴリーの市場全体を大きくする活動」のことだ。具体的には、自社ブランドの投入により、そのカテゴリーでいままで買物をしていなかった新規客を呼び込むことができれば、市場全体の拡大に貢献できる。
また、短期特価特売(プロモーション)偏重ではなく、「定番」をどう最適化していくかという提案ができる営業パーソンが小売業から重宝される時代になりつつあるという。
これは、短期特売が過度な人時投入を招き、長期的に見て収益性を下げる事例が増えているため。エブリデーロープライス(EDLP)志向の小売業が増えるなか、「価格商談」ではなく「カテゴリー最適化の提案」こそがメーカーの営業パーソンの付加価値となる。
ダイヤモンドモデルと完全作業
次いで日野は価格商談、リベート商談に偏重した商談スタイルを根本から変える、小売業とメーカーの新しい協働プロセスである「ジョイントビジネスプラン」の重要性について言及する。小売業の寡占化が進む現代では、特定の大手チェーンに対する取り組みはメーカーにとって極めて重要だ。
日野は、従来の営業パーソンとバイヤーだけによる商談「バタフライモデル」から、企業対企業で取り組む「ダイヤモンドモデル」への移行を提唱。営業とバイヤーの商談に加え、トップマネジメントを含む「システム、物流など、さまざまな部署同士と会社対会社で取り組むということが非常に重要になってきます」と述べた。
ジョイントビジネスプランの実現において、メーカーと小売の双方にとって「最大の売上対策」となるのが完全作業である。
「商談成功の70パーセントは完全作業力で決まる」と言われており、とくに店舗数が多いチェーンほど、商談結果の店頭実現率(導入率や陳列場所の正確さ)のバラつきが、巨大なチャンスロスを生む。メーカー側は、競合に奪われている「他損売上減」よりも、売り逃している「自損売上減」、すなわち「店頭欠品」や「不完全作業」による損失に着目し、その改善に取り組むべきだという。
この店頭実現率を上げるためには、商品部だけでなく、店舗運営部を巻き込むことが不可欠だ。店舗運営部が、その取り組みにより「自分たちも利益が取れる」と理解すれば、協力度は格段に増す。
バイヤーの関心事の変化とコンサルティングセールス
セミナー後半は、セレブリックスの大矢貴広氏が登壇し、小売業営業における具体的なノウハウを解説。
小売業界では、EC化、人手不足、消費者ニーズの多様化といった環境変化のなかで、商談のオンライン化などのDXが急速に進んだ。バイヤーは、対面と非対面のハイブリッドな対応を求められている。
大矢氏は、近年バイヤーが重視する関心事の変化として、(1)体験型売場へのシフト(タッチ&トライ、SNS連携)、(2)即トレンド対応(SNSバズ、芸能人使用情報など)、(3)収益貢献率(交差比率)の追求の3点を挙げた。
とくに「収益貢献率」は、新規客獲得が難しい時代において、持続的な成長モデルに転換するために不可欠な指標だと言う。

このような変化に適応するには、小売視点を欠いた単なる商品説明やキャンペーン訴求ではなく、小売が求める「されたい営業」が必要となる。大矢氏は、ジョイントビジネスプラン実現のための営業の観点を5点(図表1)にまとめた。
顧客インサイトの把握 仮説質問とAIの活用
バイヤーの評価軸である「総粗利額と在庫効率」に貢献するには、在庫回転率と粗利率を掛け合わせた交差比率の向上を狙った提案が求められる。
大矢氏は、レトルトカレーの事例を挙げ、定番と期間限定商品のゾーニング、少量納品による在庫リスク抑制、ついで買いを誘発する他社商品との組み合わせ陳列、レシピ動画への動線設置による顧客体験の向上といった、売場全体を捉えた提案の具体例を紹介した。
そして、この「されたい営業」を実践するためのスタイルとして提案するのが「コンサルティングセールス」だ。
コンサルティングセールスとは、「顧客も認識していない潜在的な欲求やニーズ」である“インサイト”をもとに課題設定を主導し、顧客を理想の未来に導く営業スタイルである。
その実現に必要なのが、顧客の主観的認識ではなく、表に出ていない客観的事実を掘り下げる“ファクトファインディング”だ。ヒアリングが「聞き取り」を目的とするのに対し、ファクトファインディングは「事実をつかむ」ことを目的とする。
メーカーの営業が陥りがちな「商品に関わること」中心の会話から脱却し、「ビジネス全般に関わること」を問い、情報提供や示唆を与えることが重要になる。大手食品メーカーの事例では、バイヤーの関心事だけでなく、営業先のIR情報や中期経営計画を見て、「会社としての大きな課題とその現場の売場」をひもづける営業プロセスが紹介された。
このような濃い仮説構築を生産性高く実行するために、大矢氏はAIの活用を示唆。AIに「業界のなかの人」を演じさせるデモを実施し、「AIは思考の整理やアイデアの壁打ち相手としては優秀なサポーターになり得る」と結論づけた。
パネルディスカッション 小規模メーカーと卸の役割
セミナーの最後は、大矢氏が日野に質問をする形でパネルディスカッションを実施。小規模メーカーや卸売業との連携についても議論が交わされた。
最後に日野は、食品メーカーがまだドラッグストアへの取り組み度合いが遅れているとし、とくに「健康」という切り口でドラッグストアとチームを組み、需要創造を強化すべきだと締めくくった。
本セミナーは、変化する小売業界において、メーカーが「売る人」から「売場を共に作る人」へと進化し、「メーカー・小売・消費者」の三方よしを実現するための具体的な戦略と実践手法を示唆するものだった。
《登壇者》

代表取締役社長
日野 眞克

リテールセールス エバンジェリスト
大矢 貴広氏





