ID-POSの購買履歴と対応履歴を元に受診勧奨

[新生堂薬局]OTC薬の購買履歴と接客応対履歴を元に開発した「受診勧奨プログラム」が特許取得

新生堂薬局(本社福岡市、代表取締役社長水田怜氏)では、タブレット上で運用する医薬品、健康食品のカウンセリング販売支援ツール「健康台帳®」を共同開発し店舗で活用している。この健康台帳®を使った受診勧奨システム及び受診勧奨方法(以下受診勧奨プログラム)が2023年6月特許を取得。同社では、この特許技術は自社活用だけではなく、他社へもライセンス供与してドラッグストア(DgS)業界全体の価値を上げるとしている。(月刊マーチャンダイジング2023年11月号より転載)

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2009年改正薬事法の功罪を踏まえDgSの医薬品売場の価値を取り戻す

2009年の薬事法改正により、これまでになかった「登録販売者(医薬品登録販売者)」という新しい資格者が誕生。OTC医薬品は副作用のリスクにより第1類から第3類まで分類され、指定第2類、第2類、第3類の医薬品は薬剤師だけでなく、登録販売者でも販売できることになった。

「この制度改正でDgSの多店舗展開には拍車がかかり、生活者にとって家から近いDgSで手軽に医薬品が買えるようになったことはいいことだと思います。一方で、改正以前には多くのDgSでは医薬品売場に薬剤師が常駐して、お客様の健康相談に乗り、適切な医薬品を紹介し、必要だと思えば医療機関での受診をお奨めしていました。DgSが健康相談拠点として機能していたのです。

ところが、登録販売者制度の導入で医薬品売場の主役は薬剤師から登録販売者へと変わっていきました。経験の浅い登録販売者は医薬品の説明や健康相談を積極的に行うことには躊躇があります。お客様の既往歴やアレルギーなどを確認するようマニュアルに書かれていても、いざ実践の場となると経験不足から、相手の健康状態を正確に把握できるか、聞かれたことに間違いなく応えられるか自信がなく、積極的に医薬品の説明や健康相談に応じるという姿勢はなかなか取りづらいのです。

これは登録販売者の責任ではありません。医薬品販売を支援する実践的なツールがないことが原因なのです。研修や座学には限界があります。医薬品販売を具体的にサポートできるツールが不可欠という思いで、新生堂薬局では子会社のNewromics(ニューロミクス)社とMMI社との共同開発で医薬品の販売支援ツール『健康台帳®』を開発しました。

健康台帳®はお客様の既往歴やアレルギーなどの基本的な健康情報を入力するようになっており、医薬品、健康食品の詳細な情報も多数収録されています。登録されたお客様情報を元に、お悩みや症状を聞けば、それに合った適切な商品をご案内することができます。接客履歴はクラウドに保存され、ID-POSとも連携しているので、どの担当者でもそのお客様が過去どのような商品を購入され、接客を受けたのかを知ることができます」(新生堂薬局代表取締役社長CEO・COO・CHO水田怜氏)。

健康台帳®を使えば、経験の浅い登録販売者でも適切なカウンセリングを行うことが可能になり、これを重ねることで自信が付き積極的に医薬品の紹介、健康相談へ対応ができるという好循環が生まれる。

薬剤師が担っていた役割を登録販売者と健康台帳®で実現

OTC薬を継続的に服用する人のなかには、医療機関での治療を要する人が少なからずいると思われる。こうした状況にある人を新生堂薬局では「潜在患者」と呼んでいる。カウンセリング販売に注力する新生堂薬局でもOTC薬をカウンセリングで購入するお客は30%程度に止まり、潜在患者の発見は困難だ。

健康台帳®を使ってOTC購入客との接点を増やし、一人でも多くの潜在患者を発見し、OTC薬の適切な利用、および医療機関での受診を勧めることを同社では「プレホスピタルカウンセリング®」と命名。今回特許を取得した「受診勧奨プログラム」を活用することで、潜在患者にプレホスピタルカウンセリング®を提供し、早期発見、早期治療開始を促すことが可能になる。

[図表1]「ヘルスケアステーション®」構想

新生堂薬局では、地域において医療機関や行政などと連携し、健康サポートの拠点=「ヘルスケアステーション®」となることがDgSの使命であるとして、ヘルスケアステーション®を新生堂薬局が目指す次なる業態と位置づけている(図表1)。

[図表2]ヘルスケアステーション®と健康台帳®の関係

この新業態の4つの重点項目が「早期発見」「早期治療開始」「治療継続」「重症化予防」である(図表2)。今回特許取得した「受診勧奨プログラム」はヘルスケアステーション®を実現させる大きなステップになる。

「DgSには元来、薬剤師を活用して地域の健康相談拠点としての役割がありました。それを健康台帳®、特許取得の受診勧奨プログラムを通じて、登録販売者によって実現させたい。

それにより、新生堂薬局だけではなく、DgS全体の価値を上げていきたいと思っています。受診勧奨プログラムはライセンス使用という形で他のDgS様にも提供していきます。DgSにおける医薬品販売と専門家の関わり方について問題が指摘されていますが、医薬品の安全な提供、医療機関との連携において、薬剤師同様に登録販売者は必要不可欠な存在であるはずです」(水田氏)

登録販売者は医薬品販売のために資格だけが重用され、医薬品の説明販売や健康相談という活動においては「休眠資産化」している店舗が多い。健康台帳®および特許取得の受診勧奨プログラムは登録販売者という活動面においては店舗に眠る大きな休眠資産を呼び覚まし、優良資産へと転換するアプローチでもある。

顧客の健康情報を登録することで安全な個別カウンセリングが実現

[写真1]特許証

健康台帳®の開発者の一人で、それを使った受診勧奨プログラムの発明者として水田氏と並んで特許証(写真1)に名を連ねる株式会社MMI、CMOで薬剤師の中村恵子氏に話を聞いた。

「DgSでOTC薬を購入するお客様の中には、事前にネットなどで調べて自分の判断でお薬を選んで購入している方もいらっしゃいます。現場の登録販売者たちはカウンセリングしたいけど、何か既往歴や特別な理由でお奨めしてはいけない薬があるのではないかと不安を持っています。私自身薬剤師ですが、売場での経験が十分でないこともあり、OTC薬をカウンセリング販売してくださいと言われると自信がありません。現状ではお客様の行動、登録販売者の心理両方からカウンセリング販売が実現しにくい状況です。まずは、登録販売者の不安を取り除き、経験が浅くても自信を持ってカウンセリング販売できるようにという思いで健康台帳®を開発しました」(中村恵子氏)

[図表3]健康台帳®の健康情報
画面年齢、性別、アレルギー、既往歴などの基本的な健康情報を登録する
[図表4]接客対応履歴
紹介した商品や対応内容をメモとして保存。疾病につながるキーワードを発見する

健康台帳®はまずお客の性別、年齢、既往歴、アレルギー、妊娠の有無、服用中の医薬品、健康食品などの健康情報を登録。商品を紹介する際は、頭や腹部といった部位別、症状、悩み別など複数の検索が可能。商品紹介の際は、健康情報に基づき禁忌(使用不可)の商品を除く商品がリストアップされ、各商品をタップすると詳細情報が出る。何をお奨めしたか、会話の中で重要と思われるキーワードなど接客応対履歴はクラウドに保存される。新生堂の会員カードと連携することで購買履歴を閲覧することもできる(図表3、4参照)。

ID-POSの購買履歴と対応履歴を元に受診勧奨

今回特許を取得したのは、この健康台帳®を使った受診勧奨方法である。まず、ID-POSにより、特定のOTC薬を継続的に購入している履歴があれば、独自の基準に基づき「過量服用」という判断がなされる。その上で、接客応対の中で疾病と関連する特定のキーワードが相手の言葉として出れば健康台帳®上で「疾病アラート」が出る。疾病アラートの出たお客に対して専門医が監修した「チェックリスト」を記入してもらい、規定のチェック数に達したら受診勧奨をする。

[図表5]健康台帳®を使った「受診勧奨プログラム」(特許取得)

服用中の医薬品、購買履歴(一定期間内にどれくらい購入、服用しているか)、健康台帳®上の健康情報、記入してもらったチェックリストなど一連の健康情報はお客に渡し診療時の医師の参考にしてもらう。この①「疾病アラート」の発信→②「チェックリストの記入」→③「受診勧奨」→④「健康・購買データの共有」までが特許取得の発明となる(図表5)。

単純に受診を勧めるだけでなく、明確な根拠を示し、診療の現場で使える健康情報を提供することは大きなポイントだろう。OTC薬の正確な服薬情報は医療機関で把握することは不可能だし、患者個人からも上がってこない。極端な例を示せば、ある高齢女性が診察時、医師から普段どのようなOTC薬を服用しているかと聞かれて「白い錠剤」と答えたという話もある。それほどにOTC薬の正確な服薬情報を医療現場と共有することは難しい。一方で、これが治療の貴重な資料になることも少なくない。生活に身近なDgSがOTC薬の正確な服薬情報、カウンセリングを通じて知り得た生活情報を医療機関に橋渡しすることには大きな価値がある。

2つの疾患に絞って運用。積極的な医療連携もカギ

受診勧奨プログラムでは、対象とする疾病を当面二つに絞って運用する。ひとつが月経のある女性の10%、推定260万人の患者がいる「子宮内膜症」。子宮内膜症とは、子宮内膜という本来子宮の内側にあるべき組織がそれ以外の場所で発育することで、痛みや不妊を引き起こす疾病だ。月経痛として現れるので鎮痛剤を定期的、継続的に過量服用することにつながる。20代、30代の女性に多く見られる。

「私も女性ですし、女性の悩みを解決したいという思いは強くあります。また、不妊につながることは、妊娠を希望する女性には大きな問題ですし、少子化を考えれば社会にとっても大きな課題です」(中村氏)

月経時、鎮痛剤の継続利用という特徴的な購買行動が見られるので、受診勧奨プログラムを活用すれば比較的発見しやすい疾病だろう。今後DgSでこの疾病が発見され、早期治療につなげれば個人のQOL(生活の質)改善に加え、社会的にも意義のあることだ。

もうひとつの対象が認知症である。認知症は自身にとって不便、不利益を与えたり、徘徊による失踪の危険があるばかりでなく、家族に介護の負荷を与えるなど周囲への影響も大きい。

「行政の人と話をする機会が多くありますが、認知症は大きな社会課題として認識されています。特に高齢化が進む地域ではそれだけ患者数も多く深刻になりつつあります。高齢者の方と日頃から接点の多いDgSがこれを早期発見し治療につなげることは価値の高いことです。当社ではエーザイ様とプロジェクトを組んでDgSで認知症の早期発見をする取り組みを検討しています」(水田氏)

エーザイは米国バイオジェン社と共同で脳内に蓄積し神経細胞を壊すとされるアミロイドベータの除去を目的とするこれまでの認知症治療薬とは異なる新しいタイプのアルツハイマー病の治療薬を開発している。

「認知症に関しては、ID-POSによる購買履歴で絞り込むことは難しいので、主にチェックリストや相談会を通じて行うことになると思います。登録販売者にも認知症やチェック方法の研修をしっかり行います。研修や座学を実践の場で生かして受診勧奨まですることは難しいのですが、健康台帳®や受診勧奨プログラムという具体的なサポートツールがあることが強みになります」(水田氏)

効果的な受診勧奨には相手との信頼関係が土台となる。これがなければいくら受診勧奨しても行動へと移さないだろう。特にセンシティブな問題を含む認知症においては信頼関係の構築は欠かせない。そのためにも健康台帳®を使って日頃から接客することが重要となる。

また、受診勧奨プログラムは普段の接客のなかで行うだけではなく、疾病アラートが出たお客にアプリ通知したり、疾病アラート予備群に向けた健康相談会を行うなど、店舗側からの働きかけが重要だ。

[図表6]接点を多くとって効果的に潜在患者に受診勧奨

現状、子宮内膜症と認知症という2つの疾病を対象としているので、この疾病の早期発見をテーマとした相談会の開催も有効だろう。受診勧奨プログラムの効果的な運用では、普段の接客+αの接点づくりが求められる(図表6)。

さらに、受診勧奨をしたら、具体的にどのクリニックのどの診療科目、どの医師から受診すればよいかまで案内することも早期治療に役立つ。健康台帳®を使った受診勧奨プログラムでは、近隣のクリニックをマップにして案内するサービスも構築中だ。DgS側は自社の受診勧奨プログラムを理解し患者を受け入れてくれるクリニック、ドクターを開拓して医療連携することも重要だろう。

生活者に近いDgSが日頃の買物行動や接客の中から潜在患者を発見し受診勧奨することで、早期治療開始、治療継続、重症化予防が実現すれば地域で信頼される健康相談拠点になれる。

〈取材協力〉

新生堂薬局代表取締役社長
兼CEO 兼COO 兼CHO
水田 怜氏
株式会社MMI
薬剤師 CMO
中村 恵子氏