[レポート] 第10回ハピコム接客コミュニケーションコンテスト最終審査会:アレルギー、既往歴など、基本事項確認の技術が向上

2025年9月13日、ハピコムグループの有資格者を対象にヘルスケアの接客技術を競う「ハピコム接客コミュニケーションコンテスト」の最終審査が行われた。審査結果や接客ロールプレーイングの傾向を紹介する。
(月刊MD編集主幹 野間口 司郎)

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対象は薬剤師・登録販売者合わせ約6万人

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▲表情豊かに接客する神名心氏(大賞受賞)。手に持つのは基本項目確認用のカード

ハピコムグループはイオン、ウエルシアホールディングス(HD)、ツルハHD、クスリのアオキHDなどが参加する日本最大のドラッグストア(DgS)グループ。グループ内のヘルスケアに関するカウンセリング向上のために開始された「ハピコム接客コミュニケーションコンテスト」は2015年に開始、コロナ禍で最終審査が行われず2次審査まで行われた年を入れ今年で10回目。歴史ある大会になりつつある。

対象となるのは、ハピコム約7,400店舗に勤務する薬剤師約1万5,000人、登録販売者約4万5,000人、合計6万人。

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▲[図表2]審査委員

審査方法は1次審査として、グループ内22社が候補者を推薦。その結果選出された53名を対象に2次審査では1人のミステリーショッパーが全ての1次審査通過者を実際の接客を体験して審査。2次審査で絞られた13名の候補者が最終審査へと進む(図表4)。

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▲[図表4]審査の流れ

最終審査ではお客に扮した2名の俳優と2つのテーマでロールプレーイング(演技)。今回の第1テーマ(シーン1)は「咳」、第2テーマ(シーン2)は「睡眠」だった。

第1テーマは事前に告知され、参加者は準備できるが、毎回、第2テーマは事前告知がなくロールプレーイングが始まるまで分からない。即応力、普段の経験や積み重ねた知識が問われることになる。模擬の棚には、それぞれの症状に合った医薬品、健康食品があらかじめ用意されている。複数商品を自分で持ち込むことが許されている。

演技時間はシーン1が4分、シーン2は6分、合計10分となっている。時間の半分が経過するとベルが1回、終了1分前に2回、終了時間になると3回鳴らされ、それでも終わらない場合は進行役が演技終了を告げ強制終了となる。

店舗でもお客の都合に合わせ短時間で接客することはあるだろうが、舞台上でベルを聞きながら、限られた時間内で行う接客にはプレッシャーがかかる。目の前には審査員、客席からは各企業の応援団が熱い視線を送る。出場者は企業を代表し緊張の中、持てる知識と経験をフル活用し、懸命に普段の接客を再現する。

なお、演技順番は最終審査会場で抽選により決定し、出場者は自分の順番が来るまで控え室で待機し他の参加者の演技を見ることはできない。

カードを使って基本項目を確認 カウンセリングを効率化

13名の参加者はすべて登録販売者、うち1名が管理栄養士資格も保有。調剤事業の強化が業績を左右し新卒薬剤師の獲得に各社がしのぎを削るという現状を考えると、物販スペースでのヘルスケアに関する相談販売の主役は登録販売者となる。ここ数年この傾向は続いている。

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▲[図表1]審査項目

審査項目は図表1の通り。この中で「7薬販売の基本6項目の確認」がある。これは、購入する医薬品を使用するのは来店者本人であるか、既往歴、アレルギーの有無などの確認となっている。効果的で適切な商品を選ぶための入口で、地味な作業だが重要性は高い。今回目立ったのは、この基本項目をチェックリストにしたカードを用いて確認する方法だ。出場者13名中複数企業に渡り7名がポケットサイズのカードを使用、1名がバインダーを使用して確認していた。

DXの進展により今後、登録販売者も顧客台帳や商品情報をクラウド上に収容したタブレットを用いて医薬品の相談・販売を行う企業は増えると思われ、デジタルツールではこうした確認事項も基本搭載している。そのつなぎとしてもこうしたツールは有効に使いたい。

また、若年世代の薬物依存が社会問題化したことを受け、厚労省は薬機法を改正。今後、エフェドリンやコデインといった成分を含む「濫用等の恐れのある医薬品」の販売にあたっては、20歳未満には大容量、複数を販売しない、他の薬局で購入していないかなどを確認し、必要があれば氏名、年齢、使用目的などを確認することが義務づけられる見通しだ。

今後「確認」作業の重要度は増し、これを仕組み化することで、本題である健康相談、医薬品の紹介へとスムーズに入ることができる。その意味で、基本確認作業をツール化することには意義がある。

今年も食事、栄養面でカウンセリングした参加者が受賞

昨年の大会は食、栄養の見地から商品紹介やアドバイスする出場者が多く見られ、大賞を受賞した、くすりの福太郎の参加者は管理栄養士だった。今回は前回ほどではなかったが、食事と健康管理を結びつけたカウンセリングは複数見られた。

レシピを常時用意して接客することを社内で仕組み化しているイオンリテールからの参加者、イオンスタイル戸塚の大木美紀氏は接客の最後に、レンコンスープが咳を鎮めると説明して、そのレシピをお客に渡した。

出場者中唯一管理栄養士資格を持つツルハグループドラッグ&ファーマシー西日本(TGN)、ツルハドラッグ小倉熊谷店の土路生有衣(とろぶ ゆい)氏も食事・栄養のアドバイスをし、接客の最後に「私は管理栄養士なので健康、栄養に関する相談なら、いつでも声を掛けてほしい」と伝えていた。大木氏、土路生氏、いずれも準大賞に選ばれている。

医食同源、食から健康を見直す、食事で体調を整えるという専門性の高いアプローチは、一般食品、健康食品を多数扱うDgSならではのカウンセリングとも言えるので、各企業、業界には深耕してほしい。

それぞれが専門性と個性を生かしてカウンセリング

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▲参加者一覧
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▲[図表3]第10回ハピコム接客コミュニケーションコンテスト 最終審査結果

受賞者のカウンセリングを簡単に振り返ってみよう。

大賞受賞のウエルシア薬局、神名心氏は、清潔な身だしなみ、爽やかな笑顔、相手の発言に表情豊かに共感する接客態度が印象的だった。基本項目の確認は、ポケットから取り出したカードを使い効率よく行っていた。

咳の症状はどれくらい続くのか、他に症状はないかなどを聞き、商品としてメジコンを紹介。メジコンは医療用医薬品からのスイッチOTCで医療用と同成分が同量配合され効き目は確か。今回メジコンを推奨した出場者は多かった。眠気を催す成分が含まれているため、車の運転などの確認も必要。神名氏は基本項目の確認でこの質問をしている。

カウンセリングの最後に、肘を曲げ内側のシワから指2本分程内側にあるという、咳に効くツボを紹介。医薬品にプラスして養生のアドバイスがあった。

睡眠に関しても、いつ頃からか、日中にボーッとすることはないか、夕方以降にコーヒーを飲むことはないかなど、細かくやりとりをしたあと、最初、ギャバやテアニンなどのサプリを紹介して、最終的には小林製薬の機能性表示食品(サプリメント)ナイトミンを推奨。

こちらの接客でも、最後に肩甲骨を回すことは、リラックスして質のよい眠りにもつながると、ストレッチ、運動方法をアドバイスしていた。

落ち着いて相手に寄り添うような接客、柔らかいが歯切れの良い口調など全体の接客が好印象で大賞につながった。

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▲ポリシーのある接客が印象的だった谷氏(準大賞受賞)

準大賞を演技順に振り返ると、レデイ薬局の谷和紀氏は、資格、氏名の自己紹介、基本事項の確認をスムーズに終え、症状を聞き商品を紹介。シーン1の咳では、メジコンと漢方薬の麦門冬湯(ばくもんどうとう)の2種を推奨。個人的には効き目の穏やかな麦門冬湯をすすめたい、直接的に治す力はないが、喉を潤わせ咳にも効くと説明。合わせて「体力をつけ自分が本来持つ免疫力を高め、自分自身で治すために」という理由で、栄養ドリンクを推奨した。自然治癒力を重視した、いわば「ポリシーのある接客」だ。

睡眠でも自然治癒力重視のポリシーは生かされ、「眠り改善のファーストチョイスでできれば睡眠改善薬を選んでほしくない、飲むとどうしても翌日だるさが出る」と副作用を懸念してサプリを推奨した。もちろんお客自身の希望を聞くことは重要だが、こうした筋の通ったカウンセリングも信頼を得るためには重要だ。

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▲自然な会話で症状を確認し、ニーズを引き出していた髙橋氏(準大賞受賞)

くすりの福太郎の髙橋由紀子氏は、終始落ち着きと親しみのある接客で安定感があった。咳では谷氏と同様に麦門冬湯を推奨、乾燥すると咳が出やすくなるので、のど飴を併用するとよいなどプラスアルファのアドバイスもあった。

睡眠のテーマでも相手の発言に共感を示し漢方薬を推奨した。咳、睡眠両方の接客で、しばらく服用して効果が見られない場合は医療機関に相談してほしいという受診勧奨があった。

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▲健康をテーマとした料理レシピを手渡した大木氏(準大賞受賞)

イオンリテール大木美紀氏は、落ち着いた声と接客態度には信頼感が持てた。咳では錠剤は飲めるかという細かい確認の後メジコンを推奨。昔から咳によいと言われる美味しいレンコンスープのレシピを手渡した。睡眠ではクロセチンを機能性関与成分とするナイトミンを推奨。こちらの接客でも最後にレシピを手渡した。

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▲管理栄養士の立場から健康アドバイスを行った土路生氏(準大賞受賞)

TGNの土路生有衣氏は、カウンセリングの冒頭で、自分が登録販売者で管理栄養士であることを説明。TGNでは、管理栄養士が自らの資格を名乗って、健康相談に加えて栄養相談や食事相談まで応需する接客を「名乗り接客」と称している。同社は管理栄養士が在籍して、専門性を生かした接客をすることを来店目的にしようと様々な取組を行っている(月刊MD2024年11月号参照)。

土路生氏も「咳は1回で2kcalを消費して、咳が続くと体力を奪うので、栄養補給も重要」と管理栄養士目線のアドバイスをした。麦門冬湯を推奨し、最後にニンジン、カボチャなどはビタミンAが取れ風邪の症状も改善すると説明し、これらの素材を使ったスープのレシピを手渡していた。

睡眠のテーマでは、肝臓を元気にすることで、栄養を全身に回し眠りの質改善に役立つとして、ヘパリーゼを推奨。こちらも栄養視線のアドバイスで管理栄養士の専門性を出していた。

《ハピコムグループ事業会社審査委員》

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▲八幡 政浩氏 (審査委員長)
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▲東山 和人氏
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▲飯嶋 仁氏
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▲工藤 真紀氏