真・中間流通論

ジャストウォークアウト技術でリテールソリューション業を展開

第1回PALTACは無人レジ技術の普及で日本の生産性向上をサポートする

PALTACの物流技術を担う三木田雅和氏が新しい中間流通業のあり方を提言する連載。第1回目は同社が志向するリテールサポートの未来について語ります。Amazon GOに代表される「無人レジ」店舗が日本で実用化される日もそう遠い未来ではなさそうです。

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「ジャストウォークアウト」の技術を国内で展開

2019年2月に実施した弊社の展示会では、これまでと会場のレイアウトを大きく変えました。お気づきになった方もいらっしゃるかもしれませんが、会場冒頭には商品関連の展示を配置していたのですが、今年はそれを変化させ、物流関連の展示を持ってきたのです。これはまさしく弊社の「物流とリテールソリューションでの革新的進化」への意思表示と言えます。

近年ECがシェアを伸ばしていますが、その分、海外での例にもあるように店舗小売業がシュリンクしてしまう可能性も否定できません。しかし、お客様に最も近い接点で事業運営されている店舗小売業さんに元気でいただくことが、中間流通業の元気には必須です。ですから弊社は、リアル店舗へのリテールサポートに対してより一層力を入れていく所存です。

現在弊社が最も力を入れているリテールサポートのひとつが「無人レジ技術」、いわゆる「ジャストウォークアウト」です。その技術を国内の小売業さんに提供するため、2018年7月にジャストウォークアウトの技術を提供しているサンフランシスコのベンチャー企業「スタンダードコグニション」(以下SC)との協業を発表しました。

ジャストウォークアウトの技術で世界的に有名なのは「Amazon GO」でしょう。簡単に説明すると、店内に設置されたカメラやマイク、重量センサなどの機器を通じて、どのお客様がどの商品を手に取ったかを記録し、退店時に自動でAmazonのアカウントで決済を行います。

Amazon GOとSCの決定的な違いは、Amazonはカメラだけでなくゴンドラやリーチインの至るところに重量センサやマイクなどを組み込んだ設備が必要であるのに対して、SCは優れた画像認識の技術を武器に、カメラとサーバのみで無人レジを実現することができるという点です。

重量センサが不要となると、初期コストは安価に抑えられますし、何より棚のレイアウトの自由度が高くなるという大きな利便性があります。またカメラの台数も少なくて済むのも特徴です。商品の陳列状態や、商品棚の形状等にもよりますが典型的なコンビニサイズの店舗であれば20-30台のカメラで導入が可能です。高画素で特別なカメラが必要かと思いきや、カメラそのものは市販されているカメラで十分です。データを解析する技術が優れているのです。

SCの一番の強みは、お客様の棚前での購買行動の取得を念頭においたソリューションにつなげることができるという点です。カメラに記録された動画を分析することで、お客様がペットボトルのお茶を購入する際に、価格を見て手に取ったのか、商品背面の成分を見た上で購入されたのか、そういう情報まで踏み込んで取得することが理論的には可能で、今後そういった機能も付加していければと考えています。

ウェブ業界が当然として行っているような「どの商品とどの商品を何回比較したのか」「ある商品の前にどれぐらいの時間滞在したのか」「どれぐらい商品の前で迷われたあと、どのような状況で購買に踏み切ったのか…」そんな細やかな分析が可能になります。そしてその情報を小売業さんはメーカーにフィードバックし、よりよい商品開発や店舗運営につなげます。

棚卸しも不要に。課題はサーバ費用

SC方式にはまだ課題もあります。その一つがサーバの費用です。画像から全ての情報を取得するため、サーバにかなり負荷がかかる処理を行う必要があり、高性能のサーバが必要になりますので、その部分は高価にならざるを得ません。

高性能なサーバの台数を減らしていかに安価なコンピュータを活用できるかが実用化に向けたポイントと考えています。

店舗の状況はすべてカメラで記録されますから、商品管理もこのカメラ経由で行えると考えています。どこまでできるかはわかりませんが、棚卸を不要にすることも論理的には可能です。

SC社は2017年創業。もともとアメリカの証券取引所で違法行為を見つけるソフトウェアを作った方が立ち上げたスタートアップ企業です。私が初めてお会いした時は数人レベルの会社だったのですが、今は従業員70名以上で急成長しています。

Amazon Goのレプリカのようなサービスを提供する企業はたくさんあるのですが、すべて既存技術の組み合わせでやっているようです。しかしSCは圧倒的に他社技術と違っていて、技術的な発展性が魅力です。

たとえばAmazon Goだと、人と人が商品を受け渡すのは禁止されています。現時点では2名で店舗にいって、一人が棚から商品を取り、もう一人に手渡すというようなことができないのです。SCの技術はそういった点にも対応が可能なので、より自然な買物行動に即した店舗運営を実現できると考えています。ちなみにSCは現在(2019年3月時点)サンフランシスコに実験店を出していて、SKU数こそ少ないものの、実際に無人レジを体験できます。

サプライチェーン全体の未来を明るくするために

当社は薬王堂さんのご協力の下、宮城県仙台市内にSCの技術を導入したパイロット店舗をオープンする予定です。そこが成功すれば水平展開もありえますし、他のドラッグストアさんに導入していただく機運も高まるのではないかと思います。

今後日本にもAmazon Go、もしくはその技術を利用した小売業が進出してくるのは避けられないでしょう。しかしそこで私が懸念しているのは、ECのみならず実店舗での購買情報データも特定の企業に独占されてしまわないかということです。

これからの時代、小売業さんの発展にはデータ分析が切り札になると考えています。SCの技術を一刻も早くモノにして、日本の小売業さんに使っていただける環境を構築し、日本のリアル店舗小売業さんの未来づくりに貢献したいと考えています。新技術を積極的に取り入れ中間流通の立場で消費者まで含めたサプライチェーン全体の活性化のお役に立ちたいと思います。

(談・文責/編集部)

著者プロフィール

三木田雅和
三木田雅和ミキタマサカズ

株式会社PALTAC 執行役員 研究開発本部長。1973年生。株式会社本田技術研究所でヒューマノイドロボットや、歩行アシストロボットの研究開発に従事した後、2015年に株式会社PALTAC入社。研究開発本部長として流通の高効率化・物流の生産性向上を目指し、2018年8月に稼働開始した生産性従来比2倍となったRDC新潟の開発業務を担い新技術導入を推進した。