コスモス、アオキ、ゲンキーに学ぶ

ドラッグストア食品PB、4つの定石

プライベートブランド(PB)は、小売業が製造工程の設計や原材料の調達、ものづくりの段階まで入って開発を行っている商品のことです。食品の取り扱い比率が高まるドラッグストアにおいて、食品PBをいかに開発していくかは重要な戦略の一つ。本稿では、取材から見えてきたドラッグストア食品PBの定石を解説し、食品売上構成比率の高いドラッグストアの代表格であるコスモス薬品、クスリのアオキHD、Genky Drugstores3社のPB事例を解説します。

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定石1:安さの比較で売る

「安さ」は小売業がPBでアピールできる最大のポイントです。ナショナルブランド(NB)のトップブランドの下をくぐる価格の商品を、隣接して販売することによって、安さを際立たせます。

しかし、製品製造のプロであるメーカーの商品よりも、小売業のPBが安価に販売できるわけがありません。そこで使われる手法の一つが、トレードオフです。
トレードオフとは、小売業が商品開発をするにあたって、スペックの中で不要、または過剰とおもわれる部分を省き、適正な品質を決定していく基本的な手法のことです。

製造業の商品開発の際には、どうしてもより高品質を求め過剰な仕様になりやすく、その分、売価も上がる傾向があります。
小売業の商品開発は、買う立場、使う立場から、どの程度の品質で十分か、売価はどれくらいなら納得して買うことができるかといった「買う立場」、「使う立場」に立って、適正な「品質」と「売価」を決めていくことが重要です。

また、PBは店頭である程度の数量販売することが見込まれますから、CMなどの広告経費が不要という点も、低価格での提供を可能にするポイントとなります。

定石2:量目変更でお得を演出する

NBと比較して量目を増減したものを販売することにより「お得を演出」するのもPBの得意技です。

とあるドラッグストアでは、マヨネーズのNBが450g168円、PBが500g158円で販売されていて、「多くて安い」という差を演出することによって、自然とPBに誘導をしていました。

このドラッグストアは、冷凍餃子がNB12個入り179円に対して、PBが16個入り198円で販売。カテゴリーのプライスポイントに合わせた商品設計をしていました。
量目変更により、狙った値付けをすること。そしてカテゴリーの中で適切な役割を果すことが、PBには求めらます。

定石3:トップNB不在のカテゴリーから攻める

乾物や一部の日配品のように、小さな地場メーカーが中心のカテゴリーで、店舗のおすすめとしてPB商品が販売されていると、自然と誘導されるように購買に至ります。PB開発の第一歩としては、NBブランドがしのぎを削っているカテゴリーよりも、このようなトップ不在のカテゴリーに切り込んでいくことが無難です。

定石4:デザインを揃えて売場の訴求力を高める

たとえばお茶は、緑茶や番茶、煎茶など、お茶の種類によってメーカーが異なります。しかし、パッケージのデザインがバラバラだと、売場に統一感が出ず訴求力も落ちてしまうものです。そこで、小売業が複数のメーカーを横断したPBを、統一されたデザインのパッケージで開発することによって、売場での見栄えをよくし、存在感を高めることができます。

では具体的にドラッグストアの店頭では、いったいどのようにPBが展開されているのでしょうか。食品取扱比率の高さで上位にあるクスリのアオキHD、コスモス薬品、Genky DrugStoresの食品PBの事例から紹介します。

定石に忠実なクスリのアオキの「A&」

クスリのアオキの店舗で最近目にすることが多くなったのが、「A&」(エーアンド)。

クスリのアオキのウェブサイトより。

 

2021年8月に4SKUからスタートした本ブランドは、2023年7月現在80SKUまで拡張されています。その内訳は、食品70SKU、日用品は10SKU。食品はこの2年でSKU数をかなり増やしており、売場での存在感も増してきています。

食品は、調味料(油、ごま油、昆布つゆ、酢、みりん、白だし)、パン粉、乾物(ごま、のり、わかめ、くるみ、ミックスナッツ、アーモンド)、お茶、冷凍食品(唐揚げ、ほうれん草、チャーハン、ブルーベリー、ロックアイス)、日配(もずく、チーズ、ハム、ベーコン)、菓子(チョコレート)、飲料(炭酸水、お茶)などなど。

からあげ、ハム、ベーコン、パン粉など、NBのトップメーカーが存在している一部商品を除いては、基本的に定石3のように、「強いNBメーカーが存在していない」カテゴリを攻めるラインナップです。

現在「A&」が展開しているグロサリー類は、調理をする人であれば、家に常に在庫しておきたいものであり、MDに対するきめこまやかな感度を想像させるラインナップになっています。

一方、冷凍唐揚げのように、トップメーカーがあるところには、定石2の「量目変更でお得を演出」で切り込んでいこうとしています。

ニチレイの「得から(380g)」は378円、一方A&の「若鳥の唐揚げ(270g)」は348円です。グラム当たりの金額はかなわないものの、NB商品と互角に戦える価格です。

定石4「ラインナップ販売」にも対応しています。お茶や乾物などの売場でラインナップ型の商品展開をしていて、訴求力が高い売り方になっています。

クスリのアオキの2023年5月期決算によれば、同社の食品構成比率は前年から2.4%増の44.8%。これは生鮮強化の影響ということですが、生鮮が売れればそれに付随する調味料、日配などのPBも間違いなく売れていくことでしょう。

安さの演出に長けたコスモスのON365

コスモス薬品の食品PB「ON365」も、基本に忠実な商品展開です。

パスタソースのPBは、158円の商品を3アイテム展開しています。NBが178円(税込)、198円(税込)となっているため、価格差を大きく感じさせる売り方です。(定石1)

量目の変更によって、安さを演出する売り方にもたけています。ON365の「羽根つきギョーザ」は16個で168円(税込)、味の素の冷凍餃子が12個198円(税込)、大阪王将羽根つき餃子が12個で158円(税込)で、圧倒的な安さでした。調査日は大阪王将のフェースが多かったものの、味の素の羽根つき餃子を下にくぐる価格で強さがあります。

売場においては、さまざまなアイテムが、白いパッケージに統一されており、整然とした印象を与えます。これは定石4の「ラインナップ販売」と言えます。

クスリのアオキと比較すると、圧倒的なSKU数を要しているON365ですが、実は両社とも非常に基本に忠実な商品開発が行われているのです。

あえて複数ブランドを展開するゲンキー

ゲンキーの売上高に占めるPB構成比は2023年6月期の第2四半期で22.7%、前年同期が約20%なので3ポイント近く上昇しています。

こちらは少し異色のPB戦略です。というのも、ゲンキーの特徴的な点はPBをワンブランドで展開するのではなく、複数のブランドを展開している点にあるのです。加工食品、日配品は「わが家の美味しさ」、調味料は「Cook Heart」、菓子の「Crispy Club」などのブランドを展開しており、お客に買物のバラエティ感を体験してもらおうという意図が見えます。

価格は当然のように圧倒的にNBの下をくぐりながら、あえてデザインを統一しすぎないことで、バラエティ感を演出する戦略は、定石4の「逆張り」と言えそうです。

なお、このようなバラエティに富むPB戦略を取っている事例としては、北海道を中心に展開しているコンビニエンスストア、セイコーマートも挙げられます。あえてデザインの統一感を崩すことで、PBばかりではない、品揃えの豊富感を戦略的に演出しているといえます。

セコマのスナックの棚。2段目がPB。あえてデザインを統一しないことでバラエティーを演出する。