TOUCH TO GOが提案する「サテライト型」と「ハイブリッド型」2つの無人店舗戦略

店舗作業のなかで3割をも占めるといわれるレジ業務。レジの省人化は小売業にとって喫緊の課題である。近年ドラッグストア(DgS)でも導入が進みつつある無人決済システムを開発・提供するTOUCH TO GOでは2つの無人店舗戦略を提案しているという。代表取締役社長の阿久津智紀氏に導入状況を聞く。(月刊マーチャンダイジング2024年7月号より転載)

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200㎡、2,000SKUに対応

弊誌でも既にこれまで何回か取り上げている「TOUCH TO GO」(以下TTG)の「無人決済店舗」ソリューション。利用方法は以下のとおり。

①入店して商品を手に取ると、店舗内のカメラや棚の重量センサー、AIによる画像分析などによりシステムが商品を特定。②お客がレジ前に立つと、自動でディスプレーに合計金額が提示され、会計を行う。③会計終了後にゲートが開き、お客は店舗から退出することができるようになる。

事前にアプリをインストールするなどの準備は不要で、決済手段も現金、クレジットカード、QRコード決済、交通系電子マネーをはじめ多くに対応。間口の広さを重視したソリューションといえよう。

「私たちが事業提携をしているファミリーマートさんでさえ、まだ現金の利用者の方が7割いらっしゃいます。だれでも気軽に入店できて、お支払いできるというところを大切にしたいと考えています」と阿久津氏は語る。

昨今セルフレジ化による万引きの増加が指摘されているが、だれが何を手に取ったかがすべて記録されているこの手法であれば、実質的に万引き対策にもなる。

同社が提供する無人決済サービスのなかでも、最大の売場面積とアイテム数である「TTG-SENSE」は、200㎡(約60坪)、2,000SKUに対応。1人当たりのレジ所要時間は10〜15秒で、入店人数に上限はない。

TOUCH TO GO高輪ゲートウェイ駅店。ピークタイムは1時間200人のお客をさばく

このシステムが導入されているJR高輪ゲートウェイ駅の「TOUCH TOGO高輪ゲートウェイ駅店」には、約600種類のアイテムが展開されていて、ピークタイムには1時間当り200人のお客をさばくという。

省人化という側面では、遠隔監視や遠隔接客に対応しているという点はポイントだ。営業時間中、たとえ店内が無人になっても、その様子は遠隔のコールセンターで監視されていて、お客からのお問い合わせもコールセンターで対応できる。

酒類の販売にも対応。会計の際に遠隔で年齢確認を行う

元々TTGはJR東日本系のファンドであるJR東日本スタートアップと、金融系のシステム開発を提供するサインポストの合弁会社として2019年に設立されたスタートアップ企業だ。2021年2月にはファミリーマートと資本業務提携を締結。コロナ禍の非接触ニーズを追い風に導入件数を拡大し、東芝テック、グローリーなど、POSレジの大手企業とも積極的に資本業務提携を進めている。

サテライト型とハイブリッド型の店舗戦略

市場環境に目を向ければ、労働人口の減少や人件費の高騰、また建設資材や光熱費も上昇しており、既存業態出店によって業績の拡大を目指すモデルはもはや頭うちという状況である。そこでTTGが提案するのが「マイクロマーケット市場」だ。「自動販売機以上コンビニ未満」の日販で採算が取れるビジネスモデルである。

「この程度の日販ですと、人が張り付けば赤字になりますが、これを無人にすることで採算が取れるようにしていきます。

そのために私たちは2つの戦略をご提案しています。ひとつは母店の近隣に小型店舗を出店するサテライト型店舗です。もうひとつは大きな店舗の一区画に無人のエリアをつくるハイブリッド型店舗です。無人エリアは24時間営業ができますので、深夜、早朝でも販売できるようになります」(阿久津氏)

サテライト型の無人店舗は、近くの母店の商品を従業員が運んで陳列する。その売上を母店につけることができれば、店舗にとってもメリットが大きい。DgSであれば、母店近くにある病院内売店の運営や、大学内売店などの展開などが検討できよう。これまで売り逃していた「エリア」のお客を取りにいく戦略だ。

一方のハイブリッド型店舗は、お客の多い時間帯は有人対応、お客の少ない早朝・夜間は無人店舗化することで、売上の最大化と効率化を両立する。こちらはそれまで売り逃していた「時間帯」のお客を獲得することにより、売上を増やす施策と考えられる。

「面白い事例がお菓子のシャトレーゼさんが東京・西麻布に出店した24時間営業の店舗です。昼間はケーキや焼きたてのお菓子も販売しているのですが、夜になるとそれらを販売しているエリアをシャッターで区切り、アイスクリームやドライ品だけを販売します。通常閉めていた夜間帯を活用することで売上が3割程度伸びました」。深夜の繁華街、飲んだあとに甘いものを食べたい…という需要をうまくくみ上げた。

出店時の費用も極力抑えられるような提案をしている。100Vの電源さえあればスタート可能で、大掛かりな工事は不要。既存の什器も利用できる。

この仕組みを増収のための施策としてではなく、「コストダウンのための施策」として活用している企業も多い。

例えばANAは空港のターミナル内の店舗にTTG-SENSEを導入した。航空機を待つお客のために店舗は必要だが、客数は飛行機の発着に依存するため従業員を張り付けると採算が合わなくなる。人手不足の解消と人件費削減が目的だ。

TTGでは、既存店を無人店舗化することで、レジ作業が削減され、また店舗監視や接客をコールセンターで行うことができるようになるので、通常店と比較して店舗運営のための人件費を最大75%削減可能だ。

2024年3月時点でTTGの技術を導入している店舗の総数は160店舗ほど。郵便局の空きスペース、ホテル内売店、ガソリンスタンド併設店、物流施設の休憩室、小売業の社員向け休憩所、大学の学生用売店、高速バスターミナル、病院内売店などなど、その導入企業、立地は多岐にわたる。

「無人だからのんびり買物ができる」

化粧品のオルビスは、2023年5月から「ORBIS Smart Stand」と称して、TTGの無人決済システムを導入した無人販売店舗をオープン。2024年5月末現在全国に4店舗を展開している。自分に合った手入れ方法や悩みなどをビューティーアドバイザーに相談できる「オンラインカウンセリング」サービスも店頭で提供。無用な接客がなく、マイペースに購入できると好評で、意外と男性客が多い。なお、この店舗は発注・品出しまでTTGがサポートしており、支店が近隣になくても店舗運営が可能であることを実証した。

店舗の状況に合わせてオリジナルの店舗レイアウトをつくれるのが「TTGSENSE」というソリューションだが、それをパッケージ化したのが「TTG-SENCEMICRO」だ。あらかじめ組み上げられた櫓(やぐら)を店舗に設置することで、そのエリアを無人店舗化できる。

最大3尺棚5本の構成で、200SKUの展開が可能。ガソリンスタンド、職域、ホテル内など、様々な場所で活用が進む。(大きさを倍にした、「TTGSENCE MICRO W」や、棚と決済什器のみでコンパクトな展開が可能な「TTG-SENSE SHELF」も提供している)。

価格については元々発生していた人件費等の運営コストの削減に伴い利益が出るような費用感での提供となっている。

この1年でデータの蓄積や活用の手法も洗練されてきた。お客動線や商品を手に取ったかどうかなどのデータを詳細に測定し、売場や棚の売上最大化に直結した分析基盤も構築が進んでいる。

無人決済というと、これまではお客の使用感の話が中心だったが、徐々にその段階は卒業し、店舗での活用方法に焦点が当たりつつある。それまで採算を合わせるのが困難と思われていた商圏、商材でのビジネスを成立させ、既存店の売上にプラスオンしていく。あるいは、万引きによるロスを食い止める。省人化によってコスト削減を狙う…。TTGの無人決済システムは、工夫次第で様々なメリットを小売業にもたらすものになりそうだ。

 

〈 取材協力 〉

TOUCH TO GO 代表取締役社長
阿久津 智紀氏