「安くして」一辺倒の商談スタイルでは生き残れない
ここでは、「マーチャンダイジング」(MD:生産から店頭販売まで一気通貫する生産サイクルの費用対効果を最大化させる制度設計)を切り口に「部分最適」ではなく、「流通全体の最適化」を目指すサプライチェーンの高度化に向けたアクションの概要について説明したい。
マーチャンダイジングを戦略的に、そして効率よく実施するためには、需要管理・供給管理を合理化し、効率的な品揃え・新製品・プロモーション品展開を行うことが重要だ。これまで以上に、小売業はメーカー、卸売業との洗練された協働することが必要となり、会社と会社同士でのビジネスの関係を強化できる商品本部体制と需要管理に不可欠な組織開発が必要になる。
小売業はバイヤー・スーパーバイザー(SV)・物流・ITのメンバーで構成された多機能チームが、キーとなるメーカーとカテゴリー成長へ向けた販売施策を立案・実行し、共同で需要管理を実施し、需要を予測し、店頭欠品の撲滅を実現しなければならない。つまり、製販協働で売場における「売り続ける力」と「売り切る力」を強化することが重要なのである。
そのためには小売業は、全方位外交のように、取引先全部のメーカー・卸売業と仲良く取引しようというスタイルを見直す必要があるのではないだろうか。小売業は自ら活動基準の原価計算(ABC分析:Actived Based Costing)を行い、どのメーカー・卸売業が自社に貢献しているのかを明確にし、戦略的評価を行い、優先順位をつけ、カテゴリー全体の成長へ向けたアクションを行うことが必要なのである。
勢いがあって、将来性も高く予測されるカテゴリーをもっとも理解し、熟知する卓越したメーカー・卸売業と戦略的に協働することによって、コストプレッシャーが高まる今後の経営環境に対応することができる。
かつての小売業の常套句である「安くして」一辺倒では優れたメーカー、卸売業の協力を得られないばかりか、消費者にも見放されるだろう。「安くして」一辺倒の小売業は単品の安売り競争の経験値しか持ち合わせていない。今後の小売業は地域の小商圏にあって最適の品揃えと価格を実現することが求められる。つまり単品の安さではなく、カテゴリーの便利さ、用途機能の豊富さが小商圏においてもっとも消費者を満足させる。
優れたメーカーや卸売企業は、そういう次世代を見越したフォーマットを開発したり、売り方の方法論を突き詰めていく文化を持った小売業と組みたいと考えているのだ。
製販協働高度化の第一歩はSB/PB開発
製販協働のための具体的な手順に入ろう。
まず重要なことは、メーカーの製造・物流・マーケティング・営業においての「機能フィー」を明確にし、小売業にとってコスト削減と利益増大させるアクションを実践することである。重点メーカーの研究・開発に関しては、利益を高めるために、小売業側から品質の高いメーカーにSB/PB(ストアブランド/プライベートブランド)の協働を積極的にアプローチすべきだ。同時に、メーカーの工場で俗に「ひと窯」にあたる1ライン工程で生産された商品を買い取る契約に基づくビジネスモデルを確立することもお勧めだ。
SB/PB戦略を実施することで、小売業は「物流」や、さらに広義の「ロジスティクス」の意識を高めざるをえなくなる。通常は販促商談において、数量の大小で販促条件を獲得しているが、真のポイントは物流合理化に基づく、整合性のある数量引きをメーカー・卸売業が提示しているかどうかなのである。
たとえば、FTL(Full Truck Load:トラックの積荷満載)インセンティブを考えてみよう。メーカーの大半は、車建てで配送業者と契約している。つまり、このトラックを満載にしたほうが、効率がよいということだ。満載にした分、当然それまでよりコストが浮くのだから、浮いた分を製販でシェアすれば良い。
倉庫(保管)もサプライチェーンにおいて見落とされがちな項目だ。メーカーによっては、保管倉庫料軽減のため、本州より1日遅い着荷を条件とする北海道・九州配送条件がある。また、小売業・卸売業が手配した配送トラックの空車を使って、メーカーの工場に、直接引取りにいった際に、インセンティブを支払うメーカーもある。
返品に関しては、カテゴリーによって、対応を考慮しなければいけないが、「返品削減」を目的に協働する際は、メーカーに無返品契約、もしくは、返品削減インセンティブを交渉することがポイントである。返品している場合の条件と、返品削減させた時の条件は同じはずではない。
これらの事例は、ウォルマートなど米欧のグローバルチェーンやアジア最大のDgSチェーンワトソンもほぼ共通する商談スタイルである。つまり、小売業が日々実施している販売促進商談活動に加え、前述の物流商談をミックスさせ、メーカーに整合性ある物流条件を提示してもらい、利益を確実に上乗せさせているのだ。
第2回に続きます。