オンライン接客の顧客満足度はリアルの対面接客を超えた!?

サイバーエージェントは2022年、「住友不動産」「再春館製薬所」「資生堂ワタシプラス」にオンライン接客ツール「リモてなし」の提供を開始した。リアルの対面接客と遜色のない接客体験を実現している。オンライン接客の最前線をリポートする。(取材協力:サイバーエージェント)(月刊マーチャンダイジング2023年2月号より転載)

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コロナ禍で進んだオンライン接客

コロナの影響で対面での接客が困難な状況もあり、オンライン接客が急速に進んでいる。ホテルのフロント業務のオンライン接客、セルフレジのオンラインでの接客サポートなどが代表的である。

サイバーエージェントは2022年3月より、住友不動産の新築分譲マンション販売において、オンライン接客ツール「リモてなし」の試験提供を開始した。

住友不動産では2022年6月より不動産業界において、先駆けてオンライン接客での不動産販売を開始した。内見から成約、引き渡しまでのすべての過程をオンライン化する、「リモートマンション販売」をすすめている。

導入当初はマンションをオンラインで販売するという前例がほぼなかったため、オンラインが故の気軽さ・手軽さなどから成約率が低くなるのではと考えられていたが、オンライン接客に移行しても、モデルルームがある前とマンションの成約率は変わらなかったそうだ。最近は、メタバース(仮想空間)で内見できるシステム導入を行うなど、今後も新築分譲マンションの非対面型販売を強化していく意向だ。

同様に2022年7月より、再春館製薬所にも「リモてなし」の提供を開始した。再春館製薬所は、電話での接客だけではなく、商品を体感してもらうためのオンラインセミナーを2020年ころから強化していた。

ところが、セミナー運営には予約ページや参加者リストの作成、案内メールなどの運営管理に膨大な時間がかかっていた。

「リモてなし」を導入することによって、業務フローの無駄を省き、オンラインセミナーの業務時間を30%も削減した。

また、オンラインセミナーで接点のあった顧客の6ヵ月以内の購買率が8%向上し、オンラインカウンセリングやセミナーを受けたことがない顧客と比較して顧客単価も上がる結果となった。

サイバーエージェントによれば、リアルの対面接客と、オンライン接客の効果はほとんど遜色がなくて、オンライン接客の方が「顧客の体験価値」(CX)が高い場合もあるそうだ。

現場の問題点を抽出し企業ごとにカスタマイズ

2022年12月からは、資生堂のECサイトである「ワタシプラス」のWebカウンセリングサービス「Online Beauty by ワタシプラス」向けにも、オンライン接客の「リモてなし」の提供を開始した。

資生堂の2021年12月期におけるEC売上高は、3,500億円規模に達しており、成長率は前期比20%超。連結売上高に占めるEC売上の割合は34%と拡大している(連結売上高は前期比12.4%増の1兆352億円)。

サイバーエージェントのリモテなしの最大の特徴は、それぞれの企業ごとにオンライン接客を「カスタマイズ」することである。オンライン接客の汎用ツールを販売するITのスタートアップ企業が、あまりやりたがらない個別企業ごとにカスタマイズできることを最大の強みとしている。

オンライン接客に関しては、汎用ツールを活用するよりも、企業ごとのニーズに合わせてカスタマイズすることが重要と考えている。

資生堂ワタシプラスに関しても、オンライン接客のツールの導入だけでなくて、業務システムを協働して構築するような取り組みを重視している。そのためには、現場の問題点の抽出から始めて、改善プラン、実際にシステムを開発するところまでを一気通貫で取り組んでいる。

「現場のニーズとかけ離れたシステムはうまくいかないので、現場の細かい実態把握や問題解決をお手伝いしながら、最適の業務システムとオンライン接客を実現することを大切にしています。オンライン接客事業のミッションは、チャットポッドなどの機械に接客を置き換えるのではなくて、人間が本来できる接客に集中できるようなお手伝いをすることだと考えています」(サイバーエージェントオンライン接客事業責任者 堀内直人さん)。

資生堂ワタシプラスのオンライン接客の仕組み

[図表1]資生堂ワタシプラス×リモてなしの全体スキーム

図表1は「資生堂ワタシプラス」と「リモてなし」の全体スキームの概念図である。オンライン接客の予約から、お客様の購買履歴や商品情報基盤に基づいた実際のオンライン接客、接客終了後のフォローアップまでの業務システム全体が設計されていることがわかる。

[図表2]ワタシプラス×リモてなしの管理画面例

図表2の画面は、資生堂ワタシプラスのオンライン接客の間に、「肌悩み」に関するアンケート調査を促し、その回答をリアルタイムに確認できる機能が付いた管理画面である(図表2の右側)。これまで一般的には、新規の顧客に対して、オンライン接客の前に問診票のようなメールを送ることが多かったが、回答率が低くなってしまうという課題があった。

しかし、図表2の管理画面があることで、新規客の肌悩みのアンケートが簡単に確認できるうえ、回答に応じて接客を行えるようになった。

また、接客後のアンケートに関しても、一般的にはメール等で終了後に回答を促すことが多かったが、リモてなしでは感想を入力した後に退出してもらうように設計することで、回答率を100%に近い高水準に高めている。こういう機能も、実際の接客の現場に入ることによって、改めて必要だとわかった機能である。

図表2の中央の画面は、顧客の「接客履歴」や「購買履歴」が参照できる管理画面である。オンライン接客を予約したタイミングで、顧客情報のデータベースと突合するようになっている。

また、その顧客に興味があると思われる商品データを取り込んでいるので、管理画面上で「この顧客にはこの商品をお薦めすべきだ」という商品提案ができるようになっている。「過去にこういう接客をした」「こういう商品を買ったロイヤルカスタマー」だということが接客前にわかる。

そのため、「そろそろこの商品が切れるのでは?」「プラス1品の組み合わせはこれがいいですよ」という提案をスムーズに行うことができるので、客単価のアップにもつながる。

店頭の接客と違った対応が必要になるオンラインでの接客に習熟した資生堂のPBP(パーソナル・ビューティ・パートナー)もいるが、接客記録を録画できるので、新人のPBPの接客のアーカイブをトレーナーが参照して、YouTubeのように「何分何秒のこの発言は良かったね」といったコメントを残すような教育のフォローアップもできる。

新規客の最大の入口 LINEとの連携強化

資生堂のワタシプラス×リモてなしは、LINEとの連携を強化しており、LINEが「オンライン接客」の入口になっている。

とくに、新規客の流入チャネルとして、特に伸びているSNSがLINEであり、新規客の獲得には最適のSNSである。LINEを入口に流入してきた新規客に良い接客体験を提供することで、固定客につなげていく良い循環になる(図表1)。

ワタシプラスの画面に、LINEのリッチメニュー(トーク画面下部に固定で表示されるメニュー機能)を表示して新規客の入口とする(図表2)。

そして、資生堂のメンバーシップサービス「Beauty key」の会員IDと「資生堂ワタシプラス」LINE公式アカウントのIDを連携すれば、LINE上で簡単にオンライン接客が予約できる。接客時間などの返信も、顧客にLINEで返ってくる。

さらに、接客が終わった後に、「おすすめ商品はこちらです」と言うメッセージと商品画像をLINEで送信できる(図表3)。

[図表3]新規客の入口としてのLINEとの連携を強化

従来のオンライン接客だと、「どの商品を提案したのか?」と迷うことも多く、おすすめ商品のフォローアップに多くの時間を要していた。

しかし、オンライン接客で提案した商品を記録し、LINEのメッセージと連携・送信できる機能を使うことで、接客終了後のフォローアップが非常に簡単になった。

[図表4]接客終了後のフォローアップもLINEで対応

オンライン接客中に購入に至らなかったとしても、「やはりこれ良かったから購入しよう」となったときに、LINEで商品画像付きのメッセージが残っており、そこをクリックすれば、簡単に商品をオンラインショップで購入できる。また、オンライン接客で提案した商品の「事後購入率」などもトラッキングできる。

サイバーエージェントは今後、小売業の店頭にオンライン接客のスペースを設置して、小売業の化粧品担当者やメーカーの接客担当者とつなぐオンライン接客の実験も進めていく計画である。

[図表5]リモてなしの管理画面

リアルの対面接客とオンライン接客の「接客体験」はほとんど遜色のないレベルにまで達している。しかも、接客内容のログが記録できる、提案商品のフォローアップを自動送信できる、化粧品担当者が不在時にも遠隔接客できるといった機能は、リアルの対面接客を超えているともいえよう。

 

〈取材協力〉

サイバーエージェント
オンライン接客事業部 責任者
堀内 直人氏
サイバーエージェント
DX本部 統括
藤田 和司氏